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「お久しぶりです、城野さん」
蝉が四方で鳴き、廊下に立っているだけで汗が噴き出てくる八月。長年柿園の香水を愛用してくれている常連が、玄関を潜り抜けて来た。痩せて皺の多くなった細い指で帽子を取り、頭を下げる初老の男――城野さんは、
「参る暑さですね」
と、涼し気に笑い革靴を脱いだ。
「応接間は涼しくしときましたから、どうぞ」
そう促すと、彼はスリッパに足を入れて、一緒に応接間に向かう。
最近はどうです? と、問うと、角や尖りのない城野さんは、まろやかに口元を綻ばせ、孫が生まれましたと笑った。
「それはおめでとうございます、また忙しくなりそうですね」
「はい。でも、楽しみでなりませんねえ」
擦り硝子の戸を引くと、クーラーの風が吹き抜けて、汗を一気に冷やした。
「これは極楽だ」
そう言いながら、城野さんは応接間のソファに腰を下ろした。麦茶を用意して手元に置けば、恐縮そうに頭を下げてから、一口二口と、喉を上下させる。
「今回はどうしましょうか」
向かいに腰を下ろして、前回のサンプルを差し出すと、城野さんはゆっくりとした仕草で、小瓶を摘まんで、そのつるりと骨を象る薄い鼻先にそれを近づけた。
「もう少し柔らかい香りがいいですね。子供を刺激しないような……」
彼はそう言い、微笑んだ。
「お孫さんを抱っこした時には、柔らかな方が良いですからね」
僕は彼の要望に頷いて、愛用している万年筆をノートに走らせる。リラックス効果の高い香りを頭に思い浮かべ、 彼の今身体から香るものとの相性を考える。ラベンダーやオレンジスイート、刺激や濃い匂いは使わないようにしよう。
それからいくつか質問を重ねて、大体のイメージができると、僕はノートを閉じた。後は香料の確認をして、必要なものは取り寄せて、調香すればすぐに渡せる。
「……何かいい事がありましたか?」
何の前触れもない、唐突な質問に思わず目を瞬かせると、
「貴方が小学生だった頃をふと思い出しました。今日はそんな雰囲気があったもので……」
城野さんは麦茶に口を付けながら、そう微笑んだ。
「今日はお父様がご健在の頃の幼い貴方のようで、安心しました」
初めて聞かされる言葉に、視線を上げる。
「柿園の名にふさわしい天性の物をお持ちでいらっしゃるのは間違いないと確信しておりますが。ずっと何処か無理をなさっているように見えてましたので」
僕はその言葉になんて返して良いのか分からず、そんなことは……と呟いた。
僕の父は、母が出て行った後、僕が十五の春に死んだ。
母を失った父は、日に日に水を失った花のように衰弱し、やっとの思いで生きているようだった。目を閉じなくてもはっきりと残っているやつれた笑顔は、優しさよりも痛ましさに胸を締め付けられるものだった。
「僕は、早く柿園の名を継ぎたかったんです。父や祖父を尊敬していましたから」
言葉に嘘はない。
僕は柿園の家に生まれて、調香師としての嗅覚を持ってこの仕事を知り、自らこの仕事を志願した。それに嘘や偽りはない。
名前を受け継ぎサロンを再開したのは、高校卒業と専門学校に二年在籍した後の、二十歳の頃だ。最初は年齢のせい、相手をしてくれる顧客は、今の一割にも満たなかった。
それでも、この名前とこの仕事しか、僕にはなかった。孤独になる原因であろうと、蜘蛛の糸のような細い光で外界と関わる唯一の方法は、この「柿園」という名前と、受け継いだ嗅覚が成せる調香師以外に考えられなかったのだ。
全てが紙一重であった、憎くても。
「城野さんには本当に助けられました。再開した時は流石に名も廃れ、ここを畳む事も考える程でしたから」
軽い話にしたくて、苦笑いを浮かべると城野さんは「私は何も」と首をゆるりと振った。
「貴方のお力ですよ。貴方の香水を頂いた時、確信しておりましたから」
私は無駄な事はしない主義なんです。
そう嫋やかに笑う彼の言葉には、穏やかさに反する経営者として生きて来た一人の重みがあった。僕は恐縮しながら頭を下げた。
「そう言いつつ、一人となった貴方に親心のようなものがあったのは、事実ですけどね」
城野さんは微かに張り詰めた緊張をほぐすように笑った。僕はその笑顔に釣られて小さく笑い、お互いに何となく同じ温度の笑みを零し合う。
それから少し言葉を交わした後、城野さんはお迎えの車に乗って去って行った。残された彼の残り香と飲み残しのコップを下げながら、僕は青い台所で片づけを済ませると、戸棚を開いた。目の前に口を縛ってある、外国製のビスケットが眼に留まった。安達君が学校の友達から貰ったと持ってきたものだ。
僕はそれを手に取って、縁側へと向かった。
二枚ほど一緒に食べて、また食べようね、と置いて行ったままだった。
僕は晴れた空に顔を上げると、不意にその中に交じっている生臭さを感じる。そろそろ雨が降るかもしれない。そんな事を不意に思って、庭先の竿に掛けてある洗濯物を取り込んだ。陽が強いお陰で、殆どの衣類はからからに乾いていた。
安達君、今日来るのかな。
薄いワイシャツ越しに突き刺さる、真夏の暑い矢を受けながら、僕はふと彼の香りを思い出す。
安達君は何かと理由を作っては、三日に一度の頻度で、この何もない家にやってくる。良い野菜が手に入った、おすそ分け、そんな小さな理由を握り締めて、彼はあの長い坂道を自転車を押してやってくる。
そのたびに僕等は唇を重ねて、言葉に出さない何かを確認し合う。日に日に大きくなっていく胸の内の花の蕾を、僕はもう見てみぬふりなんてできないところまで来ていた。
僕は縁側に腰を下ろすと、タオルを一枚取り、膝の上に置いた。くたりと、倒れ込む一枚を見下ろしながら、僕は母の香りを思い出していた。
――母は僕と父の知らない所で、知らない人と愛し合い、交わっていた。
僕が母の匂いが変だと訴える日は、その知らない男と交わった日だったのだ。僕はそれを知らずに、ただただ違和感を感じては、その不満を母にぶつけていた。きっと、香りの違和感は父も感じていただろう。けれど、僕みたいに何も知らない子供じゃない。世界の中心に生きていた幼い僕は、違和感を正そうと母に訴える自由を持っていたけれど、父はきっとその違和感を胸に抱くしかできなかったのかもしれない。
