5 / 14
殿上の闇討ち
第5話 殿上の闇討ち③
しおりを挟む1
儀式が終わり、宴が始まった。
庭の真ん中にある舞台の上では、烏帽子を被り、白い袴を身にまとった白拍子たちが、自慢の歌声を響かせながら、優雅に舞う。
舞が終わった後、鳥羽院は酔いに任せて、
「忠盛よ、余の白河院から、そなたは、舞が上手であると聞いておる。余興に舞うてくれぬか?」
と命じた。
「承知いたしました」
忠盛は、御殿前にある庭に設置された舞台に上がり、舞を舞った。
酒が入っていて、気分が高揚していたのだろう。舞の途中、ある一人の貴族が、
「眇目(斜視のこと)眇目、伊勢の平氏は眇目」
と高らかな声で歌い始めた。
周りの貴族たちからは、大爆笑の嵐が巻き起こった。中には苦々しい顔で見る者、真顔の者もいたが。
意味は、当時伊勢の特産物であった酢甕と忠盛が斜視であったことをかけた、一種の侮辱。言い換えれば、「ここは院の御前。だから伊勢平氏で斜視の田舎者は帰れ」ということだ。
歌の意味を察した忠盛は、いい気にはならない。自分のことを嗤ったヤツ一人一人の顔面を殴ってやりたい衝動に駆られたが、今日は「祭祀」という祭りの日。それに、そんなことをしたら、自分や一族の首が危ない。
「今日は帰ります」
「何故じゃ?」
「幼い平四郎や五郎も待っていますのでね」
作り笑顔浮かべた忠盛は、先ほど預かっていた、小烏丸の太刀を再び腰に差し、殿中を出ようとする。
「そうか。ならば、出るとよい」
鳥羽院がそう答えると、忠盛は殿中を出た。
2
後日。忠盛は鳥羽院に呼び出された。
新嘗祭のとき、殿中に刀を帯びて入室したことで、公卿たちから苦情が相次いだからだ。
「このとき持っていた打刀がこれでございます」
忠盛は、新嘗祭のとき腰に差していた打刀を鳥羽院の前に差し出す。
鳥羽院はこれを抜き、刃に一通り目を通した後、鞘におさめ、
「忠盛よ。この刀は本物か? 刀にしては軽いうえ、鞘におさめたときに、コンコン、と木と木がぶつかるような音がするのだが?」
不思議そうな顔で聞いてきた。
「ご察しの通り、偽物にございます。殿中での帯刀はご法度ですので、木刀に銀箔を貼り付けたものを持参した次第でございます」
「ほうほう。なぜ、そのようなものを殿中に?」
「院のお命を狙う輩が現れた際、いつでも対処できるようにするためです」
「あっぱれじゃ! 忠盛、余はお前のことをますます気に入った。よいか、皆々の者」
鳥羽院は、周りの者たちに激励する。
「忠盛を見習い、忠勤に励むのじゃぞ」
こうして忠盛は、鳥羽院から絶大な信頼を寄せられるようになったのだ。
3
六条堀川にある源氏屋敷。
為義は遊女を連れ込んで、酒盛りを始めていた。
「桃ちゃんかわいいね」
酔いと性的興奮で、貧相な面構えを真っ赤にした為義は、桃と名乗る若い遊女に酌をしてもらっている。
「廷尉殿、肩を揉みましょうか?」
「うん、揉んで」
「じゃあ、揉みますね」
桃が為義の肩を揉もうとしたとき、
「失礼」
抜き身の刀を持った家貞が戸を蹴飛ばして中へ入ってきた。
「おう、家貞じゃないか、久しぶりだな! 良かったら、一杯飲んでいかないか?」
為義は、濁酒の入った白い盃を、家貞の前に差し出す。
「そんなものは、いりませぬ!」
家貞は持っていた刀を大上段に上げ、為義の目の前に突きつける。
「きゃぁあぁっ!」
桃はけたたましい断末魔を上げて、
「助けて、廷尉殿」
涙目になりながら、為義の袖を強くつかむ。
「も、桃ちゃんには手を、出すな」
為義は側に置いていた鬼切丸の大太刀に手をかける。
「不運だな。このようなクズ親父に捕まってしまうとは。この男は、自分の子供の養育を放棄した、クズ親父ですぞ」
家貞は為義のこめかみの辺りに太刀を近づけた。
「廷尉殿、ひどい! おじさん、この人何したと思います? 私の遊女仲間を妊娠させて、責任逃れしたんですよ!」
「待って、桃ちゃん、そんなことしてないよ」
指で耳の穴を塞ぎながら叫ぶ為義。
「嘘つくなよ、このチビハゲスケベ親父が!」
桃は大きな足音を立てて、荒れ果てた源氏屋敷を出た。
「そんなぁ」
為義は泣き叫ぶ。
「さて、為義殿。源太くんに謝りなさい。さもなくば、職場である検非違使に引き渡しますよ」
家貞は刀の切っ先を、泣いている為義の前に突きつける。
体をブルブルと震わせながら、為義は、
「ご、ごめんなさい」
小さな声で謝った。
「こんなことを今度しましたら、例え院北面からの付き合いである私も許しませんからね。そこのところはよく覚えておくように」
家貞はそう言い残して、為義の前を後にする。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる