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第三章 いつも隣に
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それから宮前と三人で映画に行く約束をした。
目雲は午前中仕事だというので、暇な宮前とゆきはその日一緒にブランチがてらパンケーキを食べに来ていた。
「パンケーキ久しぶりです」
テラス席でオーダーを通してゆきはワクワク感を隠さない。
「俺店で食べるのは始めだな」
店でと限定する宮前にゆきは反応する。
「お家では作ったんですか?」
「流行ってる時に興味があってさ、一人で行列に並ぶほど食べたかったわけじゃないんだけど、あんまり見てると食べたくなるでしょ?」
ただのホットケーキになったけどと宮前は笑い飛ばした。
あまり料理をしない認識の宮前が家で作るほどの熱をゆきも思い出す。
「確かに一時期どこでもパンケーキ特集してましたね」
「ゆきちゃんはあの時食べた?」
ゆきは頷きつつ、友人に釣られて撮ったスマホの写真を探し始める。
「食べましたよ、メグとも他の友達とも。いろんなお店に行って、パンケーキはしごとかしました」
ゆきがスマホの画面を向かいに座る宮前に差し出す。
「この量を、はしご? あ、シェアしてか」
「いえ、ちゃんと一人ずつです、お店によっては味の種類が多いこともパンケーキの種類が複数ある事もあったので、ちゃんとそれぞれ違うのを頼んで食べました」
宮前は呆れを通り越して、不可思議ささえ滲ませた。
「調査でもしてたの?」
ゆきは笑って頷く。
「友達はそうでした、流行はしっかり乗っておかないといけないみたいな時期だったみたいです。私はただおいしくて楽しかっただけですけどね」
そう言っている間にドリンクが届き、宮前が想像しただけで胸焼けした体をホットコーヒーでリセットする。
「そういえばメグちゃんのあの部屋は無事売れた? 周弥はもう付き合いのある不動産屋に丸投げしてたけど、普通はいろいろ考えるでしょ?」
期間限定のフルーツジュースにストローを差していたゆきもタイムリーに最近愛美と話した内容だったので記憶に新しい。
「結局不動産屋さんと相談して、賃貸に出すことにしたそうです。だからまだ愛美の持ち物のままです。私はそれでちょっとほっとしました」
「そうなんだ、それはそれで良かったね。立地もかなりいいし、間取りも悪くないし、良い物件だもんね」
愛美が相当吟味を重ねて手に入れただけあって、その価値は下がるどころではないらしいと、ゆきにはまだ遠い存在の不動産事情を解説してもらっていた。
「未練が残るってメグは最初売る気しかなかったみたいなんですけど、良い不動屋さんが親身に話聞いてくれて気が変わったって言ってました」
「そういう運って大事だよね。」
ゆきも頷くと、宮前はまじまじとゆきを見ながら思ったことを呟いた。
「ゆきちゃんっていろんな友達がいるよね」
「そうですか?」
そんな実感のないゆきは宮前をただ見つめ返す。
「お酒送ってくれたり、パンケーキ巡りしたり、メグちゃんの撮影の手伝いとかもしてたんでしょ?」
ゆきは小さな手ぶりを付けてそこまで大げさではないと言う。
「手伝いまでではないですよ、メイクの練習付き合ったり、撮影してるの眺めてたり、一緒に買い物行ったり、特別なことは何もないです。今はマネージャーさんもいますしね」
「結構特別なことだと思うよ、少なくとも俺の周りでは聞いたことないし」
ストローを口に付けて、ゆきは少し考えた。
「うーん、言われてみれば私の友達は少しこだわりが強い人が多いかもしれないですね。それも子供の頃からなので、私がそういう人が好きなんだと思います。つい話を聞きたくなってしまって、みんな優しいので聞いたら色々と教えてくれるんです」
小学生の頃から読書魔だったが、本を調達するために校内や市内の図書館や書店までの道のりを頻繁に行き来していたゆきは意外に一人でいる知人に出会うことがよくあり、そういう時声を掛けられたり掛けたりして、親しくなった友人は多かった。
ゆきの思い浮かべる出会いを知らない宮前は自分の印象を伝える。
「ゆきちゃんは話し甲斐があるんだと思うよ」
「誰かが熱中してることって面白いに違いないと思うんです、だから聞かせてもらうだけで面白いんです」
ゆきの興味の広さとその抱き方に宮前の心は何故だか癒される。しっかりと聞き入ってはくれているのは分かるが、どこか現実感の無い雰囲気で受け取られているような、そんな掴みどころのない姿勢が、話す方の熱をどんどん上げる気さえする。
それにどんな話も一定以上の感情の振れ幅がない。特に下方にはほぼ振れず、代わりに上げる方には冷静な部分を残しつつも相手と同じテンションを示すから、楽しいことはより楽しく、深刻なことを引きずり込まずに話せるのだと、宮前は捉えていた。
