3 / 10
アルファー=ライヒスヴェルート
神札とアルファー 3
しおりを挟む
※いじめ描写があるので、苦手な方は飛ばしてください※
2015/05/04
2015年5月4日、月曜日の夜。
今日の夜空は晴天で、目が良ければ少しは星が見えるであろう天気だ。
そも、中津市は田舎であり都会であり、ハシブトガラスもハシボソガラスも共存している。
だからここを田舎と呼ぶか都会と呼ぶかは受け手に委ねられる。
少女アルファーの心は晴天ではなかった。昨日ほど雨は激しくはないが、
光はまだ見えてこない。それか、光が弱すぎてないに等しい、だから見えてもわからない。
どこまでも曇った空が続くのかと思った。
「パパー!!パパとおふろはいるー!!」
「はは、一樹は今日も元気だね」
曇った空に雷のような、それか炎の柱のようなものを落とされた。
義父の礼人(れいと)と甥にあたる一樹(かずき)が風呂に入るようだ。
一樹は今年で6歳になる。今はまだ5歳で、とても無邪気な時期だ。
―一樹はいいなあ、一緒にお風呂に入れて
私はどうだったかな、一人で入ってたかな・・・
血の繋がっていないということを後悔し始めた少女アルファー。
実際には少女アルファーの母と少女アルファーの義母は姉妹関係であり遠からじとも
血縁関係はある・・・ものの、ほぼ部外者扱いである。義母が妹で、母が姉。
もともと姉妹仲も悪かったらしく、未だに義母は母を「胡散臭いヤツ」と呼び蔑んでいる。
―血がつながっていたらよかったのに
もっと言えば、血が赤かったら良かったのに
目の色も同じでよかったのに
2010/4/12
「なんでオマエ目の色左右で違うの?キッモ」
「体が冷たいだけならまだしも、血の色まで違うなんて・・・」
「聞けばアイツ養子なんだってさ」
「どっかの尻軽女の子供でしょ?近寄りたくないわー」
少女アルファーはいじめにあっていた。
普通でないといけない、それが子供の関係では強い基準となる。
外見からして「普通ではなかった」、そんな少女アルファーは自然と
いじめの対象になり、仲間からも外されひとりぼっちだ。
今まではこんなことなかった。担任がしっかりしていて、体のことまで説明してくれた。
今年の担任は新人だった。右も左もわからない、若手の。
―どうして私はこんな体なの?どうしてお母さんはこんな体にしたの?
嫌だ、嫌だ、消え去りたい、せめて血の色ぐらいみんなと同じに・・・
時にはものを隠され、時には机にマジックペンで自分の体の「普通ではないところ」を面白おかしく
誇張されて落書きされて、ひどいときには誰にも見られないように石を蹴りつけることもあった。
少女アルファーは休み時間中トイレに籠った。しかし女子トイレですら安息の場ではない。
女子は男子よりも「集団」を重んじる傾向があり、「普通ではない」ものは集団に入れられず
遠巻きに罵倒される。遠巻きに蔑まれる。遠巻きにネタにされ笑われるのだ。
心になにかが詰まったようで、ふとした瞬間に死んでしまうのではないかと思ってしまい
恐ろしくて一歩も動けなかった。死のくだりはきっと願望だったであろう。
トイレに籠っていても、悲しくて、泣きたくて息が荒くなるけれども、
バレてしまうとドアを蹴られ「そこにいるんでしょ?用もないのに籠ってんじゃないよ」と
罵られる。そうともなると一旦出るしかない。それしか道はない。
だから泣きたくても泣かずに息を殺して、気配を殺して、心臓の音すら立てないように
警戒を張り続けた結果、ついにはノイローゼにかかり、気が付いた時には保健室にいた。
「相談したいことがあったらいつでも言ってね?誰にも言わない」
保健室の先生が優しく言うが、少女アルファーは誰も信じられなかった。
今まで生きてきて裏切られなかったことなんてなかった。裏切られてばかりの人生だった。
きっと上に言うんだ、そして黙認するんだ、あの子たちはチクったとさらにいじめる・・・
お義母さんになんて相談できない、きっと右目をえぐり取られる、そしてまたいじめが・・・