そして、僕等の歯車は少しずつ嚙み合わなくなった。僕は違和感を拭えず自由に訴え、父はただその事実を知りながらも、訴えられず。やがて母は僕等の透明な圧力に発狂した。
「貴方達、気持ち悪いのよ!」
母はそう言い残して僕等の前から去って行った。僕等の知らない人と一緒に。
きっと父はそれでも母が好きだったのだと思う。許してと言えば、許していただろうし――それに、きっとそれを待っていたのだと思う。けれど、母は出て行った。
その事実は、父を絶望させた。
僕では到底癒せない傷を負ったのだ。
そして最後は、僕が十五の時に自ら首を吊った。遺書はなかった。
父は最後まで優しかったし、僕を愛してくれたけれど、僕はきっと母が去った後も、ずっと母の二番目だったのだ。
だから父は僕を置いて、死んだ。
――だからと言う訳ではないけれど。
彼の香りに嘘を感じる事はないけれど、どうしても、確かで揺るぎない言葉を零すには、躊躇いがあった。
またいつかあの違和感を感じて、最後には父が負ったような傷を抱え込むのではないかと。恋や愛の痛手は、命を左右するものなのだと、僕は父の死をもって、学んだ。
僕はもう、僕の世界の王様だった頃を生きているわけじゃない。
不意に生臭さがぐっと強くなり、顔を上げると、バケツをひっくり返したような雨が激しく地面を叩き始めた。地面に弾けて煙雨が白く立っている。僕はぼんやりとそれを眺めてから、調香室へと向かった。
陽が閉ざされて暗がりとなった小部屋の、薬品棚の奥。僕は小さな青い小瓶を取り出し、スポイトでそれを取り、一滴だけ、手首に乗せた。ベースであるムスクの香りが立ち、その遠くにレモンやペアーの甘く爽やかな香りが陽炎のように揺らいでいる。
全てが始まる前のような、神聖な香りがする。全ての始まりは水だから、雨に合うように調合してある、僕の為の香りだ。
肌と肌を擦り合わせ、首筋にも擦り込む。
すると、突然前触れもなく呼び鈴が鳴り、僕ははっと顔を上げた。小瓶を仕舞って、まさかと玄関に急いで向かう。
扉を開くと、そこに居たのは服のまま海に飛び込んでしまったような出で立ちの安達君だった。立っているスニーカーの下には、水溜まりがじわじわと広がっている。
安達君は悪戯が失敗に終わってしまった子供の様に、眉を下げて笑った。
「すんません。向かう途中で降られました」
「そんな事より早く入って、風邪ひくよ!」
僕は彼を家に招き入れると、風呂場へと手を引いた。戸惑う彼の言葉も聞かないまま、彼を風呂場に押し込み、濡れた衣類は全て洗濯機に突っ込む。
「突然降ってきたよね」
シャワーの蛇口が捻られて、タイルを打つ水音が聞こえる。
「参りました。いきなりですもん。黒い雲がうわあって来て、その瞬間ばっしゃーって」
擬音の多い彼の言葉に、思わず笑みを零しながら、うんうん、分かると相槌を打つ。
「とりあえずバスタオルは洗濯機の上に置いておくね。服探してくるから」
「ありがとうございます」
乾燥の予約までかけると、僕は次に彼が着れそうな服を探した。
けれど、僕の家の男子は皆、大柄と言う言葉からはだいぶ遠い体格をしているようで、彼が着れそうな服が一枚もない。
僕は唸り声をあげてから、仕方ない、と割り切り、とりあえず自分よりも背の高かった父のズボンと、結崎がどこかで買ってきた大きめのTシャツを、そっとバスタオルの傍に置いた。
止まない雨を縁側から眺めていると、
「来て早々本当にすみません。有り難うございます、助かりました」
そう言いながら現れたのは、やはり足首がはっきりと出てしまっているズボンと、骨格が細いせいで丁度良く見えるTシャツを着た安達君だった。Tシャツには柄はなく、胸のあたりに何かのロゴが黒く入っている以外特に特徴もない。
「あの……このTシャツ、本当に俺が着ちゃって良かったんですか?」
安達君は言葉を籠らせながら、そう呟く。
「そのTシャツ何かあるの?」
「これ多分、ブランド品ですよ」
「……知らなかった」
お土産ありがと、と軽い調子でやり取りしてしまった事を思い出して、僕は青くなった。
「自分で買ったんじゃないんですか?」
「友達が軽い調子でくれたんだ。お土産、みたいな感覚で」
「なんかカッコいいですね」
「僕はTシャツのお土産なんて変わってるな、位にしか思ってなかったよ」
あはは、と笑いながら安達君は「柿園さんらしいですね」と僕の隣に腰を下ろして胡坐を掻いた。最初来た頃は手を膝に乗せて緊張していたのに、今は少しだけ、僕の家での過ごし方に馴染んできた気がする。砕け過ぎず、かと言って他人行儀もなく、ちょうど良く溶けるように馴染んでいる。
彼は肩に掛けたタオルで髪を撫でるように水を吸わせ、
「ん? 柿園さん、なんか良い匂いする」
ひくっと鼻を動かして、僕を見る。僕は自分の手首を彼の顔に近づけた。
「僕の個人的な香水だよ。雨の日に付けるんだ」
「いいな、すげえ好い香り。雨だけの柿園さんか」
そう言いながら、彼は僕の手首に唇を押し当てた。ちゅ、と音を立てて離れると、
「はい、気障な事したなー、俺。はっずかし。なしなし、これナシね」
と、彼は耳を赤くして笑って誤魔化した。
彼は見た目通りに明るく大胆であるのに、それに比例する位に恥ずかしがり屋で、良く耳を赤くしている。それがどうしようもなく可愛くて、僕まで体温が上がって、恥ずかしくなって、二人で暫く羞恥を噛み締め黙り込んでしまうのだった。
心地良いような、恥ずかしいような、それでいてずっと続いて欲しいような沈黙。僕と安達君の間には、雨音と、僕のムスクとレモンとペアーの混じる雨の香り。そして、それに覆い被さるようにして、体温の上がった彼から放たれる、陽炎のような青々しい夏草の香りが覆い被さる。
とくり、とくりと、心臓が一回り程大きくなったように、身体の中で主張を始める。鼓動を優しく包み込むような、雨脚の弱くなった雨音。庭先の石畳を、軒下から垂れる雨の弾ける音、肌に纏わりつく煙雨のしっとりとした感触。青灰色の、優しい影。
