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第十八章 勿忘草
18-13 がんばる
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***
一週間後、かずまと面会が出来るようになった。
僕は早くお見舞いに行きたいとお母さんにせがみ、病院に連れて行ってもらった。
病院は人が沢山いるのに、雰囲気がひんやりとしてて少し怖い。正直、あまり長居したくない場所だ。
それはかずまも同じはずだ。大丈夫かな……。
「三〇三号室ね」
「早く行こ!」
「はいはい」
お母さんと手を繋ぎ、病室に向かう。
早く顔を見たくて、生きていることを確認したくて、足早になる。
かずまの病室は個室らしく、ネームプレートには一人分の名前しか無かった。
ドアを軽くノックして、静かにスライドさせる。
「かずまーっ、来たよー」
「……ん」
かずまは個室の中で、ポツンと一人ベッドの上で気怠げに横たわっていた。
こちらに視線を寄越すと、いつものように気の無い返事をする。
良かった。ちゃんと生きてる。
「調子はどう?」
「……ぼちぼち」
「寂しい?」
「……別に」
「僕は寂しいよ!」
「……そうか」
素っ気ない。かずまは通常運転だ。本当に安心した。
「お母さんは飲み物買ってくるわね。二人で良い子にしてるのよ?」
「はーい!」
「……ん」
お母さんは僕たちを見て、クスクスと笑いながら病室を出た。
「かずま、病院はどう?」
「……真っ昼間から幽霊がいて鬱陶しい」
かずまは迷惑そうに眉をひそめた。
「あー……そういえば何人かすれ違ったなぁ」
お爺さんやお婆さん、中年のおじさんも居たっけ。多分この病院で亡くなった人だと思うんだけど……。
だからこそ、ここは長居したくないのだ。
「口々に『お前もすぐだな』って……頭に来てあの世に送ってやったけど」
かずまは暗い笑顔でフフフと口を歪めた。僕はこんな顔も出来るんだなぁ……じゃない!
「ちょっ!? 何してんの!?」
幽霊たちも悪い冗談を言うのは良くないけど、かずまも無理しちゃいけない。
除霊は健康な人でもエネルギーを沢山使うんだから。
「かずま! 安静にしてなきゃ駄目でしょ!」
「あいつらの所為で安静に出来なかったんだよ」
かずまはムクれて布団を目の下まで深く被る。
大分回復してきたみたい。早く退院した方が、かずまの精神的にも良さそうだ。
「……ここは嫌いだ」
僕たちは生まれつき霊感が強い。
そのため、本来目に見えないものが、見えてしまう。幽霊とか、うちの神様とか、色々。
幽霊は何処にでもいるけど、病院はその性質上、特に多い。
かずまも普通の人間と同じように幽霊も見えてしまうから、気が滅入るだろう。
「じゃあ、早く良くなって退院しようね?」
「……ん、がんばる」
かずまは珍しく前向きな言葉を口にしたのだった。
********
じりじりと照りつく太陽。蝉はうるさく鳴き、汗ばんでしまうほど暑い。
時は流れ、八月になっていた。
僕とちさなは夏休みに突入し、頻繁に遊んでいる。
「ねー、かずまはまだかえってこないのー?」
ちさなは縁側で脚をぶらぶらと揺らしながら、ソーダアイスに噛りついた。
「うん、まだみたい。ちょっと風邪を引いたって……」
「えー!」
ちさなは可愛らしいアホ毛をくるくると回した。なんだあれ。
六月末に病院に運び込まれて一ヶ月半になる。
かずまは順調に回復して、今週には退院する予定だったけれど、風邪を引いてまた延期になった。
かずまにとっての『風邪』はとても危険なもので、病院で様子を見なければいけないらしい。
「もっとおはなしよんでほしかったなー」
「仕方ないよ。代わりに僕が読んであげよっか?」
「んー、いいや!」
「そっか!」
ちさなはかずまの朗読の方がお気に召しているらしい。ちょっとジェラシー。
「そうだ! おやまいこ!」
「お山?」
僕が聞き返すと、ちさなは小さな拳を空に突き上げた。
「ヘラクレスオオカブトを獲って日本の生態系維持を目指すと共にかずまへのおみやげしたいのー!」
「あれ? 何か変じゃなかった? あれあれ?」
ちさなの口から漢字が出てきた事にビックリしたし、何事もなかったかのようにケロッとしていることも、またビックリだ。
あと、ここら辺でヘラクレスオオカブトは獲れないと思う。
「よーし! こうなったらおやまにしゅっぱつだーっ!」
ちさなは小さな拳を振り上げて立ち上がる。
思い立ったら止まらない。トトトと駆け出して行ってしまった。僕も慌てて追いかけた。
*
「うー、つかれたー」
「わぁ早い」
ちさなは神社の鳥居の先で座り込んでいた。勢いはあるんだけど、持久力が無いんだね。
「はくら~、おんぶ~!」
「はいはい」
ちさなは短い手足をパタパタさせた。僕は仕方なくしゃがみ、ちさなに背中を差し出す。
背中に小さな身体が張り付き、細い腕が僕の肩に回されたのを確認すると、よいしょと立ち上がった。
ちさなは軽いから、歩くのも苦じゃなさそう。
「ぜんそくぜんしーん! よーそろー!」
「はいはい」
ちさな船長の指示に従い、僕は神社から伸びる長い階段を下り始めた。
ここは少し急だから慎重に行かないと。
「さいだいせんそくー!」
「無茶言わないでくださいっ」
