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煉獄篇
第十六話⑤
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私は手足を拘束され、ベッドの上に転がされる。その私の横で、お姉ちゃんは布団をかけられて、か細い寝息を立てていた。
これから起こることへの不安と恐怖から、私の心臓が激しく脈打つ。音が外に漏れ聞こえるのではないかと思うほどだった。
体が引きつり、息が苦しくなってきて、気が遠のいていく。いっそこのまま意識を失って、起きたときにはすべておわっていたらいいのに。
ただもし私が気絶してしまったら、エリザちゃんが刃物を持ってきて、私の心臓を取り出そうとするかもしれない。そう思うと不安になって、必死に意識を保った。古代の生贄に捧げられた人々は、もしかしたらこんな気持ちだったのではないだろうか。
「まずはダリアちゃんからね。ルールはそのままで」
エリザちゃんは生贄の儀式を司る神官のように仕切っていた。
砂村さんが促されて、私の足元に座る。
私は手で前を隠し、足を閉じようとしたけれど、拘束されていて、あと少しのところで叶わなかった。
「十秒前──」
エリザちゃんがカウントを開始した。
それに砂村さんはため息を漏らす。
「ほんと最悪……」
私は彼女を前にして、ブタだった日々を思い出した。
毎朝、彼女の上履きに鼻を押しつける挨拶をさせられた。四つん這いで歩くことを強制された。教室で、みんなが見ている前でおしっこもさせられた。そして私と親しくしていた加藤さんを『生き物係』にして、私が逃げられないようにした。ただそれは彼女自身の意思ではなかったけれど、今でも私は砂村さんのことが怖い。
人の尊厳と心を踏みにじり、恐怖で支配する砂村さんは暴虐の女王で、エリザちゃんはその女王に神託を下す神官か、神そのものだった。
「始めるわよ」
「はい……」
心臓にナイフを突きつけられたような気分だった。
私の体は、これから起こる恐ろしいことに引きつり、今にもおしっこが漏れてしまいそうだった。砂村さんにされたとき、お姉ちゃんがすごく痛がっていたこともあり、私は怖くて仕方なかった。
そして砂村さんの指が私の割れ目に触れた。
「ひっ……!」
それに私の喉から短く悲鳴が漏れた。鋭利な刃物を当てられたような気がして、全身に鳥肌が立ち、体が強張る。
「いきなりいったね」
「鬼畜」
私たちを鑑賞しながら、エリザちゃんと姫山さんは好き放題に言っていた。無視をしているけれど、砂村さんの表情がかすかに引きつった。
そして砂村さんの指が、私の割れ目の中にある、折り重ねられた肉の襞へ潜り込んでくる。
「うっ……!」
肉襞をこすられて、体の内側からめくられるような不快感が込み上げてきた。
砂村さんの顔を見ると、彼女は顔をしかめ、歯を食いしばっていた。私に対してか、この行為に対してか、嫌悪感が滲み出ていた。そんなに嫌なのにどうしてこんなことをするのだろうか。もうおわりにすればいいのに。私だってこんなことしたくない。
彼女は姫山さんに負けたくない、そんな意地のために続けているのかもしれない。そんなもののために、私やお姉ちゃんはこんな目に遭わなければいけないのか。
あまりの理不尽さに、恐怖や悲しみ、怒りから、私の目から涙がこぼれた。次の瞬間、それは痛みのために変わった。
砂村さんの指が私の中に入ってくる。乾いた私の肉を、えぐるように、こそげるように潜り込んでくる。
「いっ……痛いっ……!」
あまりの痛みに私は目をつぶり、下唇を噛んだ。手のひらが裂けそうなほど強く握る。本当は彼女の手を押し留めたかったけれど、私の両手はベルトとベッドから伸びるロープに拘束されていて、どうすることもできなかった。
私が痛がっていることに気づいているはずなのに、砂村さんは私の中で指を引き戻しては、再び差し入れてくる。
「うぅっ……!」
初めてエリザちゃんにされたときよりも、ずっと痛かった。それは目の粗いヤスリか何かで、内臓を引きずり出すように、体の内側を削られるようなそんな怖い痛みだった。
「痛い……! やめて……やめてください……!」
私が痛がっているのに、砂村さんは手を休めない。
「う、うるさい! 我慢しなさい!」
