想色40season's

ある

文字の大きさ
9 / 19

追憶の旅8

しおりを挟む
    街の明かりが灯り始めた路地の先に、待ち合わせ場所の小さな神社が姿を見せると、私は呼吸を整えつつゆっくりとした足並みへと戻す。そして目線より少し高い神社の境内を玉垣の隙間から横目で覗くと、古びた小さな拝殿前の石段に座っているしーちゃんの姿を見つけた。
    なぁんだ、しーちゃんは私服か。
    何を期待していた訳でもないけどちょっぴりがっかりした私は、そのまま神社の外を回って境内への入り口へと足を進める。
    そしてこの神社で一番大きな御神木の陰に隠れて髪の毛を整えると、"ふぅ"と息を吐いてから浴衣の乱れがないかを確認して木陰から足を踏み出した。

    さらさらと樹々が擦れ合う涼しげな音に私が歩く度に鳴る砂利の乾いた音が重なり合っていく。
    すると私に気付いたしーちゃんがパッと立ち上がって手を振った。
    いつもの笑みが神社の薄暗い蛍光灯に照らされて私に安堵の感情が戻ってくる。
    そして私はしーちゃんへと駆け寄り、ずっと言ってみたかったあのセリフを口にしてみる。

「ごめんっ、待った?」

    そんなよくあるセリフを言ってみたけど、しーちゃんの返事は、やっぱり恋愛小説には出てこないような、しーちゃんらしいものだった。

「十分くらい待ったかなぁ?待ち合わせの時間くらい守れよなっ」

    "こういう時は女の子は遅れた方が可愛いのに!"って思ったけど、そんな既成の物語みたいに進むなんてつまんないか、ってこの時の私は無理矢理思い込むことにした。

    だけどこの場面を改めて見返すとやっぱりしーちゃんは"全然待ってないよ"って言うべきだったんじゃないの?    なんて思ってしまう。

「しーちゃんだってメールくれた時には待ち合わせの時間過ぎてたじゃん」

「え?    そうだっけ?    まぁいいじゃん」

    しーちゃんはそう言って私の横を通り過ぎると足を止めた。

「てか……浴衣、似合ってんじゃん。最初、モデルとかかと思った」

    この言葉でさっきまでの私の不満が綺麗に消し飛んでしまった。背中を向けたままのしーちゃんの表情は分からないけど、きっと恥ずかしいのに頑張ったんだろうな、って思った。
    そんな、今までと同じようで同じじゃないそんなしーちゃんに、私は今まで以上に惹かれていくのが分かった。

「どうせプラモデルとか言うんでしょっ」

    照れ隠しでそんな事を言った私はちょっと子供だったかな……

「プロモデルだよ」

    思いもしなかったその返しに何も言えなくなって頬を染めた私。"ありがとっ"とでも簡単に言っておけば私の胸がこんなにも甘酸っぱい気持ちで一杯になる事もなかったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

“熟年恋愛”物語

山田森湖
恋愛
妻を亡くし、独りで過ごす日々に慣れつつあった 圭介(56)。 子育てを終え、長く封じ込めていた“自分の時間”をようやく取り戻した 佳奈美(54)。 どちらも、恋を求めていたわけではない。 ただ——「誰かと話したい」「同じ時間を共有したい」、 そんな小さな願いが胸に生まれた夜。 ふたりは、50代以上限定の交流イベント“シングルナイト”で出会う。 最初の一言は、たった「こんばんは」。 それだけなのに、どこか懐かしいような安心感が、お互いの心に灯った。 週末の夜に交わした小さな会話は、 やがて食事の誘いへ、 そして“誰にも言えない本音”を語り合える関係へと変わっていく。 過去の傷、家族の距離、仕事を終えた後の空虚—— 人生の後半戦だからこそ抱える孤独や不安を共有しながら、 ふたりはゆっくりと心の距離を縮めていく。 恋に臆病になった大人たちが、 無理をせず、飾らず、素のままの自分で惹かれ合う—— そんな“優しい恋”の物語。 もう恋なんてしないと思っていた。 でも、あの夜、確かに何かが始まった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...