20 / 42
第一章
弟、兄
しおりを挟む
神官長の言葉に心当たりがあるのか、神官は目を泳がせながら口を噤む。
召喚の儀に手を貸したことを裏切りと言っているわけではない。もっと別の……。それこそ取り返しのつかないようなこと。
時に視線は凶器となる。たった一人の神官に注がれる視線は鋭い刃となり体に突き刺さる。
羞恥。恐怖。
それらとは異なる感情に耐えきれなくなりその場にうずくまった。
「殿下の女癖の悪さは重々承知しています」
言い方。
陛下が注意しないのはそれが事実だから。問題なのは本人が悪いと思っていないこと。
人の上に立つべき身分は何をしても許されると勘違いしている。
婚約者がいる身で色んな女性に手を出しまくって、一発も殴られていないのが不思議。
相手が王子あったとしても、殴っていいと思う。
火遊びの相手に選んでいるのが気弱な女性なら、無理な話か。
いい笑い者にされたカイザー様は顔を真っ赤にしながら不敬だと喚き、神官長に死刑を宣告。
神官長は呆れたようにため息をついて無言で陛下を見た。陛下も長いため息をつきながら首を横に振る。
──気にするなということかな。
「召喚の儀に関してとやかく責めるつもりはありません。現に聖女であるコトネ様が無事に召喚されましたので。私が言っているのは、聖女の証である蓮の花の紋様を勝手に、聖女でもない人間に出現させたこと」
神殿には加護を受けでない人にも蓮の花を出せるように裏技みたいなのがある。
神の力とか、そんな不確かものじゃない。
精霊樹から作り出される水を飲めば、加護を受けたように証が刻まれる。
その地下に行くのって神官長の血が必要なんじゃなかった?
いち神官がそんな国家機密レベルなことを知っているとも考えにくい。
室内なのに強風が吹き、神官の顔を隠していたフードが取れた。
目や鼻筋が神官長とそっくり。まさかの兄弟!?
シルフが口元を抑えてクスクス笑っている。風の正体はこの子か。
「兄です」
嫌そうに紹介してくれた。
名前を教えてくれるつもりもなければ、兄弟で在ることに幻滅している。
この国では兄より弟のほうが優れるシステムなの?
兄と言っても腹違いらしく、神官長のお父さんに恋焦がれた女性が睡眠薬で眠らせ無理やり……。
そこで出来た子供を半ば脅迫するように認知させた。
──生々しい!そして怖い!!
神に仕える者として生まれてくる幼い命に罪はないとはいえ。
その後、女性の消息は急に途絶え、どうなってしまったかは誰も知らないとか。
──こっちもこっちで怖っ!!
何をしたのか、あるいはさせたのか。聞いてしまったら最後、同じ目に合わされそうで誰も触れられる空気ではない。
空気の読めないカイザー様は神官の母親がどこで何をしているのか訪ねようとする。空気を読んだ陛下の咳払いでその話題には触れることはなかった。
罪なき命も一応はバルク家の血を引いてるため、精霊樹の存在を教えられている。
神官は兄で在ることから自分が神官長になるのだと思っていたらしく、その夢が砕かれた瞬間は神殿で大暴れしたそうだ。
運良く周りに誰もいなかったけど、今こうして暴露されてるから結果としては最悪だと思う。
神官は幼い頃より神官長には弟がなると何度も説明を受けていたはずなのに、なぜか自分がそのポストに就くと思っていたらしい。
兄弟であろうと、神官長といち神官ならどちらが上か考えなくてもわかる。
役職のない神官には神官長に対して敬語と最低限のマナーが求められた。
徹底した教育のおかげで恥をかかない程度には成長し、今では人前に出ることが許されている。
「兄が不出来だと下は苦労しますね。そうは思いませんかキース様」
本人を目の前にサラッと酷いことを言った。
「私には兄がいないのでわかりません」