「あ、あの、その香り、俺もつけてみたい。ダメですか?」
沈黙を埋めるように、安達君がひと際明るい声でそう提案する。僕の身体に合うように調合してあるけれど、彼の香りに重ねたら、どうなるか、という好奇心が疼き、僕は快諾して仕事場の薬品棚からそれを持ってきた。
「手首出して」
スポイトでそれを吸い上げ、差し出された真っ白な青い血管の浮くそこに、ぽたり、と落とす。
彼は手首を流れそうになる透明な液体を、手首同士で擦り合わせてから、そっと鼻先を近づける。
「お揃い」
そう言いながら、僕に手首を向けてくる。
「安達君の方が、もっとまろみがあって、温かい香りがするよ」
悪くない香りだ。
ここにジンジャー等のスパイスを加えたら、もっと刺激的かつ情熱的な香りにがらりと変わるはずだ。
「香りの事、考えてる?」
「うん、ジンジャーとかカルダモンの香りを入れたら、すごく情熱的な香りになるかもしれない」
閉じていた瞼を開くと、すぐそばにある安達君が温かな双眸で、僕を包み込むように見つめていた。その眼差しに、身体の芯が震えるように熱くなる。
「柿園さん、香りの事考えてる時、めっちゃいい顔してるね」
幼い子供に問いかけるような、穏やかな声音だった。僕はそっと手首から顔を離し、手に持っていた小瓶の蓋をした。
「そうかな」
薄い透明な幕を引く様な、ささやかな雨音が、やけに大きな鼓動に重なって聞こえる。
「俺はそう思います」
そう言いながら、彼の指先が僕の頬に触れた。シャワーを浴びたばかりなのに、指先はひやりと冷たく僕の頬に触れて、やがて温かい掌が頬を覆う。
掌からふわりと柔らかな曲線を描きながら、彼の香りが鼻孔に押し寄せてくる。
「柿園さん」
安達君の優しい力が僕を引き寄せる。唇が触れ合うと、ペアーの甘い香りが一層引き立つように漂った。
そっと離れると、安達君の鼻先が擽るように、僕の鼻先に触れてくる。それが可笑しくて少し笑うと、彼も小さく笑った。雨に甘い香りが溶けて、彼の夏の香りが湧き水のように漂い始める。地層の奥深くから地表へと湧き上がる透明な生まれたての源水。
「ねえ、柿園さん。一緒にどこか行こうよ」
彼の薄い唇が、頬に触れる。
「行きたいとこ、教えて欲しい」
大きく息を吸い込むように、彼の肺が膨らむ音がした。
「僕も……安達君が行きたい場所、知りたい」
彼の身体がぐっと近寄り、そのまま優しい力で押し倒される。見上げた彼の髪から、ぽたりと僕の頬に雫が落ちた。翳った彼の顔の陰影を辿る、青灰色の深い影。その奥で、揺らぐ炎のように熱い眼差しに、心臓がどくりと、今までにない程大きな音を立てた。
――知らない事が始まりそう。
そんな予感がして、微かな恐怖と好奇心に、呼吸が浅くなる気がした。
「あの、僕……」
何かを言わなければ。そう思って反射的に声を出しても、続けるはずの言葉は透明な風を掴むような心地で掴めない。僕の周りを周回して揶揄うばかりで喉から言葉が、出てこない。焦る程に言葉は存在ばかりを過剰に主張し、透明度を増していく。僕と安達君の間に、灰色の沈黙と、レモングラスの爽やかな香りが静かに漂う。
「好きですよ、柿園さん」
静かな湖畔に落ちる小石のように、微かな波紋で空気が震える気がした。視線を上げると、恥ずかしいと直ぐに逸らされてしまう眼差しが、じっと真っ直ぐに僕を捕まえていた。
「あ、安達君……僕は男で……」
「知ってますよ。柿園さんを女だって勘違いした事なんて一度もありません」
「僕はこういうの、経験が……」
「俺も流石に男は初めてです……」
初めて、という言葉にいつの間にか下がっていた視線を上げると、彼は「一応女の人が好きで生きてきましたよ」と、呟いて視線を逸らした。
「柿園さんだけ、特別なんです」
彼の声音で囁かれる魅力的な言葉たちは、僕にとっては宝石のような煌めきを持っている。けれど、僕はどうしても素直に頷くことができなかった。
「もう少し、待ってもらう事は……」
「待てます」
そう囁いて頬に降りて来た口づけは優しく、彼はすっと身を引いて僕から身体を離してくれた。僕も起き上がると、彼はしばらく沈黙してから、乱暴な仕草で頭の髪を掻いて振った。小さな雫が飛び散り、その瞬間同じ甘い香りもふわりと湧き立つ。
「すんません、帰ります……」
「服乾いてないよ?」
乾燥が終わるまで、まだ少し時間がかかるはずだ。
「あー……いいです。どうせ飛ばして帰るだけなんで、半乾きでも」
「いや、雨だってまだ……」
「いやっ、あの、そうでなく……」
釈然としないまま彼はそう言葉を濁してから、微かに視線を尖らせて僕を見た。初めて向けられる視線だ。
「分かって下さいよ」
彼は乾ききらない髪を苛立たし気に乱してから、
「今、我慢してるんです。もうね、危険人物なんですよ、柿園さんが思うより何倍も!」
襲い掛かるような彼の言葉を理解するには、少し時間が要ったが、言葉を搔い摘んで……。
理解した僕の顔が、炎に包まれた。
「理解した? しましたね? 俺は今柿園さんにとって、要注意危険人物なんです!」
もうこっから近づいちゃダメ! そう言って彼は指先で僕と彼の間に、境界線を引く。
「この線越えたら、警告なしに襲われるんですよ、理解してください。ああもう柿園さん、めちゃくちゃいい匂いしてるし!」
廊下の板張りの継ぎ目に沿って引かれた線を、僕はじっと見下ろし、指先で辿る。
「越えちゃダメだよ」
警告が、鳴る。
安達君を見上げれば、彼の熱い眼差しが僕を射るように見つめていた。彼の夏草の香りに交じる僕の香水が、妖艶なムスクの香りへと変化していくのが分かる。理性を越えた、動物的な熱を帯びるような香り。
「柿園さん」
境界線でさ迷う指先。境界線の先に居る彼の大きな手。頭の芯がぼうっとするような官能的なムスキーな香り。
僕の手は冷ややかに湿り気を帯びた木目を辿りながら、ゆっくりと境界線を侵食していく。雨の音が遠い退いて行く。僕等の間にある無音を漂うのは雨で湿った空気と、甘やかな香り。そして、出会った彼の中指に、僕は人差し指を重ねていた。
