支配者は深淵の扉をこじ開ける

舞米

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27 【最低の褒美】

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(……僕の『趣味』の時間を、返せ)
僕は、やることがなくて「暇」だった。
「怠惰」は好きだが、「退屈」は、僕の「病」だ。

僕は、イライラしながら、自分の「クッションの山」に倒れ込み、天井の「シミ…そんなものは、この完璧な天井には、ないが」を探し始めた。

カチャリ、と。
一日の、いつもの「決まった時間」に
この部屋の「主」だけが持つ「鍵」の音が、響いた。

(……来たか)
僕は、クッションに寝そべったまま
「侵入者」の方を気だるく、睨みつけた。
扉が開き、ガイゼルが入ってきた。
手には、何も持っていない。

「……食ったか」

「……ああ」
僕は、寝そべったまま、答えた。

「……『仕事』は、どうだった。褒美のメシは、美味かったか?」

僕は、精一杯の「皮肉」を込めて、言った。
「……ああ。『完璧』だ」

ガイゼルは、僕の「皮肉」など、微塵も意に介さず、
平然と、僕の「ガラクタの山」に、踏み込んできた。


「……お前の『情報』のおかげで、昨日だけで、王都の『貴族三人』を、ギルドの『管理下』に置けた。実に『効率的』だ」

「……そうかよ」
僕は、興味なさそうに、そっぽを向いた。

「……で? 僕の『本』は?
『指導』とやらをしてくれるんだろう?
まさか、僕の『仕事』の『対価』を、踏み倒す気じゃないだろうな、『支配者』様?」

「……フン」
ガイゼルは、僕の「ふてぶてしい態度」を、鼻で笑った。

そして
「……ここだ」
と、彼が「脇」に抱えていた『魔導書第四巻』を、僕が寝そべっている「クッションの上」に、バサリ、と投げ落とした。

「……!」
僕は、ガバッ、と体を起こし、その「僕の宝物」を、慌てて拾い上げた。

「……雑に扱うな!」
僕は、文句を言おうとして、「息」を呑んだ。

僕の『魔導書』が、「変わって」いた。

僕が、何週間もかけて書き殴った「術式」の「羊皮紙」が全て、「新しい、最高級の羊皮紙」に、書き写されていた。
それだけじゃない。
僕の「理論」が
僕の「術式」が
その、「合間」に
(……赤い、インクで?)
(……僕の、黒インクとは、違う)
(……これは、こいつの『筆跡』か?)

赤い、冷徹で、寸分の狂いもない、美しい「筆跡」で、「完璧な『修正』」が、加えられていた。

僕が「非効率」だと言われた、あの「魔力増幅陣」の「ルーン配列」も僕が、考えもしなかった、「全く新しい『配置』」に「書き換えられて」いた。

(……これなら)
(……魔力の『逆流』どころか)
(……効率が、『三倍』に、跳ね上がる)

僕は、戦慄した。
僕の「プライド自尊心」が
ガラガラと、
音を立てて、
崩れていく。

(……こいつ)
(……本気で、僕より『魔術理論』に、詳しい)
(……『支配者』が、聞いて、呆れる)
僕が「屈辱」と
「研究者」としての「興奮」に震えていると、ガイゼルは、僕の「真ん前」に、音もなく、立っていた。

「……『仕事』の『対価』だ」

「……!」
僕は、本から顔を上げた。
ガイゼルは、僕の「ガラクタの山」の僕が「座る」クッションの「前」に片膝をついていた。

昨日よりも、近い。
僕の「呼吸」が、彼の「シャツ」に、かかってしまうほどの「距離」で。

「……その『修正』で、お前の『空間転移』の『精度』も、『効率』も、格段に上がる」

「……」

「……だが」
ガイゼルは、僕の「顔」を、じっと、見つめた。

「……お前の『本体からだ』が、その『術式の負荷』に、耐えられるか?」

「……は?」

「……お前は、ここ数日、『最高の餌』を食っている。
魔力の『量』は、回復しただろう」

ガイゼルは、そう言うと、ゆっくりと、彼の手を、
伸ばしてきた。

(……また、か!)
僕は、「唇」か、「髪」かと、身構えた。

だが、彼の手は、どちらでもなく、僕の、「顎」を
掴んだ。

(……!)
黒い手袋に包まれた、大きな「手」が僕の「顎」を鷲掴みにし、ぐい、と「上」を、向かせた。

「……!」
僕は無理やり、彼と「目」を、合わさせられる。

「……な、に、しやが、」
「……顔色が、悪い」
ガイゼルは、僕の「抗議」を無視して、僕の「顔」をまるで「家畜の『健康状態』」でも「検分」するかのように、左右に、振らせた。

「……血色が、戻っていない。
『引きこもり』が長すぎたせいだ。
魔力の『器』が、『脆い』」

「……っ!」
(……こいつ、僕の『健康管理』まで、する気か!)
僕は、「屈辱」に、震えた。

「……『非効率』だ」
ガイゼルは、僕の「顎」を、まるで、興味を失った「石」でも放すかのように、パッ、と離した。

「……『道具』は、常に『最高のコンディション』でなければ、意味がない」

ガイゼルは、立ち上がると「新しい『ファイル』」を、僕の「膝の上」に落とした。

「……次の『仕事』だ。東のシンジケートが、『新型の魔術兵器』を、王都に持ち込んだ。『顔を変える暗殺者』が運んでいる。俺の『部下』では、追えん」

「……は?」
(……顔を、変える?)
(……僕の『アミュレット』みたいな、『スキル』持ちか?)
それは、今までの「貴族の金庫探し」とは、「難易度」が、違う。

「動く、姿の変わる『標的』」を、僕の「ネズミ」で、
常に「監視」し続けろ、と?

(……面倒くさい)
(……最高に、面倒くさい)


だが、(……『魔導書の修正』は、素晴らしかった)
僕は、その「対価」を、認めざるを得なかった。

「……分かったよ」

僕は、「ファイル」を、気だるく、掴んだ。
「……やればいいんだろ、やれば。その代わり、この『魔導書』の『第五巻』持ってこいよ。王宮の『禁書庫』にあるはずだ」

「……フン」
ガイゼルは、僕の「ふてぶてしい要求」に、満足そうに、口の端を、吊り上げた。

「……『成果』を出せば、『禁書庫ごと』、くれてやる」

「……!」
僕が、
その「途方もない『褒美』」に、息を呑んでいると、ガイゼルは、「扉」へと、向かった。

「……ああ、そうだ」
彼は、扉に手をかけ、思い出したように振り返った。

「……その『仕事』が終わったら、お前の『新しい日課』を、始める」

「……日課?」

「……お前の『脆い器』を、『鍛え直す』」

「…………は?」

「……明日から、俺の『ギルド』の『訓練場』に連れていく。俺の『部下』と『基礎体力づくり』をやってもらう」


「…………」
(……きそ、)
(……たいりょく、)
(……づくり?)

僕は、ガイゼルが、部屋を出ていきカチャリ、と、
「鍵」が、閉まる「音」がしても、しばらく、その「言葉の意味」が理解できず、ただ、「ファイル」と、「修正された魔導書」を、手にしたまま、固まっていた。



「……はあああああああ!?」
僕の「絶叫」が「豪華な檻」の中に虚しく、響き渡った。

「……『体力づくり』だぁ!?」
(……面倒くさいを、通り越してる!)
(……あいつ、僕を、殺す気か!)







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