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浪人の抜刀

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「お武家様が丸腰の町人相手に人斬り包丁を抜くのかい?おい、みんなこのお武家様達はオイラを斬るみといだぜ。よく見ておいくれよ」

三人の浪人に真紀理、いや真吉が絡まれていた。
以前陰流の道場破りをしたときに香織に滅多打ちにされた三人だ。
その腹いせに香織の想い人と噂になった真吉を少し脅して怖がらせてやろうと思ったが町火消しの名のある纏持ちである。
派手好きで通っている真吉は周囲を巻き込んで騒ぎになってしまった。
真吉の喧嘩の仕方は派手で知られている。
よそ者の浪人達はまたしても地元で誰も踏まない虎の尾を踏んでしまった。

「人斬り包丁が怖くて町火消しの纏持ちができるかってんだ!さあ斬れるもんなら斬ってみな!」

「そうだそうだ!」

「いいぞ真吉!言ってやれ言ってやれ!」

「陰流の香織様にやられて今度は町人のオレに三人がかりかい!なんとかの風上にもおけって話だぜ!」

「このガキャア!」

と、ひとりが刀に手をかけた。
その瞬間すかさず真吉はその手を抑えた。

「おっと穏やかじゃねえな。そいつに手をかけたら洒落にならねえぜ!」

真吉は浪人の顔面に至近距離からストレートを打った。
浪人が倒れる前にファイティングポーズをとり、二人目の顎にフックをキメた。
これで二人共気を失っている。
三人目は「おのれ!」と、わけも分からず剣を抜いてしまった。

「おい!丸腰相手に刀抜くのか!」

「卑怯者!」

「おいこんなやつやっちまおうぜ!」

浪人は真吉だけでなく野次馬にも切っ先を向けた。完全に動揺している。
こうなると余計に危ない。

「なんだ!やんのかお前ら!」

ひとりとなった浪人は切っ先を周囲に振り回した始めた。
目がすでに人殺しをする覚悟で座っている。

こいつら俺をこけにしやがって…

丸腰であろうと全員に斬りつけてくれるわ。
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