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彼岸花

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 酷く雨の降る日。透明な雨の膜に覆われて私の世界の色は全て消え去った。─世界で一番愛しい人を失ったその日、零れたのは涙だけではない。数々の思い出、人を愛する感情。失った代わりに得られたのは人を失う悲しみと絶望だけ。家の目の前で嫌な音がして。駆け付けてみればそこにあるのは動かなくなった車と貴方。零れていく血が赤い筈なのに、雨に溶けて滲んで、消えて。アスファルトと灰色の空、白い救急車と黒い警察。折れた電柱、折れた手足。サイレン鳴り響くのもまるで何処か遠くの出来事の様で。動かなくなった貴方は雨に濡れて酷く冷たかった。真っ白な病院に運び込まれたって、貴方が生き返る事なんてなくて。黒い棺に入れられ、白菊に囲まれた貴方の肌もやけに白くて。そこには生きてる時の血色も何も失われていて。触れたらもう人としての温かさなんてどこにもなくて。貴方は死んでしまったんだなと嫌でも覚えさせられた。土砂降りの雨は夜まで止まず、聞けば台風だったと後から知って。帰る頃には枯れる涙と雨、それでも空は心と同じ様に唯黒く。独りきりで家に帰ればいつもなら明るい部屋に明るい声が聞こえてくるのに。暗い部屋、ただ一人。もう何処にも貴方は居ない。

 貴方は私を白黒の世界に置いていってしまった。葬式は言わずもがな。部屋も人の表情も唯暗く。皆涙、啜り泣く声、後悔告げて。暗い儘時間は進む。棺に入れられた貴方とも今日で最後、この後貴方は炎に包まれて焼かれて。もう思い出の中の人となる。僅かな期待、白黒の世界で赤い炎が見られるかと思ったけれど、貴方は鉄の扉の奥に吸い込まれていって。─次戻った時は真っ白な骨となって戻ってきた。

「残酷な人、私に色はもう見せてくれないのね」

 真っ白な骨は真っ白な壺に入れられて。黒い棚の上に唯あり。そこに貴方がいると思える程私の心は強くなくて。時間がある限り泣いて過ごした。貴方はあの日行ってきますって笑って行ったのに。只今の一言は急ブレーキの音に轢かれて消えた。あの日は酷い雨の日で見えなかったと言うならば。台風の過ぎた今、雨の止んだ今、貴方を見えるようにして欲しい。涙は、まだ止まない。

 涙の数だけ時が過ぎ。道脇の落ち葉がアスファルトを隠すようになった頃。貴方の入った白い壺を持ち、道を行く。行き先は貴方の終の場所。数々のお墓のうちの一つが貴方の居場所。貴方が仕舞われる時でさえ、空は曇り空。お墓に白い壺が仕舞われていく姿を唯眺め。白い菊が備えられて、お終い。もう貴方に会うことはない。来たって此処にあるのは灰色の墓ばかり。貴方の影は─貴方のくれた愛はもう何処にもなかった

 風が吹いて。木から零れた落ち葉がひらりと舞う。つられて舞って行くその先を見詰めていれば、一輪の彼岸花。灰色のお墓と黒い地面を背景に、見事に咲いていて。風に揺られ、咲いている。黒でも灰色でも白でもない、何よりも赤い赤い彼岸花。その紅はまるで貴方の唇のようで、貴方の血の様で、貴方の愛のようで。あの白い壺の中に貴方は居ないと言ったけれど、ここに居たのね

「また来るわ」

袖を翻し貴方に告げる。世界はまだモノクロームな儘。でも彼岸花は、貴方の色は心に焼き付いている
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