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【5】森の中にいたモノ
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俺がいなくなったのを気づかれる前に、少しでも王都から離れておきたかった。そのため、手元のランプの光を頼りに深夜の森の中を一刻でも早く抜けられるように歩いていた。
「そういえば、このことは誰かに言ってあるのか?」
「ラベオン様が出ていかれることは誰にも言っておりませんし、私が付いていくので心配はないと手紙を書いておいたので大丈夫でしょう」
「……用意周到だねぇ」
「それほどでもありません」
アリシアはカバンを手に持っており、予め準備をしていたとしか考えられない。
そういう準備をして、隠し通路を上回る速度で先回りなんてどうやったんだろうか……。
「じゃあ、どうして俺が出ていくのに気が付いたんだ? 誰にも見られていなかったと思うんだけど」
「それは、乙女の秘密です」
「乙女の秘密ねぇ……」
「はい」
ジッとアリシアの顔を見つめるも、涼しい顔をしており何を考えているのかは分からない。
「恥ずかしいですよ。そんなに見つめられると」
そうは言うアリシアだが、まったく恥ずかしそうじゃない。常日頃から不思議な奴だと思ってはいたが、ここまでくると恐怖すら感じる。
いったい何を考えているのやら……。
そんなことを話しながら歩いていると、数m先の地面の上に何かがいるのが見えた。
「あれは……」
「子猫? ですかね」
近づいてみるとランプの光に照らされて子猫が倒れているのが見えた。あの暗闇の中、どうしてアリシアは子猫だと分かったのか謎だけども、慌てて子猫に駆け寄る。
「脈は……、ある。傷は……、ない。となると……」
「恐らくお腹が空いているのではないでしょうか。やせ細っていますし」
アリシアの言葉を聞きつつ、鑑定眼で子猫を見る。
〇―――――――――――――――――――――――〇
【名 前】猫
【能 力】力:1 坊:2 魔:1 速:1 運:10
【状 態】極度の空腹
〇―――――――――――――――――――――――〇
「だな。でも、ミルクなんて持って……」
「ありますよ。ミルク」
そう言ってアリシアは子猫を抱き寄せると、哺乳瓶に入っているミルクを子猫に飲ませ始めた。
「……何でミルクなんて持っているんだ?」
「もしかしたら必要になるかと思いまして」
あまりにも用意周到すぎるアリシアに驚きつつも、すごい勢いでミルクを飲む子猫を見てホッとする。
「すごいなぁ、この子猫……」
アリシアの顔を見て思わず息を飲んだ。子猫にミルクを上げているその顔は、今まで見たこと無いほどやさしい顔をしている。いや、表情自体はほとんど無表情なのだが、いつも見慣れた表情とはどこか違って見えた。
その表情に思わず見とれていると、
「どうしました? ラベオン様」
アリシアに話しかけられてハッとする。
「あ、いや、どう? 子猫の様子は」
「どうやら、よっぽどお腹が空いていたみたいで、いっぱいミルクを飲んだら眠ってしまいました」
再び鑑定眼で子猫の方を見る。
〇―――――――――――――――――――――――〇
【名 前】猫
【能 力】力:3 坊:3 魔:1 速:5 運:10
【状 態】睡眠
〇―――――――――――――――――――――――〇
「……うん。どうやら元気になったみたいだね」
「それは良かったです」
「で、問題は……」
この子猫をどうするかだけど……。
「連れていきましょう」
アリシアは子猫を大事そうに抱きかかえており、意地でも離さないといった意思を感じられる。
「そうだなぁ……」
昔からそうなのだが、アリシアは生き物が好きなようで城下町に行った際によく触れようとしていた。ただ、何かを感じ取っているのか、アリシアが近づこうとするとほとんどの動物は逃げてしまって、俺が触れているのを恨めしそうに見ていたのを思い出される。
だからこそ、眠っているとはいえアリシアに抱きかかえられて逃げ出さないこの子猫には驚いた。
「……まぁ、1匹ぐらいなら良いか」
「では!!」
「うん。このまま置いていって死なれたりしたら目覚めも悪いし、それに何より……」
指先で子猫の顔を優しくなでると、ミャーと小さく鳴いた。
「可愛いしね。アリシアを見ても逃げ出さないみたいだし」
「ありがとうございます。ラベオン様。この子は私が大切に育てますので」
「おいおい、俺も関わらせてくれよ?」
そう言うと、アリシアは目を細める。
「……はい」
顔をしかめて、ものすごく嫌そうにしているアリシア。
「おい。なんだその間は」
「いえ、ラベオン様は動物に好かれやすいので、この子も取られると思うとラベオン様に近づけない方がいいかもしれないと思っただけです」
「何でだよ!! その子猫は俺とアリシア2人で育てること。いいね?」
「……分かりました」
よっぽどこの子猫が気に入ったんだな……。独り占めしたいってのがとても伝わってくる。
「まぁ、連れていくんだったら、名前を付けてあげないとな」
「名前ですか?」
「そりゃそうでしょ。猫って呼ぶのはあまりにも素っ気なさすぎるし」
「名前……。名前……」
アリシアが真剣に考えている中、少し離れたところの茂みが揺れる音がした。音的に風で揺れたって訳ではなさそうだった。明らかに何者かがいる。動物か魔物か、それとも人間か……。
「アリシア」
「私はこの子を抱いていますし、名前を考えるのに忙しいのでラベオン様お願いします」
「……分かったよ」
メイドなのにと思いつつも、音のした茂みの方を向いて剣を鞘から抜いて警戒する。ガサガサと茂みをかき分けて現れたのは、
「グギャギャ」
