上 下
19 / 167

部屋とYシャツとなんちゃら

しおりを挟む
「ピッツァとステイクを掛け合わせるなんてアメリカ人でも考えなかった発想だから」

「たしかに聞いたことない…ステーキとピザって」

沙織はすすだらけのパーコレーターのフタを開け、真ん中に筒を通した網状の受け皿にコーヒーの粉を半分ほど入れた。
そして受け皿を外して水筒の水を注いだ。

「まっ黒だね」

「使い込めばそういうもんでしょ」

香織か見るとパーコレーターの沸騰したお湯がコーヒー色になったのを見る透明のプラスチック部分が溶けている。

「さすがブッシュクラフト女子」

「でしょ!」

方やフタをしたフライパンは肉の焼けるジューシーな音を抑え込みわずかに煙を逃し、鳴りを潜めている。
香織はフタを今すぐに開けてみたい衝動にかられた。

「中、今どんな感じなんだろ?」

「気になるよね。肉ひっくり返せないから焼き加減ちょっとレア気味になるかもね」

「地井頭、いつもこれ作ってるんだ」

沙織は香織の質問にキョトン顔をしてみせた。

「これ?」と、フライパンを指差し「まさか!」

「え?いつも作ってるから今日作ったんじゃないの?」

「初めてだって」

「えぇ!じゃどんな味になるかわかんないってこと?」

「だってやったことあるものじゃ、2人のチャレンジにならないじゃん」

「いや、2人のチャレンジって…」

いつのまにかチャレンジさせられていた。

「アイスとチーズとピッツァステイク!どう?」

「アイスとチーズ…?」

「と、ピッツァステイク」

「昔の歌の部屋とYシャツとなんちゃらみたいな感じ」

「そう。そのなんちゃらで行こう」

「イミフですけど」

「もう。勢いだからこういうのは」

「勢いだけって声の大きなスベリ芸人みたい」

「とか言ってるうちに焼けたっぽいよ」

「焼けたんかい。今のトークの時間なんだったの?」

「ほら開けるよ。愛洲!」

フライパンの前に2人は身構えた。

沙織は耐熱手袋をしてフライパンの取っ手を握りをテーブルの上に置いた。

「いくよ!」

と、沙織はフライパンのフタを取った。
しおりを挟む

処理中です...