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第5話 Bパート(ヒロインがゴリラ)
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優の中に力の正体。原初のアビス〝アジ・ダハーカ”。愛莉栖はまだ何かを知っているようであった。それを知ることが怖い。しかし、制御できなければ討滅の対象になる。
「原初のアビスとはなんですか?」
優は恐る恐る声を上げた。ビビっていることを自覚する。あまりにも強大な力が自分に宿っている。それが怖い。
「まぁわしにも分からんことが多いが、この世に現れた最初のアビスの一体じゃ。他にも原初のアビスはおるが、ほとんど確認されておらん。ただ、意志を持ったアビスで強大な力を持っておることははっきりしておる。今、原初のアビスについて説明できることはそれくらいじゃ。」
愛莉栖は宥めるように優へ声をかけた。優が不安を感じていることを察してくれているのであろう。流石年の功といったところか。優はさらに質問を続けた。
「アークとは何ですか?俺はそのアークを持っているって言っていましたよね。それに、俺が器だって。俺は何なんですか?」
「総帥、私もそれは気になります。アークとは何ですか?ただの箱っていう意味ではないですよね?」
朔夜も質問をしてきた。すぐに消えはしたものの巨大なアビスの影が出現した。朔夜にとって見逃せる案件ではない。
「そう焦るでない。アジ・ダハーカをも宿すことのできる‟箱”。正直わしにも分からん。ただ、この小僧はその強大な箱を持っておる。それだけは事実じゃ。実に興味深いではないか。楓さん、小僧に触れてみてどう感じた?」
「ああ、なんて言うか敵意は感じられませんでした。大丈夫だと思いますよ。」
本当に大丈夫なのか?この婆さんは耄碌しているだけではないのかと優は疑念を抱く。いくら死期が近づいているからって自分から飛び込むようなものでもないだろう、大丈夫なんて言ってしまっていいのかと。
「楓さんがそう言うならそうなのじゃろうな。」
「・・・。」
朔夜は難しい表情をしている。楓のことを信用していないわけではないが、手放しで大丈夫と言い切ってもいいものなのだろうか。先ほど出現したアビスは今まで見たことなのないほど強大なものであった。今でも背中に冷や汗をかいた感触が残っている。
「ということでじゃ、この小僧をアストラルに入れようと思う。アビスに対抗できるのは同じアビスを宿しているからじゃろう。それも飛び切り強烈な奴をな。」
愛莉栖はあっさりとした感じで話を続けてきた。しかもかなり重要な内容であるにも関わらず。
「!?」
優は突然の申し出に驚いて声が出ない。
「ちょっと待ってください!総帥は今の見たでしょう!あんな巨大なアビスが宿っているんですよ、危険です!」
朔夜が慌てて声を出す。総帥がとんでもないことを言い出した。当然反対する。
「総帥。急過ぎはしませんかね?」
静観していた柳も意見を出す。朔夜ほど危険視はしていないが、それでも決断が早すぎる。
「わしは小僧が来る前から決めておったぞ。朔夜から報告を受けた時に即決したんじゃがな。楓さんも言っておったろう、『大丈夫』とな。なら、これほどの力、欲して当然じゃろう。小僧、お主はどうじゃ?悪いようにはせんぞ。」
愛莉栖が優に誘いを出したことで視線が一斉に優へと集まる。注目を浴びて落ち着かない様子であるが、何かを言わないといけない。断りたい。正直言って即答したい。『断ります』と。しかし、いきなり即答しない方がいいだろう。なんとかアストラルに入らないで済むように話を持っていかないといけない。
「いや、あの、いきなりアストラルに入らないかと言われましても、俺は力も制御できないですし、戦力にはならないかと思いますが・・・。」
優はやんわりと断る理由を並べる。それに朔夜が続いてくれた。
「そうですよ、総帥。まだ分からないことが多すぎます。どんな力かも分かってないんですよ。それに彼が言うように戦えません!」
朔夜が抗議の声を上げる。楓は特に意に介した様子はなく事の成り行きを見守っている。達観しているのか、年のせいで耄碌しているのかは分からない。
「そう言うなら、朔夜、お主が小僧を鍛えろ。小僧も力の制御ができないのであれば、いつでも討滅対象になるぞ。戦えないというなら、戦えるようにしろ。力を制御できないのなら制御できるようにしろ。できなければ討滅対象じゃ。」
