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最上位魔物
家に帰るまでがお仕事です!
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無事に山を下山した。
嘘のように魔物と遭遇することなく、安全に。
「殿下。私の治癒はあくまでも治すだけです。後遺症の心配もありますので、城に戻ったら医師に診てもらって下さい」
「わかっている」
どうにか“いつも通り”を心がけるも、火子蜘蛛の真実にショックを受けていた。
魔物として襲ってくるから迎撃する。命を守るために。そこまでは普通だ。
が、まさか命が天に還ることなく生まれ変わっていたことは予想外。
それもよく目にする蜘蛛が、火子蜘蛛だなんてとても信じられない。
貴族の屋敷に蜘蛛が出ることはないとはいえ、目にしたことはあるだろう。
無慈悲に、理不尽に、殺されるその姿を。
自分達が持っている魔物の情報がいかに少なかったかを痛感する。
アネモスとブロンテーが聖域や魔物のことについて語らないのは、あくまでも関係が“契約者”だからなのだろうか。
私は別に彼らを服従しているつもりはないので、極端な特別扱いはやめてもらいたい。
「皆、今日は本当にご苦労だったな。特にユーリ。君がいなければ我々は目の前の真実に向き合うこともなく、噴火の問題も解決しなかった」
「私は何もしてないです。父様がエルを治したことのほうが、もっともっとすごいです」
「リミック。息子を救ってくれて感謝する」
「王家をお守りするのが五大貴族の務めですので」
「今回のことで何か褒美を与えたいのだが……。何か欲しい物はあるか」
「はい!」
勢いよく手を挙げた。
「欲しい物というかお願いがあります」
「ほう?お願い」
「おじいちゃん達を今の役職から下ろして下さい」
仕事を奪うまではしなくていいけど、責任が伴う重要なポストからは外すべきだ。
彼らは責任を背負わない。絶対に。
長い間、その地位に甘んじ、変化を恐れていた。時代は動いているのに、古い価値観に縛られたままでは未来はない。
陛下は口元を手で覆い、悩むように目を伏せた。
「時代と共に人も変わらなくてはいけません。おじいちゃん達はその妨げになっています。後任がいないわけではないのですよね?」
「無論、育てている。だが、彼らは先代の頃から尽くしてくれている」
「恩を感じて現状に甘えてばかりいたら、いずれ取り返しのつかないことになります。陛下ほどのお方が、そのことにお気付きにならないはずがありません」
長い沈黙。
陛下が出した答えは……。
「そうだな。彼らには退いてもらおう。これからは新しい時代を築いていかねばならん」
覚悟を決めた。
切り捨てることは苦渋の決断だっただろう。
それでも、現在のために未来を犠牲にしていいはずがない。
「ユーリは本当に聡明だな」
「えへへ」
陛下に頭を撫でられてしまった。
嬉しくて父様の足にしがみついた。
「褒められちゃった」
「(大人びて見えたが、やはりまだ子供だな)」
微笑みながら優しく頭を撫でてくれる父様に満面の笑みを浮かべた。
今度はノルアお兄ちゃんに突撃。同じことをすれば抱き上げてその場でクルクル回る。
ちょ、ティアロお兄ちゃんみたいなことはやめて……。
目が回る寸前で解放された。
「ねぇ、セイン」
「ん?どうしたの、ユーリ」
穏やかに返してくれた。
さっきの雷のことを聞こうと思ったけど、いつも通りを装う姿に今じゃないなと空気を読む。
「ううん、何でもない」
触れてほしくない秘密だとしたら、大勢の前で口にするわけにもいかない。
「リミック。お前には話がある。このまま城に来てくれ」
「お断りします」
即座に首を横に振った。
通信魔道具を取り出して迎えの場所を呼ぼうとするものだから、陛下は笑顔で魔道具を奪う。
あの態度が不敬にならないのであれば、二人には相当な信頼関係がある。
「リミック」
「はぁーー。わかりました」
かなり嫌そう。
陛下の真剣な表情を見ると無限にはできない。
その代わり、と言葉が続く。
「子供達を屋敷まで送って下さい」
「最初からそのつもりだ」
「ユーリ。これから見ることは、決して他言無用だ。いいね?」
膝をつき目を合わせた父様に、私はうなづいた。
周囲には誰もいないことを確認した陛下は、まるで空中に扉があるかのように手をかざし、ゆっくりとそれを開く仕草をした。
すると、そこに現れたのは確かに扉だった。光を放ち、薄く揺らめくその扉は、幻想的でもある。
「これは王家の血筋のみに伝わる空間魔法だ」
テロイ家が治癒魔法を使えるように、王家にも特別な魔法が存在した。
大人が余裕で通れる大きさ。普段は目に見えない。しかし、その扉を通じて別の場所へと瞬時に移動できる力を持っているのだ。
他言無用ということは、知っている人間が限られている。おじいちゃん達も知らないんだろうか。
私なら秘密を守れると信頼してくれているんだ。
──大丈夫!墓場まで持っていくからね!!
