拾われた異世界転移者

デスVoice

文字の大きさ
21 / 45
第一章《ギルド》「闇の権力者編」

第七話 「寄った町にて」

しおりを挟む
「街が見えてきたぞ。今日はここに泊まろう」

「やったぁ♡久しぶりに屋根の下で寝れるね♡」

セソセソ街を後にしてから四日目の夕方。今夜はこの街で泊まることになった。

宿泊は嬉しいが、少しだけ抵抗がある。

未だに僕はお金を持っていない。魔物が消滅するこの世界では、ドロップ品を売るなどという簡単な方法は使えない。霊魂球もギルドのせいで売れない。

宿代なんかはアンナ達に出して貰っている。それが本当に申し訳ない。ティアさんもギルドのせいで仕事が低迷しているのに、食費を出したりもしてくれた。

僕ももっと頑張らなくちゃ…!自分にも出来ることはきっとあるはず。

「ご主人、二人部屋と一人部屋を一部屋ずつ。1晩でいい」

「あいよ」

宿屋につき、チェックインを済ませる。この世界では荷物は全てポーチに入れられるため、手荷物もない僕らはその足で食堂に向かう。

「ここら辺ではどんな食べ物が出るのか楽しみだね、ティアさん」

僕は隠れグルメっ子だ。旅行にいったら、必ずその地域の名産を食べないと気が済まない。
この世界に郷土料理なんて概念があるかは分からないが、そもそもここは異世界、僕の知らない料理が沢山あるに違いない。

「もう!ティアちゃんって呼んでってばぁ」

コツンと頭を叩かれる。

この数日で僕達はすっかり仲良くなっていた。ずっとさん付けで呼んでいたが、それは変だからちゃん付けにしなさいと命令されてしまったのだった。

が、まだ慣れずに「ティアさん」と呼んでしまっては怒られるというのを繰り返している。
そんな僕達をアンナは何とも言えない顔で見ている。ヤキモチかな。

「まぁなんだ、2人が打ち解けて良かったよ。
子供に見える女と大人に見える男で真逆な2人だし、合わなかったら嫌だと思ってたから、安心だ」

そうは言っても、やはりアンナの顔はどこか釈然としていないようだ。やはり、ヤキモチだろうか。後で、彼女に軽々しく近づくなとか言われたらやだな( ˊᵕˋ ;)

「え゛!?レイくんっておいくつぅ?」

ティアさ...ちゃんがアンナのセリフに疑問を感じる。そういえばまだ年齢を伝えてなかったっけ。

「15だよ」

「えぇぇぇええーーー!!!!年下ぁぁ!!?」

アンナと同じようにティアちゃんも大袈裟に驚く。まぁ、傍から見ても僕が年下には見えないよね。

突然大声を出したティアちゃんが周りのお客さんに睨まれる。愛想笑いでペコペコするそのくだりは、もう見慣れた光景だ。

「レイくん、15なんだぁ...でも落ち着いてて大人っぽいよねぇ。どんな人生を歩んだらそんな感じになるの」

人生…か。色々あったことは事実だな。
この世界の方が良いなんて、そんなこと軽々しく言えない。この世界の人達にも、彼らの苦労がある。

だけど僕は、実はこの転移に感謝している。アンナ達みたいな素敵な人にも会えたし。
まぁ、隣の芝は青かったりするって言うけど。

「「「ご馳走様」」」

食事を食べ終わった僕達は手を合わせる。日本特有だと思っていたけど、こっちにも食後の挨拶をする文化はあるらしい。

食事はとても美味しかった。大きなヤモリの丸焼きが出てきた時はギョッとしたけど、アンナ達に習って食べてみたらとても美味しかった。

見た目に、慣れないだけで、肉は肉だ。全国の食わず嫌い者を叱ってやりたい。

その後、僕の分まで会計を済ませる2人の姿に、胸が痛んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その夜、僕はこっそり宿を抜け出した。2人は自室で寝ているようだ。

自分にもできること、とりあえず魔物でも狩りに行こうと思った。

レベルが上がれば2人の助けになるし、霊魂玉が集まればティアさんは喜ぶ。

金銭的なことはまだ何も出来ないが、何もしないよりはマシかなって思った。

決して僕が好戦的で、戦いが好きな訳では無い。前からゲームは好きだったから、リアルでそれができることにテンションがあがっているだけ。

前にアンナに言われた「好戦的」という言葉が、小さな棘となって心に残っていた。

小さいながら、この街にも外壁が造られていた。外壁で囲まなければいけない世界。常に死と隣合わせであることを自覚しなければならない。

前はアンナが近くに居てくれたが、今日の戦いは1人だ。夜は魔物が活発化するとかもあるかも知れない。今更ながら、少し不安になる。

あ、そうだ。久しぶりに術式習得の欄でも覗くか。なにか便利なスキルが作れるかもしれない。

「術式習得、アクセス!」

マナの動きが手に取るようにわかる。直感に従い、マナを並べていく。
このマナの操作、なんだか妙な既視感がある気がするんだけど、気のせいかな…?
多分スキル『ANALYSIS』の影響だろうか、今は気にしないことにした。

【スキルを習得しました】

水色の文字が視界に浮かび上がる。

「よし!」

早速「ステータス」でスキルを確認しようとした...
その時、その刹那、








隣の家がした。

「え?」

爆発の正体は一目でわかった。そこには大きな、大きな魔物が居た。その魔物が家を木っ端微塵に粉砕したのだ。

口が歩いてるようなその醜い魔物は破壊した家を覗き込むと、再び顔をあげた。何かを咥えている...??

よく見えない...あれは.......人!!?
その家にいた人たちを貪っている!!!

「き、貴様ァ!!」

走る。走る走る。次々と人が喰われていく。許せない!!

「スキル『FROZEN』配下魔法!アイシクルフリーズ!!」

僕お得意の戦法だ。魔物は完全に氷漬けになり、身動きが取れなくなるところを両断!!!
.....する、はずだった。

「ぅがががぁああああ!!」

魔物が吠え、身震いすると氷は全て砕けてしまった。

「しまっ!」

氷で身動きを封じれたと思った僕は、無防備に近づきすぎた!

「がぃぃがが!!」

魔物はその隙を見逃さなかった。
魔物はその見た目からは想像できないほどの高速で飛び上がると、僕に向かってドロップキックを食らわせる。

「ぅがぁぁっ!!!」

なんとか避けるも、地面すら割るその衝撃に吹き飛ばされてしまう。
10数メートルは吹き飛ばされ、防壁に思いっきり叩きつけられる。

「タハッ!」

あまりの衝撃に体内の空気が全て吐き出されるのが分かる。手足も痺れてしまい、僕は無抵抗に落下する。

「ぎぎががぁぁ!!!」

変わらずの高速で魔物が向かってくる。向かってくる巨体は絶望そのものだ。ダメージを負った今の僕にそれを避ける力も時間もない。

魔物は飛び上がると、その巨体で、僕を、踏み付ける!!!!

「っっっっ!」

あまりの衝撃に、もはや叫び声すら出ない。

2、3本なんて話じゃない、体中の骨が砕けてしまっているようだ。内蔵に突き刺さる、鋭い激痛が全身を襲う。あまりの痛みに頭がおかしくなりそうだ。

「がががぁぁぎがぁあ!!!!」

魔物は勝利に吠え、次の民家へと向かっていく。また行われる殺戮を前にして、何も出来ず、僕の意識は無抵抗に消えていく….....
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...