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夜這い

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香織は酔った沙織を部屋へ連れていき、寝かしつけた。
行灯あんどんで沙織の顔を照らすと顔立ちのよい女の寝顔が見える。

「ふふ。可愛らしい顔をしおって」

香織も自分の部屋に戻り寝支度をするとすぐに布団に潜った。
夜も深くなり香織もうとうとと夢を見始めようとしていた。
そこへふすまがゆっくりと動く音がした。

ハッと跳ね起き「亜香里か?沙織殿か」

「オレだよ」

沙織の声ではない。
香織はすぐさま刀掛けに手を伸ばし片足を立てた抜刀の構えをとった。

「誰だ?」

「オレは纏持ちの真吉だよ」

暗くてわからないが香織の顔は赤らんでいた。

「ま、真吉?なぜこんなところにしかもこんな夜更けに…」

「わかってんだろ。夜這いにきたのさ」

爽やかな声だ。

「よ、夜這い…」

香織の顔はいよいよ真っ赤になった。
そしてゆっくりと刀を刀掛けに戻した。

「そんなとこにいないで…その…早く閉めてくれ。家の者に見られると面倒だ」

「そ、そうだな…」

真吉の声からも緊張があった。
香織は布団の上で女座りに真吉を待つ。

「その…灯りはないかな」

「灯り?いや恥ずかしい…」

「いやじつはお願いがあって来たんだ」

香織は怪訝な顔をしたが暗くて見えない。

「夜這いに来たと言ったではないか」

「そうなんだけどよ。その…のっぴきならない事情があってさ。それをまず聞いてほしいんだ。それを聞いたあとで香織様がオレを受けいれるか聞きたいんだ」

「わかった。灯りがほしいのだな」

香織は行灯に火をつけた。
行灯の光に真吉の姿が照らされた。

あの真吉がわたしの部屋にいる…

真吉が羽織を脱いだ。

灯りをつけて事におよぶのかやはり…

「わたしを見たいのか…」

「いや見てほしいんだ」

香織の顔は真っ赤になった。

「み、見せたいのか…」

真吉の身体…。

香織は心の臓が飛び出るのではないかというくらいドキドキした。
真吉が晒を脱いで香織の前に立った。
覚悟を決めた顔をしている。
あっけにとられて状況が把握できていない香織がいる。

「え?…それって…」

「そうだよ。触ってみるかい?」

真吉が香織の前に座った。
香織は半ば呆然とそれを触って確かめた。

「ええええええ!こ、これはおなごの胸か!」

「そ、そうなんだよ。オレ…じつは女なんだ」

空いた口がまさにふさがらない顔のまま香織は固まった。
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