話している間にパンケーキが到着して、きゃっきゃとわざと映えだ映えだと言いながら目雲に二人して別々に写真を送ってから、堪能した。
しっかり味わいつつ皿に視線を落したまま宮前はゆきに感心していた部分をさっきの続きだと教える。
「あとあれだよね、一緒に経験することを厭わないっていうか、なんでも楽しんでくれるよね」
軽く口解けの良いクリームを切ったパンケーキに乗せる見止めに、ゆきも同じようにしながら、僅かに笑いに気まずさが混じる。
あまり褒められるばかりではないと思っているからだ。
「好奇心が旺盛なんだと」
新し物好きでもないが見聞きしただけでは分からないことを実感する楽しさにゆきは抗えない。
「フットワークも軽いよね。ゆきちゃん一人でも色々できるんじゃない?」
意識したこともなく、そもそもの始まりは本を求めたところからだから、一人でない想定はゆきの感覚が薄い部分だった。
「一人でも……そうですね、言われてみれば一人でも結構どこへでも行きますね。好きそうな人がいたら誘いもしますけど」
「行動力もあるってすごいよね」
宮前の捉え方からするとすごく良いことばかりのようだと、自分の実像とかけ離れているような気がしてゆきはむず痒くなるばかりだ。
「日頃本ばっかり読んでるのでたまには外に出ないとと思ってるくらいですよ、そういうのを友達も分かってるので声かけてくれるんだと思うんです」
「分かってくれてるってのも凄いよね、俺マジ友達いないから」
どこか憂いが含まれていることをゆきはきちんと感じ取った。
ゆきは手を止めて宮前をじっと見つめた。
「友達付き合いも人それぞれですし、数も、私もそんなに多い方ではないと思いますが、宮前さんは友達たくさん欲しいんですか?」
「たくさんはいらないかな、周弥は手がかかるし、恋人もいるし。昔からその場にいる人間とは誰とでも気さくに話せるし。すごく必要としてるわけではないんだよ」
ゆきはこれまでの宮前の印象とその話が何の違和感もないと頷きながら聞いていた。
友達は無理に作るものでもないとゆきも思っているので、宮前の現状不満がない様子もよく分かったのだが、だからこそ宮前のどこか悲しげな様子が気にかかる。
そんなゆきの労わるような眼差しに宮前はどっちが年上か分からないと確信的に話していながらそれでも伝わらないでもいいと思いながらこそ汲み取られて心が疼く。違うところのストレスではないとはっきりさせるために宮前も手を止めきちんと説明する。
「たださ、なんか、俺から拒絶してるつもりがないから、こんなに友達出来ないのは俺に原因があるのかなとか思ってさ」
「原因ですか?」
思い至らないゆきが分からないというニュアンスを含めて尋ねると、宮前はコーヒーを手に少し眼差しを遠くに向けた。
「俺別に一人がすっごい好きって訳でもないし、誰かと騒ぐのだって好きだよ。もちろん一人でいろいろ行動できるし、必死で友達作るつもりもないけどさ、ただちょっと守りに入り過ぎてる気もしてるし」
「今ある人たちを大切にしてるのは良いことだと思いますよ」
宮前はゆきに微笑みかけた。
「ゆきちゃんだねー、俺の言いたいことをよく汲み取ってくれて。昔から臆病になってて最近は面倒くさくもあるってのは自分でも分かってるんだけどさ。親ともちゃんと計画的疎遠になってるし、新しい趣味が欲しいと思ってるわけでもないんだけどさ、なんとなくさ。ない物ねだりなんだろうけどね」
宮前も恋人と暮らすようになり、目雲に対する心配が減り、仕事も充実している現状に満足はしていた。
ただ自分だけがどこか取り残されているような、焦りのような不安感が少し芽吹き始めていた。
「宮前さんも次の進路を探してるんですね」
ゆきの言葉は宮前には無いもので、すぐには飲み込めなかった。
「進路?」
「今の生活に不満はなくても人間は向上心があるので、変化を求めるらしいです」
どこかで読んた話をゆきは思い出していた。
「それは向上心? 良く言ってくれてる?」
良いだけではないんですと、ゆきは続けた。
「ただ変化を嫌う生き物でもあって、だから一歩を踏み出すのってとても気合も体力もいることなんだそうです」
「難儀な生き物だな」
呆れを示す宮前にゆきも笑いながら頷いた。
「私もしっかりその習性を発揮していたんですが、たぶん外的要因が自ずとやってくるんだと思うんです。特に変わりたいと思い続けている人はその要因を見逃さないから自然と次に動き出せる気がします」
「ゆきちゃんはそうだった?」
自分を振り返ると変化を求める姿勢はなかったが、拒んでいるつもりもなかった。ただ現状維持をするというのは刺激がないからか時の流れは意外と早かった。それに近しい友人達が結婚をしたり仕事を変えたりと新鮮であったから、自分がそのままでも何もかも同じではなく、だからこそ不満もなかった。