僕はちさな船長の指示を無視し、ゆっくり一歩ずつ進んだ。ここで二人とも転げ落ちたら大変だから。
ちさなは背中でキャッキャッと楽しそうにしている。和んだ。
一週間後、かずまと面会が出来るようになった。
僕は早くお見舞いに行きたいとお母さんにせがみ、病院に連れて行ってもらった。
病院は人が沢山いるのに、雰囲気がひんやりとしてて少し怖い。正直、あまり長居したくない場所だ。
それはかずまも同じはずだ。大丈夫かな……。
「三〇三号室ね」
「早く行こ!」
「はいはい」
お母さんと手を繋ぎ、病室に向かう。
早く顔を見たくて、生きていることを確認したくて、足早になる。
かずまの病室は個室らしく、ネームプレートには一人分の名前しか無かった。
ドアを軽くノックして、静かにスライドさせる。
「かずまーっ、来たよー」
「……ん」
かずまは個室の中で、ポツンと一人ベッドの上で気怠げに横たわっていた。
こちらに視線を寄越すと、いつものように気の無い返事をする。
良かった。ちゃんと生きてる。
「調子はどう?」
「……ぼちぼち」
「寂しい?」
「……別に」
「僕は寂しいよ!」
「……そうか」
素っ気ない。かずまは通常運転だ。本当に安心した。
「お母さんは飲み物買ってくるわね。二人で良い子にしてるのよ?」
「はーい!」
「……ん」
お母さんは僕たちを見て、クスクスと笑いながら病室を出た。
「かずま、病院はどう?」
「……真っ昼間から幽霊がいて鬱陶しい」
かずまは迷惑そうに眉をひそめた。
「あー……そういえば何人かすれ違ったなぁ」
お爺さんやお婆さん、中年のおじさんも居たっけ。多分この病院で亡くなった人だと思うんだけど……。
だからこそ、ここは長居したくないのだ。
「口々に『お前もすぐだな』って……頭に来てあの世に送ってやったけど」
かずまは暗い笑顔でフフフと口を歪めた。僕はこんな顔も出来るんだなぁ……じゃない!
「ちょっ!? 何してんの!?」
幽霊たちも悪い冗談を言うのは良くないけど、かずまも無理しちゃいけない。
除霊は健康な人でもエネルギーを沢山使うんだから。
「かずま! 安静にしてなきゃ駄目でしょ!」
「あいつらの所為で安静に出来なかったんだよ」
かずまはムクれて布団を目の下まで深く被る。
大分回復してきたみたい。早く退院した方が、かずまの精神的にも良さそうだ。
「……ここは嫌いだ」
僕たちは生まれつき霊感が強い。
そのため、本来目に見えないものが、見えてしまう。幽霊とか、うちの神様とか、色々。
幽霊は何処にでもいるけど、病院はその性質上、特に多い。
かずまも普通の人間と同じように幽霊も見えてしまうから、気が滅入るだろう。
「じゃあ、早く良くなって退院しようね?」
「……ん、がんばる」
かずまは珍しく前向きな言葉を口にしたのだった。
********
じりじりと照りつく太陽。蝉はうるさく鳴き、汗ばんでしまうほど暑い。
時は流れ、八月になっていた。
僕とちさなは夏休みに突入し、頻繁に遊んでいる。
「ねー、かずまはまだかえってこないのー?」
ちさなは縁側で脚をぶらぶらと揺らしながら、ソーダアイスに噛りついた。
「うん、まだみたい。ちょっと風邪を引いたって……」
「えー!」
ちさなは可愛らしいアホ毛をくるくると回した。なんだあれ。
六月末に病院に運び込まれて一ヶ月半になる。
かずまは順調に回復して、今週には退院する予定だったけれど、風邪を引いてまた延期になった。
かずまにとっての『風邪』はとても危険なもので、病院で様子を見なければいけないらしい。
「もっとおはなしよんでほしかったなー」
「仕方ないよ。代わりに僕が読んであげよっか?」
「んー、いいや!」
「そっか!」
ちさなはかずまの朗読の方がお気に召しているらしい。ちょっとジェラシー。
「そうだ! おやまいこ!」
「お山?」
僕が聞き返すと、ちさなは小さな拳を空に突き上げた。
「ヘラクレスオオカブトを獲って日本の生態系維持を目指すと共にかずまへのおみやげしたいのー!」
「あれ? 何か変じゃなかった? あれあれ?」
ちさなの口から漢字が出てきた事にビックリしたし、何事もなかったかのようにケロッとしていることも、またビックリだ。
あと、ここら辺でヘラクレスオオカブトは獲れないと思う。
「よーし! こうなったらおやまにしゅっぱつだーっ!」
ちさなは小さな拳を振り上げて立ち上がる。
思い立ったら止まらない。トトトと駆け出して行ってしまった。僕も慌てて追いかけた。
*
「うー、つかれたー」
「わぁ早い」
ちさなは神社の鳥居の先で座り込んでいた。勢いはあるんだけど、持久力が無いんだね。
「はくら~、おんぶ~!」
「はいはい」
ちさなは短い手足をパタパタさせた。僕は仕方なくしゃがみ、ちさなに背中を差し出す。
背中に小さな身体が張り付き、細い腕が僕の肩に回されたのを確認すると、よいしょと立ち上がった。
ちさなは軽いから、歩くのも苦じゃなさそう。
「ぜんそくぜんしーん! よーそろー!」
「はいはい」
ちさな船長の指示に従い、僕は神社から伸びる長い階段を下り始めた。
ここは少し急だから慎重に行かないと。
「さいだいせんそくー!」
「無茶言わないでくださいっ」
僕はちさな船長の指示を無視し、ゆっくり一歩ずつ進んだ。ここで二人とも転げ落ちたら大変だから。
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