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宗家 地井頭沙織

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「そう。詠春拳だって詠春ていう尼さんの名前がついてるでしょ。だからわたしが作った拳法はわたしの名前をつけるの。修行者はみなわたしの名前を口ずさむ」

「もう。わたしを見て!が溢れてるね」

「道場にはわたしのかっこいい写真を飾らせるの」

「遺影ってこと?」

「なんでよ」

「だいたい道場の写真て遺影が多いよ」

「わたしは毎週映える写真を飾らせるから」

「どういうのたとえば」

「可愛くクレープ食べてる写真とか。引き伸ばして道場に飾らせる」

「武道の稽古中、道主がクレープ食べてる写真があったら気が散るでしょ」

「わたしの道場では汗臭い考え禁止にするの。画期的でしょ」

香織は「う~ん」と考えた。

「女子には受けるかも…ただダイエット目的で稽古に来てる人にはクレープの写真はダメなんじゃない?」

「そうか。そっちね。クレープだけにクレームが来るか…」

「今のいらない」

「地井頭だけにチーズケース食べてる写真とかチーズフォンデュを食べてる写真とか」

「だからダイエットやりにきた人にはダメだって。映え写真てどうなんだろ。ただでさえ女子だってなめられそうなのにそこで写真で女子全開って…」

「わたしの写真を見て写真で一言言ってから道場に入れる挨拶のシステム」

「やりにくいわ。わたしを見て、をやってると女子からも嫌われるよ」

「そうか。じゃあ名前だけ地井頭沙織拳でいいか…」

「個人情報を前面に出す武術って意味不明だから」

「だから画期的なんじゃない。道着もフリフリやつで」

「もうやめて。最初にわたしの武道観が壊れるわ」
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