私の戦う理由 ~帰ってきた英雄はお義兄様~

転落人

文字の大きさ
18 / 18

第17話 優しさと

しおりを挟む
 ――私の宝石…? 一体何の話だろうか。

「あーっ、いや今度の式に身につける装飾品を作っててね…」
「……ごめんなさい」
「いや、いいんだよ。どうせすぐに分かる事だからね…」

 しょんぼりとするサラを、お義兄様は優しく撫でていた。
 恐らくはサプライズで作っていたのだろう。

「えっと…お義兄様が自らお作りに?」

 疑問に思った事がある。なんで手作りなのだろうか…。
 お金がないというわけではないと思うのだが…。

「……趣味みたいな物でね、迷惑だったかな」
「い、いえそういうわけでは…」
「そう、よかった」

 意外な趣味…というより、まず体を労わった方がよいのではないかと思ってします。彼はあまり起きられないはずなのだ。

「――いいなぁ…」

 無難な対応をしていると、サラは突然そんな小言を漏らした。

「ちゃんとサラちゃんの分もあるよ」
「…え? ほんと!?」

 その言葉に嬉しそうな声を上げる。
 式は私達が上げるが、娘も参列する事になるから用意してくれるようだ。

「サラちゃんは好きな宝石はあるかい?」
「えっ!? うーんとね、これとこれとこれ! それに…」
「ちょ、ちょっとサラ!」

 あまりに無遠慮なサラに私は声を上げるが…。

「ハハ…あまりつけすぎると趣味が悪くなっちゃうよ」
「ええ~?」
「……」

 なんとも言えない二人の空間に、自分だけ場違いな感覚を覚える。

「せっかくだしメアにも意見を聞いておきたいな。何か好きな宝石はあるかい?」

 そう言われて、再び机に目向ける。
 先ほどは一瞬だったが、よく見るとどれも高価そうだ。
 だが私には宝石の良し悪しが、まったくと言っていいほど分からなかった。
 女性は宝石好きなどと言われているが、そこまで興味がなかったのもある。

「え、えーっと」

 お義兄様だけではなくサラもこちらをチラチラと期待したような目で見ている。
 適当に選ぼうかと思ったが、そうもいかないかもしれない。

「その、お義兄様が選んでくださる物なら…なんでも嬉しいですわ」

 そして――色々と考えた結果、無難な対応をした…。

「……そうかい?」

 はずだったのだが…何とも言えない空気になってしまった。

「むー! わたしもそれでいい! おじ様が選んでくれるので!」
「…? それでいいのかい?」
「うん!」

 どうした物かと思っていると、私に対抗するようにそんな事を言い出す。
 意図した結果ではないが、サラが遠慮する形になったからまあ良いかと思った。

「そうか…じゃあもう一つ作ってあげようかな。どれか一つ好きなのを選んでね」

 すると、そういってお義兄様はサラを即す。
 なんだろうか…甘やかしすぎではないかと思う。これでは娘のためにならないと、そのため止めに入ろうと思ったのだが――

 ――あら? あんな宝石あったかしら?

 気が付くと机の中央に、明らかにさっきなかった物が置かれていた。
 そしてそれは、どの宝石よりも煌びやかに見えた…。

「うーんと、うん…? えっと、これ??」

 サラも疑問に思ったようだがそれを選んでいた…。

「サラちゃんはお目が高いね」
「えっ? えへへ~」

 何という茶番だ…そんな事を思う。

「これはね、聖なる石って言ってね。持ち主を守ってくれるんだよ」
「へぇ~」
「……でもね、この宝石はね。悪い子の元からは去っちゃうんだよ」
「へぇ~、えっ? 悪い子?」

 そんな宝石があるなんて話、聞いたことがないが…?

「サラちゃんは悪い子かな?」
「…えっ? ち、ちがうよ! 良い子だよ!」
「そうか…良かった…。それじゃあパパとママの言う事はちゃんと聞けるね?」
「うっ…うん。も、もちろんだよ…」

 サラは若干バツが悪そうに顔を背ける…。
 私はお義兄様が何をしようとしているかわかった。
 恐らく直接目にしてはいないが、サラとトマスの昨日の話をどこからか聞いたのだろう。

「それなら良かった。伯父さん頑張って作るからね」

 多分物で釣ろうと、そういう事なのだろう。
 しかし子供と言え、娘は九歳である…さすがにバレていると思うのだが…。

「えっ、うん…頑張ってね」
「サラちゃんも午後のレッスン頑張ってね」
「…うん。わたし頑張るよ!」

 恐らくはサラも気が付いているのだろうが、お義兄様の手前そうも言えないのだろう。

「では、おじ様。失礼いたします」

 それだけ言うとお辞儀をして、部屋ではなく次のレッスンの場所へ、直接向かったようだ。

「…こういうのは迷惑だったかな」
「い、いえ…助かりました…」

 サラが見えなくなってから、お義兄様は口を開く。
 正直ただでさえ微妙な親子間だったので、助かった部分はある。
 とはいえ、バレてはいたのでどこまで効果があるかは分からないが。

「それと…メアはこっちに座って」
「えっ…? なぜですか?」
「足が痛むのだろう? 見ていれば分かる、職業柄ね」

 どうやら私が足を痛めている事を見抜かれていたようだ。

「大した事はありませんので…」
「いいから…とりあえずこっちに」

 そう言って手を引かれて座らされてしまう。
 その時触れて思ったが、お義兄様の手の感触は戦士のように、ごつごつとした感触があまりなかった。

「じゃあ、少しじっとしてね」

 彼はそう言うと、私の足首に手を当てて光を発生させる。
 すると、ぽかぽかとして痛みが徐々に和らいでいく。恐らくは魔術の類だろう。

「治療は魔術じゃできないからね。痛みの緩和だけさせてもらったよ」
「わざわざありがとうございます…。ですが、魔術まで使っていただかなくても…」
「これぐらいは大した事はないよ。魔術ってのはこういった生活基盤を支えるためにあるからね」

 お義兄様は何ともないようにそう言うが、彼の額にはうっすらと汗をかいているのが見えた。
 私は彼の病状を知っているのだ…。
 恐らく無理をしているのだろう。それなのに…。

「――ですが…」
「これで、メアも午後のレッスンは頑張れそうかい?」
「……はい、ありがとうございます」

 食い下がろうとしたが、そう被せられて言い返せなくなってしまう。

「それじゃあ気を付けてね」
「…はい、それでは、私も失礼いたします…」

 そして私は追い返されるように部屋を後にし、次のレッスンが行われる部屋へと向かう事にした。

 その道中で私は色々と考えていた。
 彼はなぜここまで、優しくあろうとするのだろうか…。私には理解できなかった。
 家族だから…と言えばそれまでなのかも知れないが、それにしても異常な気がする。だが――

 ――とりあえず今、出来る事をしましょう。

 なぜだか、前向きになれた。自分も頑張ろうとそう思えたのだ。
 それは魔術のせいなのかは分からないが、来た時と違い足取りを軽く感じた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...