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第7話 夢うつつ
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――私は夢を見ていた。
十年前のあの日の夢だ…。
私とトマスはあの日、不運にも『黒の厄災』の被害を受けたあの街の一角にちょうど居たのだ。
そして――逃げ遅れたのだ…。
そんな街の中で私達は、隙間の空いている瓦礫の中に隠れて、震えながら二人で身を寄せ合っていた。
当時、私は今と同じような酒場で住み込みで働いており、トマスはその街の兵士で衛兵だった。
トマスは私に気があったようだが、私にとってはトマスはよく店に来る顔見知り程度の存在でしかなかった。
そしてこの時点では、彼が貴族である事は分からなかった。
兵士は名目上志願制ではあるが、主に貴族かそれに連なる家系か、能力が高い人間しか採用されなかった。
だが、彼の胸には”十殺”の証明章が取り付けられていた。この証明章は単にその人物を称する意味があるのではなく、”十殺”からは平民でも強制的に兵役義務が存在していた。そのためにこの国では平民の場合は着用義務があったからだ。
後に分かった事だが、トマスはこのままいけば”十殺”の上である”百殺”にも届くとまで言われた、強力な技能を授かっていたしい。あまり例はないが、”百殺”になると自動的に貴族にもなるという。
かといって貴族であろうとなかろうと、私はそもそも色恋沙汰自体に興味があまりなかった。
技能のない人間など、遊び相手ならともかく結婚相手には選ばれないというのもあったが、単純に興味がなかったのだ。
だから私もそういった事はするつもりもなかったのだが…この時だけは違った…。
『メアさん…』
『トマス…さん…』
私達二人は恐怖から、お互いを抱きしめあうぐらいしか出来なかった。
ここまで逃げるのに多くの者を失ってしまった。皆いなくなってしまった。
この時、傍にいてくれるなら誰でもよかったのかも知れない。
私は――いや私達は、とても心細かったのだと思う。
トマスは優秀な戦士であった…。だが、厄災相手ではどうにもならなかったのだ。
彼は”持つ者”であったが、この時だけは私と同じ”持たざる者”だった…。
そう考えると逆に少し気持ちが落ち着いた。
――だって仕方がないじゃない…。
この時の私は言い訳をしていた。だが、本当は仕方がなくなどなかったのだ。
”持つ者”だとか”持たざる者”だとか関係はなかった。
私達はただ怖かったから逃げだしたようなものだった。
『――ッ!』
突如トマスの息を吞む声が聞こえる。
私の背後からドタドタと魔物達の群れが近づいてくる音が聞こえてくる。
私達は息を殺してそれらが通り過ぎるのを待った。
『はぁっ…』
通り過ぎたのを確認してトマスは息を漏らすが、それも束の間だった。
ドムドムと奴の足音が聞こえるのだ…。
『うぅ…あぁ…』
トマスが震えながら声をあげ私に抱き着く、私もそれに応じ抱き返す。
あの日あの時、私達は恐怖に打ちひしがれていた。
そして、ふと奴の足音が止まり……こちらと目が――
――そこで私は夢から目覚めた。
「はっ…ここは…?」
悪い夢から目を覚ますと、見たことのない広い建物の中だった。
きっと集会所か何かだろうか? 辺りを見回すと疎らではあるがそれなりな人数が避難しているようで、寝ている人達も見えた。
そして、私の脇には寄り添うようにサラが寝ていた。
私はそんなサラの頭を無意識的に撫でる。
「――ぅん…? …ママッ!」
目が覚めたサラが私に抱き着いてくる。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、それよりママは大丈夫?」
「ええと…平気よ」
体を動かしてみたが、少し疲れているぐらいで問題は特になかった。
それにしても、あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか…。
サラの話によるとここは先ほどの近くにあった集会所らしく、自分で運べないので近くにいた大人に頼んで運び込んでもらったらしい。
「サラの方は大丈夫?」
「うん! この通り!」
サラは元気いっぱいに腕でポージングを取る。
「それでね! それでね!!」
「分かったから落ち着いて」
サラは私が倒れてからあった事を、嬉しそうに事細かに説明していく。
私はサラの元気な姿を見て少しほっとした。
気分が落ち込んだ時、いつも娘の笑顔に助けられた事を思い出す。
本当に無事でよかった…と思う。
「それでね!」
「はいはい」
私はサラの報告に軽く対応していたが…突如サラはキョロキョロと辺りを窺がい小声でこう言ったのだ。
「わたし…技能に目覚めたみたいなの!」
「……技能?」
「えっとね…ほらっ!」
私は唖然とした…。サラの指先からキラキラと輝く…黄みがかった橙色の火が出ていたからだ。
これはきっと火の魔術ではないだろう…技能だ…。
そもそもサラは魔術を学んだことがないはずだ。
「あの人と同じ色だよ!」
サラはニコニコと嬉しそうにそう言う。
あの人…とは恐らく、私達を助けてくれた彼の事だろうか。
「えっと…」
「えへへ…これでママを守れるね!」
――えっ……?
私が言葉に詰まっていると、サラはそんな事を言い出した。
「サラ…?」
「あっ、忘れてた! ちょっと待っててご飯の配給もらってくるから!」
サラはそれだけ一方的に言うと、パタパタと入口の方に走り去ってしまった。
――私を守るってどういう事…?
