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ツムギ

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6人台本

『夢の世界へ、羊たち』(男2:女3:不問1)約50分

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登場人物(男:2、女:3、不問:1)

・和海(かずみ)/男
夢の世界に迷い込んだ青年。少し気が弱い。

・絵名(えな)/女
和海の恋人。明るく天真爛漫な性格。

・メリー/男女不問
夢に関与出来る魔女。クールだが、熱意はある。

・ムート/女
夢の住人。元気なドジっ子。現実世界の武藤(むとう)と言う若いナースがモデル。

・バク/男
夢の住人。ピエロの様で掴みどころがないが、野望がある。現実世界の獏井(ばくい)と言う医者がモデル。

・イーロス/女
夢の住人。バクのサポートで大人な女性。現実世界の伊鈴(いすず)と言うナースがモデル。

【時間】約50分
【あらすじ】
和海が目を覚ましたら、そこは夢の世界だった。パステルカラーな遊園地に、メリーと名乗る夢の世界に関与出来る魔女がいた。メリーはとある理由で和海を連れて来たと言う。



【本編】



絵名「これ、落としましたよ?」

メリー「え?…あ、僕のハンカチ!…いつの間に落としてたんだ?」

絵名「ついさっきですよ。落ちる瞬間が見えたので急いで追いかけて来ました」

メリー「わざわざすまない…。異国の地で大事なハンカチを無くしたら気がおかしくなるところだ」

絵名「相当大事な物なんですね!届けるのが間に合って良かったぁ」

メリー「亡くなった母から貰った物なんだ。ありがとう」

絵名「いえいえ、…でも異国の地って、外国の方なんですか?日本語上手ですね!」

メリー「そうかな?」

和海「おーい、絵名ー!」

絵名「あ、和海!…ごめんなさい、彼氏置いて来ちゃってて」

メリー「ふふ、デートの途中なのに急いで来てくれて本当にありがとう。……この礼は必ずする」

絵名「お礼だなんて、大した事じゃないですよ」

メリー「僕にとっては大した事なんだ。いつか礼はする、僕の名はメリー。それだけ覚えておいてくれ」

絵名「…分かりました。私は絵名です。お礼、待ってます!…じゃあ、彼氏が待ってるのでこれで」

メリー「あぁ」


夢の世界。

和海「う、うぅん…う、ん?…っ、あれ、俺…」

メリー「目が覚めたか?」

和海「おわぁ!?」

メリー「うるさい奴だな」

和海「だ、誰ですか?つか、ここ何処!?え、何このパステルカラーの遊園地みたいな所!?」

メリー「質問の多い奴だな。僕の名はメリー、夢の世界に関与出来る魔女だ」

和海「ま、…まじょ?」

メリー「なんだその顔は?何一つ理解してない顔をしてるが」

和海「何一つ理解出来ないです…」

メリー「まぁ、いい。和海、ここは夢の世界だ」

和海「夢…ですか。まぁ、こんな遊園地、夢みたいなものですしね……ってか、和海って俺の事ですか?」

メリー「お前以外に僕の目の前に人はいないぞ」

和海「和海…俺の名前……。名前は確かに、しっくりくる。でも…」

メリー「…どうした?」

和海「いえ、その…なんというか」

メリー「記憶がないのか?」

和海「え…?」

メリー「たまにあるんだ。僕の魔法で夢の世界に関与すると記憶を失くす奴がいる」

和海「ま、魔法?…夢とか魔法とかもう訳が分からないな…」

メリー「凝り固まった頭で考えるだけ時間の無駄だ。時間は有限。この世界は長くない」

和海「え?それってどういう事ですか?」

メリー「お前がここにいるのは理由がある。その理由の主と合わせる。それが僕のやるべき事だ」

和海「理由の主…?一体誰が…」

メリー「合う方が早い。…ここは遊園地の入り口の方だな。案内用の看板があるのが見えるか?」

和海「あ、これですか?…そんなに大きな遊園地じゃないんですね。子供向けというか、家族向けというか…」

メリー「記憶がない割にそういう事は理解してるんだな」

和海「え?…あれ、本当だ。…何というか、この遊園地…見覚えがある様な気がして。もしかして、現実世界で子供の頃とか似た様な場所に来た事があるのかもしれないですね」

メリー「……そうか」

和海「それで、これから会う人は何処にいるんですか?」

メリー「…移動していたら場所が分からないな…。スタッフに聞くか」

和海「スタッフ?いるんですか?」

メリー「おい!案内を頼みたいのだが?」

ムートが走ってやってくる。

ムート「はーい、はいはい!案内はお任せあれあれ~!案内役のムートとは私の事です~!」

和海「うわぁ!?でかい羊!?」

メリー「よく見ろ、羊のコスプレをした女だ」

ムート「可愛いでしょ~?」

メリー「ムート。僕と和海を彼女の下に案内してくれ」

和海「彼女?」

ムート「はぁい、メリーさん!」

和海「…お二人は知り合いですか?話がさくさく進んでる様に思いますが」

メリー「お前が目を覚ます前に色々見て回っていただけだ。ここには数人のスタッフがいる、ムートもその一人だ」

和海「そう…なんですか、……あれ、ムートさん…」

ムート「どうしました?」

和海「いえ、何だか現実世界で似た人を見た事ある様な気がして…」

メリー「それくらいあるだろう。ここは夢の世界なんだ。というか記憶がない状態で思い出せるのか?」

和海「思い出せないです…」

メリー「さぁ、ダラダラ喋ってないでいくぞ」

ムート「はーい、あの人は今、噴水がある広場にいまーす!目の前の看板をご覧くださいませませ~、こちらですっ」

メリー「結構近いな。行くぞ、和海」

和海「あ、待って下さい!」


噴水広場。

ムート「はーい、噴水広場に到着です~」

メリー「いた。彼女だ」

和海「…ん?」

絵名「え?あっ、和海!メリーさんも」

和海「だ、誰…?」

絵名「え?」

メリー「…あー、その……絵名。今の彼には記憶がない」

絵名「…あ、さっきメリーさんが教えてくれた事?本当に記憶がなくなっちゃてるんだ…。私にはあるのに不思議ね」

メリー「そこは関与の仕方が違うから仕方ない。しかし、これであの時の借りは返せたな」

絵名「倍以上帰って来てるよー」

和海「ちょ、ちょっとちょっと!」

ムート「どうしました?和海さん?」

絵名「和海?」

和海「…君は誰?何で君も俺の名前を知ってるの?」

絵名「あ、説明しなきゃだね。…私は絵名、和海の…その……」

和海「…どうしたの?」

絵名「……えっとぉ」

メリー「何を照れてるんだ?」

絵名「あ、改めて言うと恥ずかしいなぁって……私と、和海は……こ、こい…こ…恋人…です……」

和海「……恋人!?」

メリー「うるさい」

和海「お、俺と君が?そうなの!?」

絵名「付き合って3年かな…。高校から付き合って、今大学生。ちなみに仲良しだよ。ほら、お揃いの指輪」

和海「…あ、俺の人差し指に指輪がついてる…君にも…サイズは違うけど、同じデザインの指輪が君と同じ指に…じゃあ恋人って本当なの?」

絵名「おそろの指輪付けといて、嘘とかないから…」

和海「そうか…。そっか…恋人か…思い出せないから何とも言えないなぁ…」

