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アゼ道アンジェリナもやってる

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午後の授業は身が入らなかった。
まっすぐ黒板の方を向いてはいるが、頭の中は幸介のことでいっぱいだ。
ぼーっとしてるのだがいかにも集中してるように見せられてるのは香織が武道で身につけた特技といえる。
息が切れてようが疲れていようが姿勢を正しまっすぐ前方を見て礼をする。
授業中、実はぼーっと考えごとをしていても姿勢を正して前方を見ていると集中してるように見える。
香織がとりわけ何度も頭の中でリピートしているのは前世の熊斬斎幸之介と言葉を交わしたシーンと現世の幸介との先日の沙織宅での再会だ。

なんていう運命…

だが沙織は紹介する気がない。
沙織にその気がなければ幸介と顔を合わせることすら不可能だろう。

まさか親友に運命の出会いを妨げられるとは…

「はぁ~」

ため息がでる。
放課後、沙織にどうすれば幸介を紹介してもらえるか考えながら武道場に向かった。
少し遅れたが中ではすでに真紀理が亜香里にキックボクシングを教えていた。

「お疲れです。今日は姉さん休むそうです」

「そう…」

わたしを避けてるのか…?

亜香里がヘッドギアとグローブをつけて真紀理と軽くスパーリングらしきことをしているのが目に入った。

「それ真紀理ちゃんが持ってきたの?」

「いや。これは拙者のだ」

「買ったの?」

「当然。真紀理殿が習ってるのジムに通うことにしたのだ」

「え?キックボクシング習ってるの?亜香里が?」

「さよう。香織もどうだ?」

「どうして真紀理ちゃんには殿をつけて先輩のわたしは呼び捨てなのよ」

「細かいことは気にするでない。今日練習が終わったら3人でキックボクシングのジムへ行こうではないか」

「いや。遠慮しとく」

「ええ!行きましょうよ!」

真紀理がエネルギーみなぎる笑顔で香織に寄ってきた。

うっ…

「今どき女子もキックボクシングやる時代なんですよ」

圧がすごいんだよね。真紀理ちゃんは…

「いい女はキックボクシングですよ!モデルのアゼ道アンジェリナもやってるじゃないですか」

香織はふと思った。

沙織はわたしだけじゃなく真紀理や亜香里にも幸介さんに会わせたくないはず…

この二人の前でわたしが幸介さんのことを言わないか心配だったから休んだのか…

それはわたしも同じ…ライバルは増やしたくない…

この二人には絶対幸介さんの存在は知られてはならない…

香織はそういった勝手な思惑に後ろめたさを感じたので真紀理達の誘いにのることにした。

「じ、じゃ…ちょっとのぞいていこうかな…」
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