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●本編●

50.〇〇からの手紙。〜〇〇への招待状〜 ①

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 メイヴィスお姉様の意外過ぎる一面にガッとテンションが上がって、ガガッと上がったテンションのまま本音をぶちかましてしまった。

わたくしが恐怖で震えていたのでないとわかると、お姉様は頬を緩めて安心したように笑み崩れ、それからだいぶ遅れて褒められていたと理解して、照れに照れだして顔面崩壊に近く喜色満面に笑ってくださった。

 ーーお姉様ったら、とっても可愛い♡ 限りなく推せるぅ~♡♡ 背後に見える仔犬さんのしっぽは振り切れんばかりに振られているし、お姉さまの屈託のない笑顔は最っ高に可愛いし、屠殺まで学んでるとかそのギャップがまたサイッコーのスパイスになって可愛らしさに拍車をかけてるのよね、もう大好きっ♡♡♡ーー

お姉様と同じくらい崩れきったニヤけ顔を晒している私の耳にお兄様たちの声が滑り込んできた。
一方は面白そうに、他方は若干呆れを含んで心配そうに、私の趣味嗜好について端的に意見を交わし合う。
ついその内容にも興味を惹かれてお2人の方に視線が吸い寄せられる。

「ライラって守備範囲広いよね(笑)」

「守備範囲…その表現はどうかと思うが、確かに許容範囲は広そうだな。」

「許容範囲(笑) 逆にライラが忌避する人物とか物事を見てみたくなるよねぇ、気になってきちゃったなぁ~♪」

「エリファス、面白がって変なことを考えるなよ。 そんなにライラが忌避するものを知りたいなら、お前の今の関心事を見せてみたらどうだ? 問答無用に忌避されるだろう、望みが叶うぞ?」

「っはは、遠慮しとくぅ~♡ ボクはライラに嫌われたくないからねぇ、兄さんと違ってさぁ~♪」

「おい、誤解を招く言い方はやめろ。 僕がいつそんな意図を持ったことがあると云うんだ? 僕だってライラに好き好んで嫌われたいとは思わないさ。」

「あれあれぇ~? 淡白な兄さんがやけに素直だねぇ、ボクにもそのくらい素直に愛情表現してくれていいのにぃ~、もちろんボクのことも大好きでしょぉ~~?」

「っは、それだけはないな。 そんな日は永遠に来ない。」

「またまたぁ~、照れちゃってぇ! 兄さんったらぁ、あ・ま・の・じゃ・くぅ~~♪」

「やめろ!」

 ーー仲良し兄弟の戯れ付き…、端的に言って最高……!!ーー

いつまでも、いついつまでも見ていられる。
ほんと打てば響くと云うか、気の置けない仲なのがよく分かる遣り取りだ。
真面目なアルヴェインお兄様と決して真面目とは言えないエリファスお兄様の絡みは不思議なほど噛み合っていて小気味よく打てば鳴り響くものだった。
見ていて飽きが来ない、きっとずっと飽きる日なんて来ないと思う。

 ーー眼福♡ 尊さしかない光景、それをこの先毎日ずっっっっと、この特等席で眺められるなんて…つらい。 最高すぎて心臓が保つ気がしないぃ~、でも目を逸らすことなんてできないっ、したくないぃ~~!!ーー

合掌して拝んでしまいながら心のなかで葛藤する。
けれど答えはもう出ている、たとえ命の危機に瀕しようとも答えはこのたった1つしか見出だせない。

 ーー命ある限り、イケメンたちの動いて話して生存している確かな躍動の様をこの目で、この耳で、この身の持てる五感の全てで余すことなく体感したい!! だから見るのをやめるなんて無理だ、ないない、一っ生~~~、無理っっっ!!!ーー

魂からの叫びを心のなかで存分に響かせていると、メイヴィスお姉様が棒立ちのまま同じようにお兄様たちの戯れ付きを見ていた。
もうガン見、かぶり付きで見ている。
その目は正しく、私の同志に相応しいある種のオタク心全開の煌めきを宿していた。