「ごめん、越えた……」
そう呟いた瞬間、遠退いていた全ての音が、見上げた彼が、いっせいになだれ込むように襲い掛かってきた。
僕等は板張りの上に、獣の子供がじゃれ合うように縺れ合いながら転がると、今までの大人しいキスなんてなかったかのような、不躾で配慮のないお互いの唇を食べ合うキスを繰り返す。
下唇を吸われ、呼吸の狭間で開いた唇の隙間から、彼の舌が潜り込んでくると、夢中でお互いの舌を絡め合う。
乱れた呼吸と上がり切った体温の狭間から、レットペッパーや海の潮の香りのようなものが漂ってくる。きっと僕等の混ざり合った香りの一部だ。
そう思うと、脇腹の辺りが熟れて崩れる柘榴のように疼いた。
彼の少し乱暴な指先が、首筋を辿り、脇腹を撫で、シャツの中に潜り込んでくると、何かを探すように這いまわる。もどかしく熱い指先から、甘い香りが漂う。
「香りの事考えてる」
彼の熱っぽい声音が落ちてくる。僕は首を振った。彼の爪先が、普段ならば気に留めない場所を、執着に引っ掻いてくる。
安達君はシャツのボタンを滑らかな手つきで外すと、爪先で刺激していた場所に、キスをした。彼の前髪が肌の上で滑り擽ったい。
「ここって、感じるようになるのかな」
「し、知らないよ」
舌先が小さな飾りを弾くように刺激すると、微かに腰から崩れるような、鈍い快感が襲う。彼の口に対して小さ過ぎるそこは、躊躇いなく食べられてしまった。
彼の空いた手が僕の頬を撫でるように這い、首筋を辿り、胸を通り過ぎて、腰を擽るように辿ってから、ズボンのボタンに指を掛けた。
驚いて思わずその手に手を重ねると、安達君は顔を上げて、深いキスをくれた。
刺激的な最初の香りは、ムスクとサンダルウッドの甘くオリエンタルな香りに溶けて、酷く官能的に僕等の間を漂っている。
呼吸をするたびに微かに唇を離して、角度を変え、唇を重ね合う。唾液を無意識に嚥下して、僕等の唇はどちらとも判別付かない唾液で濡れていく。
いつの間にか彼を制する僕の手は解かれていた。心臓が壊れる程鳴っている。
羞恥、躊躇い、不安、そんなものが渦巻いて、自分の感情なのに手が付けられない。
彼の手が下着の中に潜り込んでくると、喉の奥がひくりと動いた気がした。
今まで誰かに触れさせたこともない場所が、彼の手の内にある。そう思うと、身体全体が炎で包まれたように燃え上がる気がした。
「俺、どうしよ……」
彼はそう呟いた。
「男のもの触って興奮するとか、今までなかったよ。柿園さん、どうしてくれんの」
濡れた唇が意地悪く微笑むと、安達君は僕のズボンを下着事引きずり下ろした。驚いて声を喉に詰まらせていると、
「柿園さんも同じって考えて良いのかな」
そう呟く。安達君は身を屈めて、僕が抵抗らし抵抗もできない内に、今まで触れていた場所を躊躇いなく口に含んでしまった。
「だめっ……そこ、汚な」
そう言葉にするのに、言い表しようのない、うんと甘い何かが頭の芯を溶かして、思考や言葉を奪い去って行く。
「あっ、おねが、い……っ、はなして」
生暖かい口内の中で、彼の舌がねっとりと性器に絡みつく。彼の唇が側面を擦るたびに、今まで感じた事ない快感が身体中に響いた。乱暴だったり繊細だったりする彼の指先が、僕の尻の丸みを確かめるように撫でてから、性器の奥にある双球を擽るように弄び始める。
「あっ、ダメ……っ、う……っ、んぁ」
ようやく口腔内から離されたと思っても、直ぐに亀頭を舌先で強く詰られ、下腹部に溜まっていく熱が爆発してしまいそうだった。
「あだち、くん……っ」
「ごめんなさい、ちょっと限界」
恐る恐る下腹部を覗くと、僕の性器は勃起し、更に快感を求めて震えていた。
僕にもこんな機能があったなんて。
どこか自分を人間ではない、もっと無機質なものだと思っていたせいか、そんな戸惑いが胸を渦巻いて、心を乱す。
彼は慌てているような仕草で、自身の履いている物をずらすと、僕と同じように上向きになっている性器を取り出した。それを見た瞬間、どんな感情より先に、甘い痺れが脊髄から脳幹へと走り抜けていくのを感じた。
それは歓びにも似ている。
不意に雨脚が再び強くなって、僕等の鼓膜を優しく覆いながら塞いでいく。
彼が僕の上に覆い被さると、性器を合わせて、大きな掌で握り込む。熱く滾り、硬くなったそこは、僕よりも大きく逞しく見えた。
「大丈夫、今は挿れたりしないから」
そんなふざけた調子で言いながら、彼の耳は真っ赤になっていた。きっと僕と同じくらい緊張しているのかもしれない。そう思うと、堪らなく彼を抱き締めたくて、愛おしくて、全部を差し出してしまいたくなってしまう。
僕が彼の背中に手を回すと、安達君が僕と彼の性器を擦り上げ始めた。彼の生暖かい口腔内よりも動物的で刺激が強い。
「はっ、あ、……っん」
指先に力を入れて彼を掻き抱き、彼の香りを肺一杯に吸い込む。動植物が理性なく生きているような生命の香りがする。雨に濡れた石、葉を流れる朝露。
そして僕等の汗の香り。
追い立てられるように擦り上げられると、自分の意思とは関係ない場所へと放り投げられるような、心許なさが胸を掠めた。けれど、そんなのも束の間、彼の唇が僕の耳朶を甘く食み、やがて僕の唇をあやすように覆う。
大丈夫、ここにいる。
そう教えてくれるような唇だった。
彼の腰が揺れが激しくなると、自然と彼を求めて僕も腰を振っていた。
初めて、本能には抗えないのだと感じた。
安達君は奥歯を噛みながら、先走りで濡れた性器を合わせ握り擦り上げる。
「んっ、いくっ! 安達君……っ」
僕等はほぼ同時に果てると、白濁をお互いの重なる腹の間に吐き出した。
遠退いていた現実が、ゆっくりと僕等の傍に還ってくると、荒い息の狭間で微かな雷鳴が轟いていた。僕等は暫く横になりながら、肌と肌を吸い合わせるように抱き合う。
落ちてくる数えきれない程の雨粒をぼんやりと眺めながら、時折安達君は気紛れのように僕の頬を指の背で、優しく撫でてくる。それが擽ったくて逃げると、彼は微笑んだ。
「柿園さん、デートしよ」
その言葉の単語に、心臓がまた跳ねる。
