傷物令嬢って私のことですか?

ルーキッドアン

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その不文律が破られる気配が有った。
退屈な程の安寧な日々に食傷気味の王妃発である。

サンサルヴァ王国王妃マリアンヌは日課の午睡から覚めてふと思った。
「セシリア様のお子様って....」と。
今しがた見た夢の中に、学生時代に強く憧れたセシリアが現れたからであった。
マリアンヌとセシリアは同じ学園に一学年違いで在籍していた。
一つ年上のセシリアは女学生から大層人気でファンクラブも数団体あった。

多くの女子から手紙や花やハンカチを貰い
「有難うね」と去っていくセシリアを見つめながら、公爵令嬢マリアンヌはそれらの女子達を羨ましく否、恨めしく思っていた。

伯爵令嬢のセシリアと公爵令嬢のマリアンヌは時折顔を合わせていたが、爵位下のセシリアから声を掛けることは憚られ、ではマリアンヌから声を掛けるか...と言えば内向的過ぎて出来なかった。
一度だけ図書室で、書架の上段にある本を「どうぞ」とセシリアに取ってもらった事があった。
私はお礼を言えたか?覚えていない。
礼儀知らずな令嬢と思われただろうか...遅ればせながらお礼を言いたいと機会を窺うマリアンヌであった。

しかし学園でも社交の場でもセシリアはあっという間に令嬢、令息たちに囲まれてしまう。
その人塊を相手に「セシリア様」と声を掛けることは出来ないままセシリアは卒業してしまい、卒業後直ぐに西の砦へと嫁いで行ってしまったのである。

公爵家のマリアンヌは卒業後に当時の王太子ルパートと結婚しアレックスとデービッド、二人の王子を生んだ。
ルパートとは政略結婚であったが不本意な結婚ではなかった。
婚約から現在に至るまで心ときめく様な場面はなく、苛烈な嫉妬心も起きず、夫の言動に歓喜も無ければ幻滅も無い...見渡しの良い一本道を歩くかのような年月であった。
子育ても恙無く、成功も失敗も今のところ無いようだ。
その証拠に町娘と身分違いの恋に落ちたり、婚約者の居る隣国の姫に心奪われたりせずに長男のアレックスは幼い頃からの婚約者と結ばれる。
次男デービッドにも貴族の均衡を図り決めた婚約者が既にいる。全てが予定調和で順調であった。
母として王妃として後継を生み育てる任は終了に差し掛かっている。
それなのに、だからなのか、ふと憧れのセシリア様と縁戚になりたかった!と言う突拍子のない欲が湧いて出たのであった。

マリアンヌは侍女を呼びつけ最新の貴族名鑑を持ってくるように命じた。
午睡の起き抜けにどうした事かと驚く侍女であったが、訓練の賜物「直ぐに」と一礼して下がって行った。

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