「私は変わりたいとは思ってなかったんですけど、新しいことを楽しいと思うのは子供の頃からで、だから好奇心が切っ掛けですね。それが新しい出会いに導いてくれました」
外的要因はウェルカムな姿勢なおかげでゆきの人生は決して単調でもなかった。
「好奇心か」
宮前の深い頷きにゆきは自覚があるだけに自制していると付け足した。
「猫をも殺すなんて言われる奴ですから良し悪しだとは思いますけど」
ゆきが気を付けていると笑うと、宮前は軽く首を振った。
「大事だよ、俺にはほとんどないからよく分かる。俺も子供の頃からだから性分なんだろうな。だから好奇心のある人に惹かれるんだ。恋人もそうだし周弥もゆきちゃんもだね」
「宮前さんも子供の頃からなんですね」
その子供の頃の話をゆきにしたらどんな反応が返ってくるのか、その好奇心に宮前は従ってみることにした。
「環境もないとは言えないけどね。昔語りで面白い話でもないけど、聞いてくる?」
大人になるとわざわざ話すことでもなくなってきて、話す場面も相手もなくなってしまったことだったが、どこかで澱のように溜まっていて、時々吐き出したくなる瞬間があった。
辛いわけでも慰めてほしいわけでもないが、忘れることない出来事は昇華しきれてもいない。
「好奇心がある私に話しちゃっても大丈夫なら、もちろんです」
宮前は大きく微笑んで、つまんないけど話だけどと再度前置きをした。
「よくある話だよ」
「よくあるですか?」
ゆきには下手な予想はせず素直に聞き返した。
「本めっちゃ読むゆきちゃんには尚更じゃないかな。いじめられたんだよ、それも小学生の時と高校の時。それぞれ別の相手、別の理由でね」
「そうなんですか」
痛ましさにゆきの表情が曇る。
そこに妙な同情がないことを宮前は感じられるから続けられる。
「まあ小学生の時はさ、俺にも多少原因があったんだけど。ちょっとね、親がねネグレクト気味というか、それでいろいろ拗らせて、それはもう学校では酷い八方美人だったわけ。楽しくもないのに無駄に明るく振舞ったりさ、調子乗ってる風を装ったりね。やりすぎて逆に嫌われるわけさ、小学五年の冬だよ。家にも学校でも居場所がなくなったんだよね」
「つらいですね」
ゆきは思わずそう言われずには居れなかった。
「そう、マジで辛かった。そこで周弥が登場するわけだよ。そもそも俺は誰とも深い付き合いはしてなくて、家のことがバレるのが嫌だったからね。友達って言える相手が元からいなかったんだよ。周弥もその年たまたま一緒になっただけのクラスメイトで、ほとんど話したこともないくらいの関係。でも、偶然帰り道で会ったんだ。いじめられるようになって、家は親のどっちがいても、誰もいなくても地獄で帰るのが辛くてさ、着るものも用意されないからあるもの適当に着た薄着でフラフラ歩いてたんだ」
明るく話す宮前に、ゆきは何も言えず悲痛な表情で目を伏せる。
「ごめんな、こんな話でさ」
悲しみの籠る微笑みにゆきは視線を上げ首を振る。
「いえ、私のことより宮前さんが辛い思い出なら話さないでも良いんです」
宮前は置いていたフォークを手に取り、皿の中のフルーツを一つ刺した。口に含むでもなく、逆の手で肘を付き顎を乗せると、それを持ち上げ眺める。
「これは自分のためかも、今までさ、話すことなんかほとんどなかったんだ。今の恋人もそういう過去がある事は話してあるし軽くだけど内容も知ってるし、目雲と仲いい理由を説明するのに必要だったし。でもその時も軽い感じで茶化しながら話ちゃったんだよな、なんか気を使わせたくないとか幻滅されたくないとかいろいろ思いがあってさ。そんな奴じゃないってわかってんだけど」
「理解できます」
深く頷くゆきに、昔を思い出し宮前は笑った。
「周弥さ、公衆電話から児相に連絡したんだよ、俺の目の前で」
「すごいですね」
「俺さ、そこから引きずり出して殴ったんだよね、そしたら思いっきり殴り返されて、次は警察に電話された」
「えっ」
殴り合ったこともだが、目雲の行動力にゆきは驚いてしまった。
「虐待されてる子供いることと、そいつと殴り合ってるからって。学校と自分たちの名前言って、警察官が来るとかはなかったけど」
「凄い電話ですね」
「それでさ、もっかい児相に電話して、今度は警察にも連絡したって話して、後は学校にももちろん言うし、周弥の親にもとか、気が付いたら話がどんどん大きくなっていって、俺の状況はすごい勢いで変わり始めた。劇的ではなかったけど、それまでに比べればかなりの変化、少しずつ解決していく道に進み始めるんだよ。親は離婚して、父親が家に残って俺のこともそのまま置いてくれた。母親は別に男が居たから、連れて行かれてもまた同じような状況になるだろうって思ったし、だから養育費狙いで俺の事引き取ろうとしてる母親とは一緒に行きたくないって父親を説得して、最低限の金だけ貰えれば生活は自分でしっかりするからって」
「頑張ったんですね」
頷くゆきを見て宮前も笑顔で胸を張った。
「頑張ったよ、自分で選ばないと辛いままだからさ。周弥と話せたのも大きかった。あちこち電話された後、俺は周弥にガチギレするんだけど、周弥にその状況のままでいたいなら勝手にしろって言われた。自分は義務を果たしただけで、お前の選択に口出すつもりはないってさ。いじめられてるのも、クラスの一部の奴等だけだったしあからさまでもなくて期間もまだそれほど長くなかったし、マジで知らなかったらしい。いじめられた状況のままでいることをバカにされたよ、逃げるでもやり返すでも、誰かの手を借りるでも方法はいくらでもあるだろうって」
ゆきは困ったように目を細めた。
「目雲さん容赦ないです」
宮前は椅子の背もたれに体重を預けて、だよなーと笑った。
そして姿勢を戻して、フォークのフルーツを口に入れた。酸っぱさに少し顔を歪めて、その表情のままゆきに視線を向けた。
「それはさ、強い奴の言い分だって、恵まれた環境にいる奴だけが言えることだって、俺は猛烈に反発するんだけど、それさえあっさり切り捨てられた。だから好きにすればいいって、虐待を見つけたら電話するのは自分の義務だけど、いじめも告発するところまではしても解決するのは当事者の問題だってさ」
「はっきりしてますね」
ただその時の目雲が最後まで寄り添うべき立場だったかと言われると、ゆきにもしなければならないことだけとは言えなかった。
子供の目雲が冷たいわけではないと理解もした。
宮前も今はその目雲を否定するつもりはなかった。
「そうそう。その後さ、周弥の親父さんが迎えに来て、俺も一緒に家に連れて行ってくれて、ママさんと一緒に周弥が殴ったこととか謝ってくれて、飯食わせてくれたり、風呂とかも世話してくれて、泊まらせてくれたりさ。そこから俺は頻繁に周弥の家に遊びに行くようになって、それもあって引っ越しはしたくなかったんだよ。周弥がいろいろ電話してくれた次の日から学校行ったら先生たちに話聞かれて、警察にも児相にも電話したから有耶無耶にはできなかったみたいでさ。もし学校が無視するなら、教育委員会に電話してもいいし、問題を拡大化する方法を探せばいいだけだって、後で言ってたな。あと一時保護とか一瞬あったりね」
簡単なことは何一つなかっただろうと分かったが、ゆきはそれ以上深く聞くことはしなかった。
「何はともあれ好転したなら良かったです」
宮前も一つ頷いて、もう一つの方を話し始める。
「それで俺の唯一の友達になった周弥とその家族のお陰で俺は一応まともになっていくんだけど、高校はさ、周弥とは別の学校にしたんだ。周弥は夢が決まってたし頭もいいし、俺はさすがにそこまでは難しかったから自分に合ったところ選んだけど、そこでまたくだらない理由でいじめにあうわけ。これはもう相手のただの憂さ晴らしだったからさ、標的になったのは本当にただの運がなかったから。確かにちょっとは目立ってたよ、うまく立ち回れるスキルはもう身につけてたし、自分の容姿のポテンシャルもちゃんと生かしてたからね」
「もう今の宮前さんですね」
想像しやすい姿にゆきが頷くと、宮前も笑いながら肯定しつつそれが癪に障ったのだろうと当時の面倒くささが蘇った。
「そういうのが気に食わなかっただろうね。パーソナルなこと、一時保護の事とかいろいろね、指摘してきて、最初のうちは何言われても無視してたんだけど、そのうち教科書とか机とかに落書きされたり、あるあるな無駄な攻撃してきて。実害出たらさ、もうやること俺は知ってるわけじゃん?」
ゆきも頷く。
「そうですね、問題を解決する方法はたくさんありましたね」
「とりあえずいろいろ証拠集めして職員室でそれもって教師を脅して、対処しないなら直接報復に出るって、刑事事件にすることも匂わせたりしたら、高校の時のはネットにもいろいろ書かれたりしたからさ、それも証拠残してるって、裁判になったら教師に相談したことも含めて全部証言するってね」
「さすがです」
降り掛かった火の粉を払うのは簡単ではないから、逃げることも戦うことも、耐えざるを得ない時だってきっとあるだろうとゆきにも分かる。
だからこそ、宮前がこともなげに話すことにわざと軽く返しても、当時の辛さを窺い知る。
宮前もゆきが明るく返事をしてくれるからこそ、話を続けられた。
「お陰でそれ以上になることはなかったよ、ただねぇ、ノーダメージではないわけさ。やっぱりさ、小学生の頃と違って全く興味のない人間にされたからとはいえ、簡単に割り切れる程強靭なハートを持ってないからね。周弥に空元気でいること見透かされて、学校でのこと白状させられて、自分で対処できたこと褒められて、マジでただ救われた。無理せず落ち込めばいいし、愚痴ればいいってさ。自分を否定しない存在がいることってさ、それだけで強くなれるって実感するんだよ。だから俺は周弥の力になりたいってずっと思ってるってわけさ」