愛莉栖は朔夜を見上げてきっぱりと言い切った。愛莉栖はけして身長が低いわけではないが、それでも巨体の朔夜を見上げる形になる。白髪の黒染めと厚化粧で見た目を若くしようとしているが、63歳の人生経験は伊達ではない。くぐってきた修羅場も知識も何もかもが朔夜を上回っている。愛莉栖にこう出られると朔夜は対抗する手段を持ち合わせていない。
「・・・分かりました。彼を戦えるように鍛え上げます。」
朔夜は渋々ではあるが、こう答えるしかない。アストラルの一員として、テスタメントとしてその責務を果たす。
「よし、聞いたか小僧。これからお主はアストラルの一員じゃ。しばらくは朔夜に鍛えてもらえ。」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。俺はまだ入るとは言っていませんよ!?」
「なら、討滅されたいか?お主の力を持ってすればアストラルと戦うことは可能かもしれんな。」
優はそこまではっきりと言われるとは思わなかった。やんわりと断れば、何となくこの場は解散になって、そのままずるずると引き延ばして結局は入りませんでしたという流れを作ろうとしていたが、ここまで明確に討滅対象になると言われると動揺を隠せない。
「あの・・・。取りあえず、体験入隊っていうことでいいですか?」
優は妥協点を探すことにした。話し合いでは勝てそうにない。相手の良いように持っていかれる。
「煮え切らん小僧じゃのう。覚悟を決めんか。まあ、それでもよいわ。」
「あなたも災難ね。アビスに襲われて生きていられたのは運が良いと言えるけど、これじゃあね。」
朔夜が憐れみの言葉をかけてくる。一体どんな過酷な運命が待っているのだ?命が助かってもこれじゃあねとは、そういう意味なのか?優は不安になる。
「ここでうだうだ話をしていても始まらん。とにかく訓練じゃ。朔夜、小僧を連れて今から訓練にかかれ!」
「へっ・・・?」
今からやるの?優と朔夜はそんな顔をして愛莉栖の言葉を受け止めた。受け止めさせられたといった方が正しいが、とにかく、今から訓練を開始することになったのである。
2
「まずは基礎体力よ。」
優と朔夜はトレーニングウェアに着替えて、訓練場に来ている。朔夜が来ているトレーニングウェアは男性用であり、優のよりサイズは大きい。訓練場は先ほど楓に優を見てもらった部屋のさらに奥にあり、マットが敷かれた広い空間である。地下にある空間ではあるが、並みの運動場くらいの広さはある。こういう部屋が他にもあるということで、訓練のための機材が置かれているとのことであった。この部屋は主に、基礎体力と模擬戦をやるとのことである。
「あああ、いきなり訓練とか簡便してくれよ。今日は俺の中の力を解明するだけじゃなかったのかよ・・・。」
優はさっそく弱音を吐いている。
「もう諦めたら?どの道逃げられないわよ。その力が暴走すれば冗談じゃなくなるわよ。」
結局はそこに行きつく。力を制御できなければ討滅対象。この一言に収束する。当然そんなことは嫌である。覚悟を決めないといけないのであろうが、その覚悟が決まらない。
「いや、まぁ分かってはいるんだけどな。俺に選択肢がないことは。結局こうなる運命なんだろうなって。」
「物分かりが良くて助かるわ。」
「で、何をやるんだよ?」
優は不満気な声を出している。
「まずは走り込みからね。」
「そうか、当然そこからだよな。」
優は体力にはそれなりに自信があった。マラソンの授業も嫌いではない。クラスで速い奴と競うのは楽しかった。走り込みと聞いて、普通の訓練であることに少し安心した。
「私も一緒に走るわよ。」
「え!?雪宮と一緒に走るのか?お前についていくなんて無茶だろ、いきなりは!?」
「手加減はするわよ。ほら、もう行くわよ、付いてきて。」
朔夜はそういうと訓練場の中を走り始めた。優も仕方なく付いていく。結構ペースが速い。優よりも大きな体をしているが、優よりも俊敏である。筋肉もかなり付いている。無駄な筋肉はない。体力も相当なものなのだろうと推測する。
走って、走って、走る。只管走る。広い部屋の中をぐるぐると何週も回る。1週100m以上はあるだろうと目算する。こんな地下深くにこれほど広い空間があったなんて、そんなことを考えながら走る。
朔夜は一定のペースで走り続ける。幻魔と契約するための試練を乗り切るために過酷な訓練を乗り越えてきたのであろう。朔夜はまだ息を切らさずに走っている。優も一応は付いていく。
