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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第95話 防衛機制とは心の服のようなものです
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ドイルがからだを縮こまらせて、か細い声で申告するとフロイトが大声で断じた。
「ふん、なんだね。専門外の軍医や、博士号をとりながらただの町医者をやっている輩かね。そんな連中になぞにわかるわけもない」
スピロがその大声をひとことで封じた。
「あなたも今はただの町医者でしょう」
「あぁ、そうとも『精神分析』の研究だけでは生きていけぬからな。だが志がちがうのだ。志がな!」
「防衛機制——」
スピロがその大声を、またも専門用語で封じた。
「ひとは受け入れがたい状況さらされた時に、それによる不安を軽減しようと無意識的に心の防衛反応が働きます。それは言わば『こころの服』のようなものです」
フロイトの顔がみるみるこわばりはじめた。
「ひとはその自分がおかれた受け入れがたい状況や潜在的な危険な状況を、意識から締めだし隔離することで、自我を守ろう試みるのです」
フロイトの顔は完全に蒼ざめていた。
セイにはフロイトが今にもその場で気絶でもするのではないかと思えたが、そうではなかった。スピロのことばをひと言も聞き漏らすまいと、前のめりになっているだけだった。
さっきまでの小馬鹿にしたような態度はすでにない。
「フロイト様、今あなたがなされていることは防衛機制の『抑圧』と呼ばれているものにそっくりです」
そう言われたフロイトは顔をゆがめた。
だがそれはさきほどまでのような、頑なな態度で意見を拒否するあまりに、ゆがんでいる顔つきではなかった。
「その理論……。わたしが追い求めていた答えそのものだ。実に興味深い、いや、あまりにも斬新かつ適確で、嫉妬すら覚えるほどだ。悔しくてしかたがない。いったい誰の学説なのだろうか?」
スピロは破顔して答えた。
「ジークムント・フロイト。あなたですわ」
「わ、わが輩?」
フロイトは驚くのをこえて、若干うろたえているように見えた。
「だが、わが輩はそんな分析に及んだことはない……」
「それはそうでしょう。これはあなたが『未来』に達する領域なのですから……」
「み……、未来……」
「ええ。この先あなたの研究は、あなたが『精神分析』と名づけた、心の治療方法を通して、人間の精神のありようや、精神外傷と呼ばれるこころの怪我の正体を詳らかにしていくのですから」
フロイトは感銘をうけたかのように目を閉じて、スピロの口から発せられた宣告をあまんじて受け入れようとしているようだった。
まるで神から託宣をくだされたと思っているのかもしれない。
「ふん、なんだね。専門外の軍医や、博士号をとりながらただの町医者をやっている輩かね。そんな連中になぞにわかるわけもない」
スピロがその大声をひとことで封じた。
「あなたも今はただの町医者でしょう」
「あぁ、そうとも『精神分析』の研究だけでは生きていけぬからな。だが志がちがうのだ。志がな!」
「防衛機制——」
スピロがその大声を、またも専門用語で封じた。
「ひとは受け入れがたい状況さらされた時に、それによる不安を軽減しようと無意識的に心の防衛反応が働きます。それは言わば『こころの服』のようなものです」
フロイトの顔がみるみるこわばりはじめた。
「ひとはその自分がおかれた受け入れがたい状況や潜在的な危険な状況を、意識から締めだし隔離することで、自我を守ろう試みるのです」
フロイトの顔は完全に蒼ざめていた。
セイにはフロイトが今にもその場で気絶でもするのではないかと思えたが、そうではなかった。スピロのことばをひと言も聞き漏らすまいと、前のめりになっているだけだった。
さっきまでの小馬鹿にしたような態度はすでにない。
「フロイト様、今あなたがなされていることは防衛機制の『抑圧』と呼ばれているものにそっくりです」
そう言われたフロイトは顔をゆがめた。
だがそれはさきほどまでのような、頑なな態度で意見を拒否するあまりに、ゆがんでいる顔つきではなかった。
「その理論……。わたしが追い求めていた答えそのものだ。実に興味深い、いや、あまりにも斬新かつ適確で、嫉妬すら覚えるほどだ。悔しくてしかたがない。いったい誰の学説なのだろうか?」
スピロは破顔して答えた。
「ジークムント・フロイト。あなたですわ」
「わ、わが輩?」
フロイトは驚くのをこえて、若干うろたえているように見えた。
「だが、わが輩はそんな分析に及んだことはない……」
「それはそうでしょう。これはあなたが『未来』に達する領域なのですから……」
「み……、未来……」
「ええ。この先あなたの研究は、あなたが『精神分析』と名づけた、心の治療方法を通して、人間の精神のありようや、精神外傷と呼ばれるこころの怪我の正体を詳らかにしていくのですから」
フロイトは感銘をうけたかのように目を閉じて、スピロの口から発せられた宣告をあまんじて受け入れようとしているようだった。
まるで神から託宣をくだされたと思っているのかもしれない。
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