「出かけるでも、遊びに行くでもなくてさ」
そう言いながら安達君は、僕の肌に指先を這わせる。優しい指先が、産毛を確かめるように掠めて身体の線をなぞる。
「くすぐったい」
「ねえ、柿園さん。デートでいい?」
「くすぐったいって」
「デートで良いって言ってよ」
僕等はじゃれ合いながら、短いキスを繰り返した。
雨は気付かない内に止んでいて、庭先はいつの間にか赤い夕陽で染まっていた。
あの激しい雨も、獰猛な野生の香りも、嘘みたいに今は霧散し、漂うのは彼の青芒の静かな香りと、庭の一角で雨の恵みを受けたレモングラスの香りだけだった。
蝉が四方で鳴き、廊下に立っているだけで汗が噴き出てくる八月。長年柿園の香水を愛用してくれている常連が、玄関を潜り抜けて来た。痩せて皺の多くなった細い指で帽子を取り、頭を下げる初老の男――城野さんは、
「参る暑さですね」
と、涼し気に笑い革靴を脱いだ。
「応接間は涼しくしときましたから、どうぞ」
そう促すと、彼はスリッパに足を入れて、一緒に応接間に向かう。
最近はどうです? と、問うと、角や尖りのない城野さんは、まろやかに口元を綻ばせ、孫が生まれましたと笑った。
「それはおめでとうございます、また忙しくなりそうですね」
「はい。でも、楽しみでなりませんねえ」
擦り硝子の戸を引くと、クーラーの風が吹き抜けて、汗を一気に冷やした。
「これは極楽だ」
そう言いながら、城野さんは応接間のソファに腰を下ろした。麦茶を用意して手元に置けば、恐縮そうに頭を下げてから、一口二口と、喉を上下させる。
「今回はどうしましょうか」
向かいに腰を下ろして、前回のサンプルを差し出すと、城野さんはゆっくりとした仕草で、小瓶を摘まんで、そのつるりと骨を象る薄い鼻先にそれを近づけた。
「もう少し柔らかい香りがいいですね。子供を刺激しないような……」
彼はそう言い、微笑んだ。
「お孫さんを抱っこした時には、柔らかな方が良いですからね」
僕は彼の要望に頷いて、愛用している万年筆をノートに走らせる。リラックス効果の高い香りを頭に思い浮かべ、 彼の今身体から香るものとの相性を考える。ラベンダーやオレンジスイート、刺激や濃い匂いは使わないようにしよう。
それからいくつか質問を重ねて、大体のイメージができると、僕はノートを閉じた。後は香料の確認をして、必要なものは取り寄せて、調香すればすぐに渡せる。
「……何かいい事がありましたか?」
何の前触れもない、唐突な質問に思わず目を瞬かせると、
「貴方が小学生だった頃をふと思い出しました。今日はそんな雰囲気があったもので……」
城野さんは麦茶に口を付けながら、そう微笑んだ。
「今日はお父様がご健在の頃の幼い貴方のようで、安心しました」
初めて聞かされる言葉に、視線を上げる。
「柿園の名にふさわしい天性の物をお持ちでいらっしゃるのは間違いないと確信しておりますが。ずっと何処か無理をなさっているように見えてましたので」
僕はその言葉になんて返して良いのか分からず、そんなことは……と呟いた。
僕の父は、母が出て行った後、僕が十五の春に死んだ。
母を失った父は、日に日に水を失った花のように衰弱し、やっとの思いで生きているようだった。目を閉じなくてもはっきりと残っているやつれた笑顔は、優しさよりも痛ましさに胸を締め付けられるものだった。
「僕は、早く柿園の名を継ぎたかったんです。父や祖父を尊敬していましたから」
言葉に嘘はない。
僕は柿園の家に生まれて、調香師としての嗅覚を持ってこの仕事を知り、自らこの仕事を志願した。それに嘘や偽りはない。
名前を受け継ぎサロンを再開したのは、高校卒業と専門学校に二年在籍した後の、二十歳の頃だ。最初は年齢のせい、相手をしてくれる顧客は、今の一割にも満たなかった。
それでも、この名前とこの仕事しか、僕にはなかった。孤独になる原因であろうと、蜘蛛の糸のような細い光で外界と関わる唯一の方法は、この「柿園」という名前と、受け継いだ嗅覚が成せる調香師以外に考えられなかったのだ。
全てが紙一重であった、憎くても。
「城野さんには本当に助けられました。再開した時は流石に名も廃れ、ここを畳む事も考える程でしたから」
軽い話にしたくて、苦笑いを浮かべると城野さんは「私は何も」と首をゆるりと振った。
「貴方のお力ですよ。貴方の香水を頂いた時、確信しておりましたから」
私は無駄な事はしない主義なんです。
そう嫋やかに笑う彼の言葉には、穏やかさに反する経営者として生きて来た一人の重みがあった。僕は恐縮しながら頭を下げた。
「そう言いつつ、一人となった貴方に親心のようなものがあったのは、事実ですけどね」
城野さんは微かに張り詰めた緊張をほぐすように笑った。僕はその笑顔に釣られて小さく笑い、お互いに何となく同じ温度の笑みを零し合う。
それから少し言葉を交わした後、城野さんはお迎えの車に乗って去って行った。残された彼の残り香と飲み残しのコップを下げながら、僕は青い台所で片づけを済ませると、戸棚を開いた。目の前に口を縛ってある、外国製のビスケットが眼に留まった。安達君が学校の友達から貰ったと持ってきたものだ。
僕はそれを手に取って、縁側へと向かった。
二枚ほど一緒に食べて、また食べようね、と置いて行ったままだった。
僕は晴れた空に顔を上げると、不意にその中に交じっている生臭さを感じる。そろそろ雨が降るかもしれない。そんな事を不意に思って、庭先の竿に掛けてある洗濯物を取り込んだ。陽が強いお陰で、殆どの衣類はからからに乾いていた。
安達君、今日来るのかな。
薄いワイシャツ越しに突き刺さる、真夏の暑い矢を受けながら、僕はふと彼の香りを思い出す。
安達君は何かと理由を作っては、三日に一度の頻度で、この何もない家にやってくる。良い野菜が手に入った、おすそ分け、そんな小さな理由を握り締めて、彼はあの長い坂道を自転車を押してやってくる。
そのたびに僕等は唇を重ねて、言葉に出さない何かを確認し合う。日に日に大きくなっていく胸の内の花の蕾を、僕はもう見てみぬふりなんてできないところまで来ていた。