固く誓う。
「エルも使えるの?」
「俺はまだ……扉を出現させるとこも出来ない」
王家の血を引く者は無条件で空間魔法を継げるので、早いうちから習得するはず。
ヒロインの婚約者になるかもしれない人物であり、その才能は他の誰よりも溢れているのだから。
「いつか、エルもこの魔法を完璧に使いこなせるようになるよね」
私は微笑んだ。
「もちろんだ!」
生まれつき魔法の才能に恵まれていた。
才能だけでは満足せず、毎日欠かさず練習を続けているであろうその姿から、私は尊敬の念を抱かずにはいられない。
「わかっているとは思いますが。空間魔法を習得したからといって、勝手に我が屋敷の敷地内に入ってくるようなのことがあれば侵入者として排除しますので」
改めて忠告しなくても、厳しい教育を受けたエルがそんな無作法をするわけがない。
正規の手続きを踏んで、我が家に遊びに来てくれる。
「私は最後でいいので、皆さんからどうぞ」
順番を譲るため端に寄った。
「大丈夫だよ、ユーリ。この扉は各々の目的地にたどり着くようになっているから」
ほうほう。それは……空間魔法ではないのでは?
私の知っている空間魔法とは、二つの場所を繋げる空間のことであり、一つの扉から複数の目的地に着くことはない。
脳内で大きく首を捻り考えるも、ここはファンタジーの世界。深く考えても意味がないと結論を出した。
よくよく見ると扉の縁に丸い石が複数埋め込まれており、それぞれが異なる色を放っている。恐らくこれは父様達の魔力を登録しているのだろう。
石の数からここにいる人間なのだと想像がつく。
つまり、この扉はそれぞれの屋敷に対応していて、同じような石が各屋敷にあって、魔力登録された者だけがその目的地にたどり着ける仕組み。
──私は登録してないけど、通っても大丈夫なのだろうか?
開かれた扉の向こうは、まるで別世界だった。果てしなく広がる空間は、まるで夢の中のように歪み、現実とはまったく異なる様相を呈していた。
私はその光景に目を奪われながらも、不安で胸が締めつけられる。ここに入ってしまったら、二度と元の世界に戻れないのではないか。そんな恐怖が心を支配した。
「大丈夫だよ。私と手を繋いでいれば、ちゃんと屋敷に帰り着く」
ノルアお兄ちゃんは私の手を握った。はぐれてしまわないように、しっかりと。
指先から感じる温もりは恐怖を追い払ってくれた。
「それでは陛下。私達はこれで失礼致します」
ノルアお兄ちゃんを筆頭に、他の人も深々と頭を下げた。
「さ、帰ろう、ユーリ」
ノルアお兄ちゃんの言葉に背中を押され、私は一歩を踏み出した。足元が揺らぎ、視界が揺れる。
けれど、この手が離れない限り、私は決して迷子にはならないと信じていた。
空間はまるで波のようにうねり、時間の感覚も変わっていく。
景色は一変した。目の前に映るのはアクラ山ではなくテロイ家の屋敷。
玄関を開けると、予想よりも早い帰宅にも関わらず、みんなが笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい。ノルア、ユーリ」
安心したような声色で名前を呼んでくれる母様。
怪我がないことを確認して、抱きしめてくれる。
「怖かったでしょう。よく頑張ったわね」
「ううん!怖くないよ!火蜘蛛はね、すごく優しい魔物なの!!」
食餌時に話そう。アクラ山で起きたことを。
火蜘蛛は無差別に人間を襲っていたわけではないことも。
時刻はまだ昼過ぎ。お腹はちょっと空いているけど、父様が帰ってくるまで待てる。
陛下と話をするだけだし、そんなに時間はかからないだろう。
嘘のように魔物と遭遇することなく、安全に。
「殿下。私の治癒はあくまでも治すだけです。後遺症の心配もありますので、城に戻ったら医師に診てもらって下さい」
「わかっている」
どうにか“いつも通り”を心がけるも、火子蜘蛛の真実にショックを受けていた。
魔物として襲ってくるから迎撃する。命を守るために。そこまでは普通だ。
が、まさか命が天に還ることなく生まれ変わっていたことは予想外。
それもよく目にする蜘蛛が、火子蜘蛛だなんてとても信じられない。
