身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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収穫祭編

6 エプロン





「アシェ」

「あっ。ヴァルドさん!お話、終わったの?」

ぱたぱたと駆け寄ってくるアシェ。
その姿はとても可愛らしいが……。

「あぁ……どうしてそんな格好をしているんだ?」

「あ、わわ……っ。そうだった。
これは嫌だって言ったんだよ」

アシェは何故だか服の上からふりふりの女性用とも言えるエプロンを身に着けていた。
エプロンを着ているのも疑問ではあるが、どうしてそんな姿を……。

「アシェくん。男の子用のエプロンちゃんとあったぜ。ちょっとサイズがデカいけどな」

「ザナックさん。ありがとう」

「ふりふりの方がいいんじゃないか?
サイズが合ってるじゃねえか」

「い、やだよ。女の子みたいだよ」

ふりふりのエプロン姿でザナックのもとへ駆けていくアシェ。揶揄われているようだが、どうやら着替えるようだ。

「一体どういうことなんだ。ルシアン。
説明しろ」

「分かってるよ~。
少し前のことなんだけどね――」

後ろにいたルシアンが説明を始めた。

____


「で?テオと言ったな。
なんで店に火弾をぶっ放ったんだ?
大した魔力じゃねえが、遊びじゃ済まされねえぞ?」

「……」

ザナックさんの迫力に背の高い男の子――テオは黙り込んでいる。
火弾がもし当たっていたら誰か怪我をしたかもしれないし、お店に火が移って大変なことになっていたかもしれない。

「ザナックさんのお店で、もう売るのをやめさせろって言ってたよね?どうして?」

確かにそう言っていたんだ。
でもザナックさんはちゃんと許可を取って売ってるから、何にも悪くないのに。

「お、お前らがたくさん売ったら、母ちゃんに優勝賞品が渡せなくなるだろ!」

「優勝賞品?」

初耳。と言ったルシアン先生、ザナックさんの表情だ。何の話だろう。

「収穫祭では2日間で売上1位になった店には、毎年特別な品が贈られるんだ」

「そういや村長がそんなことを言っていたな」

ザナックさんがお店を出す申請をした時だろうか。今思い出したかのように、ザナックさんは苦笑していた。

「優勝賞品、今年は“癒しの鈴”だって言われている」

「……癒しの鈴ね」

「ルシアン、お前知ってるのか?」

「その鈴の音で身体を癒す効果がある。と言われている。しかし実際に怪我や病気が治ったかと言われるとそういうわけでもないから、気休め程度に……」

「で?なんでそれが欲しいんだよ」

ザナックさんは急いでルシアン先生の口を手で塞いでいた。
ルシアン先生は不服そうな表情だ。

「母ちゃんが腰を痛めて収穫祭に出られないんだ。今日に向けて準備もしてきたのに……。
出られたらきっと1位にだってなれたはずだ。
毎日仕事も家のことも頑張ってる母ちゃんに、癒しの鈴を渡したかったんだよ!」

テオはぐっと拳を握っている。
テオはきっと優しい人なんだ。
同じ火の魔法を使う、レオン義兄さんとは違う。きっとごめんなさいが出来る人。

火の魔法はまだちょっと怖い。
レオン義兄さんにそれで脅されたこと、大切な本を燃やされたことを思い出すから。

でもテオはそんなことをしない人だって思った。

「でも火の魔法が当たってたら大変だったよ。
もう収穫祭も出来なくなってたかもしれない。
お母さんも悲しむよ。
だからごめんなさい、しよう?」

テオはこちらをチラリと見つめる。
握っていた拳の力を緩めて、今度はザナックさんとルシアン先生を見上げたかと思うと、深く頭を下げていた。

「ご、ごめんなさい!お店に、村の人達に魔法を放って、ごめんなさい!」

「分かったならいい。もう危ないことすんなよ」

「一応被害はなかったからね」

「すみませんでした!」

深く頭を下げるテオの頭をぐりぐりと撫でるザナックさん。でも表情は少し笑っている。
怒ってないみたい。良かったね。
ぼくも少しほっとする。

「テオ」

「な、なんだよ」

「ぼくお店、手伝うよ。収穫祭はまだ始まったばかりだよ。今から頑張れば1番になれるかもしれないよ」

「え……?」

「アシェくん。俺の店に宣戦布告か?」

「面白いことになってきたね」

____


「――そういうわけで、アシェくんがテオくんの店を手伝うことになったんだ。今準備をしているというわけ」

「……そうか」

いつのまにかアシェが出店側になっているとはな。話を聞いていると、アシェも彼に何か思うことがあったのだろう。
まあいい。楽しそうにしているアシェを見守るとしようか。


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