僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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五章

僕のことも、1

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「迷宮の夢魔むまから襲撃される前に、俺の過去をすべて明かしちまおう」
 二階堂はお笑いタイムに幕を下ろし、話を再開した。
「二月一日、研究学校の入学案内が送られてきて、俺は驚いた。兄貴達とまるっきり違う俺が、兄貴達と同じ学校に行けるわけ無い。俺は、そう信じきっていたからな」
 四つ目はどうなっちゃったの二階堂、という疑問を蹴飛ばし僕は耳をそばだてた。お兄さん達と同じ研究学校を選ばなかった経緯は、それ以上に気になったからね。
「驚きの次にやって来たのが、喜びだった。あと一か月ちょいで、俺は教師どもとオサラバできる。それが、飛び上らんばかりに嬉しかったんだよ」
 同級生達に忍び寄る洗脳の負の遺産を二階堂らが必死で食い止めている最中、教師達はその件に関し何も手を打たなかった。全クラスにまたがる二階堂の同士達には元級友以外の生徒も大勢いて、その生徒らが多方面から探りを入れたにもかかわらず、教師の動きを一つも掴むことができなかったのだ。それが意図的なものなのか、まったく気づいていないのか、そもそも関心が無いのか意見が分かれたが、教師を頼るべからずという行動指針は終始一貫していたと言う。その先頭を走っていたのが二階堂だったんだろうなと、僕は思えてならなかった。
「喜びが落ち着くと、その次は悩みがやって来た。兄貴達と同じ学校に行きたいという気持ちと、別の学校に行きたいという気持ちが、俺の中でせめぎ合っていたんだよ。同じ学校に行けば、生まれて初めて同じ土俵に立てた証明になるだろう。いやそれは逆で、別の学校で自立してこそ、俺は証明を手に入れたことになるだろう。この二つの想いがグルグル回り、答が一向に見えてこなかったんだな」
 グルグル回る想いの箇所で心臓に痛みが走り胸に手を当てそうになるも、僕はズボンを握り締め、それを自分に許さなかった。
「思いあぐねた俺は篠山に相談した。すると篠山は、お兄さん抜きで考えてみたらとアドバイスしてくれた。それはいわゆる、コロンブスの卵でさ。そんな単純なことも見過ごしていたのだから、俺は相当煮詰まっていたんだな」
 研究学校の入学案内を受け取った十二人の生徒全員が二階堂の同士だったため、丁度良い機会という声が高まり、全国60の研究学校について皆で調べてみたと言う。すると、それまで欠片も気に留めなかった学校が二階堂の心を占拠した。それが、湖校だったのである。
「ほとんどの研究学校は研究分野の特色を持つのに、湖校はそれを持たない。そのくせ湖校は、全国屈指の有名研究学校に名を連ねている。その理由に痺れちまったって言ったら、いいかげん過ぎかな?」
「そんなこと無いって。あれ、痺れるよね」
「まったくだ。万年中二病の俺の心をあれほど打つ特色は、他に一つも無いな」
 頭を掻いておどける二階堂に、僕と北斗は即答した。だってホント、湖校はヘンな学校なのである。僕らは頷き合い、胸を張り声を揃えた。
「「湖校は、選考基準が最も不明瞭な、研究学校である」」と。
 研究学校の入学案内を受け取った生徒は、入学したい学校を第三希望まで決め、それぞれの理由を添えて文部科学省へ提出する。それ故、50400人の新入生全員が第一希望を叶えられるのでは決してないが、それでも研究分野や部活動が合致している場合は、入学選考を突破しやすいことが統計で判明している。しかし湖校には、それが無い。どんなに調べても、選考基準の傾向が見えてこないのだ。そして、そんなヘンテコな学校は全国60の研究学校のうち、なんと我らが湖校だけなのである。
「研究分野に特色がないから、その面からの選考考察は不可能。東日本随一の薙刀強豪校であっても、薙刀の強さだけが選考基準でないことは明白で、陸上部や格闘系部活もそれに該当する。また、研究に秀でた生徒を率先して入学させている訳では決してないのに、世界的専門家の排出率で三位以下に落ちたことは一度もなく、頭一つ飛びぬけた存在だ。だから必然的に、卒業生の活躍度は一位。在学中に生涯収入を稼いでしまう生徒数も一位。その上、研究学校の象徴とも言える、騎士会と前期後期委員制を確立したのも湖校だ。校風に列挙されているそんなこんなを見ていたら、俺スゲエ興奮しちゃってさ。なにがなんでも湖校に入ってやるぜって、皆に宣言しちゃったんだよね」
「ぶはっ、お前もか!」
「安心しろ二階堂、俺もだ!」
「そうだったのか、ギャハハハ!」
「「ギャハハハハ~~!!」」
 僕らは三人で笑い転げた。すると、小学校の段階で既に僕らは同じクラスになる運命だったのかもしれないなんて気がしてきて、喜びが無尽蔵に湧き上がって来た。けどこのひと時は、二階堂の次の一言で終止符を打つ。二階堂は笑いを収めて言った。
「俺の宣言に賛同した仲間が、他に三人いてさ。四人一緒に、湖校を第一希望にして提出したんだ。でも願いが叶ったのは、俺一人だった。なんで俺なんだろう、あいつらは俺よりずっと素晴らしい奴らなのに、どうして俺だけだったんだろうって、俺はしばらく自分を責めたよ」
 黙り込む二階堂へ、同じ過去を僕も告げた。
「二階堂、わかるよ。僕の小学校の五人も全員湖校を望んだのに、うち二人はそれを叶えられなかった。なんで僕だったんだろうって、僕も随分自問したよ」
 北斗が湖校に入学したのは、解る。昴も、北斗に負けないくらい解る。来年の話だが美鈴に至っては、湖校生にならない方がおかしいと真剣に信じられるほどだ。でも、僕は不可解。一般的に研究学校は地元生徒へ高い優先権を与えているが、湖校は優先権が最も弱い学校の一つで、所沢市を含む近隣六市の生徒ですら選考率は四割を下回っている。だから同級生も先生方も、北斗と昴以外は宝くじに当たるようなものだと考えていた。選考基準が不明であっても、破格に優秀な地元生徒はその限りでないと皆知っていたからだ。ただ、なぜか僕は湖校に行ける気がしていて、北斗と昴だけには絶対入ってやる宣言をしていたのだけど、それが叶ったとたん疑問の嵐にみまわれてしまった。二階堂同様、どうして僕だったのかと己に問う日が続いたのである。かくなる次第で二階堂へ共感の想いを抱いていたのに、北斗とのやり取りで明るみになった二階堂の鈍感振りに、それは宇宙の彼方へ吹き飛んで行った。
「月浜さんも湖校を第一希望にしていただろうに、残念だったな」
「ああ、残念だった。月浜さんもしょげていたよ。なのに俺が自分を責めてるって知ったとたん飛んできて、叱るやら励ますやらで大忙おおいそがしになってさ。その優しさに癒されて俺は立ち直れた・・・ん?」
 二階堂は不意に首を傾げ、心底わからないと言いたげに問うた。
「なんで北斗は、月浜さんが湖校を第一希望にしたって知ってるんだ?」
 僕と北斗は、3Dでなければ揉みくちゃにしてやったのにと盛大な溜息をついてから、二人で声を揃え、二階堂を叱りつけた。
「「この鈍感野郎が!」」
 二階堂だけは訳がわからず、一人オロオロしていたのだった。
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