僕は縁側に腰を下ろすと、タオルを一枚取り、膝の上に置いた。くたりと、倒れ込む一枚を見下ろしながら、僕は母の香りを思い出していた。
――母は僕と父の知らない所で、知らない人と愛し合い、交わっていた。
僕が母の匂いが変だと訴える日は、その知らない男と交わった日だったのだ。僕はそれを知らずに、ただただ違和感を感じては、その不満を母にぶつけていた。きっと、香りの違和感は父も感じていただろう。けれど、僕みたいに何も知らない子供じゃない。世界の中心に生きていた幼い僕は、違和感を正そうと母に訴える自由を持っていたけれど、父はきっとその違和感を胸に抱くしかできなかったのかもしれない。
そして、僕等の歯車は少しずつ嚙み合わなくなった。僕は違和感を拭えず自由に訴え、父はただその事実を知りながらも、訴えられず。やがて母は僕等の透明な圧力に発狂した。
「貴方達、気持ち悪いのよ!」
母はそう言い残して僕等の前から去って行った。僕等の知らない人と一緒に。
きっと父はそれでも母が好きだったのだと思う。許してと言えば、許していただろうし――それに、きっとそれを待っていたのだと思う。けれど、母は出て行った。
その事実は、父を絶望させた。
僕では到底癒せない傷を負ったのだ。
そして最後は、僕が十五の時に自ら首を吊った。遺書はなかった。
父は最後まで優しかったし、僕を愛してくれたけれど、僕はきっと母が去った後も、ずっと母の二番目だったのだ。
だから父は僕を置いて、死んだ。
――だからと言う訳ではないけれど。
彼の香りに嘘を感じる事はないけれど、どうしても、確かで揺るぎない言葉を零すには、躊躇いがあった。
またいつかあの違和感を感じて、最後には父が負ったような傷を抱え込むのではないかと。恋や愛の痛手は、命を左右するものなのだと、僕は父の死をもって、学んだ。
僕はもう、僕の世界の王様だった頃を生きているわけじゃない。
不意に生臭さがぐっと強くなり、顔を上げると、バケツをひっくり返したような雨が激しく地面を叩き始めた。地面に弾けて煙雨が白く立っている。僕はぼんやりとそれを眺めてから、調香室へと向かった。
陽が閉ざされて暗がりとなった小部屋の、薬品棚の奥。僕は小さな青い小瓶を取り出し、スポイトでそれを取り、一滴だけ、手首に乗せた。ベースであるムスクの香りが立ち、その遠くにレモンやペアーの甘く爽やかな香りが陽炎のように揺らいでいる。
全てが始まる前のような、神聖な香りがする。全ての始まりは水だから、雨に合うように調合してある、僕の為の香りだ。
肌と肌を擦り合わせ、首筋にも擦り込む。
すると、突然前触れもなく呼び鈴が鳴り、僕ははっと顔を上げた。小瓶を仕舞って、まさかと玄関に急いで向かう。
扉を開くと、そこに居たのは服のまま海に飛び込んでしまったような出で立ちの安達君だった。立っているスニーカーの下には、水溜まりがじわじわと広がっている。
安達君は悪戯が失敗に終わってしまった子供の様に、眉を下げて笑った。
「すんません。向かう途中で降られました」
「そんな事より早く入って、風邪ひくよ!」
僕は彼を家に招き入れると、風呂場へと手を引いた。戸惑う彼の言葉も聞かないまま、彼を風呂場に押し込み、濡れた衣類は全て洗濯機に突っ込む。
「突然降ってきたよね」
シャワーの蛇口が捻られて、タイルを打つ水音が聞こえる。
「参りました。いきなりですもん。黒い雲がうわあって来て、その瞬間ばっしゃーって」
擬音の多い彼の言葉に、思わず笑みを零しながら、うんうん、分かると相槌を打つ。
「とりあえずバスタオルは洗濯機の上に置いておくね。服探してくるから」
「ありがとうございます」
乾燥の予約までかけると、僕は次に彼が着れそうな服を探した。
けれど、僕の家の男子は皆、大柄と言う言葉からはだいぶ遠い体格をしているようで、彼が着れそうな服が一枚もない。
僕は唸り声をあげてから、仕方ない、と割り切り、とりあえず自分よりも背の高かった父のズボンと、結崎がどこかで買ってきた大きめのTシャツを、そっとバスタオルの傍に置いた。
止まない雨を縁側から眺めていると、
「来て早々本当にすみません。有り難うございます、助かりました」
そう言いながら現れたのは、やはり足首がはっきりと出てしまっているズボンと、骨格が細いせいで丁度良く見えるTシャツを着た安達君だった。Tシャツには柄はなく、胸のあたりに何かのロゴが黒く入っている以外特に特徴もない。
「あの……このTシャツ、本当に俺が着ちゃって良かったんですか?」
安達君は言葉を籠らせながら、そう呟く。
「そのTシャツ何かあるの?」
「これ多分、ブランド品ですよ」
「……知らなかった」
お土産ありがと、と軽い調子でやり取りしてしまった事を思い出して、僕は青くなった。
「自分で買ったんじゃないんですか?」
「友達が軽い調子でくれたんだ。お土産、みたいな感覚で」
「なんかカッコいいですね」
「僕はTシャツのお土産なんて変わってるな、位にしか思ってなかったよ」
あはは、と笑いながら安達君は「柿園さんらしいですね」と僕の隣に腰を下ろして胡坐を掻いた。最初来た頃は手を膝に乗せて緊張していたのに、今は少しだけ、僕の家での過ごし方に馴染んできた気がする。砕け過ぎず、かと言って他人行儀もなく、ちょうど良く溶けるように馴染んでいる。
彼は肩に掛けたタオルで髪を撫でるように水を吸わせ、
「ん? 柿園さん、なんか良い匂いする」
ひくっと鼻を動かして、僕を見る。僕は自分の手首を彼の顔に近づけた。
「僕の個人的な香水だよ。雨の日に付けるんだ」
「いいな、すげえ好い香り。雨だけの柿園さんか」
そう言いながら、彼は僕の手首に唇を押し当てた。ちゅ、と音を立てて離れると、
「はい、気障な事したなー、俺。はっずかし。なしなし、これナシね」
と、彼は耳を赤くして笑って誤魔化した。
彼は見た目通りに明るく大胆であるのに、それに比例する位に恥ずかしがり屋で、良く耳を赤くしている。それがどうしようもなく可愛くて、僕まで体温が上がって、恥ずかしくなって、二人で暫く羞恥を噛み締め黙り込んでしまうのだった。