私はその意味がすぐには理解できずに、サラが走っていった先を見つめていた。
十年前のあの日の夢だ…。
私とトマスはあの日、不運にも『黒の厄災』の被害を受けたあの街の一角にちょうど居たのだ。
そして――逃げ遅れたのだ…。
そんな街の中で私達は、隙間の空いている瓦礫の中に隠れて、震えながら二人で身を寄せ合っていた。
当時、私は今と同じような酒場で住み込みで働いており、トマスはその街の兵士で衛兵だった。
トマスは私に気があったようだが、私にとってはトマスはよく店に来る顔見知り程度の存在でしかなかった。
そしてこの時点では、彼が貴族である事は分からなかった。
兵士は名目上志願制ではあるが、主に貴族かそれに連なる家系か、能力が高い人間しか採用されなかった。
だが、彼の胸には”十殺”の証明章が取り付けられていた。この証明章は単にその人物を称する意味があるのではなく、”十殺”からは平民でも強制的に兵役義務が存在していた。そのためにこの国では平民の場合は着用義務があったからだ。
後に分かった事だが、トマスはこのままいけば”十殺”の上である”百殺”にも届くとまで言われた、強力な技能を授かっていたしい。あまり例はないが、”百殺”になると自動的に貴族にもなるという。
かといって貴族であろうとなかろうと、私はそもそも色恋沙汰自体に興味があまりなかった。
技能のない人間など、遊び相手ならともかく結婚相手には選ばれないというのもあったが、単純に興味がなかったのだ。
だから私もそういった事はするつもりもなかったのだが…この時だけは違った…。
『メアさん…』
『トマス…さん…』
私達二人は恐怖から、お互いを抱きしめあうぐらいしか出来なかった。
ここまで逃げるのに多くの者を失ってしまった。皆いなくなってしまった。
この時、傍にいてくれるなら誰でもよかったのかも知れない。
私は――いや私達は、とても心細かったのだと思う。
トマスは優秀な戦士であった…。だが、厄災相手ではどうにもならなかったのだ。
彼は”持つ者”であったが、この時だけは私と同じ”持たざる者”だった…。
そう考えると逆に少し気持ちが落ち着いた。
――だって仕方がないじゃない…。
この時の私は言い訳をしていた。だが、本当は仕方がなくなどなかったのだ。
”持つ者”だとか”持たざる者”だとか関係はなかった。
私達はただ怖かったから逃げだしたようなものだった。
『――ッ!』
突如トマスの息を吞む声が聞こえる。
私の背後からドタドタと魔物達の群れが近づいてくる音が聞こえてくる。
私達は息を殺してそれらが通り過ぎるのを待った。
『はぁっ…』
通り過ぎたのを確認してトマスは息を漏らすが、それも束の間だった。
ドムドムと奴の足音が聞こえるのだ…。
『うぅ…あぁ…』
トマスが震えながら声をあげ私に抱き着く、私もそれに応じ抱き返す。
あの日あの時、私達は恐怖に打ちひしがれていた。
そして、ふと奴の足音が止まり……こちらと目が――
――そこで私は夢から目覚めた。
「はっ…ここは…?」
悪い夢から目を覚ますと、見たことのない広い建物の中だった。
きっと集会所か何かだろうか? 辺りを見回すと疎らではあるがそれなりな人数が避難しているようで、寝ている人達も見えた。
そして、私の脇には寄り添うようにサラが寝ていた。
私はそんなサラの頭を無意識的に撫でる。
「――ぅん…? …ママッ!」
目が覚めたサラが私に抱き着いてくる。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、それよりママは大丈夫?」
「ええと…平気よ」
体を動かしてみたが、少し疲れているぐらいで問題は特になかった。
それにしても、あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか…。
サラの話によるとここは先ほどの近くにあった集会所らしく、自分で運べないので近くにいた大人に頼んで運び込んでもらったらしい。
「サラの方は大丈夫?」
「うん! この通り!」
サラは元気いっぱいに腕でポージングを取る。
「それでね! それでね!!」
「分かったから落ち着いて」
サラは私が倒れてからあった事を、嬉しそうに事細かに説明していく。
私はサラの元気な姿を見て少しほっとした。
気分が落ち込んだ時、いつも娘の笑顔に助けられた事を思い出す。
本当に無事でよかった…と思う。
「それでね!」
「はいはい」
私はサラの報告に軽く対応していたが…突如サラはキョロキョロと辺りを窺がい小声でこう言ったのだ。
「わたし…技能に目覚めたみたいなの!」
「……技能?」
「えっとね…ほらっ!」
私は唖然とした…。サラの指先からキラキラと輝く…黄みがかった橙色の火が出ていたからだ。
これはきっと火の魔術ではないだろう…技能だ…。
そもそもサラは魔術を学んだことがないはずだ。
「あの人と同じ色だよ!」
サラはニコニコと嬉しそうにそう言う。
あの人…とは恐らく、私達を助けてくれた彼の事だろうか。
「えっと…」
「えへへ…これでママを守れるね!」
――えっ……?
私が言葉に詰まっていると、サラはそんな事を言い出した。
「サラ…?」
「あっ、忘れてた! ちょっと待っててご飯の配給もらってくるから!」
サラはそれだけ一方的に言うと、パタパタと入口の方に走り去ってしまった。
――私を守るってどういう事…?
私はその意味がすぐには理解できずに、サラが走っていった先を見つめていた。
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