ただ砂村さん自身、私に苦痛を与えることを楽しんだり、目的にしているようではなかった。どうしたらいいかわからず、困惑して焦っているようだった。
「よし、濡れてきた!」
「ダリアちゃん、それは身を守ろうとしてるだけの、ただの防御反応だよ……」
エリザちゃんが呆れたように言った。
それを無視して、砂村さんは何度も指を抜き差しする。それだけでも痛くて気持ち悪いのに、そのたびに彼女の手のひらが私の下腹部にあたって鈍く響いた。
「うっ……ぐぅ……! もう、やめて……!」
「集中できないから静かにして!」
私がどんなに泣いても、助けを求めても、砂村さんはやめてくれなかった。
「ほら、イけ! イけ!」
どんなに命令されても、私の体の反応は、自分の意思ではどうすることもできなかった。ただただ痛くて怖くて仕方なかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何に対してかはわからないけれど、私はそれしか言えなくて、許しを乞うため何度も謝った。しかしそれは彼女の耳には、意識にも届かなかった。
乱暴に何度も何度も彼女の手が打ちつけられ、私は苦痛に体を縮こまらせて、この暴虐が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。
ずっと何時間もそうされていた気がするけれど、制限時間の五分を告げるアラームが鳴った。
それに砂村さんの手が止まり、私の中から指が引き抜かれる。彼女は肩を上下させて荒い息をしていた。
「くそっ!」
苛立った様子で吐き捨てるのが怖かった。私に目も合わせないけれど、その怒りが私に向けられているかもしれないと思うと、ようやく解放されても、もっとひどいことをされるのではと不安な気持ちになった。
「ダリアちゃん、時間切れ。得点は0点。もう、あんまりハナちゃんのこといじめないでよ」
「私は真剣にやってるの!」
「それじゃ次、マリーちゃん」
わかりきっていたことだけれど、まだ生贄の儀式はおわらなかった。私のそこは、内も外も、ひりひりとじんじんと、あるいは焼けつくような熱のある、いくつかの異なる痛みが波のように重なり合って、おわっても私のことを苛んでいた。
「無理……もう無理……」
「あと二回だからがんばって」
エリザちゃんは無情だった。
砂村さんと入れ替わりに、姫山さんが私の足の間に座る。
砂村さんは痛くて嫌だったけれど、姫山さんはそれ以上に怖かった。お姉ちゃんにしたふうに、私にもするつもりなのだろうか。あんな気絶するほどの恐ろしいことを。本当に殺されてしまうのではないかと怖くなった。
「スタート」
姫山さんが私に触れると、エリザちゃんが開始を告げた。
姫山さんは私の右足を左腕で抱え、右手を私の中に差し入れ、舌を割れ目にある突起に触れた。
私は全身から血の気が引いた。これから起こる恐ろしいこと、彼女が何をしようとしているのか、察してしまった。
「や、やめ──」
私が言いおわる前に、姫山さんの指が、舌が、地獄の装置が動き始めた。
「あ、あああああ──」
彼女の指は私の内側からお腹を押し上げるように突き立て、舌は私の突起を絶え間なく舐め上げる。
二つの場所を同時に責める、こんなこと、彼女はお姉ちゃんにはしていなかった。エリザちゃんにもここまでのことをされたことはない。エリザちゃんはじっくりと時間をかけていたぶるのが好きなようだから。
姫山さんに同時に二箇所を責められて、ほとんど痛みのような不快感が、私のそこから駆け上がって頭の中を貫く。
「やめっ……無理っ……助けて……!」
体が勝手に仰け反る。声が喉から勝手に漏れる。
冬、ドアノブに触れた手に静電気が走り、弾かれるような痛みと感覚。その何倍も強い、落雷に打たれたような感覚が、私の全身を襲う。勝手に手足が、全身が引きつり、私の体なのに、自分の意思ではどうすることもできない。恐怖感が込み上げてきた。
そして頭の中がぐちゃぐちゃになって、視界が歪む。私もお姉ちゃんのように気を失いそうだった。ただ気絶できたらこの恐怖から解放されるとわかっているけれど、もし気絶したら、エリザちゃんに殺されて心臓を取り出されてしまうかもしれない。それが怖くて気を失うことができなかった。
私はぐちゃぐちゃの意識の中、一番大嫌いなのに、一番憎くて怖いのに、エリザちゃんに向かって助けを求めた。手を伸ばして、彼女に懇願した。
「エリザちゃん……助けて……!」
「ハナちゃん、がんばって」
それにエリザちゃんは微笑んで、私を見守るだけだった。
姫山さんの指が、舌が、どんどん速くなっていく。
「ああっ……無理、もうやめて……!」
全身が引きつって、息もできない。息が苦しい。窒息しそうだった。姫山さんに責められているのは私の体の下の方なのに、全身の神経を束にしてつかまれて、脳みそまで引きずり出されるような、そんな恐ろしい錯覚がした。ペットボトルに入ったゼリー飲料が振って砕かれて液体になるように、私の頭の中身も揺さぶられて粉々に砕けてしまうような気がした。
突然、お腹の下の方の内臓を鷲掴みにされたような、締めつけられるような痛みを感じた。そこから電流が背中を駆け上がっていって、目の前で星が砕けて散った。
「あああああっ──」
全身に震えが走った。それは私の意思ではどうすることもできない。今私の体がどうなっているのか、全身がバラバラになったみたいで、手を握っているのか、開いているのかもわからなくなった。
「マリーちゃん、7点目」
エリザちゃんの採点が聞こえた。私はイかされたらしい。
「もうやめ……もうやめてぇ……! お願い、助けて……!」
私は誰かに叫んだ。願った。私の叫びや願いは、エリザちゃんや姫山さんにも誰にも届かない。そのことはわかっているけれど、助けを求めずにはいられなかった。
私がイっても姫山さんは責めるのをやめない。むしろさらに速くなっていく。
「やだぁ……しぬ、しんじゃう……!」
私の中にあってはならない後悔が生まれた。どうして私はお姉ちゃんの身代わりになってしまったのだろう。こうなるとわかっていたはずなのに、と。
もし今エリザちゃんに、お姉ちゃんとの交代をもちかけられたら、私はそれに応じてしまうだろう。
エリザちゃんは何も言わない。私を助けようとしてはくれない。
「いやあああああ──」
またあの下腹部の中の奥を締めつけられるような痛みを感じた。またあれがくるとわかった。
それは私の感情とか感覚とか関係なしに、体にそういうスイッチがあって、押されてそうなっただけのようで、そもそも私は私の体の所有者ではなく、ただの付属品のように思えた。
そしてまたあのスイッチが押された。電流が背中を駆け上がった。神経の束を手繰り寄せられて、全身が引きつる。
「あああああああ──」
今度こそ脳みそがバラバラに砕け散った。勝手に喉が震えて声が漏れる。それは自分の声だけれど、何かの動物が轢き殺されてあげる悲鳴のように思えた。
目の前に無数の光が散って、流れる。それは糸くずのようで、這うように明滅を繰り返していた。
「マリーちゃん、8点目」
まだおわらない。
「ころして……! おねがい、ころして……!」
どうしてそんなことを叫んだのかわからない。どんなに助けを求めても、やめてくれないことはわかっている。だからいっそ殺してほしいと願ったのかもしれない。
不意にアラームの鳴る音が遠くに聞こえた。音が鳴ると同時に、私は姫山さんから解放された。
いきなり体の主導権を返されたけれど、全身に力が入らない。喉や、体が引きつって息が苦しい。心臓が激しく脈打っている。
「マリーちゃん、合計8点。もう、やりすぎだよ。ハナちゃん、壊れちゃう」
「思ったより難しかった」
「それは、お姉ちゃんみたいに開発されてないんだから」
ようやくおわった。もうこれ以上は──
「次、ダリアちゃん。ラストね」
「え……」
もう私は限界だった。
姫山さんが8点で、砂村さんに勝ち目はないのだから、続けることに意味があるとは思えなかった。
「や、やだっ……! もうやめてください……! 許してください……!」
「十秒前。きゅう、はち、なな──」
砂村さんが生贄の祭壇に上ってくる。
私は力を振り絞って、彼女から逃れようと後ずさった。けれど手足は拘束されていて、ロープが伸びきると、それ以上逃げることができなかった。
「無理、無理です……! もう、姫山さんの勝ちじゃ……?」
「うるさい! 黙ってやられてなさい!」
砂村さんが負けを認めてくれたら、もうこんなことする必要ないのに。
目眩がした。意識が遠のいていく。おしっこを漏らしてしまった。おしっこをすれば彼女が嫌がると思って、無意識に漏らしてしまったのかもしれない。
「汚いわね! このっ──」