誰かこの二人を止めて。
素直すぎるよ。
あの神官がカイザー様に協力したのって神官長に対する当てつけ。もしくは恨み。
または両方。
優秀な弟の存在がコンプレックスとなり超えてはいけない一線を飛び越えた。
腹違いとはいえ兄を殺そうとする神官長の性格も疑う。
「国王陛下。我ら神殿はコトネ様を聖女として認めます。カイザー様が国民に何と発表したかは存じ上げませんが、この事実だけは揺るぎません」
神官長の決定は神殿の決定。聖女認定されてしまった。
一部を除いた多くの人が私に膝をつく光景は圧巻。
友愛はカイザー様の腕にしがみついたまま。肩が震えている。怒っているのね。
見下してきた私が友愛よりも上の地位にいるから。
この場を穏便に済ませ、早く帰る方法は一つ。
私自身が聖女だと認めること。キースもそれを望んでる。
ずっと良くしてもらっていたんだ。認めるだけで恩返しになるのなら……。
「くだらん余興にいつまでも心音を巻き込むな」
「シェイド!?来ないでってあれほど言ったのに」
「心音が困っているのに無視出来るわけないだろう」
そんなキュンとする台詞を言いながらキスしてこないで。
唇を重ねるだけでは物足りなかったのかぬるっと舌が絡んだ。よく漫画とかで見る大人のキス。
「私の愛し子は可愛いな」
召喚の儀に手を貸したことを裏切りと言っているわけではない。もっと別の……。それこそ取り返しのつかないようなこと。
時に視線は凶器となる。たった一人の神官に注がれる視線は鋭い刃となり体に突き刺さる。
羞恥。恐怖。
それらとは異なる感情に耐えきれなくなりその場にうずくまった。
「殿下の女癖の悪さは重々承知しています」
言い方。
陛下が注意しないのはそれが事実だから。問題なのは本人が悪いと思っていないこと。
人の上に立つべき身分は何をしても許されると勘違いしている。
婚約者がいる身で色んな女性に手を出しまくって、一発も殴られていないのが不思議。
相手が王子あったとしても、殴っていいと思う。
火遊びの相手に選んでいるのが気弱な女性なら、無理な話か。
いい笑い者にされたカイザー様は顔を真っ赤にしながら不敬だと喚き、神官長に死刑を宣告。
神官長は呆れたようにため息をついて無言で陛下を見た。陛下も長いため息をつきながら首を横に振る。
──気にするなということかな。
「召喚の儀に関してとやかく責めるつもりはありません。現に聖女であるコトネ様が無事に召喚されましたので。私が言っているのは、聖女の証である蓮の花の紋様を勝手に、聖女でもない人間に出現させたこと」
神殿には加護を受けでない人にも蓮の花を出せるように裏技みたいなのがある。
神の力とか、そんな不確かものじゃない。
精霊樹から作り出される水を飲めば、加護を受けたように証が刻まれる。
その地下に行くのって神官長の血が必要なんじゃなかった?
いち神官がそんな国家機密レベルなことを知っているとも考えにくい。
室内なのに強風が吹き、神官の顔を隠していたフードが取れた。
目や鼻筋が神官長とそっくり。まさかの兄弟!?
シルフが口元を抑えてクスクス笑っている。風の正体はこの子か。
「兄です」
嫌そうに紹介してくれた。
名前を教えてくれるつもりもなければ、兄弟で在ることに幻滅している。
この国では兄より弟のほうが優れるシステムなの?
兄と言っても腹違いらしく、神官長のお父さんに恋焦がれた女性が睡眠薬で眠らせ無理やり……。
そこで出来た子供を半ば脅迫するように認知させた。
──生々しい!そして怖い!!
神に仕える者として生まれてくる幼い命に罪はないとはいえ。
その後、女性の消息は急に途絶え、どうなってしまったかは誰も知らないとか。
──こっちもこっちで怖っ!!