醜悪な顔で、獣のようにとがった牙と緑色の体、ギョロギョロと動く目が特徴的な魔物。
「ゴブリンか……。まぁ、これぐらいなら」
切っ先をゴブリンの方に向けて臨戦態勢を取った。
「そういえば、このことは誰かに言ってあるのか?」
「ラベオン様が出ていかれることは誰にも言っておりませんし、私が付いていくので心配はないと手紙を書いておいたので大丈夫でしょう」
「……用意周到だねぇ」
「それほどでもありません」
アリシアはカバンを手に持っており、予め準備をしていたとしか考えられない。
そういう準備をして、隠し通路を上回る速度で先回りなんてどうやったんだろうか……。
「じゃあ、どうして俺が出ていくのに気が付いたんだ? 誰にも見られていなかったと思うんだけど」
「それは、乙女の秘密です」
「乙女の秘密ねぇ……」
「はい」
ジッとアリシアの顔を見つめるも、涼しい顔をしており何を考えているのかは分からない。
「恥ずかしいですよ。そんなに見つめられると」
そうは言うアリシアだが、まったく恥ずかしそうじゃない。常日頃から不思議な奴だと思ってはいたが、ここまでくると恐怖すら感じる。
いったい何を考えているのやら……。
そんなことを話しながら歩いていると、数m先の地面の上に何かがいるのが見えた。
「あれは……」
「子猫? ですかね」
近づいてみるとランプの光に照らされて子猫が倒れているのが見えた。あの暗闇の中、どうしてアリシアは子猫だと分かったのか謎だけども、慌てて子猫に駆け寄る。
「脈は……、ある。傷は……、ない。となると……」
「恐らくお腹が空いているのではないでしょうか。やせ細っていますし」
アリシアの言葉を聞きつつ、鑑定眼で子猫を見る。
〇―――――――――――――――――――――――〇
【名 前】猫
【能 力】力:1 坊:2 魔:1 速:1 運:10
【状 態】極度の空腹
〇―――――――――――――――――――――――〇
「だな。でも、ミルクなんて持って……」
「ありますよ。ミルク」
そう言ってアリシアは子猫を抱き寄せると、哺乳瓶に入っているミルクを子猫に飲ませ始めた。
「……何でミルクなんて持っているんだ?」
「もしかしたら必要になるかと思いまして」
あまりにも用意周到すぎるアリシアに驚きつつも、すごい勢いでミルクを飲む子猫を見てホッとする。
「すごいなぁ、この子猫……」
アリシアの顔を見て思わず息を飲んだ。子猫にミルクを上げているその顔は、今まで見たこと無いほどやさしい顔をしている。いや、表情自体はほとんど無表情なのだが、いつも見慣れた表情とはどこか違って見えた。
その表情に思わず見とれていると、
「どうしました? ラベオン様」
アリシアに話しかけられてハッとする。
「あ、いや、どう? 子猫の様子は」
「どうやら、よっぽどお腹が空いていたみたいで、いっぱいミルクを飲んだら眠ってしまいました」
再び鑑定眼で子猫の方を見る。
〇―――――――――――――――――――――――〇
【名 前】猫
【能 力】力:3 坊:3 魔:1 速:5 運:10
【状 態】睡眠
〇―――――――――――――――――――――――〇
「……うん。どうやら元気になったみたいだね」
「それは良かったです」
「で、問題は……」
この子猫をどうするかだけど……。
「連れていきましょう」
アリシアは子猫を大事そうに抱きかかえており、意地でも離さないといった意思を感じられる。
「そうだなぁ……」
昔からそうなのだが、アリシアは生き物が好きなようで城下町に行った際によく触れようとしていた。ただ、何かを感じ取っているのか、アリシアが近づこうとするとほとんどの動物は逃げてしまって、俺が触れているのを恨めしそうに見ていたのを思い出される。
だからこそ、眠っているとはいえアリシアに抱きかかえられて逃げ出さないこの子猫には驚いた。
「……まぁ、1匹ぐらいなら良いか」
「では!!」
「うん。このまま置いていって死なれたりしたら目覚めも悪いし、それに何より……」
指先で子猫の顔を優しくなでると、ミャーと小さく鳴いた。
「可愛いしね。アリシアを見ても逃げ出さないみたいだし」
「ありがとうございます。ラベオン様。この子は私が大切に育てますので」
「おいおい、俺も関わらせてくれよ?」
そう言うと、アリシアは目を細める。
「……はい」
顔をしかめて、ものすごく嫌そうにしているアリシア。
「おい。なんだその間は」
「いえ、ラベオン様は動物に好かれやすいので、この子も取られると思うとラベオン様に近づけない方がいいかもしれないと思っただけです」
「何でだよ!! その子猫は俺とアリシア2人で育てること。いいね?」
「……分かりました」
よっぽどこの子猫が気に入ったんだな……。独り占めしたいってのがとても伝わってくる。
「まぁ、連れていくんだったら、名前を付けてあげないとな」
「名前ですか?」
「そりゃそうでしょ。猫って呼ぶのはあまりにも素っ気なさすぎるし」
「名前……。名前……」
アリシアが真剣に考えている中、少し離れたところの茂みが揺れる音がした。音的に風で揺れたって訳ではなさそうだった。明らかに何者かがいる。動物か魔物か、それとも人間か……。
「アリシア」
「私はこの子を抱いていますし、名前を考えるのに忙しいのでラベオン様お願いします」
「……分かったよ」
メイドなのにと思いつつも、音のした茂みの方を向いて剣を鞘から抜いて警戒する。ガサガサと茂みをかき分けて現れたのは、
「グギャギャ」
醜悪な顔で、獣のようにとがった牙と緑色の体、ギョロギョロと動く目が特徴的な魔物。
「ゴブリンか……。まぁ、これぐらいなら」
切っ先をゴブリンの方に向けて臨戦態勢を取った。
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