心地良いような、恥ずかしいような、それでいてずっと続いて欲しいような沈黙。僕と安達君の間には、雨音と、僕のムスクとレモンとペアーの混じる雨の香り。そして、それに覆い被さるようにして、体温の上がった彼から放たれる、陽炎のような青々しい夏草の香りが覆い被さる。
とくり、とくりと、心臓が一回り程大きくなったように、身体の中で主張を始める。鼓動を優しく包み込むような、雨脚の弱くなった雨音。庭先の石畳を、軒下から垂れる雨の弾ける音、肌に纏わりつく煙雨のしっとりとした感触。青灰色の、優しい影。
「あ、あの、その香り、俺もつけてみたい。ダメですか?」
沈黙を埋めるように、安達君がひと際明るい声でそう提案する。僕の身体に合うように調合してあるけれど、彼の香りに重ねたら、どうなるか、という好奇心が疼き、僕は快諾して仕事場の薬品棚からそれを持ってきた。
「手首出して」
スポイトでそれを吸い上げ、差し出された真っ白な青い血管の浮くそこに、ぽたり、と落とす。
彼は手首を流れそうになる透明な液体を、手首同士で擦り合わせてから、そっと鼻先を近づける。
「お揃い」
そう言いながら、僕に手首を向けてくる。
「安達君の方が、もっとまろみがあって、温かい香りがするよ」
悪くない香りだ。
ここにジンジャー等のスパイスを加えたら、もっと刺激的かつ情熱的な香りにがらりと変わるはずだ。
「香りの事、考えてる?」
「うん、ジンジャーとかカルダモンの香りを入れたら、すごく情熱的な香りになるかもしれない」
閉じていた瞼を開くと、すぐそばにある安達君が温かな双眸で、僕を包み込むように見つめていた。その眼差しに、身体の芯が震えるように熱くなる。
「柿園さん、香りの事考えてる時、めっちゃいい顔してるね」
幼い子供に問いかけるような、穏やかな声音だった。僕はそっと手首から顔を離し、手に持っていた小瓶の蓋をした。
「そうかな」
薄い透明な幕を引く様な、ささやかな雨音が、やけに大きな鼓動に重なって聞こえる。
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そう言いながら、彼の指先が僕の頬に触れた。シャワーを浴びたばかりなのに、指先はひやりと冷たく僕の頬に触れて、やがて温かい掌が頬を覆う。
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「ねえ、柿園さん。一緒にどこか行こうよ」
彼の薄い唇が、頬に触れる。
「行きたいとこ、教えて欲しい」
大きく息を吸い込むように、彼の肺が膨らむ音がした。
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彼の身体がぐっと近寄り、そのまま優しい力で押し倒される。見上げた彼の髪から、ぽたりと僕の頬に雫が落ちた。翳った彼の顔の陰影を辿る、青灰色の深い影。その奥で、揺らぐ炎のように熱い眼差しに、心臓がどくりと、今までにない程大きな音を立てた。
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そんな予感がして、微かな恐怖と好奇心に、呼吸が浅くなる気がした。
「あの、僕……」
何かを言わなければ。そう思って反射的に声を出しても、続けるはずの言葉は透明な風を掴むような心地で掴めない。僕の周りを周回して揶揄うばかりで喉から言葉が、出てこない。焦る程に言葉は存在ばかりを過剰に主張し、透明度を増していく。僕と安達君の間に、灰色の沈黙と、レモングラスの爽やかな香りが静かに漂う。
「好きですよ、柿園さん」
静かな湖畔に落ちる小石のように、微かな波紋で空気が震える気がした。視線を上げると、恥ずかしいと直ぐに逸らされてしまう眼差しが、じっと真っ直ぐに僕を捕まえていた。
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初めて、という言葉にいつの間にか下がっていた視線を上げると、彼は「一応女の人が好きで生きてきましたよ」と、呟いて視線を逸らした。
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「待てます」
そう囁いて頬に降りて来た口づけは優しく、彼はすっと身を引いて僕から身体を離してくれた。僕も起き上がると、彼はしばらく沈黙してから、乱暴な仕草で頭の髪を掻いて振った。小さな雫が飛び散り、その瞬間同じ甘い香りもふわりと湧き立つ。
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「服乾いてないよ?」
乾燥が終わるまで、まだ少し時間がかかるはずだ。
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「今、我慢してるんです。もうね、危険人物なんですよ、柿園さんが思うより何倍も!」
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「理解した? しましたね? 俺は今柿園さんにとって、要注意危険人物なんです!」
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「柿園さん」
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「ごめん、越えた……」
そう呟いた瞬間、遠退いていた全ての音が、見上げた彼が、いっせいになだれ込むように襲い掛かってきた。
僕等は板張りの上に、獣の子供がじゃれ合うように縺れ合いながら転がると、今までの大人しいキスなんてなかったかのような、不躾で配慮のないお互いの唇を食べ合うキスを繰り返す。
下唇を吸われ、呼吸の狭間で開いた唇の隙間から、彼の舌が潜り込んでくると、夢中でお互いの舌を絡め合う。
乱れた呼吸と上がり切った体温の狭間から、レットペッパーや海の潮の香りのようなものが漂ってくる。きっと僕等の混ざり合った香りの一部だ。
そう思うと、脇腹の辺りが熟れて崩れる柘榴のように疼いた。