貴族の屋敷に蜘蛛が出ることはないとはいえ、目にしたことはあるだろう。
無慈悲に、理不尽に、殺されるその姿を。
自分達が持っている魔物の情報がいかに少なかったかを痛感する。
アネモスとブロンテーが聖域や魔物のことについて語らないのは、あくまでも関係が“契約者”だからなのだろうか。
私は別に彼らを服従しているつもりはないので、極端な特別扱いはやめてもらいたい。
「皆、今日は本当にご苦労だったな。特にユーリ。君がいなければ我々は目の前の真実に向き合うこともなく、噴火の問題も解決しなかった」
「私は何もしてないです。父様がエルを治したことのほうが、もっともっとすごいです」
「リミック。息子を救ってくれて感謝する」
「王家をお守りするのが五大貴族の務めですので」
「今回のことで何か褒美を与えたいのだが……。何か欲しい物はあるか」
「はい!」
勢いよく手を挙げた。
「欲しい物というかお願いがあります」
「ほう?お願い」
「おじいちゃん達を今の役職から下ろして下さい」
仕事を奪うまではしなくていいけど、責任が伴う重要なポストからは外すべきだ。
彼らは責任を背負わない。絶対に。
長い間、その地位に甘んじ、変化を恐れていた。時代は動いているのに、古い価値観に縛られたままでは未来はない。
陛下は口元を手で覆い、悩むように目を伏せた。
「時代と共に人も変わらなくてはいけません。おじいちゃん達はその妨げになっています。後任がいないわけではないのですよね?」
「無論、育てている。だが、彼らは先代の頃から尽くしてくれている」
「恩を感じて現状に甘えてばかりいたら、いずれ取り返しのつかないことになります。陛下ほどのお方が、そのことにお気付きにならないはずがありません」
長い沈黙。
陛下が出した答えは……。
「そうだな。彼らには退いてもらおう。これからは新しい時代を築いていかねばならん」
覚悟を決めた。
切り捨てることは苦渋の決断だっただろう。
それでも、現在のために未来を犠牲にしていいはずがない。
「ユーリは本当に聡明だな」
「えへへ」
陛下に頭を撫でられてしまった。
嬉しくて父様の足にしがみついた。
「褒められちゃった」
「(大人びて見えたが、やはりまだ子供だな)」
微笑みながら優しく頭を撫でてくれる父様に満面の笑みを浮かべた。
今度はノルアお兄ちゃんに突撃。同じことをすれば抱き上げてその場でクルクル回る。
ちょ、ティアロお兄ちゃんみたいなことはやめて……。
目が回る寸前で解放された。
「ねぇ、セイン」
「ん?どうしたの、ユーリ」
穏やかに返してくれた。
さっきの雷のことを聞こうと思ったけど、いつも通りを装う姿に今じゃないなと空気を読む。
「ううん、何でもない」
触れてほしくない秘密だとしたら、大勢の前で口にするわけにもいかない。
「リミック。お前には話がある。このまま城に来てくれ」
「お断りします」
即座に首を横に振った。
通信魔道具を取り出して迎えの場所を呼ぼうとするものだから、陛下は笑顔で魔道具を奪う。
あの態度が不敬にならないのであれば、二人には相当な信頼関係がある。
「リミック」
「はぁーー。わかりました」
かなり嫌そう。
陛下の真剣な表情を見ると無限にはできない。
その代わり、と言葉が続く。
「子供達を屋敷まで送って下さい」
「最初からそのつもりだ」
「ユーリ。これから見ることは、決して他言無用だ。いいね?」
膝をつき目を合わせた父様に、私はうなづいた。
周囲には誰もいないことを確認した陛下は、まるで空中に扉があるかのように手をかざし、ゆっくりとそれを開く仕草をした。
すると、そこに現れたのは確かに扉だった。光を放ち、薄く揺らめくその扉は、幻想的でもある。
「これは王家の血筋のみに伝わる空間魔法だ」
テロイ家が治癒魔法を使えるように、王家にも特別な魔法が存在した。
大人が余裕で通れる大きさ。普段は目に見えない。しかし、その扉を通じて別の場所へと瞬時に移動できる力を持っているのだ。
他言無用ということは、知っている人間が限られている。おじいちゃん達も知らないんだろうか。
私なら秘密を守れると信頼してくれているんだ。
──大丈夫!墓場まで持っていくからね!!
