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見つめ合う2人

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「やめぬと斬るぞ!」

亜香里は刀ケースから柄だけをを出し手をかけた。

「サムライシスターだ。C級映画!」

沙織の言葉に香織だけがさらにウケた。
顔を上げた香織の目の前に一瞬おかしな情景が見えた。
刀を持っているのは亜香里のはずだが刀を肩にかけポニーテールのように髪を束ねた茶色い男物の着物姿の沙織が豪快に笑っている。
逆に亜香里は町娘のような着物姿で袖で口元を隠して笑い、真紀理も緑色の男物の着物姿で凛々しい笑顔を見せていた。
不思議な情景だ。
見えているというよりは香織の脳裏に浮かんだシーンだ。
しかしすぐに元の現実に、いや香織は我に返った。
そして4人で笑っている今この瞬間が奇跡だと思えて涙が出てきた。

「あれ?」

「ナニナニどうしたの?」

「泣かずともまだ刀は抜いてはおらぬ」

3人は香織の涙の理由がわからず慌てた。

「ごめん。なんか急に…」

ハンカチで香織は涙を拭った。
沙織は真紀理に耳打ちした。
真紀理が一瞬「え?」という顔をしたがすぐに頷いた。

「戸的が愛洲になんか言いたいみたいだよ」

愛洲が真紀理の方を見ると、真紀理はうつむいてなにか集中している。
そしてスイッチが入ったと顔を上げるとそこにはひとりのイケメンがいるようだった。
香織はハッとした。

「愛洲。急に泣き出してどうしたんだよ」

「え…?」

真紀理は立ち上がって香織の隣へやってきてまるで彼氏のように香織の肩に腕を回した。

「もう泣くことなんてない。俺が守ってやる」

香織は自分の心臓が高鳴り顔が熱くなってるのを感じた。
それを見て沙織は爆笑してる。

「顔が乙女になってるよ!」

亜香里も少し顔を赤らめなぜか香織をじっと睨んでいる。
沙織の策略だと知った香織は真紀理の手を取り「わたしを連れて逃げて!」と、なにかのヒロインのような口調でわざと言った。

「あははははは。ヤバいよこの昼ドラ」

「愛洲!」

「戸的!」

2人は見つめ合った。

「名字で呼び合うカップルって…このドラマ数字取れないわ」

悪ノリした真紀理と香織はキスをしようとゆっくりとお互いの顔を近づけた。

「きゃあああ!ナニナニ?するの?」

亜香里は手で顔を覆うが、指の隙間から2人を見ている。

よもや2人の唇が重なるのではないかという瞬間、沙織が割って入った。

「はい。そこまで!」
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