お義父さんにも相談できない、優しいお義父さんを困らせたりなんかできない・・・
―ましてや神札になんて相談できない
2010/6/7
嫌に晴れていた。梅雨も近いのに晴れていた。
少女アルファーは屋上にいた。授業を抜け出して来てしまった。
本来はいけないことで、即刻戻らなければならず、叱られるだろう。
しかしこれしか方法はなかった。これしか悩みを断ち切る方法はなかった。
『自殺』、自分の体と魂を引き離す行為、重く苦しく、羽のように軽い。
少女アルファーは柵を乗り越え、外側にある最後の砦のような足場に
そっと足を乗せ、下を見る。
恐ろしい高さだった。人間の身からすれば恐ろしい。
高さおよそ15m。頭から落ちれば死ぬことができる。
そっと足を伸ばしてみる。重力にまかせ下におろしてみる。
この時点ではまだ柵に手をかけている。まだ現世への未練があったのだ。
・・・ただ足だけ下ろして、下の景色を見る。
チャイムが鳴るまでこのままだった。まだ未練があったのだ。
「何があったの?和ちゃん」
後ろから声がした。その声を聞いて重たい足を引っ張り上げ、内側に戻る。
重い気持ちは隠した。声が、守ってくれるような気がした。
予想通りだった。自分を守ってくれそうな人だった。
クラスは別になったけれど、周りの体つきも変わってきたけど、それでも
入学式と、最初に会った時と、今で何も変わりのない、あの神札だった。
―みんなと同じじゃないとだめなの?均一品質じゃないとだめなの?
怒りだった。悲しみだった。すべての思いがこれらの言葉ににじみ出た。
声を押し殺して泣くことに、涙を流さずに悲しみを処理するのに慣れてしまって涙は出ない。
少女アルファーはうつむいて、「わかりっこないよね」とため息をついた。
その時だった。
一瞬何が起こっているのか分からなかった。
目を開けても何も見えなかった。息が少し苦しい。耳元で鼓動が聞こえる。
鼓動が聞こえたとき理解した。
神札に抱きしめられたのだ。
「わたしは和ちゃんの味方だよ、裏切ったりなんかしない。」
声が神札の臓物でくぐもって聞こえた。その音すら琴線を刺激し、
保健室の先生ですら開けることのできなかった、少女アルファーの心の扉を、
たった少しのスキンシップと、ほんの少しの言葉と、声で開けたのだ。
開いた心の扉からは涙が滝のように出てきた。押し殺してきた涙が。
少女アルファーは神札を気遣って、少し離れたところで泣き崩れようとするも、
神札はさらに強く抱きしめ、少女アルファーを決して離そうとしなかった。
しばらく経った。もう涙は流れ落ちない。
泣き疲れて神札の胸でうとうとし始める少女アルファー。現実は非情だ。
担任がここ、屋上まで嗅ぎ付けてきたのだ。
「国分和子さん!!授業を抜け出してはいけません!!祓所様は教室にお戻りください!!
国分さん、あなたは後で三者面談です」
この後、義母にこってりと叱られたことは言うまでもない。
義母にいじめの話が来なかったのは幸いだった。
この後一年間、少女アルファーはいじめを耐え続けた。
耐えに耐えて、たまに神札に泣きついて、どうにかやってこれた。
夏休みが近くもなると、「こいつつまらない」となって自然と離れていった。
それでもいじめてくる奴はいた。耐え続けた。
少女アルファーはいじめを続けるやつに軽蔑と哀れみの念を抱いた。
―こいつ、頼れる人がいないんだな
私にはいるけど かわいそうだなー
と。
2015/05/04
暗黒の小学4年生を抜けてからはわりと楽だった。
しかし抜けることができたのは自分一人の力ではなく、神札あってのこと。
―ああ、私はみっちゃん抜きだと何もできないんだろうな
悔し紛れに認めざるを得なかった。
血の色が左半身と右半身で違うことも、目の色が左右で違うのも、保護者と血縁がないこともどうでもいい。
ただ、神札抜きでは何もできない自分が嫌だった。
変わりたい。でも変われない。私はどうすればいいの。
また暗雲が立ち込める。
いつこの無間地獄から抜け出せるのだろうか?
