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別れ

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大将が死ねば士気が下がる。
山本治三郎はそういった戦国の兵法を学んできた。
しかし相手はやくざもの達である。
義理だの仁義だの仲間意識の感情と筋通しの世界である。

「よくも山尾親分をやりやがったやにな!」

「かまうこたあねえ!やっちめえ!」

ならず者達の士気は却って上がってしまった。
前にいた三人が一斉にかかってきた!
新陰流青岸に構え直した治三郎。
ならず者達のドスを横に薙ぎ弾き端しの一人を斬った。
残り二人が斬りかかるが尾張新陰流師範代山本治三郎の敵ではなかった。
カキーン、キーンと刀身を削り合わせる音が鳴り響く。
だが七尺の双子はなんの興味も示さずに中庭へ向かった。

「虎蔵、地井頭を探せ」

「おう。龍蔵!」

双子についてきた手下達も地井頭を探し出した。

裏の戸口では出ようとする亜香里に対して真紀理が留まろうとしていた。

「早く!今出ないと大変なことになる!」

亜香里が言っても真紀理が動かない。

「あの二人を置いてオイラが逃げていいのか
?」

「い、いいもなにも…」

そこへ香織と沙織がたどり着いた。

「あ!沙織様、香織様!」

四人は互いの肩へ手を置いて輪を作り見つめ合った。
亜香里も真紀理も涙が溢れそうになっている。
これで四人が会うのは最後だろう。
沙織もなんて言うべきか言葉が出なかった。
香織が笑みを浮かべて言った。

「じつはな。未来、平和な時代に私達四人が集まって武術の稽古をしている夢を見た」

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