私の熱い視線に焼かれて少し驚いたように私を振り返る。
目が合った瞬間に、2人の間にピーンと通じあう共通の感情が流れるのが確かに感じられた。

どちらからともなくお互いの手を握ろうと手を差し出し、伸ばされた手を躊躇うことなく強く掴み、固い握手を交わす。

無言で交わされる固い握手を、きょとんと不思議そうに眺める兄2人。
その表情はそっくり同じで、二度とお目見えできないその貴重な瞬間を見逃してしまったことを後で激しく後悔する。


 早いもので時刻はもう間もなく21時。
私も何とか変わり映えの少ない夕餐を食べきった。
嫌々っぽいニュアンスが感じられる言葉を使ってしまったが、全然嫌じゃなかった。
というのも、私が飽き飽きしないように本当に味に工夫をこらして美味しく食べられるようにしてくれているのだ、見かけだけでは判別できない細かな気遣いがしっかり込められた最高の食事だったのだ。

誰かに作ってもらう食事がこんなに美味しくって、こんなに気遣ってもらえてると食べる度に実感できるものなのだと、初めて知った。
静かに感動していると、お父様がこれ見よがしの溜息を吐き出し始めた。
雲行きが怪しくなる予感、切に外れてくれることを期待してやまない。

「しかしぃ、いくら冷静に思い返してみてもぉ~、変わらないなぁ~~! ホントセヴィってば、やってくれるよねぇ~。 恩を仇で返すとは正にこの事、こぉ~~んな小賢しい真似してくれちゃてぇ…どうしてやろっかなぁ~~?! 彼はちょ~っと私という人間を軽~~く見誤っちゃったよねぇ~~~っ!!!」

残す品目はデザートデセール、そこまで食事を終えた段階で、お父様が渋面になりながら業を煮やしたように話を蒸し返しだした。
言葉を吐き出していくうちに段々とヒートアップしていくお父様の怒りの感情が手に取るようにわかってしまう。
忘れたままでいてはくださらなかった、今日が終わるまで忘れててくださったら良かったのに、もっと言えば一生思い出さなければよかったくらいだ。

 ーーうぅ~ん、お父様の大魔王化の元凶が未来の栄えある騎士団長様だったなんて…。 でも一体全体何を思ってお父様の逆鱗に触れるようなやらかしをなさってしまったのだろう??ーー

「セルヴィウス卿がなぜそのようなことを? 父上とは浅くない付き合いと思ってましたが。 一体何故このようなことに? 手紙を書かれたのは国王陛下とも仰っていましたよね、なんの手紙なのです?」

先程は一も二もなくお父様と同じように物騒なお考えを口走っていらっしゃったのに、相手がセルヴィウス卿とわかると流石に困惑を隠せないようだ。

お父様の盛大な独り言、としてそっと聞こえないふりをしたほうが良いのでは?と思ってしまったが、我が家のお兄様ーずは気にせずドンドコ質問をぶっ込んでいく。

 ーーパーティーの前、お父様にあれだけ失礼な言葉をかけられても苦笑だけで済ませてくださる穏やかな紳士でお気遣いもバッチリできる方なのに、お父様の逆鱗ポイントを見誤るなんて、変よね? そんな初歩的なミスを犯すなんて、不思議よねぇ?? お父様が洩れなくおこになるってわかった上でやらかしたのだとしたら、それはどれほど彼の騎士様にとっての重要事項なのかしら???ーー

「セルヴィウスきょーがどれだけの人格者かは知らないけどぉ、後先考えず挑発的な行動を取る人間だとは、話に聞いた限りの人物像からは想像できなかったけどなぁ~? こんな突飛な行動にでるからには、それなりに正当な理由があるってわけだよねぇ~~??」

私の中でも、セルヴィウス卿は自分から仕掛けるような好戦的なイメージは皆無で、俄に信じがたい。
轟々と燃え盛る炎ではなく、穏やかに凪いだ水面のイメージが強い。

そしてお兄様たちの質問が追加される度に、お父様の顔面に怒りマークが追加されていく。
このままではいつお父様の怒りが大爆発するかわかったものではない。

 ーーすでにお顔の見える範囲が全部怒りマークで埋まっている! 頭部が丸ごと怒りマークになるのも時間の問題なくらい、隠す気のない怒気に塗れていらっしゃるものぉ~っ!!ーー

ビクつきながらお兄様ーずの質問への回答を固唾を飲んで待つ。
お父様はたっぷりと間を空けてから、機嫌の悪さに比例してずいぶん重たくなった口を開いた。

「あーーーーーーーーーーーーー、言いたくない。 口にしたくない内容だけれどもねぇ~…。」

低い声で唸りながら、お父様が上着の懐を探り一通の封書を取り出した。

「………はい、これ、答えはこの中に書いてあるよぉ。 ライラ、君宛だぁ~…。 何度燃してしまおうと思ったことかぁ、でもできなかったよねぇ~、ご丁寧に玉璽印が押されているから私にはできないんだぁ~~。」

お父様の指に挟まれていた封書がどこからともなく起こった風にふわりと舞い上げられ、そのまま風の流れに乗って運ばれて私の目の前に届けられた。
この封書の中に収められた手紙にセルヴィウス卿が今回とった行動の答え、もとい動機が記されているという。

 ーーうっわぁ~! 魔法っぽい!! でもこの封書…開いた瞬間に爆発とかしないですよね?!!ーー

魔法が使われるさまを何度となくこの目で見ているが、未だに一々感動してしまう。
ファンタジーありきの世界に転生しているという実感が未だに薄いためだろう。
魔法も計4回程使ったが、自分で意識して使えたのは1回のみ、あとの魔法は偶々とか、怒りに任せての偶発的なものだったからか自分で自在に使える認識が皆無だった。

「これが国王陛下からのお手紙、ですか…? でもお父様、私、そのぉ~、多分書かれている文字が読めないと思います。」

「はぁ…、ふつーーの手紙で済んでれば…ここまで問題視しなかったんだけれどねぇ~…。 開いてみてご覧、そうすれば嫌でも内容は理解できてしまうからねぇ。」

お父様は先程からお馴染みとなった溜息をまたも吐き、眉根を寄せて心底嫌々な雰囲気のまま、それでも開封することを促してきた。

妙な言い回しに違和感を覚えるも、それ以上はお父様の言葉の意味を深く考えず素直に行動に移す。
言われた通り封書を開けるため、目の前に浮かび続ける手紙にそっと、両手を捧げ持つような格好に伸ばす。
指先が僅かに触れたその瞬間、封書を覆っていた魔法はたち消えて、軽い重みとともに封書が手の中に落ちてきた。

前世のメールのアイコンでお馴染みの横型の封筒で、開き口のある後ろを見ると封蝋はされていないのに糊付けされたようにピッタリとその口は閉じていた。
ペーパーナイフ的な物が必要かと考えて、糊付け具合を確認しようと開き口に軽く触れた瞬間、音もなく封が解かれ、独りでに中の手紙が取り出しやすいように口が開いた。

 ーー?! これも魔法!? 取り敢えず心臓に悪いから自動開閉機能付きだってどこかに注意書きしておくか一言説明して欲しい!!!ーー

ドキドキと鼓動が逸り出し、手汗がじとりと滲んでしまう。

 ーー私への手紙モノらしいけど、これって今見ないと駄目かしら? なんだかこの手紙の内容を見たら、取り返しの付かない事態になってしまいそうな予感が……、いや、もう遅いのか。 コレが手元にある時点で、もうどうやっても取り返しなんてつかないか。 えぇーーいっ、女は度胸! 当たって砕けるのみっ!!ーー

逡巡を振り払うように、無駄に勢いよく中に収められた手紙を引っ張り出す。
封筒をテーブルに置き、四つ折りに畳まれた手紙を開いてみる。
それまでしっかりと折りたたまれていたはずの紙は、広げると折り跡は消え、元からこのままであったかのようにピンと張った状態に戻った。
間違いなく何かしらの魔法が施された紙であり、その中でも最高級品、ロイヤルワラントに相応しい品質であろうことが誰かに確認しなくてもわかった。

 ーー手触りからして違う、気がする!ーー

しったかぶって違いがわかる風を装いながら、手紙の内容に目を走らせる。
そこには黒に金粉のようなキラキラした粉が混ざったインクでミミズが這ったような文字で数行の文章が書かれていた。
案の定読めないはず、なのに、不思議とこの文字の意味がパッと理解できてしまった。
まるで言葉の意味が直接頭の中に書き込まれたみたいに、意識しなくても理解できてしまった。

書かれた内容は次の通り。

[ライリエル・デ・フォコンペレーラに通告す、
 王都にて2年の後に開かれる洗礼式後の舞踏会へ
 レスター・デ・オーヴェテルネルをカヴァリエとし、これに必ず参加することを命ず。
 これはまごう方無き王命であることをここに宣する。
 ローデリヒ・ロワ・フリソスフォス]

 ーーん?ーー

ごしごし。

 ーーんんっ?!ーー

ごーし、ごしごし、ごーーーしっ!

 ーーんぇえっ?! 王命!? どうしてぇっ??!ーー

何度目を擦ってみても書かれている内容に変化はない。
読み間違えているというありえもしない可能性にかけてみだのだが、徒労に終わった。
擦り過ぎた目元が痛む、でもそれ以上に頭が痛い、頭蓋骨がパカッと割れそうなほどの頭痛に苛まれる。
擦って滲んだ涙はそのままに、自然と震えてしまう声で、それでも何とか振り絞って疑問の言葉を紡ぐ。

「レスター、君と…洗礼式後の舞踏会に参加するのが、…王命? これは…話が、ちょっと壮大になり過ぎなのではございませんか?! 私に参加を強制するにしても、王命まで使わねばならないその理由は何なのでしょうか??!」

「何を…?! 陛下は何故このような事で王命などと!?」

「やっぱりぃ、王城爆発させちゃおっかなぁ~~♪」

お父様の背後に瘴気の渦再発生、危険極まりない!!

「お父様っ?!」

「あっはっは♪ いぃ~んじゃない? 面白そうだしぃ、ボクは見てみたいなぁ~、できればその様子を現地でしっかりと眺めたいなぁ~~♪」

「エリファス、馬鹿なことを言うな! 第一父上に王城を破壊することは現実的に不可能だ。」

「いやいやぁ、それはどうかなぁ~? 解釈によるからねぇ~~! 魔術師の制約のことをアルヴェインは言っているのだろうけれどねぇ、そもそもこの制約の定義が曖昧だからねぇ~、抜け道はいくらでも考えつくともぉ~~!! 要は『王族に仇なす行為』にがいとうする王族に対する邪な感情を抱かなければぁ、問題ないということさぁ~~!!」

すっごくいい笑顔で物騒な持論を展開しだしたお父様に肝が凍りつきそうなほど冷え切る。
しかしそれも一瞬で解消された。

「コーネリアス、駄目よ。」

「はっはーー! 言ってみただけだともぉ、勿論実行に移すことなどしないよぉ~~!! 机上の空論というやつさ♪」

コロリと程度を反転させ、先程までの剣呑な雰囲気はどこへやら。

 ーーお父様って、ガチギレ気味だったのにお母様には即降参とか、ブレないわね!ーー

お母様への弱弱な態度を隠そうともせず、寧ろ堂々と態度に示すところが潔くってある意味尊敬してしまう。

 ーーって、そうじゃない! 今最も重要なのは、どうやってこの王命を穏便に処理するかだわ。 でも一度宣下された王命をどうこうする方法なんて、3歳幼女、その実精神年齢は16歳だろうと知識不足な私には到底思いつきもしないわ…。 これって、バッドエンドフラグ樹立の通達も兼ねているのかしら?ーー

限りなく不穏な未来しか視えない。
こんな不幸の手紙モドキを受け取るに至った原因である、穏やかな紳士でお気遣いもバッチリできるはずだった、私の中の好感度バリ高だった騎士様への信頼度はガクンと急降下、そのまま坂を転がり落ちるように下がることはないが上がる兆しも見いだせず、その位置から平行線を辿りだしたのは仕方のない出来事だった。
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