少女アルファーはただ、神札の回復を願った。
それは自分への祈りでもあるだろう。神札への祈りとしての面は薄かったのかもしれない。
2015/05/04
2015年5月4日、月曜日の夜。
今日の夜空は晴天で、目が良ければ少しは星が見えるであろう天気だ。
そも、中津市は田舎であり都会であり、ハシブトガラスもハシボソガラスも共存している。
だからここを田舎と呼ぶか都会と呼ぶかは受け手に委ねられる。
少女アルファーの心は晴天ではなかった。昨日ほど雨は激しくはないが、
光はまだ見えてこない。それか、光が弱すぎてないに等しい、だから見えてもわからない。
どこまでも曇った空が続くのかと思った。
「パパー!!パパとおふろはいるー!!」
「はは、一樹は今日も元気だね」
曇った空に雷のような、それか炎の柱のようなものを落とされた。
義父の礼人(れいと)と甥にあたる一樹(かずき)が風呂に入るようだ。
一樹は今年で6歳になる。今はまだ5歳で、とても無邪気な時期だ。
―一樹はいいなあ、一緒にお風呂に入れて
私はどうだったかな、一人で入ってたかな・・・
血の繋がっていないということを後悔し始めた少女アルファー。
実際には少女アルファーの母と少女アルファーの義母は姉妹関係であり遠からじとも
血縁関係はある・・・ものの、ほぼ部外者扱いである。義母が妹で、母が姉。
もともと姉妹仲も悪かったらしく、未だに義母は母を「胡散臭いヤツ」と呼び蔑んでいる。
―血がつながっていたらよかったのに
もっと言えば、血が赤かったら良かったのに
目の色も同じでよかったのに
2010/4/12
「なんでオマエ目の色左右で違うの?キッモ」
「体が冷たいだけならまだしも、血の色まで違うなんて・・・」
「聞けばアイツ養子なんだってさ」
「どっかの尻軽女の子供でしょ?近寄りたくないわー」
少女アルファーはいじめにあっていた。
普通でないといけない、それが子供の関係では強い基準となる。
外見からして「普通ではなかった」、そんな少女アルファーは自然と
いじめの対象になり、仲間からも外されひとりぼっちだ。
今まではこんなことなかった。担任がしっかりしていて、体のことまで説明してくれた。
今年の担任は新人だった。右も左もわからない、若手の。
―どうして私はこんな体なの?どうしてお母さんはこんな体にしたの?
嫌だ、嫌だ、消え去りたい、せめて血の色ぐらいみんなと同じに・・・
時にはものを隠され、時には机にマジックペンで自分の体の「普通ではないところ」を面白おかしく
誇張されて落書きされて、ひどいときには誰にも見られないように石を蹴りつけることもあった。
少女アルファーは休み時間中トイレに籠った。しかし女子トイレですら安息の場ではない。
女子は男子よりも「集団」を重んじる傾向があり、「普通ではない」ものは集団に入れられず
遠巻きに罵倒される。遠巻きに蔑まれる。遠巻きにネタにされ笑われるのだ。
心になにかが詰まったようで、ふとした瞬間に死んでしまうのではないかと思ってしまい
恐ろしくて一歩も動けなかった。死のくだりはきっと願望だったであろう。
トイレに籠っていても、悲しくて、泣きたくて息が荒くなるけれども、
バレてしまうとドアを蹴られ「そこにいるんでしょ?用もないのに籠ってんじゃないよ」と
罵られる。そうともなると一旦出るしかない。それしか道はない。
だから泣きたくても泣かずに息を殺して、気配を殺して、心臓の音すら立てないように
警戒を張り続けた結果、ついにはノイローゼにかかり、気が付いた時には保健室にいた。
「相談したいことがあったらいつでも言ってね?誰にも言わない」
保健室の先生が優しく言うが、少女アルファーは誰も信じられなかった。
今まで生きてきて裏切られなかったことなんてなかった。裏切られてばかりの人生だった。
きっと上に言うんだ、そして黙認するんだ、あの子たちはチクったとさらにいじめる・・・
お義母さんになんて相談できない、きっと右目をえぐり取られる、そしてまたいじめが・・・
お義父さんにも相談できない、優しいお義父さんを困らせたりなんかできない・・・
―ましてや神札になんて相談できない
