遠い海に消える。

中原涼

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 オメガと診断された、初めての中学三年生の夏の記憶は、アルファとしたセックスだ。
 初めて処方された、発情期の薬を飲み忘れ、アルファの兄に襲われた。
 いつも家族団らんで過ごすリビングルームで、俺の気配と匂いに一瞬怯んで逃げた兄に、俺が「兄ちゃん」と声を掛けたのが、全ての引き金だった。
弱り切って震える声音に、兄は頭を抱えて蹲ると、肩に掛けていた学校指定の鞄を床に叩きつけ、俺の身体をソファに沈めた。
 止めてという間もなく、驚きと恐怖に喉がその機能を忘れ、気が付いた時には、俺も兄も快楽に溺れていた。
 夏の午後の日差しを和らげる白いレースのカーテンを通して、フローリングに木漏れ日を落とす光が、クーラーの風で微かにさざ波を起こす。穏やかな陽光に満たされた部屋は、荒い息と愛液が混ざり、肉同士の打つかる音で満たされている。甘く官能的な濃い香りが充満して、脳の奥が蕩けて、もう形が見えない。
 四つん這いになって、兄に尻を向ける自分の姿と、俺の腰を掴んで秘孔を突き上げている兄の必死な姿が、暗いテレビに映って揺れていた。その姿を見て、不安と罪悪感に押し潰されそうだった胸が、再び悦楽で満たされる。
 自ら兄の肉棒を欲して喘ぎ続ける、あさましい己の姿にすら欲情していた。
 視界の隅に入った時計が、午後五時を過ぎているのに気づくと、俺は腰を支える兄の右手を握った。
「母さん、帰って、くるよ……っ」
 午後五時にパートタイムを終えて帰ってくる母にこんな姿は死んでも見せられない。そんな最後のなけなしの理性が働いた。兄の力強い打ちつけに、内壁が強く擦れ、亀頭が最奥まで届くと、俺は身体を支えて起こしていた腕からも力を奪われて、堅い布に頬を押し当て喉を劈く様に声を上げた。
「ああっ、だめえ……っあ、あんっ」
 兄の絶頂が近いのか、荒々しくなる律動に、身体の重心が定まらず、ソファーがぎしぎしと揺れる。
「いくっ、あっ、ああっ、またいっちゃうっ」
「最後だ、いけ……っ」
 一際大きく腰を引いてずるりと抜けたものが、今までで一番堅く強く反り立ちながら、最奥までを一気に打ち抜くと、体中が痙攣した。自分の性器から、白濁が吹き出して、淡いグリーンのソファーを汚す。
 背中に熱い何かが掛かると、俺は少しだけほっとした。
 中に出されたら、妊娠しかねない。
 兄の胸が俺の背中を包み込むように覆い被さってくると、俺達は暫くの間身体を重ねながら、荒い息のまま余韻に浸っていた。
 体育の時間や部活の時間でも、こんなに激しく動いたことはない。兄の温かい肌と、微かに早い鼓動を感じながら、俺は兄を愛おしく想っていた。

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