固く誓う。
「エルも使えるの?」
「俺はまだ……扉を出現させるとこも出来ない」
王家の血を引く者は無条件で空間魔法を継げるので、早いうちから習得するはず。
ヒロインの婚約者になるかもしれない人物であり、その才能は他の誰よりも溢れているのだから。
「いつか、エルもこの魔法を完璧に使いこなせるようになるよね」
私は微笑んだ。
「もちろんだ!」
生まれつき魔法の才能に恵まれていた。
才能だけでは満足せず、毎日欠かさず練習を続けているであろうその姿から、私は尊敬の念を抱かずにはいられない。
「わかっているとは思いますが。空間魔法を習得したからといって、勝手に我が屋敷の敷地内に入ってくるようなのことがあれば侵入者として排除しますので」
改めて忠告しなくても、厳しい教育を受けたエルがそんな無作法をするわけがない。
正規の手続きを踏んで、我が家に遊びに来てくれる。
「私は最後でいいので、皆さんからどうぞ」
順番を譲るため端に寄った。
「大丈夫だよ、ユーリ。この扉は各々の目的地にたどり着くようになっているから」
ほうほう。それは……空間魔法ではないのでは?
私の知っている空間魔法とは、二つの場所を繋げる空間のことであり、一つの扉から複数の目的地に着くことはない。
脳内で大きく首を捻り考えるも、ここはファンタジーの世界。深く考えても意味がないと結論を出した。
よくよく見ると扉の縁に丸い石が複数埋め込まれており、それぞれが異なる色を放っている。恐らくこれは父様達の魔力を登録しているのだろう。
石の数からここにいる人間なのだと想像がつく。
つまり、この扉はそれぞれの屋敷に対応していて、同じような石が各屋敷にあって、魔力登録された者だけがその目的地にたどり着ける仕組み。
──私は登録してないけど、通っても大丈夫なのだろうか?
開かれた扉の向こうは、まるで別世界だった。果てしなく広がる空間は、まるで夢の中のように歪み、現実とはまったく異なる様相を呈していた。
私はその光景に目を奪われながらも、不安で胸が締めつけられる。ここに入ってしまったら、二度と元の世界に戻れないのではないか。そんな恐怖が心を支配した。
「大丈夫だよ。私と手を繋いでいれば、ちゃんと屋敷に帰り着く」
ノルアお兄ちゃんは私の手を握った。はぐれてしまわないように、しっかりと。
指先から感じる温もりは恐怖を追い払ってくれた。
「それでは陛下。私達はこれで失礼致します」
ノルアお兄ちゃんを筆頭に、他の人も深々と頭を下げた。
「さ、帰ろう、ユーリ」
ノルアお兄ちゃんの言葉に背中を押され、私は一歩を踏み出した。足元が揺らぎ、視界が揺れる。
けれど、この手が離れない限り、私は決して迷子にはならないと信じていた。
空間はまるで波のようにうねり、時間の感覚も変わっていく。
景色は一変した。目の前に映るのはアクラ山ではなくテロイ家の屋敷。
玄関を開けると、予想よりも早い帰宅にも関わらず、みんなが笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい。ノルア、ユーリ」
安心したような声色で名前を呼んでくれる母様。
怪我がないことを確認して、抱きしめてくれる。
「怖かったでしょう。よく頑張ったわね」
「ううん!怖くないよ!火蜘蛛はね、すごく優しい魔物なの!!」
食餌時に話そう。アクラ山で起きたことを。
火蜘蛛は無差別に人間を襲っていたわけではないことも。
時刻はまだ昼過ぎ。お腹はちょっと空いているけど、父様が帰ってくるまで待てる。
陛下と話をするだけだし、そんなに時間はかからないだろう。
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