「固い友情なんですね」
ゆきがそう微笑むと宮前は嬉しそうに笑った。
目雲は午前中仕事だというので、暇な宮前とゆきはその日一緒にブランチがてらパンケーキを食べに来ていた。
「パンケーキ久しぶりです」
テラス席でオーダーを通してゆきはワクワク感を隠さない。
「俺店で食べるのは始めだな」
店でと限定する宮前にゆきは反応する。
「お家では作ったんですか?」
「流行ってる時に興味があってさ、一人で行列に並ぶほど食べたかったわけじゃないんだけど、あんまり見てると食べたくなるでしょ?」
ただのホットケーキになったけどと宮前は笑い飛ばした。
あまり料理をしない認識の宮前が家で作るほどの熱をゆきも思い出す。
「確かに一時期どこでもパンケーキ特集してましたね」
「ゆきちゃんはあの時食べた?」
ゆきは頷きつつ、友人に釣られて撮ったスマホの写真を探し始める。
「食べましたよ、メグとも他の友達とも。いろんなお店に行って、パンケーキはしごとかしました」
ゆきがスマホの画面を向かいに座る宮前に差し出す。
「この量を、はしご? あ、シェアしてか」
「いえ、ちゃんと一人ずつです、お店によっては味の種類が多いこともパンケーキの種類が複数ある事もあったので、ちゃんとそれぞれ違うのを頼んで食べました」
宮前は呆れを通り越して、不可思議ささえ滲ませた。
「調査でもしてたの?」
ゆきは笑って頷く。
「友達はそうでした、流行はしっかり乗っておかないといけないみたいな時期だったみたいです。私はただおいしくて楽しかっただけですけどね」
そう言っている間にドリンクが届き、宮前が想像しただけで胸焼けした体をホットコーヒーでリセットする。
「そういえばメグちゃんのあの部屋は無事売れた? 周弥はもう付き合いのある不動産屋に丸投げしてたけど、普通はいろいろ考えるでしょ?」
期間限定のフルーツジュースにストローを差していたゆきもタイムリーに最近愛美と話した内容だったので記憶に新しい。
「結局不動産屋さんと相談して、賃貸に出すことにしたそうです。だからまだ愛美の持ち物のままです。私はそれでちょっとほっとしました」
「そうなんだ、それはそれで良かったね。立地もかなりいいし、間取りも悪くないし、良い物件だもんね」
愛美が相当吟味を重ねて手に入れただけあって、その価値は下がるどころではないらしいと、ゆきにはまだ遠い存在の不動産事情を解説してもらっていた。
「未練が残るってメグは最初売る気しかなかったみたいなんですけど、良い不動屋さんが親身に話聞いてくれて気が変わったって言ってました」
「そういう運って大事だよね。」
ゆきも頷くと、宮前はまじまじとゆきを見ながら思ったことを呟いた。
「ゆきちゃんっていろんな友達がいるよね」
「そうですか?」
そんな実感のないゆきは宮前をただ見つめ返す。
「お酒送ってくれたり、パンケーキ巡りしたり、メグちゃんの撮影の手伝いとかもしてたんでしょ?」
ゆきは小さな手ぶりを付けてそこまで大げさではないと言う。
「手伝いまでではないですよ、メイクの練習付き合ったり、撮影してるの眺めてたり、一緒に買い物行ったり、特別なことは何もないです。今はマネージャーさんもいますしね」
「結構特別なことだと思うよ、少なくとも俺の周りでは聞いたことないし」
ストローを口に付けて、ゆきは少し考えた。
「うーん、言われてみれば私の友達は少しこだわりが強い人が多いかもしれないですね。それも子供の頃からなので、私がそういう人が好きなんだと思います。つい話を聞きたくなってしまって、みんな優しいので聞いたら色々と教えてくれるんです」
小学生の頃から読書魔だったが、本を調達するために校内や市内の図書館や書店までの道のりを頻繁に行き来していたゆきは意外に一人でいる知人に出会うことがよくあり、そういう時声を掛けられたり掛けたりして、親しくなった友人は多かった。
ゆきの思い浮かべる出会いを知らない宮前は自分の印象を伝える。
「ゆきちゃんは話し甲斐があるんだと思うよ」
「誰かが熱中してることって面白いに違いないと思うんです、だから聞かせてもらうだけで面白いんです」
ゆきの興味の広さとその抱き方に宮前の心は何故だか癒される。しっかりと聞き入ってはくれているのは分かるが、どこか現実感の無い雰囲気で受け取られているような、そんな掴みどころのない姿勢が、話す方の熱をどんどん上げる気さえする。
それにどんな話も一定以上の感情の振れ幅がない。特に下方にはほぼ振れず、代わりに上げる方には冷静な部分を残しつつも相手と同じテンションを示すから、楽しいことはより楽しく、深刻なことを引きずり込まずに話せるのだと、宮前は捉えていた。
話している間にパンケーキが到着して、きゃっきゃとわざと映えだ映えだと言いながら目雲に二人して別々に写真を送ってから、堪能した。
