【完結】孤独な魔術師と愛執の公爵

舞米

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夜が明け、柔らかな朝の光が差し込む寝室で、アッシュは先に目を覚ました。全身に感じる甘やかな疲労感と、満たされた幸福感に、小さく息を漏らす。隣には、深く穏やかな寝息を立てるアルフレッドがいた。その端正な顔立ちには、深い隈が刻まれているものの、安堵に満ちた表情で眠っている。アッシュは、そんなアルフレッドの寝顔を、まるで宝物を見るかのように、愛おしげに見つめた。

(アルフレッド……)

アッシュは、そっとアルフレッドの頬に触れた。彼が自分を探しに、はるか辺境の村まで来てくれたこと。再び独りになった自分を、迷わず見つけ出してくれたこと。そして、この上ないほどの愛情を注いでくれたこと。その全てが、アッシュの心を温かく満たした。

「……探しに来てくれて……ありがとう……」
アッシュの口から、感謝の言葉が紡ぎ出される。それは、アルフレッドへの深く、純粋な愛の告白だった。

「……愛してる……」
アッシュは、囁くようにそう告げると、アルフレッドの唇に、触れるだけの優しいキスを落とした。あまりにも控えめで、まるで幻のような触れ合い。しかし、その瞬間、アルフレッドの口元が、わずかに緩んだのをアッシュは見逃さなかった。

アルフレッドは、実は目を覚ましていたのだ。アッシュが先に目覚めたことにも、彼が自分を愛おしげに見つめていることにも気づいていた。そして、その愛らしい囁きと、口に触れるだけのキス。その全てが、アルフレッドの心臓を激しく高鳴らせ、彼は内心、喜びにもだえていた。アッシュの純粋な愛情表現が、アルフレッドの独占欲をさらに煽り、この愛しい存在を二度と手放すまいと、改めて強く誓った。

やがて、アルフレッドもゆっくりと目を開け、アッシュの瞳と視線を絡ませた。

「おはよう、アッシュ」
その声は、いつもより甘く、とろけるようだった。アッシュは、少し恥ずかしそうに顔を赤らめたが、アルフレッドの優しい眼差しに、心が満たされるのを感じた。
朝食を終え、穏やかな時間が流れる中、アルフレッドはアッシュに一つの小さな箱を差し出した。

「アッシュ、君にプレゼントがあるんだ」
アッシュは、目を丸くして箱を受け取った。中には、月の雫を閉じ込めたかのように、控えめに輝く片耳のイヤリングが入っていた。繊細な細工が施され、上品な美しさを放っている。

「これは……?」
アッシュが首を傾げると、アルフレッドは優しい声で言った。

「君の髪の色によく似合うと思ってね。ぜひ、つけてほしい」

アッシュは、予想外の贈り物に、嬉しそうに目を輝かせた。長年、贈り物など受け取ったことのなかった彼にとって、アルフレッドからの贈り物は、何よりも尊いものだった。彼は、何も考えることなく、アルフレッドにイヤリングをつけてもらうために、そっと耳を差し出した。

アルフレッドは、アッシュの耳元に優しく触れ、イヤリングを装着した。その動作は、まるで祈りを捧げるかのように丁寧だった。しかし、そのイヤリングには、アッシュには知らされていない秘密の魔道具が施されていた。それは、装着者の位置情報を常にアルフレッドに知らせるという、高度な追跡魔術が組み込まれたものだった。

(これで、もう君がどこにいても、私はすぐにわかる)

アルフレッドは、心の中でそう呟いた。アッシュの純粋な喜びの表情を見つめながら、彼は満足げに微笑んだ。このイヤリングは、アッシュへの愛の証であると同時に、二度と彼を失わないための、アルフレッドの執着の証でもあった。アッシュは、新しいイヤリングをつけられたことに気づかず、ただその美しさと、アルフレッドの優しさに心を弾ませていた。

二人の愛は、表向きは穏やかに、しかしその裏では、アルフレッドの深い独占欲によって、さらに複雑に絡み合っていくのだった。



公爵邸での日々は、アッシュにとってかけがえのないものとなっていた。アルフレッドの惜しみない愛情と、使用人たちの温かい気遣いに包まれ、アッシュの心は完全に満たされていた。しかし、アルフレッドの独占欲は、日に日にその形を変え、深まっていった。

アッシュが公爵邸に帰ってから、アルフレッドは彼を一人にすることがほとんどなかった。執務中も、アッシュには隣の書斎で好きな魔術の研究をさせていたし、社交界の場に出る際も、無理にとは言わずとも、アッシュに同行を促すことが増えた。アッシュが、少しでも他の者と親しげに話していれば、アルフレッドの表情は瞬時に曇り、やがてその人物を遠ざけるような言動が目立つようになった。

例えば、ある日の昼下がり。アッシュが庭師と新作の薔薇について楽しそうに語り合っていると、アルフレッドが何気ない顔で近づいてきた。

「アッシュ、そろそろお茶の時間ではないかい? 私も少し休みたいのだが」
そう言って、アルフレッドはアッシュの腰にそっと腕を回し、庭師には「ご苦労」とだけ言い残して、アッシュを連れて行ってしまった。庭師は、慣れた様子で微笑み、二人の後ろ姿を温かく見送った。しかし、アッシュはアルフレッドの態度が普段よりも少しだけ不自然であることに気づかなかった。

また、アッシュが王宮の図書館で魔術の研究に没頭していると、必ずと言っていいほどアルフレッドが迎えに来た。

「アッシュ、もうこんな時間だ。あまり無理をするな。君の体調が心配だよ」
そう言いながら、アルフレッドはアッシュの腰に手を回し、彼を自分の体に引き寄せる。他の魔術師や学者たちが、そんな二人の様子を珍しそうに見つめても、アルフレッドは全く気にする様子がない。むしろ、アッシュが自分のものであるかのように、堂々と振る舞った。

夜、寝室ではアルフレッドの独占欲はさらに顕著になった。アッシュが少しでも他のことを考えている素振りを見せれば、アルフレッドは容赦なく彼を自分へと引き戻した。

「アッシュ、何を見ているんだい? 私だけを見てくれ」
そう言って、アルフレッドはアッシュの顔を自分のものへと向けさせ、貪るようにキスをした。アッシュの喘ぎ声が、アルフレッドの耳を甘く刺激し、彼の独占欲はさらに高まる。

アッシュの耳につけられたイヤリングは、常にアルフレッドにアッシュの位置を知らせていた。アッシュが館から一歩でも出ようとすれば、すぐにアルフレッドから「どこへ行くんだい? 私も一緒に行こう」という言葉が飛んできた。アッシュは、アルフレッドが自分を大切に思っているがゆえの行動だと信じていたが、彼が無意識のうちに縛られていることには気づいていなかった。

アッシュが公爵邸で暮らすようになって半年が過ぎた頃、アルフレッドの愛情は、もはや溺愛という言葉では足りないほどに膨れ上がっていた。彼はアッシュの全てを掌握し、彼を自分の世界に閉じ込めてしまいたいと強く願っていた。アッシュもまた、その深く甘い愛に溺れ、アルフレッドなしでは生きられない体へと変わっていった。

二人の愛は、深く、そして熱く燃え上がっていた。しかし、その強すぎる愛情は、時にアッシュを縛り付け、彼の自由を奪うことにもなりかねない。









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