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地井頭沙織拳

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沙織はその日の放課後から武道場で詠春拳と八極拳を掛け合わせる研究を始めた。

「その八極拳と詠春拳を合わせるなんてできるの?」

「まあその二つにこだわるわけじゃないの。いいものは取り入れてく考えだから。しばらくひとりで練習するけどみんな愛洲と合気道やってて」

「相手が必要だったら言ってくださいネエさん」

真紀理が協力を買って出る。

「わかったわかった。じゃああとで頼むかも」

「剣を取り入れるのなら拙者が協力するぞ」

亜香里も沙織の挑戦に興味はあるようだ。

「とりあえず今、剣は大丈夫」

「じゃあこっちは合気道やるからね。横面打ちからの技やるから」

沙織はひとり詠春拳に構え、前の手で相手の攻撃を払うパクサオ、構えた手をそのまま下げて腹への攻撃を避けるルーサオ、手の平を上に向けて攻撃を避けるタンサオ、懐の手で突くコンビネーションから考えた。

「タンサオで避けて同時に突いて、タンサオの手でそのままサイドパルム(指を外へ向けた掌底)で攻撃できるな…」

手の平でそのまま顎を突く動作をすると自然にもう一方の手が腹への攻撃を抑えようとする。

「おお。なんかそれらしくなってきた」

今度はタンサオ、サイドパルムと同時に下段の蹴りを出した。
よくカンフー映画で三本の棒が突起した木人を蹴りながら顔面を攻撃するシーンがあるがまさにそんな感じだ。

「今のちょっとドニーっぽかったな」

このやや外側に足をの指を向ける不格好な蹴りは実は八極拳にもある。
そして攻撃に出した手と逆の足で蹴り出す動きこそ八極拳の予備動作そのものだと沙織は気づいた。

タンサオ、パルムアタックに蹴り足。
その足で踏み込んで八極拳の。裡門頂肘(肘打ち)を打った。

「できた!これだね。やっぱわたし天才」

「え?できたの?もう?」

香織達が興味本位のまま近づいてきた。

沙織が一連の動きを見せると真紀理は「なるほど、そういう肘の使い方なんだ」

「リコピンちょっと軽くパンチしてみて」

真紀理がストレートを軽く出すとタンサオの手首で受ける。
そこからサイドパルムをしようとしたが自然とストレートの手首を摑みスネに足の裏を軽く当て、そのまま踏み込んで裡門頂肘。

「タンサオがラプサオになった」

「だいぶ動きを省略したね」

「実戦を想定した瞬間に無駄な動きはできないね」

「まあ拙者には成立してるようには見える」

「こんな感じでやってけば地井頭沙織拳は目的が達成できそうだ」

「目的って?」

「世界征服にキマってるじゃん」

「世界征服?」

「やっぱネエさん言うことが違いますね」

「そういうの嫌いではないぞ」

香織は冷静に「それヒーローものの悪い奴らが言うことでしょ」
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