しっかり味わいつつ皿に視線を落したまま宮前はゆきに感心していた部分をさっきの続きだと教える。
「あとあれだよね、一緒に経験することを厭わないっていうか、なんでも楽しんでくれるよね」
軽く口解けの良いクリームを切ったパンケーキに乗せる見止めに、ゆきも同じようにしながら、僅かに笑いに気まずさが混じる。
あまり褒められるばかりではないと思っているからだ。
「好奇心が旺盛なんだと」
新し物好きでもないが見聞きしただけでは分からないことを実感する楽しさにゆきは抗えない。
「フットワークも軽いよね。ゆきちゃん一人でも色々できるんじゃない?」
意識したこともなく、そもそもの始まりは本を求めたところからだから、一人でない想定はゆきの感覚が薄い部分だった。
「一人でも……そうですね、言われてみれば一人でも結構どこへでも行きますね。好きそうな人がいたら誘いもしますけど」
「行動力もあるってすごいよね」
宮前の捉え方からするとすごく良いことばかりのようだと、自分の実像とかけ離れているような気がしてゆきはむず痒くなるばかりだ。
「日頃本ばっかり読んでるのでたまには外に出ないとと思ってるくらいですよ、そういうのを友達も分かってるので声かけてくれるんだと思うんです」
「分かってくれてるってのも凄いよね、俺マジ友達いないから」
どこか憂いが含まれていることをゆきはきちんと感じ取った。
ゆきは手を止めて宮前をじっと見つめた。
「友達付き合いも人それぞれですし、数も、私もそんなに多い方ではないと思いますが、宮前さんは友達たくさん欲しいんですか?」
「たくさんはいらないかな、周弥は手がかかるし、恋人もいるし。昔からその場にいる人間とは誰とでも気さくに話せるし。すごく必要としてるわけではないんだよ」
ゆきはこれまでの宮前の印象とその話が何の違和感もないと頷きながら聞いていた。
友達は無理に作るものでもないとゆきも思っているので、宮前の現状不満がない様子もよく分かったのだが、だからこそ宮前のどこか悲しげな様子が気にかかる。
そんなゆきの労わるような眼差しに宮前はどっちが年上か分からないと確信的に話していながらそれでも伝わらないでもいいと思いながらこそ汲み取られて心が疼く。違うところのストレスではないとはっきりさせるために宮前も手を止めきちんと説明する。
「たださ、なんか、俺から拒絶してるつもりがないから、こんなに友達出来ないのは俺に原因があるのかなとか思ってさ」
「原因ですか?」
思い至らないゆきが分からないというニュアンスを含めて尋ねると、宮前はコーヒーを手に少し眼差しを遠くに向けた。
「俺別に一人がすっごい好きって訳でもないし、誰かと騒ぐのだって好きだよ。もちろん一人でいろいろ行動できるし、必死で友達作るつもりもないけどさ、ただちょっと守りに入り過ぎてる気もしてるし」
「今ある人たちを大切にしてるのは良いことだと思いますよ」
宮前はゆきに微笑みかけた。
「ゆきちゃんだねー、俺の言いたいことをよく汲み取ってくれて。昔から臆病になってて最近は面倒くさくもあるってのは自分でも分かってるんだけどさ。親ともちゃんと計画的疎遠になってるし、新しい趣味が欲しいと思ってるわけでもないんだけどさ、なんとなくさ。ない物ねだりなんだろうけどね」
宮前も恋人と暮らすようになり、目雲に対する心配が減り、仕事も充実している現状に満足はしていた。
ただ自分だけがどこか取り残されているような、焦りのような不安感が少し芽吹き始めていた。
「宮前さんも次の進路を探してるんですね」
ゆきの言葉は宮前には無いもので、すぐには飲み込めなかった。
「進路?」
「今の生活に不満はなくても人間は向上心があるので、変化を求めるらしいです」
どこかで読んた話をゆきは思い出していた。
「それは向上心? 良く言ってくれてる?」
良いだけではないんですと、ゆきは続けた。
「ただ変化を嫌う生き物でもあって、だから一歩を踏み出すのってとても気合も体力もいることなんだそうです」
「難儀な生き物だな」
呆れを示す宮前にゆきも笑いながら頷いた。
「私もしっかりその習性を発揮していたんですが、たぶん外的要因が自ずとやってくるんだと思うんです。特に変わりたいと思い続けている人はその要因を見逃さないから自然と次に動き出せる気がします」
「ゆきちゃんはそうだった?」
自分を振り返ると変化を求める姿勢はなかったが、拒んでいるつもりもなかった。ただ現状維持をするというのは刺激がないからか時の流れは意外と早かった。それに近しい友人達が結婚をしたり仕事を変えたりと新鮮であったから、自分がそのままでも何もかも同じではなく、だからこそ不満もなかった。
「私は変わりたいとは思ってなかったんですけど、新しいことを楽しいと思うのは子供の頃からで、だから好奇心が切っ掛けですね。それが新しい出会いに導いてくれました」
外的要因はウェルカムな姿勢なおかげでゆきの人生は決して単調でもなかった。