2010/6/7
嫌に晴れていた。梅雨も近いのに晴れていた。
少女アルファーは屋上にいた。授業を抜け出して来てしまった。
本来はいけないことで、即刻戻らなければならず、叱られるだろう。
しかしこれしか方法はなかった。これしか悩みを断ち切る方法はなかった。
『自殺』、自分の体と魂を引き離す行為、重く苦しく、羽のように軽い。
少女アルファーは柵を乗り越え、外側にある最後の砦のような足場に
そっと足を乗せ、下を見る。
恐ろしい高さだった。人間の身からすれば恐ろしい。
高さおよそ15m。頭から落ちれば死ぬことができる。
そっと足を伸ばしてみる。重力にまかせ下におろしてみる。
この時点ではまだ柵に手をかけている。まだ現世への未練があったのだ。
・・・ただ足だけ下ろして、下の景色を見る。
チャイムが鳴るまでこのままだった。まだ未練があったのだ。
「何があったの?和ちゃん」
後ろから声がした。その声を聞いて重たい足を引っ張り上げ、内側に戻る。
重い気持ちは隠した。声が、守ってくれるような気がした。
予想通りだった。自分を守ってくれそうな人だった。
クラスは別になったけれど、周りの体つきも変わってきたけど、それでも
入学式と、最初に会った時と、今で何も変わりのない、あの神札だった。
―みんなと同じじゃないとだめなの?均一品質じゃないとだめなの?
怒りだった。悲しみだった。すべての思いがこれらの言葉ににじみ出た。
声を押し殺して泣くことに、涙を流さずに悲しみを処理するのに慣れてしまって涙は出ない。
少女アルファーはうつむいて、「わかりっこないよね」とため息をついた。
その時だった。
一瞬何が起こっているのか分からなかった。
目を開けても何も見えなかった。息が少し苦しい。耳元で鼓動が聞こえる。
鼓動が聞こえたとき理解した。
神札に抱きしめられたのだ。
「わたしは和ちゃんの味方だよ、裏切ったりなんかしない。」
声が神札の臓物でくぐもって聞こえた。その音すら琴線を刺激し、
保健室の先生ですら開けることのできなかった、少女アルファーの心の扉を、
たった少しのスキンシップと、ほんの少しの言葉と、声で開けたのだ。
開いた心の扉からは涙が滝のように出てきた。押し殺してきた涙が。
少女アルファーは神札を気遣って、少し離れたところで泣き崩れようとするも、
神札はさらに強く抱きしめ、少女アルファーを決して離そうとしなかった。
しばらく経った。もう涙は流れ落ちない。
泣き疲れて神札の胸でうとうとし始める少女アルファー。現実は非情だ。
担任がここ、屋上まで嗅ぎ付けてきたのだ。
「国分和子さん!!授業を抜け出してはいけません!!祓所様は教室にお戻りください!!
国分さん、あなたは後で三者面談です」
この後、義母にこってりと叱られたことは言うまでもない。
義母にいじめの話が来なかったのは幸いだった。
この後一年間、少女アルファーはいじめを耐え続けた。
耐えに耐えて、たまに神札に泣きついて、どうにかやってこれた。
夏休みが近くもなると、「こいつつまらない」となって自然と離れていった。
それでもいじめてくる奴はいた。耐え続けた。
少女アルファーはいじめを続けるやつに軽蔑と哀れみの念を抱いた。
―こいつ、頼れる人がいないんだな
私にはいるけど かわいそうだなー
と。
2015/05/04
暗黒の小学4年生を抜けてからはわりと楽だった。
しかし抜けることができたのは自分一人の力ではなく、神札あってのこと。
―ああ、私はみっちゃん抜きだと何もできないんだろうな
悔し紛れに認めざるを得なかった。
血の色が左半身と右半身で違うことも、目の色が左右で違うのも、保護者と血縁がないこともどうでもいい。
ただ、神札抜きでは何もできない自分が嫌だった。
変わりたい。でも変われない。私はどうすればいいの。
また暗雲が立ち込める。
いつこの無間地獄から抜け出せるのだろうか?
少女アルファーはただ、神札の回復を願った。
それは自分への祈りでもあるだろう。神札への祈りとしての面は薄かったのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる