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治三郎の背後に
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稽古も終わり、道場生達が帰ると香織は治三郎に茶と菓子を亜香里に持って来させた。
尾張の話を聞いてみたいと思ったのだ。
しかし茶菓子を持ってきた亜香里を見て「どこかで見たことがあるな…はて?」と、地井頭のことを思い出した。
「そうだ。愛洲殿の名を騙った女侍に会いましてな」
香織は茶を吹き出しそうになった。
亜香里はお盆を持って無表情にその場にいる。
「いやこれが信じられぬくらい下品な女侍でな。人斬り地井頭とか呼ばれておって…いや、同じ女侍でもあのような品のなさは考えられぬほど…」
香織が「山本殿…背後…」なんとか身振りで知らせようとしたが。
「悪かったな!下品で!」
ハッと治三郎が後ろを振り向くと沙織が刀を肩に担いで立っていた。
「な、なぜおぬしがここにおる?愛洲先生!こやつが先ほど話した先生の名を騙った狼藉者にござる!」
「狼藉者、上等だよ!陰流だけじゃなくもう一回無外流を教えてやろうか!」
沙織はわなわな怒りで顎を震わせ悪い笑みを浮かべ真剣を抜いてみせた。
「ま、待て!」
慌てて立ち上がった治三郎はわけもわからずとにかく地井頭をなだめようとした。
「落ち着け!狼藉…いや地井頭殿…」
地井頭にも腕比べで負けている。
人斬りと呼ばれる沙織とやり合えば場数から言っても敵わない。
「お前、もう一度狼藉者と言おうとしただろ!」
亜香里が無言で治三郎の湯呑みを片付けた。
香織も諦めて静かに茶をすすった。
「構わずとも、拙者今帰るところでござったゆえ…愛洲先生、いろいろと教えていただきありがとうございました。では!」
「いいや。構ってやるから一回斬らせろ!」
沙織が腕を捲くった。
治三郎はあっという間に消えた。
「ったく…」
「ああ。今日の茶菓子はとくにおいしい…」
香織はなにごともなかったように振る舞った。
尾張の話を聞いてみたいと思ったのだ。
しかし茶菓子を持ってきた亜香里を見て「どこかで見たことがあるな…はて?」と、地井頭のことを思い出した。
「そうだ。愛洲殿の名を騙った女侍に会いましてな」
香織は茶を吹き出しそうになった。
亜香里はお盆を持って無表情にその場にいる。
「いやこれが信じられぬくらい下品な女侍でな。人斬り地井頭とか呼ばれておって…いや、同じ女侍でもあのような品のなさは考えられぬほど…」
香織が「山本殿…背後…」なんとか身振りで知らせようとしたが。
「悪かったな!下品で!」
ハッと治三郎が後ろを振り向くと沙織が刀を肩に担いで立っていた。
「な、なぜおぬしがここにおる?愛洲先生!こやつが先ほど話した先生の名を騙った狼藉者にござる!」
「狼藉者、上等だよ!陰流だけじゃなくもう一回無外流を教えてやろうか!」
沙織はわなわな怒りで顎を震わせ悪い笑みを浮かべ真剣を抜いてみせた。
「ま、待て!」
慌てて立ち上がった治三郎はわけもわからずとにかく地井頭をなだめようとした。
「落ち着け!狼藉…いや地井頭殿…」
地井頭にも腕比べで負けている。
人斬りと呼ばれる沙織とやり合えば場数から言っても敵わない。
「お前、もう一度狼藉者と言おうとしただろ!」
亜香里が無言で治三郎の湯呑みを片付けた。
香織も諦めて静かに茶をすすった。
「構わずとも、拙者今帰るところでござったゆえ…愛洲先生、いろいろと教えていただきありがとうございました。では!」
「いいや。構ってやるから一回斬らせろ!」
沙織が腕を捲くった。
治三郎はあっという間に消えた。
「ったく…」
「ああ。今日の茶菓子はとくにおいしい…」
香織はなにごともなかったように振る舞った。
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