もう、どれくらい走り続けたであろうか、徐々に距離を離されて周回遅れも何周目になるか分からないくらいにまで朔夜に差をつけられた。優はもう限界に達していた。そして、ついに倒れこむ。
「はぁ、はぁ、もう駄目だ。走れねえよ。」
「仕方ないわね。もういいわよ。」
朔夜が声をかけてきた。息一つ切らしていない。どんな体力をしているんだこいつは。優は驚愕した。
「準備運動は終わりよ。次の訓練に行きましょう。」
「え・・・?」
朔夜の無慈悲な言葉に優はさらに驚愕するのであった。
すでに体力は限界を迎えていたが、朔夜が付き添って訓練を続ける。筋力トレーニングや反射神経を鍛えるトレーニング。模擬戦闘までやった。時刻はすでに夜を迎えている。休みなしでぶっ続けでの訓練。特にきつかったのは模擬戦闘訓練。戦闘の素人である優に対して、朔夜の剛腕が襲い掛かる。恐怖と痛みと疲労で優の体はすでに死んでいるのではないかと思う程重かった。
「今日はこれで終わりよ。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。もう・・・駄目だ・・・・。」
ようやく終わった。これほどハードなものとは想像もしていなかった。これからも付いていくことができるのだろうか。絶対に無理だろうと思う。
「そう、でも今日の訓練はまだ準備段階よ。本格的な訓練が始まればもっときついわよ。」
「まじかよ・・・・。」
優は死んだ魚のような目をしている。仕方のないことか、テスタメントの訓練に一般人が付いてくること自体、無理がある。
「取りあえず、今日はこれで終わりよ、立てるようになったら、部屋を出て右に行きなさい。シャワー室があるわ。」
朔夜はそう言って、訓練場を後のしたのであった。
「ああ、死ぬ。これは死ぬわ・・・。」
今日何度目になるか分からない愚痴をこぼした。明日は学校がある。いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。しかし、まだ起き上がる体力が戻ってきていない。あと20分してからシャワーを浴びに行こう。それまでは指一本動かすこともしないでおこう。もう今は何も考えることができない。
それから、20分間何もせず、何も考えず、何も動かさずに体力の回復だけに専念をした。だが、20分間で回復できたことは立ち上がることくらいであった。フラフラとして足取りで訓練場を出る。右に行けばシャワー室があると言われた。明日の学校に備えて、シャワーを浴びて帰ろう。優は朦朧とした意識の中を歩いて、シャワー室にたどり着いた。距離は近いが、重い足がかなりの距離を歩いたような錯覚を覚えさせた。
そして、シャワー室に入るために扉を開ける。扉の奥から入ってきた光景に朦朧とした優の意識は一気に覚醒へと浮上した。
「ぎゃああああああああーーー!!!」
優が悲鳴を上げた。そこには筋肉ダルマがいた。正確にはシャワーを浴び終わって着替えている最中の朔夜であるが、優が見たものは漫画でしか見たことのないような筋肉の塊。女性の体とは程遠いその肉体。ある意味で美しいと言えなくもないかもしれないが、優は筋肉が好きなわけではない。
ガチガチに鍛えあげられた筋肉の山を目の当たりにして、優は這う這うの体でシャワー室から出て行った。
「どういう意味よそれは!!!悲鳴を上げるのは私の方でしょうが!?」
タオルで前を隠しながら、朔夜は怒号を上げた。シャワー室を使えとは言ったが、ここは女子のシャワー室である。しかも、人の裸を覗いておいて、悲鳴を上げて逃げていくとはどういうことか。ぶっ殺してやろうかと思う。
「ご、ごめん、シャワーを借りようと思って、入ったら雪宮がいて、そういう意味じゃないんだ。なんていうか、びっくりして、とにかくごめん!」
シャワー室の外から優の言い訳が聞こえてくる。
「まぁいいわ。次の訓練は楽しみにしておいてね。生き残ったことを後悔させてあげるから!」
「ご、ごめん!まじでごめん!それだけは勘弁して!」
雪宮の裸を見てしまった。しかも、かなり怒らせてしまった。悲鳴を上げたのはまずかった。間違えて入ってきたと正直に謝ってすぐに出ていけばよかったのだが、衝撃的な映像に思わず声を上げてしまった。
「はあ・・・。後でちゃんと謝ろう。」
取りあえず、今度こそ男子シャワー室に入って、シャワーを浴びた。その後、優は土下座して何とか朔夜に許しを得ることができて長い1日は終わりを告げたのであった。
