気分屋書き散らし

気分屋

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夜霧

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夜霧に呑まれ君が居なくなった。影も形も、全てが夢だった様に消えてしまった。幸せな未来を掴む迄後一歩と言う時に、君は居なくなった。最初は事故にでもあったのかと、唯心配になっていた。何度も部屋を行き来し、いつ警察から連絡が来るのかと怯えていた。しかし、警察からは連絡が無く寧ろ自分が連絡しなければならなくなった。我々が探せど探せど煙が掴めぬ様に、空気に溶けていく様に、君の背中に指は届かない。家に帰ったら戻ってきてくれているのでは無いかと願った。しかし扉を開けど待つのは君の面影の無い誰も居ない暗闇だけだった。静寂が包む部屋の中、影を追い寂しく一人過ごす日々。次第に心は期待を、辞めた。此の儘戻る事を期待し続けてしまえば壊れるのがわかっていたから。期待が裏切られ続ける事に嫌気が差した─大切な思い出の中から何かが零れた様な、気がした。

戻ってくる事を諦めたらいつからか、無事じゃなくても良いと思う様になった。魂の残らない君の姿でも良いから、一目会いたいと。恋人の死を願うなんて恋人失格かもしれないけれど。一人に慣れない生活で、答えも終わりも分からぬ儘いつまでも君を待つのは、辛かった。答えさえわかってしまえばもう待たなくて済むからと、居なくなったあの時に残された心がそう告げていた。

─鏡を見れば、酷い顔。絶望に染まり、瞳に光なんて無い。決して誰かを待つ顔では無い。鏡を見る度に、現実を知らされている様な気がして。本当は最初から分かっていたのかもしれない。いや、君が居なくなる前から知っていたのかもしれない。現実から目を逸らし続けた代償。戻って来るかもと。君が俺を愛し続けた儘居ると。そう、信じたいが故に縋って待ち続けてしまった。いつの夜か、君は俺以外の誰かと遊びに行った事。そして、その回数が段々と増え、家に居ない時間が増えていた事。あくる日…君が夜霧に呑まれた日、家の中の君の面影が、君の荷物が、全て無くなっていたから。事故では無く。君は死んでいる訳では無く。見ず知らずの男と今も幸せに暮らしているのだと。心の何処かで理解していたのかも、しれない。それでも。まだこの瞳で確かめたのではないのだから。嗚呼、どうか。どうか、君よ。俺への愛を抱えた儘死んでいてくれ。
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