「好奇心か」
宮前の深い頷きにゆきは自覚があるだけに自制していると付け足した。
「猫をも殺すなんて言われる奴ですから良し悪しだとは思いますけど」
ゆきが気を付けていると笑うと、宮前は軽く首を振った。
「大事だよ、俺にはほとんどないからよく分かる。俺も子供の頃からだから性分なんだろうな。だから好奇心のある人に惹かれるんだ。恋人もそうだし周弥もゆきちゃんもだね」
「宮前さんも子供の頃からなんですね」
その子供の頃の話をゆきにしたらどんな反応が返ってくるのか、その好奇心に宮前は従ってみることにした。
「環境もないとは言えないけどね。昔語りで面白い話でもないけど、聞いてくる?」
大人になるとわざわざ話すことでもなくなってきて、話す場面も相手もなくなってしまったことだったが、どこかで澱のように溜まっていて、時々吐き出したくなる瞬間があった。
辛いわけでも慰めてほしいわけでもないが、忘れることない出来事は昇華しきれてもいない。
「好奇心がある私に話しちゃっても大丈夫なら、もちろんです」
宮前は大きく微笑んで、つまんないけど話だけどと再度前置きをした。
「よくある話だよ」
「よくあるですか?」
ゆきには下手な予想はせず素直に聞き返した。
「本めっちゃ読むゆきちゃんには尚更じゃないかな。いじめられたんだよ、それも小学生の時と高校の時。それぞれ別の相手、別の理由でね」
「そうなんですか」
痛ましさにゆきの表情が曇る。
そこに妙な同情がないことを宮前は感じられるから続けられる。
「まあ小学生の時はさ、俺にも多少原因があったんだけど。ちょっとね、親がねネグレクト気味というか、それでいろいろ拗らせて、それはもう学校では酷い八方美人だったわけ。楽しくもないのに無駄に明るく振舞ったりさ、調子乗ってる風を装ったりね。やりすぎて逆に嫌われるわけさ、小学五年の冬だよ。家にも学校でも居場所がなくなったんだよね」
「つらいですね」
ゆきは思わずそう言われずには居れなかった。
「そう、マジで辛かった。そこで周弥が登場するわけだよ。そもそも俺は誰とも深い付き合いはしてなくて、家のことがバレるのが嫌だったからね。友達って言える相手が元からいなかったんだよ。周弥もその年たまたま一緒になっただけのクラスメイトで、ほとんど話したこともないくらいの関係。でも、偶然帰り道で会ったんだ。いじめられるようになって、家は親のどっちがいても、誰もいなくても地獄で帰るのが辛くてさ、着るものも用意されないからあるもの適当に着た薄着でフラフラ歩いてたんだ」
明るく話す宮前に、ゆきは何も言えず悲痛な表情で目を伏せる。
「ごめんな、こんな話でさ」
悲しみの籠る微笑みにゆきは視線を上げ首を振る。
「いえ、私のことより宮前さんが辛い思い出なら話さないでも良いんです」
宮前は置いていたフォークを手に取り、皿の中のフルーツを一つ刺した。口に含むでもなく、逆の手で肘を付き顎を乗せると、それを持ち上げ眺める。
「これは自分のためかも、今までさ、話すことなんかほとんどなかったんだ。今の恋人もそういう過去がある事は話してあるし軽くだけど内容も知ってるし、目雲と仲いい理由を説明するのに必要だったし。でもその時も軽い感じで茶化しながら話ちゃったんだよな、なんか気を使わせたくないとか幻滅されたくないとかいろいろ思いがあってさ。そんな奴じゃないってわかってんだけど」
「理解できます」
深く頷くゆきに、昔を思い出し宮前は笑った。
「周弥さ、公衆電話から児相に連絡したんだよ、俺の目の前で」
「すごいですね」
「俺さ、そこから引きずり出して殴ったんだよね、そしたら思いっきり殴り返されて、次は警察に電話された」
「えっ」
殴り合ったこともだが、目雲の行動力にゆきは驚いてしまった。
「虐待されてる子供いることと、そいつと殴り合ってるからって。学校と自分たちの名前言って、警察官が来るとかはなかったけど」
「凄い電話ですね」
「それでさ、もっかい児相に電話して、今度は警察にも連絡したって話して、後は学校にももちろん言うし、周弥の親にもとか、気が付いたら話がどんどん大きくなっていって、俺の状況はすごい勢いで変わり始めた。劇的ではなかったけど、それまでに比べればかなりの変化、少しずつ解決していく道に進み始めるんだよ。親は離婚して、父親が家に残って俺のこともそのまま置いてくれた。母親は別に男が居たから、連れて行かれてもまた同じような状況になるだろうって思ったし、だから養育費狙いで俺の事引き取ろうとしてる母親とは一緒に行きたくないって父親を説得して、最低限の金だけ貰えれば生活は自分でしっかりするからって」
「頑張ったんですね」
頷くゆきを見て宮前も笑顔で胸を張った。
