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1章 いらない子、アシェ
6 さいごの夜
しおりを挟む薄い布が敷かれた床で横になる。
でも、全然眠れなかった。
月明かりだけが、部屋を照らしている。
まだ本は読み終わってないのに。
剣だけで魔物を倒した騎士様の話も。
冒険の話も。
でもぼくは明日、レオン義兄さんの身代わりになる。騎士団長の紋章。とっても大事な物だ。
盗んだのがぼくだって知ったら、きっとその場で、殺される――
「う……うぅっ……」
また涙が溢れ出てきていた。
涙で布がびしょびしょだ。
身体を丸めると、ズキンとさっき打ちつけた背中が痛んだ。
お義母さんはいつも言っていた。
姉さん……ぼくの本当のお母さんは、穀潰しの役立たずだけ残していった、と。
魔法もろくに使えないのだったら、せめて家事くらいまともにやれ、と。
でもぼくは料理も掃除も全然出来なかった。
レオン義兄さんが食べたいって言ったものを、作れなくて怒られた。
埃がまだ残ってるって叩かれた。
ぼくが魔法もろくに使えない、役立たずだから。きっと、こういう、運命だったんだ。
この本の――物語の主人公みたいには、なれないんだ。
「う、ああ……う、」
あんまり大きい声を出すとお義母さんに怒られるかもしれない。布で声を抑えながらぼくは、この部屋でのさいごの夜を過ごした。
__
「アシェ。紋章は?」
「ここに……」
手を開いて見せる。
「ちゃんとレオンちゃんの代わりに謝罪するのよ!」
「はい……」
「アシェ。おれは今日念の為、学院を休む。
頼んだぞ」
「うん……」
「そうねレオンちゃん。それがいいわ。
さあ、さっさと行きなさい。アシェ」
「はい……」
玄関へと背中を押される。
2人が見送ってくれるなんて、初めてかもしれない。
いってきますって言ってみたかったけど、言いたくなかった。
だってもう、ここには帰って来ないんだもの。
「ママ。これでおれは大丈夫だよね?
殺されないよね?」
「役立たずのアシェでも謝るのは得意だから大丈夫よ。何かあってもレオンちゃんのことは、ママが守るわ」
玄関のドアを閉める。
ぼくに出来ることは、レオン義兄さんの身代わりになる。それだけだもの。
ゴミ捨て場から拾った冒険の本。
鞄に入れて持って来た。
最期まで持ってたら、死んだ時に天国に持って行けるかもしれないから。
天国で続きが、読めるかもしれないから。
ぼくは鞄の紐を握りしめて、騎士団庁舎に向かった。
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