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ダイブ6 切り裂きジャックの巻 〜 コナン・ドイル編 〜
第96話 ジグムント・フロイト頭をたれる
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「ドクトル・フロイト……」
ワイルドがおそるおそる、それでいて確信を持ってもって尋ねた。
「信じていただけだろうか。彼らが未来から来たというのを……」
「ミスター・ワイルド。申し訳ないが、わが輩は正直信じきれてはおらん」
フロイトはまだ得心のいかない様子のまま、それに答えた。
「だが、今語られた理論が、今この19世紀末に生きるだれかが、たどり着いたものだと聞かされていたら、わが輩は悔しさのあまり、眠ることさえできぬほど身悶えすることだろう。だがそれが未来のわが輩の功績だと讚えられたのなら……。それを否定することなど、できようはずもない」
フロイトはスピロの方にむき直って、たいへん申し訳なさげに言った。
「ミス……クロニス。さきほどまでは本当に失礼した。だがどうか許していただきたい。そして未来の話をもうすこし、わが輩にお教え願えないだろうか」
緊張感に包まれていた部屋の雰囲気があっという間にほころんだ。
なによりもホッとした顔になっていたのは、リンタロウとドイルだった。が、ワイルドはそうではなかった。
「ドクトル・フロイト。たいへん申し訳ないのですが、スピロ嬢はまずは僕が話を聞くことになっておりまして……」
「いや、しかし……」
喧嘩ざたになりそうな剣幕に、ドイルとリンタロウはその場から立ち去ろうと、椅子から腰をあげた。スピロがふたりに申し出る。
「ワイルド様。ファッションのことなら、わたくしの妹ゾーイのほうが、ボーイズ・ラブに関してはマリア様が、そしてお金儲けについてはエヴァ様が詳しいですわ」
「ちょっとぉ、スピロさん。なんかわたしだけ、えらく乱暴な紹介をされているようですけどぉ」
「いや、そうでもない、エヴァ。ぜひともわが『ザ・ウーマンズ・ワールド』がもっと売れるかについて、未来の知識をお借りできると嬉しい」
ワイルドは世辞としかとれない口ぶりで、エヴァの耳元でささやいた。が、まんざらでもない様子でエヴァは顔を赤らめた。
「まぁ、しょ、しょうがないですわね」
ワイルドはポンと手をうって、スピロにむかって提案した。
「そうだ。本日は僕の知り合いの作家や、仕事仲間たちを招いているんだ。ぜひとも彼らにも引き合わせたいものだね」
と、そのとき、中庭のほうがにわかに騒がしくなったかと思うと、あわただしくドアが開いて執事が駆け込んできた。
「ワイルド様。ただいま、邸内をうろついていた怪しい者を、ロンドン警視庁の刑事が捕まえました」
「怪しい者?。刑事?。なぜここに警視庁の者が?」
「フレッド・アバーライン警部補がお見えです」
ワイルドがおそるおそる、それでいて確信を持ってもって尋ねた。
「信じていただけだろうか。彼らが未来から来たというのを……」
「ミスター・ワイルド。申し訳ないが、わが輩は正直信じきれてはおらん」
フロイトはまだ得心のいかない様子のまま、それに答えた。
「だが、今語られた理論が、今この19世紀末に生きるだれかが、たどり着いたものだと聞かされていたら、わが輩は悔しさのあまり、眠ることさえできぬほど身悶えすることだろう。だがそれが未来のわが輩の功績だと讚えられたのなら……。それを否定することなど、できようはずもない」
フロイトはスピロの方にむき直って、たいへん申し訳なさげに言った。
「ミス……クロニス。さきほどまでは本当に失礼した。だがどうか許していただきたい。そして未来の話をもうすこし、わが輩にお教え願えないだろうか」
緊張感に包まれていた部屋の雰囲気があっという間にほころんだ。
なによりもホッとした顔になっていたのは、リンタロウとドイルだった。が、ワイルドはそうではなかった。
「ドクトル・フロイト。たいへん申し訳ないのですが、スピロ嬢はまずは僕が話を聞くことになっておりまして……」
「いや、しかし……」
喧嘩ざたになりそうな剣幕に、ドイルとリンタロウはその場から立ち去ろうと、椅子から腰をあげた。スピロがふたりに申し出る。
「ワイルド様。ファッションのことなら、わたくしの妹ゾーイのほうが、ボーイズ・ラブに関してはマリア様が、そしてお金儲けについてはエヴァ様が詳しいですわ」
「ちょっとぉ、スピロさん。なんかわたしだけ、えらく乱暴な紹介をされているようですけどぉ」
「いや、そうでもない、エヴァ。ぜひともわが『ザ・ウーマンズ・ワールド』がもっと売れるかについて、未来の知識をお借りできると嬉しい」
ワイルドは世辞としかとれない口ぶりで、エヴァの耳元でささやいた。が、まんざらでもない様子でエヴァは顔を赤らめた。
「まぁ、しょ、しょうがないですわね」
ワイルドはポンと手をうって、スピロにむかって提案した。
「そうだ。本日は僕の知り合いの作家や、仕事仲間たちを招いているんだ。ぜひとも彼らにも引き合わせたいものだね」
と、そのとき、中庭のほうがにわかに騒がしくなったかと思うと、あわただしくドアが開いて執事が駆け込んできた。
「ワイルド様。ただいま、邸内をうろついていた怪しい者を、ロンドン警視庁の刑事が捕まえました」
「怪しい者?。刑事?。なぜここに警視庁の者が?」
「フレッド・アバーライン警部補がお見えです」
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