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第一章
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お父様の言葉を無視して私の部屋に戻り、消毒と絆創膏の簡単な手当てをしてくれた。
私の部屋にも応急セットは用意している。
危険物は置いていないけど、あって困るものではない。今日のようなときには大活躍。
使わないときのほうが圧倒的に長いから、たまにその存在を忘れることはある。ニコラが。
私の部屋なんだし、私はちゃんと置いてある物は全て把握している。
「では私はこれで」
手当てを終えると立ち上がりすぐに部屋を出て行こうとする。
汚してしまった本と同じ物をニコラに買いに行ってもらっているから、部屋には私とヨゼフの二人。
主と使用人。私達の関係はそれだけであるけれど、使用人として非の打ち所のない完璧なヨゼフは婚約者の決まった私と長時間、密室にいることを避ける。
「ヨゼフはお母様の命令で私に従うってことでいいのよね」
扉が開ける寸前で問いかけた。ヨゼフはゆっくりと振り返りながら答えた。
「その通りでございます」
「その言葉に嘘偽りはない?」
「パトリシア様に誓って私がアリアナお嬢様を裏切ることは決してありえません」
この屋敷で私の味方が欲しい。
ヨゼフは私が最も欲しい条件を満たしている。
ローズ家を信じず、私の言葉を信じ、私に誠心誠意接してくれる、今みたいな態度を取ってくれる。
ヨゼフになら明かしてもいいかもしれない。
「これを見て」
ボニート伯爵から受け取った資料を見せた。
ヨゼフには精神的ダメージが大きいかもしれない。この事実を受け止めるには心の準備がいる。
私は調べてくれた人達の素性を知っていたからこそ簡単ではないけど受け止め、真実なのだと受け入れられた。
「やはりそうでしたか」
「知っていたの!?」
「薄々勘づいておりました」
静かに目を閉じて息をつく姿は後悔しているようにも見えた。
どれだけ疑惑を持とうとも証拠があるわけではない。下手なことを言うわけにもいかず、これまで口を噤むしかなかった。
全ての資料に目を通したヨゼフは、一枚の資料から目を逸らした。
それだけは知っていたのよね。ヨゼフは。
真実のごく一部だけを知っていたのはお母様が嫁いでからずっと執事として仕えていたから。
私に打ち明けてくれなかったのはお母様が隠し通して欲しいとお願いしたから。
それが命令ではなくお願いだったから、ヨゼフも首を縦に振った。
立場を考えても命令するのが手っ取り早く面倒もない。多くの貴族はそうする。身分の低い者、下の者に気を遣う必要がないからだ。
貴族という身分を武器に好き放題やる者は多い。もちろん、常識のある貴族だっている。ボニート伯爵家はその内の一人。
お母様は人に命令するようなタイプではなく、上級貴族だからと偉ぶったりもしない。
誰もが憧れる美しさと、あのお父様の手綱を握れる強さ。
私の淑女としての目標はずっとお母様。
「それにしても一体誰がこれを?」
ボニート家の暗部は陛下を除けば私しかその存在を知らない。
あれはヘレンが来るずっと前。
二人で出掛けたときシャロンが誘拐されてしまった。私が一瞬だけ目を離した隙に連れ去られてしまい、子供ながらに冷静に伯爵に事情を説明した。
大人には私の恐怖心を見抜かれていて「絶対大丈夫」と笑いながら表舞台に立つことの許されない存在を明かしてくれた。
「悪いけど今は言えない。でも断言する。危険な人間ではないと」
「信じます。他ならぬアリアナお嬢様のお言葉を」
ヨゼフはバカではない。怒りに身を任せて感情で動いて私を不利にする真似はしない。
ヨゼフには何も知らないふりをしてもらい、これまで通り働いてもらう。
これで間違ってないはず。
彼らを破滅させるにはまだ力が足らない。この切り札は唯一の証拠。有効なタイミングで切ることで私の復讐は完了する。
私の部屋にも応急セットは用意している。
危険物は置いていないけど、あって困るものではない。今日のようなときには大活躍。
使わないときのほうが圧倒的に長いから、たまにその存在を忘れることはある。ニコラが。
私の部屋なんだし、私はちゃんと置いてある物は全て把握している。
「では私はこれで」
手当てを終えると立ち上がりすぐに部屋を出て行こうとする。
汚してしまった本と同じ物をニコラに買いに行ってもらっているから、部屋には私とヨゼフの二人。
主と使用人。私達の関係はそれだけであるけれど、使用人として非の打ち所のない完璧なヨゼフは婚約者の決まった私と長時間、密室にいることを避ける。
「ヨゼフはお母様の命令で私に従うってことでいいのよね」
扉が開ける寸前で問いかけた。ヨゼフはゆっくりと振り返りながら答えた。
「その通りでございます」
「その言葉に嘘偽りはない?」
「パトリシア様に誓って私がアリアナお嬢様を裏切ることは決してありえません」
この屋敷で私の味方が欲しい。
ヨゼフは私が最も欲しい条件を満たしている。
ローズ家を信じず、私の言葉を信じ、私に誠心誠意接してくれる、今みたいな態度を取ってくれる。
ヨゼフになら明かしてもいいかもしれない。
「これを見て」
ボニート伯爵から受け取った資料を見せた。
ヨゼフには精神的ダメージが大きいかもしれない。この事実を受け止めるには心の準備がいる。
私は調べてくれた人達の素性を知っていたからこそ簡単ではないけど受け止め、真実なのだと受け入れられた。
「やはりそうでしたか」
「知っていたの!?」
「薄々勘づいておりました」
静かに目を閉じて息をつく姿は後悔しているようにも見えた。
どれだけ疑惑を持とうとも証拠があるわけではない。下手なことを言うわけにもいかず、これまで口を噤むしかなかった。
全ての資料に目を通したヨゼフは、一枚の資料から目を逸らした。
それだけは知っていたのよね。ヨゼフは。
真実のごく一部だけを知っていたのはお母様が嫁いでからずっと執事として仕えていたから。
私に打ち明けてくれなかったのはお母様が隠し通して欲しいとお願いしたから。
それが命令ではなくお願いだったから、ヨゼフも首を縦に振った。
立場を考えても命令するのが手っ取り早く面倒もない。多くの貴族はそうする。身分の低い者、下の者に気を遣う必要がないからだ。
貴族という身分を武器に好き放題やる者は多い。もちろん、常識のある貴族だっている。ボニート伯爵家はその内の一人。
お母様は人に命令するようなタイプではなく、上級貴族だからと偉ぶったりもしない。
誰もが憧れる美しさと、あのお父様の手綱を握れる強さ。
私の淑女としての目標はずっとお母様。
「それにしても一体誰がこれを?」
ボニート家の暗部は陛下を除けば私しかその存在を知らない。
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大人には私の恐怖心を見抜かれていて「絶対大丈夫」と笑いながら表舞台に立つことの許されない存在を明かしてくれた。
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「信じます。他ならぬアリアナお嬢様のお言葉を」
ヨゼフはバカではない。怒りに身を任せて感情で動いて私を不利にする真似はしない。
ヨゼフには何も知らないふりをしてもらい、これまで通り働いてもらう。
これで間違ってないはず。
彼らを破滅させるにはまだ力が足らない。この切り札は唯一の証拠。有効なタイミングで切ることで私の復讐は完了する。
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