メリー「名前の様にしっくりは来ないか?」

和海「…見覚えはあるんだけど、はっきりと思い出せない。…ごめんね、絵名ちゃん」

絵名「絵名でいいよ!和海はそう呼んでるから」

和海「絵名……何だか女の子を急に呼び捨てにするのって照れるなぁ」

絵名「ちょ、こっちまで恥ずかしくなるじゃない!」

メリー「何の話をしている」

ムート「仲良しなんですね~」

メリー「…それより、時間は有限だ。絵名」

絵名「……」

メリー「お前の願い。最後まで見届けるのが僕の役目だ」

和海「絵名の願い?」

絵名「…和海!」

和海「え?」

絵名「ここは遊園地なんだから遊びましょう!」

和海「えぇ!」

絵名「遊ぶの!目一杯、ね!」

和海「何で、急に…」

絵名「時間がないの」

和海「……時間?でも俺、記憶がないのに…」

絵名「それでもいいの。和海と思い出を作る事が大事なの…!」

和海「…何でそんな」

絵名「良いから行くの!早く!」

和海「あ、ちょっと…引っ張らないでぇ」

メリー「…」

ムート「メリーさん?険しい顔をしてどうしたんですか?」

メリー「…いや、僕の判断が間違いでなければ良いんだが…」

ムート「間違い?」

メリー「…なんでもない」


アトラクション前。

バク「それでは~、可愛い木馬がゆっくりクルクル巡っていく~」

イーロス「メリーゴーラウンドもうすぐで出発進行しますよー。お乗りの方は急いでこちらまでいらっしゃいませ~」

和海「…あの人達も、見覚えが……あの二人もスタッフですか?」

ムート「そのとおりです~」

メリー「どうする?メリーゴーラウンドに乗るか?」

絵名「乗る乗る!アトラクション全制覇するんだもん!」

和海「あのピンクの馬に乗るの!?…ちょっと子供っぽくない?」

メリー「この夢の世界には僕たちと遊園地のスタッフしかいないのに何を恥ずかしがってる?」

絵名「メリーさんも乗ろうよ?」

メリー「断る。恥ずかしいだろ、あんなピンクの木馬」

和海「同じ理由で断らないでくださいよ!」

ムート「さぁさぁ、お馬さんが動いちゃいますよ~?」

絵名「じゃあ行こう、和海!」

和海「ちょ、腕を引っ張らないで!」

絵名「カップルで乗りまーす!」

バク「はいはい、リア充いらっしゃい。カップルシートの馬車に乗る?それともピンクと水色のお馬さんにそれぞれ乗る?」

絵名「ここは馬の方に乗るでしょ!私、水色に乗るから、和海は隣のピンクの馬ね」

和海「俺がピンクに乗るの…?」

絵名「私、ピンクより水色の方が好きだから」

和海「…仕方ないな」

イーロス「では、こちらへどうぞ」

ムート「お二人ともー、カメラの準備もしてますから、カメラ目線お願いしますね~」

メリー「中々、ふふ…似合ってるぞ?」

和海「バカにしてませんか!?」

バク「それでは~、夢の世界を駆ける木馬たち~二人に幸せな時間を与えたまえ~」

イーロス「メリーゴーラウンド、出発進行ー!」



和海「…つ、疲れた……」

メリー「アトラクション少し乗っただけでへばるとは情けない男だな」

和海「いやいや!メリーゴーラウンドの後にジェットコースター3回、空中ブランコ2回、スプラッシュコースター4回乗って少し!?体水浸しになってないのは夢だからですか!?」

メリー「あぁ、そうだ。分かってるじゃないか」

和海「ってか、なんで絶叫マシンばっかなんだよ…」

絵名「ふふ、絶叫マシン得意じゃないのにいつも付き合ってくれるよね、ありがとう和海」

和海「…いや、大丈夫だよ」

絵名「記憶がなくても和海は和海だね」

和海「…そう…なの?」

絵名「うん!」

和海「…そっか」(照れる)