優の中に力の正体。原初のアビス〝アジ・ダハーカ”。愛莉栖はまだ何かを知っているようであった。それを知ることが怖い。しかし、制御できなければ討滅の対象になる。
「原初のアビスとはなんですか?」
優は恐る恐る声を上げた。ビビっていることを自覚する。あまりにも強大な力が自分に宿っている。それが怖い。
「まぁわしにも分からんことが多いが、この世に現れた最初のアビスの一体じゃ。他にも原初のアビスはおるが、ほとんど確認されておらん。ただ、意志を持ったアビスで強大な力を持っておることははっきりしておる。今、原初のアビスについて説明できることはそれくらいじゃ。」
愛莉栖は宥めるように優へ声をかけた。優が不安を感じていることを察してくれているのであろう。流石年の功といったところか。優はさらに質問を続けた。
「アークとは何ですか?俺はそのアークを持っているって言っていましたよね。それに、俺が器だって。俺は何なんですか?」
「総帥、私もそれは気になります。アークとは何ですか?ただの箱っていう意味ではないですよね?」
朔夜も質問をしてきた。すぐに消えはしたものの巨大なアビスの影が出現した。朔夜にとって見逃せる案件ではない。
「そう焦るでない。アジ・ダハーカをも宿すことのできる‟箱”。正直わしにも分からん。ただ、この小僧はその強大な箱を持っておる。それだけは事実じゃ。実に興味深いではないか。楓さん、小僧に触れてみてどう感じた?」
「ああ、なんて言うか敵意は感じられませんでした。大丈夫だと思いますよ。」
本当に大丈夫なのか?この婆さんは耄碌しているだけではないのかと優は疑念を抱く。いくら死期が近づいているからって自分から飛び込むようなものでもないだろう、大丈夫なんて言ってしまっていいのかと。
「楓さんがそう言うならそうなのじゃろうな。」
「・・・。」
朔夜は難しい表情をしている。楓のことを信用していないわけではないが、手放しで大丈夫と言い切ってもいいものなのだろうか。先ほど出現したアビスは今まで見たことなのないほど強大なものであった。今でも背中に冷や汗をかいた感触が残っている。
「ということでじゃ、この小僧をアストラルに入れようと思う。アビスに対抗できるのは同じアビスを宿しているからじゃろう。それも飛び切り強烈な奴をな。」
愛莉栖はあっさりとした感じで話を続けてきた。しかもかなり重要な内容であるにも関わらず。
「!?」
優は突然の申し出に驚いて声が出ない。
「ちょっと待ってください!総帥は今の見たでしょう!あんな巨大なアビスが宿っているんですよ、危険です!」
朔夜が慌てて声を出す。総帥がとんでもないことを言い出した。当然反対する。
「総帥。急過ぎはしませんかね?」
静観していた柳も意見を出す。朔夜ほど危険視はしていないが、それでも決断が早すぎる。
「わしは小僧が来る前から決めておったぞ。朔夜から報告を受けた時に即決したんじゃがな。楓さんも言っておったろう、『大丈夫』とな。なら、これほどの力、欲して当然じゃろう。小僧、お主はどうじゃ?悪いようにはせんぞ。」
愛莉栖が優に誘いを出したことで視線が一斉に優へと集まる。注目を浴びて落ち着かない様子であるが、何かを言わないといけない。断りたい。正直言って即答したい。『断ります』と。しかし、いきなり即答しない方がいいだろう。なんとかアストラルに入らないで済むように話を持っていかないといけない。
「いや、あの、いきなりアストラルに入らないかと言われましても、俺は力も制御できないですし、戦力にはならないかと思いますが・・・。」
優はやんわりと断る理由を並べる。それに朔夜が続いてくれた。
「そうですよ、総帥。まだ分からないことが多すぎます。どんな力かも分かってないんですよ。それに彼が言うように戦えません!」
朔夜が抗議の声を上げる。楓は特に意に介した様子はなく事の成り行きを見守っている。達観しているのか、年のせいで耄碌しているのかは分からない。
「そう言うなら、朔夜、お主が小僧を鍛えろ。小僧も力の制御ができないのであれば、いつでも討滅対象になるぞ。戦えないというなら、戦えるようにしろ。力を制御できないのなら制御できるようにしろ。できなければ討滅対象じゃ。」
