溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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最上位魔物

父様が最強すぎました

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 リッライと呼ばれる巨大な魔物。彼らはゴリラに似た姿をしており、全身が毛深く、圧倒的な力を持っている。

 握力なんてゴリラそのもの。人間の頭蓋骨をいとも簡単に砕いてしまう。
 掴まれたら一巻の終わりだとか。

 そのため、常に距離を取って戦うのが定石。

 何十匹ものリッライは群れとなって行動し、リーダー格は一際大きい。

 瞳孔が開いたような大きな黒い目は私達を捉えて離さない。

 誰もが息を呑む。

 「下がれ。私がやる」
 「わざわざ相性の悪い兄さんが出なくても」

 そう。魔法は互いの相性が決まっている。炎は水に弱く、水は雷に弱い……。お決まりのパターンである。

 一世を風靡した様々な属性を持つキャラクターが登場するゲームと同じと考えたほうが早い。

 リッライは土魔法っぽいのに、水魔法を使うらしい。

 雄叫びを上げながら激しく胸を叩けば、周りのリッライが一斉に突進してくる。

 牙を剥き出しにしながら恐ろしい勢いで迫ってきた。その光景はまるで、闇の中から現れた悪夢のよう。

 父様は静かに息を整え、そしてゆっくりと前に進み出す。手を前に伸ばすと、掌の中にゆらゆらと燃える炎が現れた。

 炎は父様の手から勢いよく放たれ、突進してくるリッライの群れに向かって飛んでいった。燃え盛る火球はリッライ達の間に炸裂し、彼らは悲鳴を上げて散り散りになった。炎の熱が周囲の空気を震わせ、薄暗い道ををほんの少しだけ明るく照らす。

 しかし、リッライはまだ諦めていなかった。

 何匹かは炎をかいくぐり、父様に向かって跳びかかろうとしている。私は心臓が激しく鼓動するのを感じながら、ただ見守るだけ。

 「心配しなくても大丈夫だよ」

 それは私を安心させるためではなく、ここにいる全員が思っていること。

 瞬時に水の盾を作り出した。後衛に控える者達は水の弾を放ち、攻撃の体制を整える。

 だが、父様の放つ炎は先程とは比べ物にならないほどの威力だ。水の弾も盾も、父様の炎の前ではあっという間に蒸発し、リッライ達は灰と化していく。

 風魔法で火力を押し上げたわけではない。純粋な父様だけの魔法。

 ──相性も属性も無視した!?

 ま、まぁ、相性が悪いだけで全く効果がないわけでもないし、一撃必殺技ならありえる……のだろうか?

 ノルアお兄ちゃんを見上げながら無言で父様を指差す。

 「ユーリ。残念ながら私には父上と同じことは出来ないよ」

 言いたいことが伝わり首を横に振った。

 「今のリミックには怒りの感情も含まれているからな。あの火力は当然といえば当然」
 「人ではなく魔物に向けてもらったほうが、こちらも安心だ」

 え、父様。怒ってたの?何で?誰に?

 ここには父様の機嫌を損ねるような人はいないはず。

 父様の火力は尋常ではなく、怒りがその力に拍車をかけているとストフォード様は語った。

 ──待って。誰に怒っているの?