ムート「うーん、甘酸っぱいですねぇ」

メリー「甘過ぎて吐きそうだ」

絵名「でも、流石に連続で乗り過ぎたね。ちょっと休もうか」

ムート「では、あそこのフードコートで休みましょうか?」

バク「いらっしゃい、いらっしゃい~。軽食にドリンク、ポップコーンにクレープにわたあめ~、なんでもあるよー?」

イーロス「夢の世界の特別価格、スマイルひとつ、プライスレス!楽しんでる人には無料でご提供でーす♪」

絵名「クレープにわたあめ!?みんなあれ食べよう」

ムート「わぁい、私はポップコーンがいいです~」

和海「ってか、あの二人のスタッフ…さっきからアトラクションの受け付けしてたり、今度は売店にいたり…忙しいですね」

ムート「男性がバクさん、女性がイーロスさんです!主に私とあのお二人の三人でこの遊園地を回しております!」

メリー「ムートがこっちにいるから余計に大変そうだな」

ムート「私は案内しか任されてませんので、全ての運営はあのお二人です」

メリー「ポンコツ一人紛れてるなんて、あいつらが可哀想に思えるな」

ムート「ポンコツって、なんですかぁ?」

絵名「ねぇねぇ、いいから早く食べようー!」

ムート「はーい、行きましょうー」

和海「……」

メリー「…行かないのか?和海」

絵名「和海?」

和海「…ちょっと頭痛いから、みんなで食べて来て。俺、少し静かな場所探して休んでるから」

絵名「あ、ちょっと和海…」

ムート「行っちゃいましたね…」

メリー「……」



和海「はぁ…、夢の世界なのに何で絶叫マシン連チャンで乗ってるんだ…。記憶も思い出せないのに、余計に疲れた……」

バク「おーいおいおい、この遊園地でしけたツラしてんじゃねーぞ?」

イーロス「笑顔はプライスレス。今のあなたのお顔は罰金ものですよ」

和海「うわぁ!?……す、スタッフさん?」

バク「俺はバク、この遊園地で最強のスタッフだ」

イーロス「わたくしはイーロス。バク様のサポート役を務めております」

バク「俺にサポートなんて必要ねぇ」

イーロス「何を仰いますか、さっきのジェットコースター、シートベルトをつける前に発進させようとしてたじゃないですか!」

バク「あれはちょっと、押し間違いかけただけだぁ」

和海「事故起きかけてる!?」

バク「んで、何でそんなしけたツラしてやがる」

和海「なんでも、ありません…」

イーロス「そんな暗い表情で放っておける訳ありません」

和海「…」

バク「お前の彼女のことか?」

和海「その…」

バク「なぁ、あの女がお前さんをここに呼んだ原因なんだろ?」

和海「え、何でその事を…」

バク「俺たちはこの遊園地内のお喋りは全て聞こえてる。あの魔女との会話もちゃんと聞こえてんだよ」

和海「…俺がここにいる理由は絵名だって…メリーさんは言ってたけど…。どういう意味なのかは分からないんです。絵名は、俺の彼女らしいけど、実感がないし」

バク「…でも、アトラクションに乗ってる時、普通のリア充に見えたけど?」

イーロス「仲が良さそうでしたよ」

和海「そう…ですか?」

バク「………そんなに実感がわかないなら、あの女こっちにくれよ」

和海「え?」

バク「俺たち夢の世界の住民は、人間が夢から覚めるとその世界と共に崩壊するんだ」

和海「えぇ!?」

イーロス「でも、一人でも夢から覚めない人間が残ってくれているとその世界もわたくし達も残り続ける事が出来るのです」

バク「あの女は随分楽しそうに遊園地で遊んでくれてる。あいつ一人でもここにいてくれると、この世界は崩壊しない」

和海「で、でも夢の世界ですよね?それって…目覚めないって事じゃないんですか?」

バク「それがどうした?」

和海「え…」

バク「夢の世界の住人に現実世界云々言わねぇよな?俺たちはお前とあの女のどちらかさえ目覚めなければ良いって言ってんだよ。それともお前がずっと目覚めないでいてくれる?」

和海「そ、そんな……」

イーロス「バク様、遊園地に相応しくない怖い表情をされてますわよ?罰金ものです」

バク「おっと、俺としたことが」

イーロス「それで、どうします?和海さん、貴方か絵名さん…どっちが残ってくれます?」

和海「お、俺は…目を覚ましたい…記憶がないのはここにいるからってメリーさんが言ってた…多分、目が覚めたら記憶も戻ると思うんです」

バク「じゃあ、あの女はこっちに譲ってくれるな?」

和海「そ、それは…彼女にも現実世界があるだろうし、俺の恋人らしいから…そこは彼女の意思を尊重すべきだと思います……」

バク「じゃ、どっちなんだよ!うじうじしてはっきりしねぇ奴だなぁ!」

イーロス「お客様に向かって怒鳴らないで下さい、それはそれで罰金ですよ」

バク「お前は金のことしか頭にねぇのか!?」

イーロス「お金は大事です」

バク「黙ってろ!……和海だったな、俺たちは俺たちの世界を生きるためにこうやって交渉してんだ。俺たち夢の住人にも意思がある。お前ら現実世界の奴が目覚めたら俺たちの命も世界も終わりなんだよ。せっかく生まれたのに、そんなん嫌だろ」

和海「そうかも…しれないですけど…。俺にそれを言われても……」


メリーとムートが近付いてくる。

メリー「その通りだ。現実世界の人間をそそのかした所で、夢の世界はいづれ消える。その事実は変わらないだろう」

和海「メリーさん!」

ムート「バクさん、イーロスさん…」

イーロス「ムート…」

バク「何しに来やがった、魔女。勝手に夢の世界に干渉して来たお前に俺たちの世界も命も関係ねぇはずだが?」

メリー「あぁ、お前たちがどうなろうと僕には関係ない。だが、これは和海と絵名の夢だ。変な事を吹き込まないで貰おうか?」

バク「自分の命と世界がかかってるのにジッとしてられるかってんだよ」

メリー「…おかしな話だ。今まで幾千の夢に関与して来たが、ここまで意思の強い夢の住人は初めてだ。夢の世界は現実世界に近いものから全くかけ離れたものまで様々…。この夢は…現実世界に比較的近いものになってるはずで、お前たちスタッフも現実世界にいる人間がモデルにされてる。…モデルがいる夢の住人はそこまで意思は強くない。なのにお前らの意志が強いのは…この世界を望む者の影響か?」

和海「…それってどういう…」

メリー「この夢を終わらせたくない…もしくは、夢から覚めれない…からだろうな」

和海「…メリーさん?どこを見てるんですか?……絵名?」

絵名がクレープを両手に持って走ってくる。

絵名「もー、メリーさんもムートちゃんも急にいなくならないでよー!クレープ二つしか持てないよぉ!」

和海「絵名……?っ!?頭、痛い…?」


回想。絵名がクレープを両手に持って走ってくる。

絵名「お待たせ~、和海!和海の分もクレープ買って来たよぉ!」

和海「絵名、走るとこけるよ?」

絵名「もぉ、子供扱い?私はそんなおっちょこちょいじゃありませーん。そんな事言う人にはクレープあげないよ?」

和海「ごめんごめん。俺、クレープ大好きだからさ、ちょうだい?」

絵名「仕方ないな~、優しい彼女が美味しいクレープをわけてしんぜよう。ほら、あーんして?」

和海「じ、自分で食べれるよ!」

絵名「遠慮すんなって~、ほれほれ~」

和海「絵名!食べ物で遊ばない!」

絵名「えへへ」

回想終了。



和海「今の…記憶は…!?」

絵名「あ、和海~、頭痛大丈夫?和海の分もクレープ持ってくるからちょっと待ってて!」

和海「絵名…」

絵名「ん?どうしたの?」

和海「あ、あぁあ……あぁ、え、絵名ぁ……?」

ムート「ど、どうしたんですか、和海さん!」

絵名「か、和海…?大丈夫!?」

和海「絵名…何で、君がここに…?」

絵名「え?」

メリー「…まさか、記憶が戻ったのか!?」

和海「ま、まだ…断片的…です、けど……うっ、…絵名の事…何で、忘れてたんだ…?」

絵名「ムートちゃん、クレープ持ってて!」

ムート「え、は、はいぃ!」

ムートにクレープを渡す、絵名。

絵名「和海!思い出してくれたの?」

和海「絵名、何で…君は…意識を無くしているはずじゃ…?」

絵名「……」

メリー「……それは…」

和海「どうして?絵名は病院に入院してて、意識不明なんだ。なのに、夢の世界にいる…?もしかして、君は俺が作り出した夢の住人?」

絵名「ち、違う!」

メリー「落ち着け和海。記憶が戻ったのなら、順を追って説明してやる。だからまだ…目を覚さないでくれ」

和海「…それって、どういう……」

メリー「まず、絵名は夢の住人ではない。これは断言する」

和海「夢の住人じゃなければ、絵名がここにいるのはおかしいでしょう!?絵名は…病気にかかって今は意識を失ってる状態なのにっ」

メリー「だから説明する!一回落ち着け!」

和海「っ……」

メリー「まず、この夢の世界は、和海…お前から作られた世界だ」

和海「俺から作った世界…?」

メリー「この遊園地…見覚えはないのか?」

和海「……思い出した…ここは、よく絵名とデートをした場所と似てる。さっき、絵名がクレープを持って走って来たのもこの場所だ…」

バク「彼女との思い出がきっかけで記憶を取り戻したか」

和海「貴方たちも…やっぱり現実世界で見たことがある。それは俺の記憶が生み出したものだったのか…」

イーロス「その通りです。でも、現実世界との繋がりはありません。あくまで和海さんの記憶にある人物から見た目を形成してますので」

和海「…じゃあ、絵名は…?」

メリー「私が連れて来た。私は夢に干渉出来る力がある。お前の夢に干渉してこの世界を作り出す魔法をかけ、絵名をここに連れて来た。意識が無い人間を他者の夢に連れてくるには中々魔力を使ったしまったが…」

和海「…何で、そんな事を」

メリー「絵名の願いなんだ」

和海「絵名の…?」

絵名「私が意識を失うちょっと前、病室にメリーさんが来たの。深夜の誰もいない病室に…」

メリー「私は絵名に恩がある。その恩を返すまで絵名の事を気にかけていたんだ。そして、絵名と和海を夢の中で合わせてやることにしたんだ」

和海「それが、絵名の願い…?」

絵名「私は和海と一緒にいたい。それだけを考えていたから」

メリー「まぁ、恩を返すために叶えられる願いは、夢に関係する事のみだがな…僕は夢に干渉出来る魔女だから」

和海「そうだったんだ…」

絵名「でも、メリーさんのおかげでこうして夢の中で和海と会えた。私はとっても嬉しいよ……でも」

和海「でも?」

絵名「……目が覚めたら、もう会えないんだよね?」

和海「え?」

絵名「そんなの、嫌だな…」

メリー「っ!?絵名、何を言ってる?」

絵名「私は、ずっとずっと和海と一緒にいたいのに…!目が覚めたら会えないなんていやだぁ!」

ムート「え、絵名さん…?」

絵名「私は、私は…まだ…叶えてない夢がたくさんあるんだ…和海と一生一緒にいて、おじいちゃんおばあちゃんになるまで…死ぬまで一緒にいたいのに…何で、私は病気になっちゃたの?死ぬ可能性もあって…何で、何で私は和海と一緒にいられないの!?」

