ひとへに風の前の塵に同じ・起

佐竹健

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殿上の闇討ち

第5話 殿上の闇討ち③

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   1 


 儀式が終わり、宴が始まった。

 庭の真ん中にある舞台の上では、烏帽子を被り、白い袴を身にまとった白拍子たちが、自慢の歌声を響かせながら、優雅に舞う。

 舞が終わった後、鳥羽院は酔いに任せて、

「忠盛よ、余の白河院そふから、そなたは、舞が上手であると聞いておる。余興に舞うてくれぬか?」

 と命じた。

「承知いたしました」

 忠盛は、御殿前にある庭に設置された舞台に上がり、舞を舞った。

 酒が入っていて、気分が高揚していたのだろう。舞の途中、ある一人の貴族が、

眇目すがめ(斜視のこと)眇目、伊勢の平氏は眇目」

 と高らかな声で歌い始めた。

 周りの貴族たちからは、大爆笑の嵐が巻き起こった。中には苦々しい顔で見る者、真顔の者もいたが。

 意味は、当時伊勢の特産物であった酢甕すがめと忠盛が斜視であったことをかけた、一種の侮辱。言い換えれば、「ここは院の御前。だから伊勢平氏で斜視の田舎者は帰れ」ということだ。

 歌の意味を察した忠盛は、いい気にはならない。自分のことを嗤ったヤツ一人一人の顔面を殴ってやりたい衝動に駆られたが、今日は「祭祀」という祭りの日。それに、そんなことをしたら、自分や一族の首が危ない。

「今日は帰ります」

「何故じゃ?」

「幼い平四郎や五郎も待っていますのでね」

 作り笑顔浮かべた忠盛は、先ほど預かっていた、小烏丸の太刀を再び腰に差し、殿中を出ようとする。

「そうか。ならば、出るとよい」

 鳥羽院がそう答えると、忠盛は殿中を出た。


   2


 後日。忠盛は鳥羽院に呼び出された。

 新嘗祭のとき、殿中に刀を帯びて入室したことで、公卿たちから苦情が相次いだからだ。

「このとき持っていた打刀がこれでございます」

 忠盛は、新嘗祭のとき腰に差していた打刀を鳥羽院の前に差し出す。

 鳥羽院はこれを抜き、刃に一通り目を通した後、鞘におさめ、

「忠盛よ。この刀は本物か? 刀にしては軽いうえ、鞘におさめたときに、コンコン、と木と木がぶつかるような音がするのだが?」

 不思議そうな顔で聞いてきた。

「ご察しの通り、偽物にございます。殿中での帯刀はご法度ですので、木刀に銀箔を貼り付けたものを持参した次第でございます」

「ほうほう。なぜ、そのようなものを殿中に?」

「院のお命を狙う輩が現れた際、いつでも対処できるようにするためです」

「あっぱれじゃ! 忠盛、余はお前のことをますます気に入った。よいか、皆々の者」

 鳥羽院は、周りの者たちに激励する。

「忠盛を見習い、忠勤に励むのじゃぞ」

 こうして忠盛は、鳥羽院から絶大な信頼を寄せられるようになったのだ。


   3


 六条堀川にある源氏屋敷。

 為義は遊女を連れ込んで、酒盛りを始めていた。

「桃ちゃんかわいいね」

 酔いと性的興奮で、貧相な面構えを真っ赤にした為義は、桃と名乗る若い遊女に酌をしてもらっている。

廷尉ていい殿、肩を揉みましょうか?」

「うん、揉んで」

「じゃあ、揉みますね」

 桃が為義の肩を揉もうとしたとき、

「失礼」

 抜き身の刀を持った家貞が戸を蹴飛ばして中へ入ってきた。

「おう、家貞じゃないか、久しぶりだな! 良かったら、一杯飲んでいかないか?」

 為義は、濁酒どぶろくの入った白い盃を、家貞の前に差し出す。

「そんなものは、いりませぬ!」

 家貞は持っていた刀を大上段に上げ、為義の目の前に突きつける。

「きゃぁあぁっ!」

 桃はけたたましい断末魔を上げて、

「助けて、廷尉殿」

 涙目になりながら、為義の袖を強くつかむ。

「も、桃ちゃんには手を、出すな」

 為義は側に置いていた鬼切丸の大太刀に手をかける。

「不運だな。このようなクズ親父に捕まってしまうとは。この男は、自分の子供の養育を放棄した、クズ親父ですぞ」

 家貞は為義のこめかみの辺りに太刀を近づけた。 

「廷尉殿、ひどい! おじさん、この人何したと思います? 私の遊女仲間を妊娠させて、責任逃れしたんですよ!」

「待って、桃ちゃん、そんなことしてないよ」

 指で耳の穴を塞ぎながら叫ぶ為義。

「嘘つくなよ、このチビハゲスケベ親父が!」

 桃は大きな足音を立てて、荒れ果てた源氏屋敷を出た。

「そんなぁ」

 為義は泣き叫ぶ。

「さて、為義殿。源太くんに謝りなさい。さもなくば、職場である検非違使に引き渡しますよ」

 家貞は刀の切っ先を、泣いている為義の前に突きつける。

 体をブルブルと震わせながら、為義は、

「ご、ごめんなさい」

 小さな声で謝った。

「こんなことを今度しましたら、例え院北面からの付き合いである私も許しませんからね。そこのところはよく覚えておくように」

 家貞はそう言い残して、為義の前を後にする。
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