何をしたのか、あるいはさせたのか。聞いてしまったら最後、同じ目に合わされそうで誰も触れられる空気ではない。
空気の読めないカイザー様は神官の母親がどこで何をしているのか訪ねようとする。空気を読んだ陛下の咳払いでその話題には触れることはなかった。
罪なき命も一応はバルク家の血を引いてるため、精霊樹の存在を教えられている。
神官は兄で在ることから自分が神官長になるのだと思っていたらしく、その夢が砕かれた瞬間は神殿で大暴れしたそうだ。
運良く周りに誰もいなかったけど、今こうして暴露されてるから結果としては最悪だと思う。
神官は幼い頃より神官長には弟がなると何度も説明を受けていたはずなのに、なぜか自分がそのポストに就くと思っていたらしい。
兄弟であろうと、神官長といち神官ならどちらが上か考えなくてもわかる。
役職のない神官には神官長に対して敬語と最低限のマナーが求められた。
徹底した教育のおかげで恥をかかない程度には成長し、今では人前に出ることが許されている。
「兄が不出来だと下は苦労しますね。そうは思いませんかキース様」
本人を目の前にサラッと酷いことを言った。
「私には兄がいないのでわかりません」
誰かこの二人を止めて。
素直すぎるよ。
あの神官がカイザー様に協力したのって神官長に対する当てつけ。もしくは恨み。
または両方。
優秀な弟の存在がコンプレックスとなり超えてはいけない一線を飛び越えた。
腹違いとはいえ兄を殺そうとする神官長の性格も疑う。
「国王陛下。我ら神殿はコトネ様を聖女として認めます。カイザー様が国民に何と発表したかは存じ上げませんが、この事実だけは揺るぎません」
神官長の決定は神殿の決定。聖女認定されてしまった。
一部を除いた多くの人が私に膝をつく光景は圧巻。
友愛はカイザー様の腕にしがみついたまま。肩が震えている。怒っているのね。
見下してきた私が友愛よりも上の地位にいるから。
この場を穏便に済ませ、早く帰る方法は一つ。
私自身が聖女だと認めること。キースもそれを望んでる。
ずっと良くしてもらっていたんだ。認めるだけで恩返しになるのなら……。
「くだらん余興にいつまでも心音を巻き込むな」
「シェイド!?来ないでってあれほど言ったのに」
「心音が困っているのに無視出来るわけないだろう」
そんなキュンとする台詞を言いながらキスしてこないで。
唇を重ねるだけでは物足りなかったのかぬるっと舌が絡んだ。よく漫画とかで見る大人のキス。
「私の愛し子は可愛いな」
20
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
8年ぶりに再会した男の子は、スパダリになっていました
柚木ゆず
恋愛
美しく育てて金持ちに高く売る。ルファポール子爵家の三女ミーアは、両親達が幸せに暮らせるように『商品』として育てられてきました。
その結果19歳の夏に身体目当ての成金老人に買われてしまい、ミーアは地獄の日々を覚悟していたのですが――
「予定より少々早い到着をお許しください。姫をお迎えにあがりました」
ミーアの前に現れたのは醜悪な老人ではなく、王子様のような青年だったのでした。
※体調不良の影響で、現在一時的に感想欄を閉じさせていただいております。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
貧乏神と呼ばれて虐げられていた私でしたが、お屋敷を追い出されたあとは幼馴染のお兄様に溺愛されています
柚木ゆず
恋愛
「シャーリィっ、なにもかもお前のせいだ! この貧乏神め!!」
私には生まれつき周りの金運を下げてしまう体質があるとされ、とても裕福だったフェルティール子爵家の総資産を3分の1にしてしまった元凶と言われ続けました。
その体質にお父様達が気付いた8歳の時から――10年前から私の日常は一変し、物置部屋が自室となって社交界にも出してもらえず……。ついには今日、一切の悪影響がなく家族の縁を切れるタイミングになるや、私はお屋敷から追い出されてしまいました。
ですが、そんな私に――
「大丈夫、何も心配はいらない。俺と一緒に暮らそう」
ワズリエア子爵家の、ノラン様。大好きな幼馴染のお兄様が、手を差し伸べてくださったのでした。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる