ヒロインが美少女かゴリラかで主人公の行動は変わるのか!?

三船

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第2話 Aパート(ヒロインが美少女)

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契約討滅者テスタメント?アビス?訳が分からない。優は混乱していた。突然、怪異に襲われて、転校生がそれを退治して、自分の中にある何かも怪異を退けた。状況の整理が追いつかない。ただ、今は夢の世界にいるわけではなく、現実世界にいるということは理解できる。そして、これらが現実に起こったことであるということも。

夜の冷たい風が吹いた。強い風ではないが、優の混乱している頭に冷静さを取り戻す助力を加えてくれた。いつの間にか元の世界に戻っている。家の明かりも見える。

「何が起こったんだ?雪宮、何か知っているんだろう?」

優は恐る恐る目の前の黒髪の美少女に問いかけた。漆黒の刃はまだその手に握られている。

「さっきも言ったでしょ。あなたを襲ったのはアビスよ。太古の昔より存在していて、人を襲ってきたわ。その正体は未だに不明なところが多い存在よ。そのアビスから人を守るのが私達よ。」

「私達って、他にもいるのか?その、雪宮みたいにアビスを退治する人が。」

「ええそうよ。アビスを討滅する力を持つものは私の他にもいるわ。」

「教えてくれ、俺に何が起こっているんだ!?今の状況が全く理解できない。」

「その前に、香上君。あなたは信用できるの?あなたはテスタメントでもないのにアビスを倒したのよ。」

雪宮朔夜は手に持っている日本刀の切っ先を優の顔の前に持ってきた。その目は友和の目ではなく、警戒の目をしている。下手に動けばいつでも斬りかかるぞと警告をしている目である。

「俺は敵じゃない・・・はずだ。さっきの力のことは知らない。何故あんなことができたのかも分からない。あの化け物に襲われた時は殺されると思った。必死だったんだ。何が起こったかなんて俺には・・・。」

「そう・・・。でも、あの力は危険だと思うわ。もし、その力を人に向けたらどうなるか分かるわよね。もしそうなった場合はあなたも討滅の対象よ。」

朔夜は警戒を解かない。アビスを一瞬で葬り去ったあの力は脅威になりかねない。朔夜は今のうちに討っておくべきか、それとも様子を見るべきか心の中で迷いあった。優の言葉に嘘はないだろうと思う、しかし、不明なところが多い。手放しで信用するわけにはいかない。

「・・・。ああ、俺も大切な人を傷つけたくはない。その時は雪宮の好きにしろ。」

優はじっと朔夜のことを見つめた。討滅されるといってもまだ実感はない。それでも、自分の大切な人を傷つけたくはないという思いは本物である。

「その言葉、忘れないでね。」

朔夜はそう言うと、刀を戻し、踵を返してその場を去っていった。

夜の冷たい風が吹く。やはりこれは現実なのだと肌の寒さが教えてくれた。


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次の日。朝から朔夜の周りには諦めの悪い男子が大勢取り囲んでいた。周りの女子の機嫌は朝から悪くなる一方である。

「雪宮さん、相変わらずの人気ぶりだね。」

優の隣で綾が話しかけてくる。先日、担任から雪宮のことを任されていたが、実質何もすることができない。

「あぁ、そうだな・・・。」

優は上の空であった。男子の壁の隙間から朔夜の顔を見つめる。昨日のことが頭から離れない。アビス。テスタメント。そして、自分の中の力。この力は本当に人を傷つけてしまうのうだろうか?雪宮はいつからあんな化け物と戦ってきたのだろうか?

「優君も雪宮さんのことが気になる?」

綾は少し寂しそうな顔をして問をかけてきた。

「あ、いや、そんなんじゃねえよ。き、昨日はバイトでちょっと大変だったから、それを引きずって。」

「もう、だから、無理しちゃダメだって言ってるのに。」

「別に、無理は・・してねえよ。」

「そう。ならいいんだけど。」(いつまでたっても嘘が下手だなぁ。)

綾は笑顔を取り戻したが、どことなく寂しそうな表情だった。

「はい。席についてください。」

1時間目の現国の先生が来た。朔夜の周りの男子も一斉に自分の席に戻っていく。朔夜は無表情のままで席に座っていた。

綾はどこまで察したのだろうか?自分の嘘はバレていたのだろうか?綾は分かっていても知らないでいてくれることがある。優にとって今はそれが助かる。綾に相談できるような内容の話ではない。巻き込むわけにもいかない。もし、自分の力が大切な人を傷つけるようなことがあれば。昨日、自分の言った言葉が今になって突き刺さる。


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放課後、朔夜は大勢の男子に声をかけられたがその全てを無視して早々に帰宅した。そんな惨敗兵を横目に優も帰宅の準備をしている。今日はバイトがない日である。こんな時にバイトがなくて助かったと思う。

「香上。今からカラオケ行かね?女子も来るしよ。桐谷さんもどう?」

佐伯がいつもの調子で優に声をかけてきた。佐伯は無残な敗者の仲間にはならず、男子が朔夜に行っている間に、機嫌の悪くなっている女子に上手いこと話をして遊びに行く約束をしてきたのである。そういうところは非常に計算ができる。

