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第二十一話 沙羅の決意
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「一時的に、外のやつらを動けなくすればいいんでしょ?」
「沙羅、なにか手があるのか?
お前の魔法弾は、人間にはほとんど効かんぞ」
「へっへ―、僕は常に進化しているからね―
特大発光弾ならどうかな?」
「目晦ましか! なるほどその隙をついて奴らを無力化するんだな」
「そ―そ―。昔、友達の誕生会の余興とかでやって見せたもんだよ」
「なんだよ、進化でもなんでもないじゃないか……」
だが悪くない。そばの兵士数人に段取りを指示し、沙羅の飛び出すタイミングを計ろうとしたその時。
「よっしゃ―。とっく大フレイア―!!!」
と叫びながら、沙羅がいきなり廊下に飛び出した。
「いかん、沙羅っ! 止ま……」
言い終わらないうちに廊下がとんでもなく明るい光に包まれ、それと同時に、殺意に満ちた銃弾が沙羅に向かって飛んできた。
「危な―い!」
誰かの叫ぶ声が聞こえ、敵の銃声がやんだ。今だとばかりに十二小隊の兵士が廊下に飛び出し、パンパンっと数発の銃声が聞こえた。
「制圧完了!」
友軍の声がしたので廊下に飛び出すと、沙羅の上に、推し兵一号のマイケルが覆いかぶさっていた。マイケルが、沙羅を狙撃からかばってくれたのだった。
沙羅は無傷だったが、マイケルは右胸を貫通銃創。
だが幸い、意識はしっかりしている。
「くそ、早く治療すれば命に別状はないだろうが、肺に穴が開いているんで苦しかろう。誰か、とりあえず応急処置を!」
そういいながらも作戦を急ぎ遂行しなくてはならない。
「沙羅、しばらくマイケルについててやれ」
言いながら廊下のはす向かいの部屋に向かった。
「マイケル―、ごめんよ―、ぼくがうかつだったよ―」
「ははっ、こんな傷、大したことありません。本当に沙羅様の盾になれたんです。こんなにうれしいことはありません……ゴボッ……」
「ありがと―、でもあんまりしゃべるな―」
エルフが捕虜になっていると思われる部屋の戸を乱暴に蹴り破って、二人の兵士と共に一斉に突入したが、中に敵兵はいなかった。
照明のスイッチを探し当て、明かりをつけたところ、そこには、戦争中の要塞内とは思えない異様な光景と臭いが広がっていた。
窓が全くなく、壁も天井もピンク色に塗られ、床には酒瓶やら紙屑が散乱していた。そして部屋の真ん中に大きなマットが敷かれていて、その真ん中に二人のエルフと思われる女性がお互いの背にもたれかかりながら、へたり込んでいる。しかも着衣は、乳首までスケスケのベビードールと、陰部を隠す用をなしていないTバックのショーツだけだった。
ここで、この捕虜たちに何が行われていたのか……考えただけで腹の底から怒りがこみあげてくる。
「A小隊所属ノりしぇんぬ陸士トB小隊所属ノかめりあ陸士デス」
怒りで我を忘れかけたが、ポコの声で、はっと冷静さを取り戻した。
二人は目の焦点があっておらず、どうやら何か薬を効かされているようだ。
「サーチ圏内ニ、他ニハソレラシイまな反応ハありマセン」
「そんなにゆっくり捜索してもいられん……というか、こういう使い道のあるやつだけ生かしておいたとみるのが妥当だろう。よ―し、さっさと撤退だ。ドラゴン様がいらっしゃる前にケツまくって逃げるぞ!」
二人が救出されたことはすぐに戦術ネットに上がり、あちこちで歓声があがった。一階のほうでも、第八小隊が吼えている。
「自力で動けないものが三人いる。一分でいいから階段を使用できるよう、下の第八小隊に支援要請。それから……」
「伝令――!」
大声に割り込まれて振り向くと、下でウォッチを任せていた兵が、梯子を上って伝令に来たようだ。
「二百mほど後方の森の中に、竜族と思われる一群を視認。数はおそらく二十以上!」
「くそ、援軍か! しかも後ろに回り込まれたとはな……よし、敵と交戦中で動けぬもの以外、要塞裏に至急集合。十二小隊は、エルフたちとマイケルを降ろすのを手伝ってくれ!」
その後、第八小隊が頑張ってくれて一時的に要塞内の階段を確保し、一同無事、裏庭に集合出来た。
「いいか、みんなよく聞け。まもなく後ろの森から竜族が突っ込んで来るんで、来た時の道は使えん。そしてドラゴン様がほどなく飛来予定だ!
だが、気後れするな! この真っ暗闇だ。敵の弾はそうそう当たらん。
このまま要塞前方から、自軍の弾の光跡を目標に全速力で自陣まで駆け抜けろ。
後ろからの竜族は、俺と沙羅がしんがりを務めて食い止める!」
うおおぉ――。歓声が上がる。
「それでは、総員。撤退開始っ!」
第八小隊が、敵にケツを取られない様、ゆっくりと要塞から出てきて、やがて要塞前方に向かって走っていった。
「よっし、沙羅。一働きしてもらうぞ!」と、俺は沙羅のほうを振り向いた。
沙羅はずっとマイケルの手を握っていたが、マイケルが他の兵士に担がれたので、その手を放した。そして「ちょっと待って……」と言いながら、沙羅は両手をスカートの中に突っ込み、いきなりぱんつを脱ぎだした。
突然のことに、廻りの兵士たちも目が皿になっている。
「おっ、おい、沙羅さん。いきなり何を……」
「小隊長は、ちょっと黙ってて」
小声でそう言いながらマイケルに近づくと、沙羅は脱いだぱんつをマイケルにしっかりと握らせた。
「……沙羅様、こ、これは?」
「お守りだ。絶対死ぬなよ。ちゃんと生きて帰って……洗って返してくれ」
「……ははっ、こりゃすごいや。聖水付きの御神体だ…………
もう死んでも悔いはないかも……」
変なことを言いながら、マイケルは仲間の兵士に背負われて前方に離脱していった。
「おまたせ」
「にしてもお前、いったい何の……」
「何言ってんだよ。これから何体いるかわからない竜族が相手なんだろ?
少しでもマナ吸収効率を上げるためには、あんな布無いほうがいいってデータにあっただろっ!
僕は絶対みんなを生還させる!
そのためには、女であることだって捨ててやるっ!」
そうだった。こいつはそういうやつだった。
「そうか。お前のその心意気、俺も感動したぞ!
二人で、最後まで歯くいしばろうぜっ!」
「おうっ!」
せいやっと、勢いよく沙羅を肩車したら、首筋にぴちゃっと水がついた。
…………?
「小隊長……おとといの事も含めて……ごめん。
さっき狙撃されたとき、チビっちゃった……」
…………
そういえば、マイケルが聖水がどうこうと……
こいつ、もしかして濡れてて気持ち悪かったんで脱いだのかぁ?
「竜族複数接近。後方距離約五十m」
ポコがアラートを発する。変な邪推をしている場合ではないようだ。
「ははっ、気にするな! 履いてないけど、ふんどし締めてかかるぞ!」
「沙羅、なにか手があるのか?
お前の魔法弾は、人間にはほとんど効かんぞ」
「へっへ―、僕は常に進化しているからね―
特大発光弾ならどうかな?」
「目晦ましか! なるほどその隙をついて奴らを無力化するんだな」
「そ―そ―。昔、友達の誕生会の余興とかでやって見せたもんだよ」
「なんだよ、進化でもなんでもないじゃないか……」
だが悪くない。そばの兵士数人に段取りを指示し、沙羅の飛び出すタイミングを計ろうとしたその時。
「よっしゃ―。とっく大フレイア―!!!」
と叫びながら、沙羅がいきなり廊下に飛び出した。
「いかん、沙羅っ! 止ま……」
言い終わらないうちに廊下がとんでもなく明るい光に包まれ、それと同時に、殺意に満ちた銃弾が沙羅に向かって飛んできた。
「危な―い!」
誰かの叫ぶ声が聞こえ、敵の銃声がやんだ。今だとばかりに十二小隊の兵士が廊下に飛び出し、パンパンっと数発の銃声が聞こえた。
「制圧完了!」
友軍の声がしたので廊下に飛び出すと、沙羅の上に、推し兵一号のマイケルが覆いかぶさっていた。マイケルが、沙羅を狙撃からかばってくれたのだった。
沙羅は無傷だったが、マイケルは右胸を貫通銃創。
だが幸い、意識はしっかりしている。
「くそ、早く治療すれば命に別状はないだろうが、肺に穴が開いているんで苦しかろう。誰か、とりあえず応急処置を!」
そういいながらも作戦を急ぎ遂行しなくてはならない。
「沙羅、しばらくマイケルについててやれ」
言いながら廊下のはす向かいの部屋に向かった。
「マイケル―、ごめんよ―、ぼくがうかつだったよ―」
「ははっ、こんな傷、大したことありません。本当に沙羅様の盾になれたんです。こんなにうれしいことはありません……ゴボッ……」
「ありがと―、でもあんまりしゃべるな―」
エルフが捕虜になっていると思われる部屋の戸を乱暴に蹴り破って、二人の兵士と共に一斉に突入したが、中に敵兵はいなかった。
照明のスイッチを探し当て、明かりをつけたところ、そこには、戦争中の要塞内とは思えない異様な光景と臭いが広がっていた。
窓が全くなく、壁も天井もピンク色に塗られ、床には酒瓶やら紙屑が散乱していた。そして部屋の真ん中に大きなマットが敷かれていて、その真ん中に二人のエルフと思われる女性がお互いの背にもたれかかりながら、へたり込んでいる。しかも着衣は、乳首までスケスケのベビードールと、陰部を隠す用をなしていないTバックのショーツだけだった。
ここで、この捕虜たちに何が行われていたのか……考えただけで腹の底から怒りがこみあげてくる。
「A小隊所属ノりしぇんぬ陸士トB小隊所属ノかめりあ陸士デス」
怒りで我を忘れかけたが、ポコの声で、はっと冷静さを取り戻した。
二人は目の焦点があっておらず、どうやら何か薬を効かされているようだ。
「サーチ圏内ニ、他ニハソレラシイまな反応ハありマセン」
「そんなにゆっくり捜索してもいられん……というか、こういう使い道のあるやつだけ生かしておいたとみるのが妥当だろう。よ―し、さっさと撤退だ。ドラゴン様がいらっしゃる前にケツまくって逃げるぞ!」
二人が救出されたことはすぐに戦術ネットに上がり、あちこちで歓声があがった。一階のほうでも、第八小隊が吼えている。
「自力で動けないものが三人いる。一分でいいから階段を使用できるよう、下の第八小隊に支援要請。それから……」
「伝令――!」
大声に割り込まれて振り向くと、下でウォッチを任せていた兵が、梯子を上って伝令に来たようだ。
「二百mほど後方の森の中に、竜族と思われる一群を視認。数はおそらく二十以上!」
「くそ、援軍か! しかも後ろに回り込まれたとはな……よし、敵と交戦中で動けぬもの以外、要塞裏に至急集合。十二小隊は、エルフたちとマイケルを降ろすのを手伝ってくれ!」
その後、第八小隊が頑張ってくれて一時的に要塞内の階段を確保し、一同無事、裏庭に集合出来た。
「いいか、みんなよく聞け。まもなく後ろの森から竜族が突っ込んで来るんで、来た時の道は使えん。そしてドラゴン様がほどなく飛来予定だ!
だが、気後れするな! この真っ暗闇だ。敵の弾はそうそう当たらん。
このまま要塞前方から、自軍の弾の光跡を目標に全速力で自陣まで駆け抜けろ。
後ろからの竜族は、俺と沙羅がしんがりを務めて食い止める!」
うおおぉ――。歓声が上がる。
「それでは、総員。撤退開始っ!」
第八小隊が、敵にケツを取られない様、ゆっくりと要塞から出てきて、やがて要塞前方に向かって走っていった。
「よっし、沙羅。一働きしてもらうぞ!」と、俺は沙羅のほうを振り向いた。
沙羅はずっとマイケルの手を握っていたが、マイケルが他の兵士に担がれたので、その手を放した。そして「ちょっと待って……」と言いながら、沙羅は両手をスカートの中に突っ込み、いきなりぱんつを脱ぎだした。
突然のことに、廻りの兵士たちも目が皿になっている。
「おっ、おい、沙羅さん。いきなり何を……」
「小隊長は、ちょっと黙ってて」
小声でそう言いながらマイケルに近づくと、沙羅は脱いだぱんつをマイケルにしっかりと握らせた。
「……沙羅様、こ、これは?」
「お守りだ。絶対死ぬなよ。ちゃんと生きて帰って……洗って返してくれ」
「……ははっ、こりゃすごいや。聖水付きの御神体だ…………
もう死んでも悔いはないかも……」
変なことを言いながら、マイケルは仲間の兵士に背負われて前方に離脱していった。
「おまたせ」
「にしてもお前、いったい何の……」
「何言ってんだよ。これから何体いるかわからない竜族が相手なんだろ?
少しでもマナ吸収効率を上げるためには、あんな布無いほうがいいってデータにあっただろっ!
僕は絶対みんなを生還させる!
そのためには、女であることだって捨ててやるっ!」
そうだった。こいつはそういうやつだった。
「そうか。お前のその心意気、俺も感動したぞ!
二人で、最後まで歯くいしばろうぜっ!」
「おうっ!」
せいやっと、勢いよく沙羅を肩車したら、首筋にぴちゃっと水がついた。
…………?
「小隊長……おとといの事も含めて……ごめん。
さっき狙撃されたとき、チビっちゃった……」
…………
そういえば、マイケルが聖水がどうこうと……
こいつ、もしかして濡れてて気持ち悪かったんで脱いだのかぁ?
「竜族複数接近。後方距離約五十m」
ポコがアラートを発する。変な邪推をしている場合ではないようだ。
「ははっ、気にするな! 履いてないけど、ふんどし締めてかかるぞ!」
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