愛莉栖は朔夜を見上げてきっぱりと言い切った。愛莉栖はけして身長が低いわけではないが、それでも巨体の朔夜を見上げる形になる。白髪の黒染めと厚化粧で見た目を若くしようとしているが、63歳の人生経験は伊達ではない。くぐってきた修羅場も知識も何もかもが朔夜を上回っている。愛莉栖にこう出られると朔夜は対抗する手段を持ち合わせていない。
「・・・分かりました。彼を戦えるように鍛え上げます。」
朔夜は渋々ではあるが、こう答えるしかない。アストラルの一員として、テスタメントとしてその責務を果たす。
「よし、聞いたか小僧。これからお主はアストラルの一員じゃ。しばらくは朔夜に鍛えてもらえ。」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。俺はまだ入るとは言っていませんよ!?」
「なら、討滅されたいか?お主の力を持ってすればアストラルと戦うことは可能かもしれんな。」
優はそこまではっきりと言われるとは思わなかった。やんわりと断れば、何となくこの場は解散になって、そのままずるずると引き延ばして結局は入りませんでしたという流れを作ろうとしていたが、ここまで明確に討滅対象になると言われると動揺を隠せない。
「あの・・・。取りあえず、体験入隊っていうことでいいですか?」
優は妥協点を探すことにした。話し合いでは勝てそうにない。相手の良いように持っていかれる。
「煮え切らん小僧じゃのう。覚悟を決めんか。まあ、それでもよいわ。」
「あなたも災難ね。アビスに襲われて生きていられたのは運が良いと言えるけど、これじゃあね。」
朔夜が憐れみの言葉をかけてくる。一体どんな過酷な運命が待っているのだ?命が助かってもこれじゃあねとは、そういう意味なのか?優は不安になる。
「ここでうだうだ話をしていても始まらん。とにかく訓練じゃ。朔夜、小僧を連れて今から訓練にかかれ!」
「へっ・・・?」
今からやるの?優と朔夜はそんな顔をして愛莉栖の言葉を受け止めた。受け止めさせられたといった方が正しいが、とにかく、今から訓練を開始することになったのである。
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「まずは基礎体力よ。」
優と朔夜はトレーニングウェアに着替えて、訓練場に来ている。朔夜が来ているトレーニングウェアは男性用であり、優のよりサイズは大きい。訓練場は先ほど楓に優を見てもらった部屋のさらに奥にあり、マットが敷かれた広い空間である。地下にある空間ではあるが、並みの運動場くらいの広さはある。こういう部屋が他にもあるということで、訓練のための機材が置かれているとのことであった。この部屋は主に、基礎体力と模擬戦をやるとのことである。
「あああ、いきなり訓練とか簡便してくれよ。今日は俺の中の力を解明するだけじゃなかったのかよ・・・。」
優はさっそく弱音を吐いている。
「もう諦めたら?どの道逃げられないわよ。その力が暴走すれば冗談じゃなくなるわよ。」
結局はそこに行きつく。力を制御できなければ討滅対象。この一言に収束する。当然そんなことは嫌である。覚悟を決めないといけないのであろうが、その覚悟が決まらない。
「いや、まぁ分かってはいるんだけどな。俺に選択肢がないことは。結局こうなる運命なんだろうなって。」
「物分かりが良くて助かるわ。」
「で、何をやるんだよ?」
優は不満気な声を出している。
「まずは走り込みからね。」
「そうか、当然そこからだよな。」
優は体力にはそれなりに自信があった。マラソンの授業も嫌いではない。クラスで速い奴と競うのは楽しかった。走り込みと聞いて、普通の訓練であることに少し安心した。
「私も一緒に走るわよ。」
「え!?雪宮と一緒に走るのか?お前についていくなんて無茶だろ、いきなりは!?」
「手加減はするわよ。ほら、もう行くわよ、付いてきて。」
朔夜はそういうと訓練場の中を走り始めた。優も仕方なく付いていく。結構ペースが速い。優よりも大きな体をしているが、優よりも俊敏である。筋肉もかなり付いている。無駄な筋肉はない。体力も相当なものなのだろうと推測する。
走って、走って、走る。只管走る。広い部屋の中をぐるぐると何週も回る。1週100m以上はあるだろうと目算する。こんな地下深くにこれほど広い空間があったなんて、そんなことを考えながら走る。
朔夜は一定のペースで走り続ける。幻魔と契約するための試練を乗り切るために過酷な訓練を乗り越えてきたのであろう。朔夜はまだ息を切らさずに走っている。優も一応は付いていく。