「すまん、今日はバイトだ。」

「佐伯君ごめんね。私も今日は部活があるから。」

「そうか、んじゃ、また誘うわな。」

佐伯はそう言うとそそくさと教室を後にして、女子と合流していったのである。

「じゃあ、俺はバイトだから先に帰るわ。」

「うん、無理し過ぎちゃだめだよ。」

「分かってるって。」

優は綾と別れて早々に家に帰宅した。当然、バイトは休みである。カラオケに行くような心情ではない。どうしても気になってしまう。自分と同じ年の華奢な少女が化け物と戦っている。自分も助けられた。自分の中には化け物と戦う力がある・・はず。煮え切らない。ふつふつと沸いてくるものはあるが、自分に何ができるのかというところで静まってしまう。

優はベッドの上に寝ころびにながら天井を見上げる。何もする気が起きないというより何も手に付かない。今夜も雪宮は危険なことに向かっていくのだろうか?自分には何もできないのではないか?あの力は雪宮の役に立てるのではないか?ぐるぐると思考が回る。同じことを何度も繰り返し考えてはまた同じことを考える。時間だけが無慈悲に進んでいく。同じところをぐるぐる回っている自分を置いて先に進んでいく。

「あああああ、ちくしょう!もう!」

優はバッと立ちあがり、日の沈み切った街の中に飛び出していった。


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「何やってんだ俺は。これじゃまるでストーカーじゃねえか・・・。」

宛もなく夜の街を探す。どこで起こるか分からない。見当もつかない怪奇現象とそれを止めにくる少女を探して。雪宮が見つかる保証はない。出会えたとしてもどうするかなんて考えてもいない。邪険にされるだけかもしれない。その可能性が一番高いと思う。それでも、家でじっとしているのは我慢ができなかった。

ただ、ただ歩く。歩き続ける。それしか方法はない。歩いていればいずれゴールにつくということもない。ただ歩いているだけである。どこに行けばいいかも分かってはいないのだから。人気の少なそうなところを重点的に歩く。人気のないところが一番可能性があると思われた。根拠はアビスに襲われた時には人気がなかったから。それだけである。

3時間は彷徨っただろうか。何も起きない。当然だろうなと諦めて家路につくことにした。自分でもバカなことをやったと思う。このバカなことを自分一人だけしか知らないことが唯一の救いであった。

腹が減った。そう言えば夕飯を食べていない。コンビニにでもよって弁当を買って帰ろう。今日はもう歩き疲れた。

いつも使っているコンビニがあるそこに行こう。まだ弁当残ってるかな?大したものは残ってないかもしれない。おにぎりでもいいか。カップラーメンも付ければそれなりの夕食だ。明日も学校だし、あまり疲れを残したくはないな。そういえば、歯磨き粉もなくなってたっけ。ついでに買っていこう。

まだ、着かないのかな?もうすぐコンビニが見えてくるはずだが・・・。そこで気が付く。この感覚は知っている。3度目だ。いつの間にか真っ暗な空間に入り込んでいて、周りに人の気配がなくなっている。自分がどこにいるのか分からなくなる感覚。1度目よりは2度目の時の感覚に近い。まだ、自分の立っているところを理解することができている。住宅の明かりは消え、街灯だけが道を照らす世界。それ以外のものは闇だけ。

探していたものが見つかった。しかし、どうすればいい?昨日みたいに助けに来てくれる保障なんてどこにもない。あの力があれば戦えるか?どうやって使う?昨日は無我夢中でどうやったかなんて覚えていない。もうすぐアビスがその姿を現すはずだ。無計画に感情だけで動いたことを今更ながらに後悔が襲う。そもそも今生きていることが奇跡なのではないかと。そんなことを思ってもどうしようもない。今から来る脅威に対抗しないといけない。やるしかない。できるはずだ。

優は身を構えて迫りくる何かに備える。闇の向こうに目を凝らす。いる。何かが闇の奥に潜んでいる。その何かはゆっくりと近づいてきてその姿を少しずつ露わにしだした。

その姿に一番近いものはサソリだった。尻尾の無いサソリ。何よりもサソリと違うところはその大きさ。車よりも大きな巨体である。真っ黒の鎧を着たような硬そうな外皮に覆われたサソリのような怪物が目の前に現れた。昨日見たアビスとはまた別のタイプのやつなのだろう。

やってやる。少女が危険を顧みず命を懸けて戦っている。華奢な体であんな大きな化け物と戦うなんて無茶に決まっている。今度は自分が雪宮を助けないと。

優は右手を突き出して強く念じる。目の前にいる人間の敵を滅ぼすように。昨日のように圧倒的な力で闇を振り払う、そなイメージを強く引き出す。

するとどうだろう。何も起きない。ただ、右手を前に出しているだけ。世界に与えた影響はそれだけである。少年が右手を突き出した。これだけである。アビスはお構いなしに近づいてくる。優は焦り始めた。アビスに遭遇しても何とかなるかもしれないという期待があった。やはり、自分の取った行動はバカだった。冷静に考えればどうやったら使えるのか練習してから来るのが当然である。感情だけで行動したため、こんな当たり前なことも見落としてしまった。なんてバカなんだろう。

「香上君!?なにやってるの!」

聞き覚えのある、凛とした声が聞こえてきた。後ろから朔夜が声をかけてきたのである。

「い、いや、あの、コンビニで弁当を・・・。」

嘘ではない。が、本当の目的を言うことはできなかった。怪物と戦っている雪宮の力になりたくて探していたとは。
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