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来世で会おう

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「未来…?」

亜香里は声にならない声で聞いた。

「そうだ。不思議な服を纏っていてな。足が膝まで見える南蛮の着物をみんな着ておった」

「なんですかそれ?」

真紀理も涙ながらに聞いた。

「おなごが膝を見せようと武術を稽古しようと誰も文句を言わぬ世界じゃ」

「それだけ自由ってことか」

「しかも斬り合いもなく…亜香里。おぬしが下手な剣を振って稽古しておったぞ」

「ふふ…そうなのですか?」

亜香里が涙目で笑った。

「わたし達は来世で会う運命なのだ」

来世、つまりそれは死んでからの未来ということだ。
真紀理が寂しさのあまり泣き出した。

「おいおい真紀理…来世か。いいじゃねえか。また会えるんなら」

香織が真紀理と亜香里元気づけようと拳を握って言い放った。

「会う!われらは必ず会う。されば約束ぞ。来世で会おう!」

「来世、上等だぜ」

「では来世で…」

真紀理は涙が止まらない。

「ほ、ほんとに来世で…?会えるの?」

「会える!」

自信に満ちた香織の笑みは真紀理を安心させた。
だがそれは死の覚悟なのだと亜香里は知っていた。
亜香里は顔を両手で覆って泣き出した。

「泣くな亜香里!いつもの調子はどうした!剣士なら泣くな!」

コクリと頷き亜香里は泣くのを堪えた。

「もうゆけ…」

沙織が二人に促した。
真紀理は震える手で沙織の肩に触れた。
その手を握りしめ、想いを断ち切るようにゆっくりと離して不敵な笑顔で言った。

「オレは人斬り地井頭だぜ!死にはしねえ!現世でも来世でも会いにいくぜ!おとなしく待ってろ。さ、行きな」

腹をくくった亜香里は真紀理を引っ張って外へ出た。
香織が戸を閉める瞬間全員が互いを無言で見つめ合った。
戸を閉めたまま香織は静かに言った。

「ゆくぞ…」

「これはオレの喧嘩だ」

香織が向き直った。

「亜香里を助けたからだろう。それにここはわたしの道場、いやわたしの城だ。城を守らぬ当主がいるか?」

沙織はニヤリとした。

「いや。そんな当主は聞いたことないな」

「ゆくぞ!」

「おう!」
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