 やれやれと苦笑いをしているのは大人だけで、エルとセインは言葉を失うほどの衝撃を受けていた。

 「おかしいですね。リッライがこんな中腹に出でくるなんて」
 「連中の住処はもっと奥のはず」

 予期せぬ事態に皆が眉をひそめる。
 父様の怒り云々は後回しにするようだ。

 山に慣れている大人がそう判断したのなら、それが正解。私は口を挟まない。

 「先を急ぐとしよう」

 反対する者はいない。全員がうなづく。

 私はこのまま抱っこされたまま。

 山道は険しい。小さな私が自分で歩くとなれば、時間がかなりかかってしまう。

 ワガママを言うつもりはなく、力強く抱きかかえてくれるノルアお兄ちゃんに身を委ねる。

 突風が吹き荒れると枯葉が舞う。

 山頂に向けて再び、足を進めようとした直後、無数の蜘蛛が行く手を阻む。

 一匹、また一匹と蜘蛛の姿が増え、まるで生きた壁のように道を塞ぐ。細く長い脚が絡み合い、黒い体が光を反射している。

 そのあまりの数に背中がゾワッとした。私の心臓も早鐘のように打ち始めた。

 「火子蜘蛛がなぜここに」
 「それよりも!!これだけの大群の接近に誰も気が付かなかった……?」

 いくら足音がなかったとはいえ、百を超えていそうな数だ。ここまで接近していれば誰かが気付かなければおかしい。

 「リッライか」
 「そのようだな」

 焦りを閉じ込めるかのように目を閉じた父様とストフォード様は冷静そのもの。

 本来ならもっと奥に住むはずのリッライが、こんな所まで下りて来たのは火蜘蛛の糸に操られていたから。

 火子蜘蛛の魔力はとても微弱。他の魔物と比べると差は歴然。
 これだけ数がいても、リッライの群れには敵わない。

 大きな魔力で小さな魔力を覆い隠した。

 火蜘蛛はかなり特殊な魔物。その名の通り炎魔法を操る。
 が、子供は違う。脆弱な魔力しか持たないために魔法は使えず、特殊な糸で魔物を操るのだ。

 「私とストフォードで道をこじ開ける」
 「な、待て!!火子蜘蛛なら私の水魔法のほうが相性は良い」
 「この先には火蜘蛛が待ち受けている可能性のほうが高い。お前の魔法はそこで使え」

 父様が厳しい声で諭す。

 通常の魔物ならともかく、最上位魔物ともなればさっきみたいな相性を無視した攻撃はあまり効かない。

 火蜘蛛と対峙するならジーナ様の水魔法が不可欠。

 三人は互いに無言の合図を交わし、前だけを見つめた。何の言葉も必要なかった。彼らは長年の信頼と連携で結ばれていた。

 父様の手から放たれた炎が山火事を起こしかねない猛火となり、強風に乗って勢いを増していく。その炎は瞬く間に火子蜘蛛を次々と飲み込み、焼き尽くした。

 炎で作られたその道を素早く駆け抜ける。

 その瞬間。前方から巨大な炎の渦が飛んできた。

 その猛威に、ジーナ様は一歩前に出たが、バルは咄嗟に彼女の肩を掴み、後ろへと投げ飛ばした。次の瞬間、ヴァルの掌から雷の壁が立ち上り、炎の嵐を受け止めた。

 「全く。若い者はなぜこうも命を危険に晒すのか。そういう愚行はこの老いぼれに任せておけ」
 「お義父様。そういうことは言わないで下さい。お願いですから」

 リファラ叔父さんが必死に言葉を返すと、バルは少し顔をしかめた。

 「ハッ。未だ家族にそんな他人行儀のお前には何も言われたくないな」
 「そんなつもりは……」

 ──リファラ叔父さんがたじたじしてる。可愛い。

 そのやり取りを見ていると、リファラ叔父さんがバルの前だけで少し弱気になるのがわかって、ついつい心の中で微笑んだ。

 普段は父様に似て冷静沈着ななのに、バルの前ではまるで違う一面を見せるのだ。

 「ふっ。リミック。どうやらこの先ではなく、ここでお出ましのようだぞ」

 バルの表情が一変した。笑みが消える。
 視線は炎が飛んできた方向へと鋭く向けられていた。周囲の空気が一気に張り詰め、緊張感が増していく。

 最上位魔物は五大貴族が集まっても簡単に勝てる相手ではない。
 どんなにその身を焼き尽くそうとも、魔力がある限り再生する。

 しかも、アクラ山は聖域。最上位魔物でもある火蜘蛛は自然の魔力を自在に取り込み、どんなに攻撃を受けても再生し続ける。

 魔法の撃ち合いになれば、こちらが先に魔力切れを起こすのは明白。

 「やれやれ。嫌だねぇ。これから噴火を抑えるために大量の魔力を消費するってのに。その前に最上位魔物と戦うなんて」

 ストフォード様はおちゃらけた口調で言ったが、その目は真剣そのものだった。

 極度の緊張感が空気を揺らす。

 リッライよりも遥かに大きく、赤黒い体を持つ蜘蛛が姿を現す。
 その目にはゲールやヒュドールとは異なる、鋭い敵意だけが映っていた。

 「下がれなんて言うなよ、リミック」

 勝気な笑みを浮かべたジーナ様は父様達と肩を並べる。

 「お前達は前に出るなよ」

 若い芽を摘まないためにも下がらせる。

 新しい時代を担う時期当主。
 彼らなくして新時代は築けない。
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