ただそれは砂村さんを怒らせただけだった。
砂村さんの指が私の中へと、乱暴に突き入れられた。
これから起こることへの不安と恐怖から、私の心臓が激しく脈打つ。音が外に漏れ聞こえるのではないかと思うほどだった。
体が引きつり、息が苦しくなってきて、気が遠のいていく。いっそこのまま意識を失って、起きたときにはすべておわっていたらいいのに。
ただもし私が気絶してしまったら、エリザちゃんが刃物を持ってきて、私の心臓を取り出そうとするかもしれない。そう思うと不安になって、必死に意識を保った。古代の生贄に捧げられた人々は、もしかしたらこんな気持ちだったのではないだろうか。
「まずはダリアちゃんからね。ルールはそのままで」
エリザちゃんは生贄の儀式を司る神官のように仕切っていた。
砂村さんが促されて、私の足元に座る。
私は手で前を隠し、足を閉じようとしたけれど、拘束されていて、あと少しのところで叶わなかった。
「十秒前──」
エリザちゃんがカウントを開始した。
それに砂村さんはため息を漏らす。
「ほんと最悪……」
私は彼女を前にして、ブタだった日々を思い出した。
毎朝、彼女の上履きに鼻を押しつける挨拶をさせられた。四つん這いで歩くことを強制された。教室で、みんなが見ている前でおしっこもさせられた。そして私と親しくしていた加藤さんを『生き物係』にして、私が逃げられないようにした。ただそれは彼女自身の意思ではなかったけれど、今でも私は砂村さんのことが怖い。
人の尊厳と心を踏みにじり、恐怖で支配する砂村さんは暴虐の女王で、エリザちゃんはその女王に神託を下す神官か、神そのものだった。
「始めるわよ」
「はい……」
心臓にナイフを突きつけられたような気分だった。
私の体は、これから起こる恐ろしいことに引きつり、今にもおしっこが漏れてしまいそうだった。砂村さんにされたとき、お姉ちゃんがすごく痛がっていたこともあり、私は怖くて仕方なかった。
そして砂村さんの指が私の割れ目に触れた。
「ひっ……!」
それに私の喉から短く悲鳴が漏れた。鋭利な刃物を当てられたような気がして、全身に鳥肌が立ち、体が強張る。
「いきなりいったね」
「鬼畜」
私たちを鑑賞しながら、エリザちゃんと姫山さんは好き放題に言っていた。無視をしているけれど、砂村さんの表情がかすかに引きつった。
そして砂村さんの指が、私の割れ目の中にある、折り重ねられた肉の襞へ潜り込んでくる。
「うっ……!」
肉襞をこすられて、体の内側からめくられるような不快感が込み上げてきた。
砂村さんの顔を見ると、彼女は顔をしかめ、歯を食いしばっていた。私に対してか、この行為に対してか、嫌悪感が滲み出ていた。そんなに嫌なのにどうしてこんなことをするのだろうか。もうおわりにすればいいのに。私だってこんなことしたくない。
彼女は姫山さんに負けたくない、そんな意地のために続けているのかもしれない。そんなもののために、私やお姉ちゃんはこんな目に遭わなければいけないのか。
あまりの理不尽さに、恐怖や悲しみ、怒りから、私の目から涙がこぼれた。次の瞬間、それは痛みのために変わった。
砂村さんの指が私の中に入ってくる。乾いた私の肉を、えぐるように、こそげるように潜り込んでくる。
「いっ……痛いっ……!」
あまりの痛みに私は目をつぶり、下唇を噛んだ。手のひらが裂けそうなほど強く握る。本当は彼女の手を押し留めたかったけれど、私の両手はベルトとベッドから伸びるロープに拘束されていて、どうすることもできなかった。
私が痛がっていることに気づいているはずなのに、砂村さんは私の中で指を引き戻しては、再び差し入れてくる。
「うぅっ……!」
初めてエリザちゃんにされたときよりも、ずっと痛かった。それは目の粗いヤスリか何かで、内臓を引きずり出すように、体の内側を削られるようなそんな怖い痛みだった。
「痛い……! やめて……やめてください……!」
私が痛がっているのに、砂村さんは手を休めない。
「う、うるさい! 我慢しなさい!」
ただ砂村さん自身、私に苦痛を与えることを楽しんだり、目的にしているようではなかった。どうしたらいいかわからず、困惑して焦っているようだった。
「よし、濡れてきた!」
「ダリアちゃん、それは身を守ろうとしてるだけの、ただの防御反応だよ……」
エリザちゃんが呆れたように言った。
それを無視して、砂村さんは何度も指を抜き差しする。それだけでも痛くて気持ち悪いのに、そのたびに彼女の手のひらが私の下腹部にあたって鈍く響いた。
「うっ……ぐぅ……! もう、やめて……!」
「集中できないから静かにして!」
私がどんなに泣いても、助けを求めても、砂村さんはやめてくれなかった。
「ほら、イけ! イけ!」
どんなに命令されても、私の体の反応は、自分の意思ではどうすることもできなかった。ただただ痛くて怖くて仕方なかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何に対してかはわからないけれど、私はそれしか言えなくて、許しを乞うため何度も謝った。しかしそれは彼女の耳には、意識にも届かなかった。
乱暴に何度も何度も彼女の手が打ちつけられ、私は苦痛に体を縮こまらせて、この暴虐が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。
ずっと何時間もそうされていた気がするけれど、制限時間の五分を告げるアラームが鳴った。
それに砂村さんの手が止まり、私の中から指が引き抜かれる。彼女は肩を上下させて荒い息をしていた。
「くそっ!」
苛立った様子で吐き捨てるのが怖かった。私に目も合わせないけれど、その怒りが私に向けられているかもしれないと思うと、ようやく解放されても、もっとひどいことをされるのではと不安な気持ちになった。
「ダリアちゃん、時間切れ。得点は0点。もう、あんまりハナちゃんのこといじめないでよ」
「私は真剣にやってるの!」
「それじゃ次、マリーちゃん」
わかりきっていたことだけれど、まだ生贄の儀式はおわらなかった。私のそこは、内も外も、ひりひりとじんじんと、あるいは焼けつくような熱のある、いくつかの異なる痛みが波のように重なり合って、おわっても私のことを苛んでいた。
「無理……もう無理……」
「あと二回だからがんばって」
エリザちゃんは無情だった。
砂村さんと入れ替わりに、姫山さんが私の足の間に座る。
砂村さんは痛くて嫌だったけれど、姫山さんはそれ以上に怖かった。お姉ちゃんにしたふうに、私にもするつもりなのだろうか。あんな気絶するほどの恐ろしいことを。本当に殺されてしまうのではないかと怖くなった。
「スタート」
姫山さんが私に触れると、エリザちゃんが開始を告げた。
姫山さんは私の右足を左腕で抱え、右手を私の中に差し入れ、舌を割れ目にある突起に触れた。
私は全身から血の気が引いた。これから起こる恐ろしいこと、彼女が何をしようとしているのか、察してしまった。
「や、やめ──」
私が言いおわる前に、姫山さんの指が、舌が、地獄の装置が動き始めた。
「あ、あああああ──」
彼女の指は私の内側からお腹を押し上げるように突き立て、舌は私の突起を絶え間なく舐め上げる。
二つの場所を同時に責める、こんなこと、彼女はお姉ちゃんにはしていなかった。エリザちゃんにもここまでのことをされたことはない。エリザちゃんはじっくりと時間をかけていたぶるのが好きなようだから。
姫山さんに同時に二箇所を責められて、ほとんど痛みのような不快感が、私のそこから駆け上がって頭の中を貫く。
「やめっ……無理っ……助けて……!」
体が勝手に仰け反る。声が喉から勝手に漏れる。
冬、ドアノブに触れた手に静電気が走り、弾かれるような痛みと感覚。その何倍も強い、落雷に打たれたような感覚が、私の全身を襲う。勝手に手足が、全身が引きつり、私の体なのに、自分の意思ではどうすることもできない。恐怖感が込み上げてきた。
そして頭の中がぐちゃぐちゃになって、視界が歪む。私もお姉ちゃんのように気を失いそうだった。ただ気絶できたらこの恐怖から解放されるとわかっているけれど、もし気絶したら、エリザちゃんに殺されて心臓を取り出されてしまうかもしれない。それが怖くて気を失うことができなかった。
私はぐちゃぐちゃの意識の中、一番大嫌いなのに、一番憎くて怖いのに、エリザちゃんに向かって助けを求めた。手を伸ばして、彼女に懇願した。
「エリザちゃん……助けて……!」
「ハナちゃん、がんばって」
それにエリザちゃんは微笑んで、私を見守るだけだった。
姫山さんの指が、舌が、どんどん速くなっていく。
「ああっ……無理、もうやめて……!」
全身が引きつって、息もできない。息が苦しい。窒息しそうだった。姫山さんに責められているのは私の体の下の方なのに、全身の神経を束にしてつかまれて、脳みそまで引きずり出されるような、そんな恐ろしい錯覚がした。ペットボトルに入ったゼリー飲料が振って砕かれて液体になるように、私の頭の中身も揺さぶられて粉々に砕けてしまうような気がした。
突然、お腹の下の方の内臓を鷲掴みにされたような、締めつけられるような痛みを感じた。そこから電流が背中を駆け上がっていって、目の前で星が砕けて散った。
「あああああっ──」
全身に震えが走った。それは私の意思ではどうすることもできない。今私の体がどうなっているのか、全身がバラバラになったみたいで、手を握っているのか、開いているのかもわからなくなった。
「マリーちゃん、7点目」
エリザちゃんの採点が聞こえた。私はイかされたらしい。
「もうやめ……もうやめてぇ……! お願い、助けて……!」
私は誰かに叫んだ。願った。私の叫びや願いは、エリザちゃんや姫山さんにも誰にも届かない。そのことはわかっているけれど、助けを求めずにはいられなかった。
私がイっても姫山さんは責めるのをやめない。むしろさらに速くなっていく。
「やだぁ……しぬ、しんじゃう……!」
私の中にあってはならない後悔が生まれた。どうして私はお姉ちゃんの身代わりになってしまったのだろう。こうなるとわかっていたはずなのに、と。
もし今エリザちゃんに、お姉ちゃんとの交代をもちかけられたら、私はそれに応じてしまうだろう。
エリザちゃんは何も言わない。私を助けようとしてはくれない。
「いやあああああ──」
またあの下腹部の中の奥を締めつけられるような痛みを感じた。またあれがくるとわかった。
それは私の感情とか感覚とか関係なしに、体にそういうスイッチがあって、押されてそうなっただけのようで、そもそも私は私の体の所有者ではなく、ただの付属品のように思えた。
そしてまたあのスイッチが押された。電流が背中を駆け上がった。神経の束を手繰り寄せられて、全身が引きつる。
「あああああああ──」
今度こそ脳みそがバラバラに砕け散った。勝手に喉が震えて声が漏れる。それは自分の声だけれど、何かの動物が轢き殺されてあげる悲鳴のように思えた。
目の前に無数の光が散って、流れる。それは糸くずのようで、這うように明滅を繰り返していた。
「マリーちゃん、8点目」
まだおわらない。
「ころして……! おねがい、ころして……!」
どうしてそんなことを叫んだのかわからない。どんなに助けを求めても、やめてくれないことはわかっている。だからいっそ殺してほしいと願ったのかもしれない。
不意にアラームの鳴る音が遠くに聞こえた。音が鳴ると同時に、私は姫山さんから解放された。
いきなり体の主導権を返されたけれど、全身に力が入らない。喉や、体が引きつって息が苦しい。心臓が激しく脈打っている。
「マリーちゃん、合計8点。もう、やりすぎだよ。ハナちゃん、壊れちゃう」
「思ったより難しかった」
「それは、お姉ちゃんみたいに開発されてないんだから」
ようやくおわった。もうこれ以上は──
「次、ダリアちゃん。ラストね」
「え……」
もう私は限界だった。
姫山さんが8点で、砂村さんに勝ち目はないのだから、続けることに意味があるとは思えなかった。
「や、やだっ……! もうやめてください……! 許してください……!」
「十秒前。きゅう、はち、なな──」
砂村さんが生贄の祭壇に上ってくる。
私は力を振り絞って、彼女から逃れようと後ずさった。けれど手足は拘束されていて、ロープが伸びきると、それ以上逃げることができなかった。
「無理、無理です……! もう、姫山さんの勝ちじゃ……?」
「うるさい! 黙ってやられてなさい!」
砂村さんが負けを認めてくれたら、もうこんなことする必要ないのに。
目眩がした。意識が遠のいていく。おしっこを漏らしてしまった。おしっこをすれば彼女が嫌がると思って、無意識に漏らしてしまったのかもしれない。
「汚いわね! このっ──」
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砂村さんの指が私の中へと、乱暴に突き入れられた。
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