僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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六章

真相、1

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 続きは、猛と真山が交互に話してくれた。
 北斗と昴の噂は極めて密かに囁かれたため、女子序列トップ5の一人である芹沢さんにも、届くまで一週間を要した。いや恐らく、昴と仲の良い芹沢さんがその噂を耳にしないよう、集合意識的な力が働いたのだろうと猛と真山は話していた。
「自分がその噂を流していることがおおやけになり、そしてもしその噂が出鱈目でたらめだったら、天川さんと白銀さんが意図せずとも、自分は一年女子全員の報復対象になる」
「体育祭で別次元の女子であることを示した天川さんと白銀さんをセットで敵に回すことは、そういう事なのだと女の子たちは恐怖し、そしてそれが男子にも伝わったのだと俺達は考えている」 
 二人はそう、俯きながら話していた。
 二人の耳にその噂を初めて届けたのは、二年の寮生だった。驚く二人に先輩も驚き、十組の男子寮生達の会話を小耳に挟んだ事を二人に教えてくれた。すぐさま皆を問いただすと、猛と真山はそれを知る最も遅い一年男子かもしれないと皆は言った。二人は夜を徹して様々な対策を話し合うも、それらすべては無に帰する事となった。なぜなら次の日の朝、二人は昴と輝夜さんからあるお願いをされ、そしてその事に何の対策も打てぬままその日のお昼、昴が薙刀部に休部届けを出したからだ。
 今振り返ると、いかに昴とは言え、たかが休部ごときで一年生校舎をあれほど激震させられるはずなかった。僕らが知らなかっただけで、一年生のほぼ全員が昴に注目していたからこそ、昴の休部はあれほど劇的なニュースとして校舎を駆け巡ったのだ。そしてこれぞまさに僕だけが知らなかったのだが、そのニュースには六年生校舎でのやり取りが添えられていたと言う。「幹部達に休部中の過ごし方を問われた天川昴は、幼馴染の家の道場で修行しますと答えた。すると湖校の生ける伝説である薙刀部部長が、なら安心だと届け出を即座に受理した」という情報が添えられていたそうなのだ。六年生校舎から帰って来た昴が十組の教壇で「輝夜との間に決定的な差が開く前に修行しなおそうと思って」と発言した際、皆の視線が僕に集まった理由は、これ。そうまさしく、僕だけがこれを知らなかったのである。
 ならなぜこうも、昴に関する情報を僕は知らずにいたのか。そう問いかけた僕に二人は、昴と輝夜さんがそれを望み、そして自分達がそれに同意したからだと答えた。昴の休部届が受理されるなり、昴は学内ネットの秘密ルームで、十組の女の子たちにこんなお願いをしたと言う。
「私に関する噂が飛び交っていることを、私は知っていました。皆さんどうかお願いです。それを眠留に伝えるのは、眠留に最も近しい友人達であるよう、協力して頂けないでしょうか」
 この書き込みが皆の心に浸透する時間を充分取りつつも、それについて返信が来るより先に、輝夜さんが書き込みをした。
「昴は言いにくいでしょうから私が言います。昴の願いに、以下の男子生徒達が協力を申し出ていることを、十組以外の人達にも秘密裏に伝えて頂けないでしょうか」
 湖校の学内ネットは匿名が基本でも、本人の発言であると証明する事はもちろん可能。それに則り、北斗、真山、猛、京馬の順で、昴と輝夜さんの書き込みを裏付ける文書がただちに添付された。十組の女子達はこれに飛びついた。飛びついた理由は五指に余るが最たるものを二つ挙げるなら、渦中の人の片割れである北斗の名がそこにある事と、一年麗男子の一位と二位が揃って名を連ねている事の二つになるだろう。北斗の名がそこにあるのは噂好きの女子の興味を惹いて止まぬことだし、昴の協力要請を断ると一年女子のツートップに加え、一位と二位のイケメンも敵に回すことになる。この二つを、一年生校舎が激震しているまさにこの瞬間、とっておきの秘密として友人知人に話すことに興奮しない女の子が、果たしているだろうか。人はそれぞれだから、いたのかもしれない。だが少なくとも、それをその場面で発言する女子は一人もいなかった。十組の女子たちは元々、女子特有の垣根が低かったため皆すぐ協力を約束し、このやり取りは瞬く間に一年全員の知る処となった。いや正確には、僕以外の一年生全員と、大勢の上級生達の知る処となった。それをもって、噂から始まるこれら一連の出来事を100日以上僕の耳から遠ざけ続けると言う、悪い冗談としか思えない協力体制が、湖校に成立したのだった。
 二人の友が教えてくれたこの真相に、心と体の両面で胸が押しつぶされた僕は、うつ伏せになっていられず仰向けになり天井を見つめた。そのお蔭か、僕を苦しめる二番目の事柄なら、二人になんとか尋ねることができた。
「二人はなぜ、昴に協力したの?」
 頭の方角から、体の向きを変える音が二つ聞こえてくる。二人も僕と同じく、天井を見上げているんだろうな。
「俺が天川さんに協力した理由は、清良きよらの時と同じだ。俺は自分が苦しむより、俺のせいで清良が苦しむことの方が百倍苦しい。天川さんが眠留に同じことを感じているなら、協力しないわけが無いな」
 猛が脚を壊した経緯と、それが芹沢さんと猛へもたらした苦悩を本人達から直接聞いている僕は、感謝の気持ち以外の何ものも猛に抱くことができなかった。
 真山は、俺の方はちょっと長くてややこしくて腹立たしいだろうけどと前置きしてから、僕の質問に答えてくれた。
「俺は今、どんな湖校生に告白されても、その子と付き合うつもりは無い。俺は、俺を想っている女の子たちに、早く俺を諦めてほしい。そして、良い男達が大勢いるこの学校で素敵な恋をし、素晴らしい学校生活を送ってもらいたい。俺に告白しないことで俺を諦められず、最も多感な六年間を無駄にしてほしくないんだよ。だから俺は告白してくれた子たちに、感謝と未来の祝福をいつも心から伝えている。そんな俺の気持ちを理解してくれたのか、最近女の子たちは、諦めを付けるため俺の所にやって来るんだ。俺はそれが、凄く嬉しくてさ」
 真山のモテ振りは別格過ぎて、その状況を想像する事すら困難だったが、それでも真山が女の子たちの幸せを願っている事だけは僕にも理解できた。真山は容姿は言うに及ばずその心根においても、まさに学年一の麗男子だったのである。
「天川さんは、北斗をキープしておくような人じゃない。また天川さんは、自分の利益のために他者を動かす人でもない。そして天川さんは眠留に、超常的な感覚を用いることができる。この三つから天川さんは、北斗の未来のために北斗へ別れを告げ、眠留の未来のために皆へ協力を願い出たと、俺は確信した。だから俺は協力を惜しまなかったし、そして打ち明けると、俺は天川さんに無限の感謝を抱いている。もし眠留があの噂を知っていたら、新忍道サークルの眠留も、サッカー部と陸上部の眠留も、俺は見られなかったかもしれないからね」
 ヘイ、という猛の声が聞こえた。すぐさまコツンと、拳と拳を合わせる心地よい音が耳朶をくすぐった。温かな想いが胸にじんわり広がってゆく。その温かさに背中を押され、僕を最も苦しめる事柄を、今度は尋ねられた。
「北斗はなぜ、いつもと変わらない北斗で、ずっと僕のそばにいてくれたのかな」 
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