もう、どれくらい走り続けたであろうか、徐々に距離を離されて周回遅れも何周目になるか分からないくらいにまで朔夜に差をつけられた。優はもう限界に達していた。そして、ついに倒れこむ。
「はぁ、はぁ、もう駄目だ。走れねえよ。」
「仕方ないわね。もういいわよ。」
朔夜が声をかけてきた。息一つ切らしていない。どんな体力をしているんだこいつは。優は驚愕した。
「準備運動は終わりよ。次の訓練に行きましょう。」
「え・・・?」
朔夜の無慈悲な言葉に優はさらに驚愕するのであった。
すでに体力は限界を迎えていたが、朔夜が付き添って訓練を続ける。筋力トレーニングや反射神経を鍛えるトレーニング。模擬戦闘までやった。時刻はすでに夜を迎えている。休みなしでぶっ続けでの訓練。特にきつかったのは模擬戦闘訓練。戦闘の素人である優に対して、朔夜の剛腕が襲い掛かる。恐怖と痛みと疲労で優の体はすでに死んでいるのではないかと思う程重かった。
「今日はこれで終わりよ。」
「はぁ・・・。はぁ・・・。もう・・・駄目だ・・・・。」
ようやく終わった。これほどハードなものとは想像もしていなかった。これからも付いていくことができるのだろうか。絶対に無理だろうと思う。
「そう、でも今日の訓練はまだ準備段階よ。本格的な訓練が始まればもっときついわよ。」
「まじかよ・・・・。」
優は死んだ魚のような目をしている。仕方のないことか、テスタメントの訓練に一般人が付いてくること自体、無理がある。
「取りあえず、今日はこれで終わりよ、立てるようになったら、部屋を出て右に行きなさい。シャワー室があるわ。」
朔夜はそう言って、訓練場を後のしたのであった。
「ああ、死ぬ。これは死ぬわ・・・。」
今日何度目になるか分からない愚痴をこぼした。明日は学校がある。いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。しかし、まだ起き上がる体力が戻ってきていない。あと20分してからシャワーを浴びに行こう。それまでは指一本動かすこともしないでおこう。もう今は何も考えることができない。
それから、20分間何もせず、何も考えず、何も動かさずに体力の回復だけに専念をした。だが、20分間で回復できたことは立ち上がることくらいであった。フラフラとして足取りで訓練場を出る。右に行けばシャワー室があると言われた。明日の学校に備えて、シャワーを浴びて帰ろう。優は朦朧とした意識の中を歩いて、シャワー室にたどり着いた。距離は近いが、重い足がかなりの距離を歩いたような錯覚を覚えさせた。
そして、シャワー室に入るために扉を開ける。扉の奥から入ってきた光景に朦朧とした優の意識は一気に覚醒へと浮上した。
「ぎゃああああああああーーー!!!」
優が悲鳴を上げた。そこには筋肉ダルマがいた。正確にはシャワーを浴び終わって着替えている最中の朔夜であるが、優が見たものは漫画でしか見たことのないような筋肉の塊。女性の体とは程遠いその肉体。ある意味で美しいと言えなくもないかもしれないが、優は筋肉が好きなわけではない。
ガチガチに鍛えあげられた筋肉の山を目の当たりにして、優は這う這うの体でシャワー室から出て行った。
「どういう意味よそれは!!!悲鳴を上げるのは私の方でしょうが!?」
タオルで前を隠しながら、朔夜は怒号を上げた。シャワー室を使えとは言ったが、ここは女子のシャワー室である。しかも、人の裸を覗いておいて、悲鳴を上げて逃げていくとはどういうことか。ぶっ殺してやろうかと思う。
「ご、ごめん、シャワーを借りようと思って、入ったら雪宮がいて、そういう意味じゃないんだ。なんていうか、びっくりして、とにかくごめん!」
シャワー室の外から優の言い訳が聞こえてくる。
「まぁいいわ。次の訓練は楽しみにしておいてね。生き残ったことを後悔させてあげるから!」
「ご、ごめん!まじでごめん!それだけは勘弁して!」
雪宮の裸を見てしまった。しかも、かなり怒らせてしまった。悲鳴を上げたのはまずかった。間違えて入ってきたと正直に謝ってすぐに出ていけばよかったのだが、衝撃的な映像に思わず声を上げてしまった。
「はあ・・・。後でちゃんと謝ろう。」
取りあえず、今度こそ男子シャワー室に入って、シャワーを浴びた。その後、優は土下座して何とか朔夜に許しを得ることができて長い1日は終わりを告げたのであった。
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