「頑張ったよ、自分で選ばないと辛いままだからさ。周弥と話せたのも大きかった。あちこち電話された後、俺は周弥にガチギレするんだけど、周弥にその状況のままでいたいなら勝手にしろって言われた。自分は義務を果たしただけで、お前の選択に口出すつもりはないってさ。いじめられてるのも、クラスの一部の奴等だけだったしあからさまでもなくて期間もまだそれほど長くなかったし、マジで知らなかったらしい。いじめられた状況のままでいることをバカにされたよ、逃げるでもやり返すでも、誰かの手を借りるでも方法はいくらでもあるだろうって」
ゆきは困ったように目を細めた。
「目雲さん容赦ないです」
宮前は椅子の背もたれに体重を預けて、だよなーと笑った。
そして姿勢を戻して、フォークのフルーツを口に入れた。酸っぱさに少し顔を歪めて、その表情のままゆきに視線を向けた。
「それはさ、強い奴の言い分だって、恵まれた環境にいる奴だけが言えることだって、俺は猛烈に反発するんだけど、それさえあっさり切り捨てられた。だから好きにすればいいって、虐待を見つけたら電話するのは自分の義務だけど、いじめも告発するところまではしても解決するのは当事者の問題だってさ」
「はっきりしてますね」
ただその時の目雲が最後まで寄り添うべき立場だったかと言われると、ゆきにもしなければならないことだけとは言えなかった。
子供の目雲が冷たいわけではないと理解もした。
宮前も今はその目雲を否定するつもりはなかった。
「そうそう。その後さ、周弥の親父さんが迎えに来て、俺も一緒に家に連れて行ってくれて、ママさんと一緒に周弥が殴ったこととか謝ってくれて、飯食わせてくれたり、風呂とかも世話してくれて、泊まらせてくれたりさ。そこから俺は頻繁に周弥の家に遊びに行くようになって、それもあって引っ越しはしたくなかったんだよ。周弥がいろいろ電話してくれた次の日から学校行ったら先生たちに話聞かれて、警察にも児相にも電話したから有耶無耶にはできなかったみたいでさ。もし学校が無視するなら、教育委員会に電話してもいいし、問題を拡大化する方法を探せばいいだけだって、後で言ってたな。あと一時保護とか一瞬あったりね」
簡単なことは何一つなかっただろうと分かったが、ゆきはそれ以上深く聞くことはしなかった。
「何はともあれ好転したなら良かったです」
宮前も一つ頷いて、もう一つの方を話し始める。
「それで俺の唯一の友達になった周弥とその家族のお陰で俺は一応まともになっていくんだけど、高校はさ、周弥とは別の学校にしたんだ。周弥は夢が決まってたし頭もいいし、俺はさすがにそこまでは難しかったから自分に合ったところ選んだけど、そこでまたくだらない理由でいじめにあうわけ。これはもう相手のただの憂さ晴らしだったからさ、標的になったのは本当にただの運がなかったから。確かにちょっとは目立ってたよ、うまく立ち回れるスキルはもう身につけてたし、自分の容姿のポテンシャルもちゃんと生かしてたからね」
「もう今の宮前さんですね」
想像しやすい姿にゆきが頷くと、宮前も笑いながら肯定しつつそれが癪に障ったのだろうと当時の面倒くささが蘇った。
「そういうのが気に食わなかっただろうね。パーソナルなこと、一時保護の事とかいろいろね、指摘してきて、最初のうちは何言われても無視してたんだけど、そのうち教科書とか机とかに落書きされたり、あるあるな無駄な攻撃してきて。実害出たらさ、もうやること俺は知ってるわけじゃん?」
ゆきも頷く。
「そうですね、問題を解決する方法はたくさんありましたね」
「とりあえずいろいろ証拠集めして職員室でそれもって教師を脅して、対処しないなら直接報復に出るって、刑事事件にすることも匂わせたりしたら、高校の時のはネットにもいろいろ書かれたりしたからさ、それも証拠残してるって、裁判になったら教師に相談したことも含めて全部証言するってね」
「さすがです」
降り掛かった火の粉を払うのは簡単ではないから、逃げることも戦うことも、耐えざるを得ない時だってきっとあるだろうとゆきにも分かる。
だからこそ、宮前がこともなげに話すことにわざと軽く返しても、当時の辛さを窺い知る。
宮前もゆきが明るく返事をしてくれるからこそ、話を続けられた。
「お陰でそれ以上になることはなかったよ、ただねぇ、ノーダメージではないわけさ。やっぱりさ、小学生の頃と違って全く興味のない人間にされたからとはいえ、簡単に割り切れる程強靭なハートを持ってないからね。周弥に空元気でいること見透かされて、学校でのこと白状させられて、自分で対処できたこと褒められて、マジでただ救われた。無理せず落ち込めばいいし、愚痴ればいいってさ。自分を否定しない存在がいることってさ、それだけで強くなれるって実感するんだよ。だから俺は周弥の力になりたいってずっと思ってるってわけさ」
「固い友情なんですね」
ゆきがそう微笑むと宮前は嬉しそうに笑った。
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