私の戦う理由 ~帰ってきた英雄はお義兄様~

転落人

文字の大きさ
7 / 18

第6話 逃走

しおりを挟む
「ああっ!」
「きゃぁっ!」

 私は追突された衝撃に踏ん張りがきかずに倒れて、石畳みにサラを放り出してしまう。

 ――くっ、早く起き上がらないと…。

 急いで立ち上がろうとするが、疲れからか足が思うように動かない。
 ジタバタと、もがくように動くがうまく立ち上がれない

 私がもたついている間に――後ろからドムドムと奴の足音が聞こえてくる…悲鳴も一緒だ…。

 私は絶望感に苛まれていた。体が強張っていく。

 何か、何でもいいから考えなければ…。

 疲れた頭で考えを巡らせる。その時ふと気が付いた。
 追突された事により私達二人は道の端にいたのだと…。

 ――もしかしたら、見逃してくれるかも知れない!

 恐怖から後ろを振り向けなかったが、足音からあの黒い怪物が一体であろうと私は推測した。
 あの怪物達の生態は分からない…。だが、私達は道から外れた位置に倒れている…ならばわざわざ攻撃されるような事はないのでは…と思ったのだ。
 
 ――お願い…通り過ぎてっ…!!
 
 私は息を殺し、気配を出来るだけ消しながら祈った…。たとえ、この場をやり過ごしたとしても、きっと一緒に紛れ込んだ小型の魔物に遭遇したら、私達では一体ですら倒す事はできないだろう。それでもその可能性にかける他なかった。

 だが…その祈りは無情にも届くことはなかった。

 足音が私の…そう――真横で止まったのだ…。

 ――あぁぁ…な、んで…。

 なぜだ…他にも人がいるはずだ…。それなのに…。
 あまりの間の悪さに絶望する所か、泣きたくなってくる。

 「ぅ、くっ……。」

 見られて、いる…?

 そして恐怖で振り向く事が出来ないが、まるでこちらをじっと凝視されている…そんな気がした。

 ――まずいまずい…早く何か考えないと…。

 私は辺りに目線を向ける。
 だがこんな恐怖した状態では、何も思いつく事はなかった。

 せめて、娘だけでも…。

 ふと、サラと目が合った。
 そして、こちらを見て力なく笑ったように見えた。

 ――えっ?

 そう思ったのもつかの間、サラは――怪物をまるで睨みつけるようにして唸りだしたのだ。

 ――駄目っ! そんな事をしたら…!

 奴に睨まれているという事を理解する、そんな知能があるかは分からない…。だが危険なの事は確かだろう。

「ァ…ラッ…」

 名前を呼ぼうにも恐怖からか、うまく声にも出せなかった。

 すると、ふと体が軽くなった感覚があった。
 理由はすぐに分かった。私に向けられていた視線が――移ったのだ…サラに。

 あぁぁぁ!

 何とか…何とかならないのか…。考えを巡らせるがどうにもならない。
 そして怪物の足音が数歩分して私から遠ざかる。娘の方に近づいていったのだ…。

 私は無力だ…あの時と同じで結局は何も出来ずにただ見ているだけなのか…。
 こんなことなら…もっともっと優しくしてあげれば…。
 私はまた失う事になるのか…。

 昔の嫌な記憶が呼び起こされる…。

 私は本当は力が欲しくはなかった。
 力を持つという事はその責を果たさなければならないからだ…。
 そんな責任は負いたくはなかった。
 だが、今は守るために何でもいい――力が欲しかった。

 私の目の前で怪物がサラに手を伸ばしていく。

 ――やめてっ!!

 そして直後――破裂音がした。

「――へっ?」

 私はそんな間抜けな声を出してしまった。
 それは目にした光景が想像と違ったからだ。

 娘の目の前にいた黒い怪物は、またたいた瞬間に地に伏しており拉げていた。
 私は何があったのか一瞬過ぎて理解が追い付かなかった。

 そしてその上には――全身金色の兜と鎧に身に包んだ人物が立っていた。

 ――あの人はあの時と同じ…。

 それは、十年前の厄災に見たのと同じ…変わらぬ姿だった。

 ふと気が付くと、すでに彼の姿は見当たらなかった。
 首を動かし辺りを見渡してみると、すでに他の魔物の元へ向かい交戦しているようだった。

「……お、おい、今のってまさか『金色こんじきの英雄』か?」
「元・五英雄の? 確か十年前に引退してなかったか?」

 すると、近くの路地に隠れていたのであろう人物達が顔を覗かせて、こそこそと彼の方を見て話をしていた。

「なんで今更になって……」
「……どうでもいいだろ、助かったし」
「それも、そうだな…」

 ――そうか、私達は…助かった、のか…?

 助かった…それをようやく理解した瞬間どっと疲れが押し寄せてきて、私は急に眠くなってきた。

「――っ! ママッ!?」

 娘の声が聞こえてくる。サラも無事だったのだ、本当によかった…。

「――しっかりして! ママッ!」

 サラの心配する声を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じ眠りについた。


 ≪己が信条ポリシー:『いとしき者の為に』が発現しました≫
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...