和海「絵名、落ち着いて…」

絵名「落ち着ける訳ないわよ!……和海は、私が死んじゃっても…いいの?」

和海「そんな訳ないだろ!…でも、医者でもなんでもない俺にはどうする事も出来ない…」

メリー「……」



バク「じゃあ一生一緒にいれば良いんじゃないか?」

和海「え?」

バク「この夢から覚めなければいい。その方が俺としても最高だからな」

イーロス「夢の世界に閉じ込めてしまえば、夢から覚めず、お二人は一緒にいられます。悪い提案ではないでしょう?」

メリー「それは無理だ!夢に取り込まれれば現実世界の二人に何が起きるか分からない。それに、覚めない夢はありえない」

バク「じゃあ、実際にやって試してみればいいだろ?どうなるのかはお前の目で確かめて見ろよ、魔女ぉ」

メリー「…絵名の影響とは言え、ここまで夢の住人に意思が宿るなんて…本当に絵名だけの影響か…?……この夢はそもそも和海から……和海!?」

ムート「和海さん、絵名さん…ムートはお二人が幸せならそれで良いと思います。夢が覚めようが覚めなかろうが、選ぶのはお二人なので…」

絵名「…私は、覚めたくない。この世界じゃ病気もない。一緒にいられる唯一の世界。ねぇ和海、貴方は嫌?ここで私と一生一緒にいることは」

和海「……そんな事はない。でも、」

メリー「ダメだ和海!夢に取り込まれれば現実世界のお前も意識が無くなってしまうかもしれない!一生目を覚さず体が衰弱して死んでしまう!絵名にも同じことが言えるが、それでいいのか!?」

バク「良いじゃねぇか、死ぬまでこの世界で幸せに過ごせるんだろ?俺たちスタッフが最後まで面倒見てやるよ!」

イーロス「選ぶのは貴方じゃありません、魔女。ここは人間の夢の世界です」

バク「つーか、何でお前はそんなにこいつらに関わる?夢を見せてやった時点でお役ごめんだろ?」

メリー「最後まで見届ける。それが僕のポリシーだからだ」

バク「意味わかんねぇ。だったらそいつらは夢の世界にいる事を望んでる。それならそれで放っとけよ!」

メリー「夢の世界で犠牲は出さない、夢の住人は黙っていろ!」

ムート「みなさん!喧嘩しないでください!!」

イーロス「無駄よ、ムート。あの二人が答えを出さない限り…私たちは答えを待つだけ」

ムート「イーロスさん……」

バク「さぁ!この世界を望むと言え、和海!」

メリー「ダメだ、和海!」

絵名「和海、お願い…」

和海「お、俺は…………」

①①

メリー「和海!ここで絵名と一緒になってもそれは夢の世界なんだぞ!現実じゃない。現実で絵名が目を覚ますかもしれないんだぞ?それを信じない気か!?」

バク「しつけぇぞ、魔女!こいつらは夢の世界で死ぬまで一緒にいるんだよ。お前、何故そこまでこいつらに関わる?ポリシーだなんだの言ってるが、それだけか?こいつらが夢の世界で死んだら何か問題があるのか?魔女の掟か?」

メリー「…絵名に恩があるだけだ」

バク「…それ、さっきも言ってたな。絵名に恩があるなら尚更二人の邪魔すんなよ」

メリー「…叶うなら、二人の幸せを望んでいる。でも、一生一緒にいるだなんて無理な話だ。いつか別れは来る」

絵名「それが嫌だから、私はここに和海と残りたい」

メリー「現実世界で死んでもか?君は和海も道連れにする気か?和海の家族は?友人は?君にだって和海以外に大切な人はいるだろう!?」

絵名「っ、和海さえいてくれたら…私はそれでいいの!メリーさんは私の願いを叶えてくれるんでしょ?じゃあもう関わらないでいいよ!私は死ぬまで和海とここにいる!和海と一緒なら死んだっていい!」

メリー「死は一生の別れだ!僕は君が和海と過ごす時間が欲しいと言う願いを叶えに来ただけだ!心中を手伝う気はない、お前は…現実世界を諦めるのか?」

絵名「それは…」

メリー「僕は君に死を選んで欲しくない。君は、僕の大切な物を拾ってくれた…恩人だから…」

和海「…ハンカチ?」

絵名「……これ、メリーさんと初めて会った時…私が拾ったハンカチ?」

メリー「あの時も言ったが、これは亡くなった母の形見だ。異国の土地で気付かない内に落としてしまい、絵名がそれを拾ってくれた」

バク「大事な物とはいえ、魔法を使って願いを叶えてやるだなんて、ちょっと大袈裟すぎやしねぇか?」

メリー「そんな事はない。これを拾ってくれた事は、僕にとって願いを叶えてやる価値がある。これは、大好きだった母と僕を繋ぐ思い出の物だから」

和海「思い出の…物……」

イーロス「指輪」

和海「え、指輪?……あっ」

バク「イーロス!?今お前が言ったのか!?」

イーロス「バク様、わたくし達はいつか必ず消滅するもの。それが遅くても早くても変わりはありません。なら、来てくれた方にとって、良い思い出で消えたくはないですか?」

バク「…」

絵名「…和海」

和海「……絵名、俺は諦めてないよ。君が目を覚ますこと」

絵名「え…」

和海「だから、君も諦めないで。俺は信じてるんだ、絵名が目を覚ましてこれからも一緒にいて、いっぱい思い出を作るんだ」

絵名「和海…」

和海「もしも俺達を死がわかつなら…俺はこの指輪に誓うよ。絵名が大好きだ、愛してるって」

絵名「私…」

和海「絵名が目を覚ましても、俺の身に何か起きるかもしれない。先のことなんて誰にも分からないんだ。でも、これからの事を夢見る事は出来る。ずっと一緒にいよう、絵名」

絵名「……ごめん、ごめん和海。私、勝手に諦めてた…和海といられなくなるのが怖くて…和海が諦めてないのに…私が諦めちゃダメだよね。本当ごめん」

和海「うぅん、良いんだよ。だからもう、夢から覚めよう…現実の世界で、君を待ってる」

絵名「うん、絶対…絶対目を覚ますから…!」

①②

メリー「答えは出たみたいだな」

和海「メリーさん……ありがとうございました。貴方のおかげで、絵名と会えた。絵名と心から通じ合えました」

メリー「それは君たちが望んだ事だ。僕は君らを合わせただけ、今度こそ…礼は返せた。じゃあ、帰ろうか」

バク「あーぁ、結局消えるのかぁ…もっと生きていたかったなぁ」

イーロス「仕方ありませんよ。でも、楽しかったです」

バク「…まぁな」

ムート「絵名さん、和海さん…お二人が仲良しでムートは嬉しいです!」

絵名「ありがとう、ムートちゃん。…クレープ食べれなかったのが悔しいなぁ」

ムート「現実世界で食べれば良いですよ!…そして、ムートたちの事覚えててくれたら嬉しいです」

絵名「忘れない。忘れたくないよ…ここでの思い出は。すっごく楽しかった!」

イーロス「その笑顔、プライスレスです。お二人の幸せを祈っております」

バク「リア充は爆発してどうぞ~」

和海「でも、どうやって夢から覚めるんですか?」

メリー「夢は自動的に目覚めるか、強制的に目覚めるかだ。今回は僕の魔法で目を覚ましてやる。意識を失ってる絵名は…どうなるか分からないが…」

絵名「大丈夫!絶対目覚めるから」

メリー「……なら、良い」

絵名「ばいばい、ムートちゃん、イーロスさん、バクさん!」

和海「さようなら」

ムート「はい、お元気で!」

イーロス「夢の世界の遊園地は、これにて閉園ですね」

バク「……じゃあな、お客様」

メリー「行こう、現実の世界へ」

①③
現実世界、病院の屋上のベンチ。

和海「う、うぅん……あ、あれ?ここは…?」

メリー「起きたか、和海」

和海「うわぁ!?め、メリーさん!?」

メリー「お、今度は覚えてたか」

和海「え、あ…元の世界に戻ってこれたんですか?」

メリー「あぁ、ここは病院の屋上だ」

和海「体痛い…俺、どれだけの時間寝てたんですかね?」

メリー「せいぜい1、2時間だ。夢の世界と現実世界は時間の流れ方は違うが、固いベンチの上で寝転がってたら体は痛くなるだろう」

和海「…夢…でもちゃんと全部覚えてます。あそこであった事…全部…。あの、ありがとうございます、メリーさん。絵名に合わせてくれて…夢の中とはいえ、元気な姿の絵名を見たのは久し振りだったので…」

メリー「僕は絵名の願いを叶えただけだ。絵名がお前と会いたい、お前との思い出を作りたいと望んだからだ」

和海「…絵名の願いとそれが絵名に対する恩返しだってのは分かったんですけど、何で絵名が病気にかかったのが分かったんですか?分からないと絵名に近づけませんよね?」

メリー「最初から察しは付いていた。初めて会った時、絵名は病気に侵され始めていた頃だった。…僕の母も病気で亡くなったし、今まで生きて来て多くの死を見て来た。知ってるか?個人差もあるが、魔女は長生きなんだ」

和海「じゃあ、最初からこうなると分かっていたんですか?」

メリー「そこまでは分からん。僕は魔法で絵名の状態を知り、君と絵名を引き合わせた。それだけだった。絵名にも説明はしていたし、理解していた。でも、思い出を作る内にもっと一緒にいたいと思ってしまったんだろう」

和海「だからあの時、絵名は夢の世界にずっといたいと言ったんですね」

メリー「人間とは不思議な物だな。好意や愛情と言う物は人間を美しくしたり醜くしたりする。僕はそんな人間たちをずっと見て来た。お前たちもそんな人間の一つだ」

和海「…メリーさんには俺たちがどう見えましたか?」

メリー「あの夢での出来事を誰がどう見るかは人それぞれだが、下手したら君は戻れなかった。絵名も夢の世界を謳歌していただろう。…それをハッピーエンドだと思う奴はいる。でも、それが本当にハッピーエンドなのかは僕には分からない。僕は、全員が幸せに終わる物語がハッピーエンドだと思ってるからな」

和海「…そうですね」

メリー「…和海、僕のこのハンカチには母からの魔法がかかってる」

和海「え?」

メリー「解けることのない愛の魔法。母を忘れない為の幸せの魔法だ」

和海「幸せの…魔法」

メリー「……なんて言ったが、そんなものかかってない。魔法は口実。これは僕と母を繋ぐ為の大切なもの…君らの指輪と同じ、な」

和海「…幸せの…愛の魔法…。はい、これは絵名と夢の世界での思い出を繋ぐ物…。何があってもあの時の記憶は忘れません。メリーさんとも繋がってますから」

メリー「…ふふ、忘れてくれないとはまるで呪いの様だな。…そろそろ絵名の様子を見に行かなくていいのか?」

和海「そうですね、メリーさんも行きませんか?」

メリー「……僕は良い。もうすぐおしまいだからな」

和海「おしまい?」

①④
バタンと屋上の扉が開く。

ムート「あー!やっと見つけました、和海さん!」

和海「え!?あ、ムートさん?」

ムート「はい?何を言ってるんですか?私は武藤です」

和海「あ、そうだ看護士の…。ムートさんって武藤さんがモデルだったのか…」

ムート「何をぶつぶつ言ってるんですか?それより早く絵名さんの病室に来て下さい!」

和海「え、絵名に何か!?」

ムート「良いから、早く!」

和海「メリーさん、行きましょ……あれ、メリーさん?…いない?」

ムート「和海さん!」

和海「ムート…武藤さん、今さっきまで俺以外に居たんですけど、見ませんでした?」

ムート「え?屋上には和海さんしかいませんでしたよ?」

和海「え…」

ムート「それより、絵名さんが!」

和海「そ、そうだ。絵名に何がっ…!?」

①⑤

バク「伊鈴、武藤はまだか?」

イーロス「落ち着いて下さい獏井先生」

バク「家族に連絡はした、まだ和海君が院内にいるから早く教えないと…」

ムート「伊鈴先輩、獏井先生ー、和海さん連れて来ましたー!」

和海「あ、バクさんとイーロスさん…病院の先生と武藤さんの先輩看護士がモデルだったのか……」

バク「和海君、まだいてくれて良かった。絵名ちゃんの家族には連絡したんだけど…」

和海「え?」

イーロス「院内にいる君には、先に合わせてあげようと思って」

和海「……嘘」

ムート「ついさっき…目を覚ましたんです!」

和海「絵名…?」

絵名「和海、おはよう!」

和海「絵名ぁ!」


メリー「二人はいつか分たれる日が来るだろう。でも、今はその時じゃない。互いにかけた呪いという名の愛の魔法。それは見方によっては美しくも残酷にも見えるだろう。でもその見え方が二人に幸せをもたらす形なら、なによりも美しい物に見えないか?二人の愛の魔法が解けるまで、二人を分つものは何もない。夢でも現実でも僕は二人の幸せを祈っている」

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