浮雲

あるまん

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 雲がゆっくりと動いている。

 ……

 開始して既に半刻程か? 魂を摩り下ろす様な果し合いもそろそろ限界だ。
 俺の手札も尽きる頃だ……残したままくたばるなど愚の骨頂だが、それでも札を切る順を誤ると俺の首が斬られちまう。
 奴の刀が鼻先を掠める……危ない。やはり実力は奴の方が数段上だろう。俺が何とか食らいつけているのは身体強化呪術の御蔭だが、溝鼠を喰らう様な栄養失調の餓鬼でも素手で屈強な大人数人を蹂躙出来る程の効果の筈だがな……改めて奴の剣技の凄まじさを思い知る。

 雲がゆっくりと動いている。

 ガキンッ! もう幾度目かになろう金属音。一撃で数枚削られた防御呪術をかけていなければ、左肩から入った奴の太刀筋は右腰辺りまで袈裟斬りにし、俺の上半身は臓物をぶちまけつつ試し斬りの藁束の様に斜めに落ちていた筈だ。
 まだか……無論細かい仕込みなどする暇はなかったが、奴に気取られぬ様自然には出来ている筈……。
 
 雲がゆっくりと……

 今っ!

 俺は全力で距離を取り、奴の利き腕を目掛け小刀を投げるっ! それと同時に少しづつ紡いでいた呪術の言葉を完成させるっ!
 奴は自暴自棄になった様に「演技」した俺を見てほくそ笑み、狙い通りに刀を下段から上段に振り上げ叩き落す。

 奴の振り上げた刀に……

 真上にかかった黒き雷雲から、回避不可の白き轟雷が落ちた……

 ……

 消し炭になった奴の首を油断せず斬り落とし、精魂尽き果てた俺はゆっくりとその場に崩れ落ちる。
 残念だったな、俺の本職は侍……肉体強化系呪術剣士じゃなく、呪術使いなんだよ……。
 とはいえ本来こんな状況に追い込まれぬ様にすべきだな……俺は上空の雲から雨を降らし、血に塗れた身体を洗い流した。
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