彼の少し乱暴な指先が、首筋を辿り、脇腹を撫で、シャツの中に潜り込んでくると、何かを探すように這いまわる。もどかしく熱い指先から、甘い香りが漂う。
「香りの事考えてる」
彼の熱っぽい声音が落ちてくる。僕は首を振った。彼の爪先が、普段ならば気に留めない場所を、執着に引っ掻いてくる。
安達君はシャツのボタンを滑らかな手つきで外すと、爪先で刺激していた場所に、キスをした。彼の前髪が肌の上で滑り擽ったい。
「ここって、感じるようになるのかな」
「し、知らないよ」
舌先が小さな飾りを弾くように刺激すると、微かに腰から崩れるような、鈍い快感が襲う。彼の口に対して小さ過ぎるそこは、躊躇いなく食べられてしまった。
彼の空いた手が僕の頬を撫でるように這い、首筋を辿り、胸を通り過ぎて、腰を擽るように辿ってから、ズボンのボタンに指を掛けた。
驚いて思わずその手に手を重ねると、安達君は顔を上げて、深いキスをくれた。
刺激的な最初の香りは、ムスクとサンダルウッドの甘くオリエンタルな香りに溶けて、酷く官能的に僕等の間を漂っている。
呼吸をするたびに微かに唇を離して、角度を変え、唇を重ね合う。唾液を無意識に嚥下して、僕等の唇はどちらとも判別付かない唾液で濡れていく。
いつの間にか彼を制する僕の手は解かれていた。心臓が壊れる程鳴っている。
羞恥、躊躇い、不安、そんなものが渦巻いて、自分の感情なのに手が付けられない。
彼の手が下着の中に潜り込んでくると、喉の奥がひくりと動いた気がした。
今まで誰かに触れさせたこともない場所が、彼の手の内にある。そう思うと、身体全体が炎で包まれたように燃え上がる気がした。
「俺、どうしよ……」
彼はそう呟いた。
「男のもの触って興奮するとか、今までなかったよ。柿園さん、どうしてくれんの」
濡れた唇が意地悪く微笑むと、安達君は僕のズボンを下着事引きずり下ろした。驚いて声を喉に詰まらせていると、
「柿園さんも同じって考えて良いのかな」
そう呟く。安達君は身を屈めて、僕が抵抗らし抵抗もできない内に、今まで触れていた場所を躊躇いなく口に含んでしまった。
「だめっ……そこ、汚な」
そう言葉にするのに、言い表しようのない、うんと甘い何かが頭の芯を溶かして、思考や言葉を奪い去って行く。
「あっ、おねが、い……っ、はなして」
生暖かい口内の中で、彼の舌がねっとりと性器に絡みつく。彼の唇が側面を擦るたびに、今まで感じた事ない快感が身体中に響いた。乱暴だったり繊細だったりする彼の指先が、僕の尻の丸みを確かめるように撫でてから、性器の奥にある双球を擽るように弄び始める。
「あっ、ダメ……っ、う……っ、んぁ」
ようやく口腔内から離されたと思っても、直ぐに亀頭を舌先で強く詰られ、下腹部に溜まっていく熱が爆発してしまいそうだった。
「あだち、くん……っ」
「ごめんなさい、ちょっと限界」
恐る恐る下腹部を覗くと、僕の性器は勃起し、更に快感を求めて震えていた。
僕にもこんな機能があったなんて。
どこか自分を人間ではない、もっと無機質なものだと思っていたせいか、そんな戸惑いが胸を渦巻いて、心を乱す。
彼は慌てているような仕草で、自身の履いている物をずらすと、僕と同じように上向きになっている性器を取り出した。それを見た瞬間、どんな感情より先に、甘い痺れが脊髄から脳幹へと走り抜けていくのを感じた。
それは歓びにも似ている。
不意に雨脚が再び強くなって、僕等の鼓膜を優しく覆いながら塞いでいく。
彼が僕の上に覆い被さると、性器を合わせて、大きな掌で握り込む。熱く滾り、硬くなったそこは、僕よりも大きく逞しく見えた。
「大丈夫、今は挿れたりしないから」
そんなふざけた調子で言いながら、彼の耳は真っ赤になっていた。きっと僕と同じくらい緊張しているのかもしれない。そう思うと、堪らなく彼を抱き締めたくて、愛おしくて、全部を差し出してしまいたくなってしまう。
僕が彼の背中に手を回すと、安達君が僕と彼の性器を擦り上げ始めた。彼の生暖かい口腔内よりも動物的で刺激が強い。
「はっ、あ、……っん」
指先に力を入れて彼を掻き抱き、彼の香りを肺一杯に吸い込む。動植物が理性なく生きているような生命の香りがする。雨に濡れた石、葉を流れる朝露。
そして僕等の汗の香り。
追い立てられるように擦り上げられると、自分の意思とは関係ない場所へと放り投げられるような、心許なさが胸を掠めた。けれど、そんなのも束の間、彼の唇が僕の耳朶を甘く食み、やがて僕の唇をあやすように覆う。
大丈夫、ここにいる。
そう教えてくれるような唇だった。
彼の腰が揺れが激しくなると、自然と彼を求めて僕も腰を振っていた。
初めて、本能には抗えないのだと感じた。
安達君は奥歯を噛みながら、先走りで濡れた性器を合わせ握り擦り上げる。
「んっ、いくっ! 安達君……っ」
僕等はほぼ同時に果てると、白濁をお互いの重なる腹の間に吐き出した。
遠退いていた現実が、ゆっくりと僕等の傍に還ってくると、荒い息の狭間で微かな雷鳴が轟いていた。僕等は暫く横になりながら、肌と肌を吸い合わせるように抱き合う。
落ちてくる数えきれない程の雨粒をぼんやりと眺めながら、時折安達君は気紛れのように僕の頬を指の背で、優しく撫でてくる。それが擽ったくて逃げると、彼は微笑んだ。
「柿園さん、デートしよ」
その言葉の単語に、心臓がまた跳ねる。
「出かけるでも、遊びに行くでもなくてさ」
そう言いながら安達君は、僕の肌に指先を這わせる。優しい指先が、産毛を確かめるように掠めて身体の線をなぞる。
「くすぐったい」
「ねえ、柿園さん。デートでいい?」
「くすぐったいって」
「デートで良いって言ってよ」
僕等はじゃれ合いながら、短いキスを繰り返した。
雨は気付かない内に止んでいて、庭先はいつの間にか赤い夕陽で染まっていた。
あの激しい雨も、獰猛な野生の香りも、嘘みたいに今は霧散し、漂うのは彼の青芒の静かな香りと、庭の一角で雨の恵みを受けたレモングラスの香りだけだった。
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