僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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八章

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 京馬の問いかけに北斗は首を横へ振り、「何より重要なのは自分好みの武器を使う事だから、俺は介入しないよ」と答えた。それを受け皆はハイ子を操作し、クラスHPの応募画面を出して、希望する武器を書き込んで行った。ここにいるほぼ全員にとってこれは余興に関する初めての行動だったから、誰もが厳粛な面持ちで応募画面を睨んでいた。もちろん僕もその一人だったけど、北斗の次の言葉で僕だけはヘタレ顔に転げ落ちた。
「昨日のプレゼンで話した通り、眠留は最初の班で確定だ。初スポットライトと初セリフと初殺陣をこなすのは、眠留だからな」
 気の早い連中は既に腹を抱えていたが、この時点の僕にはまだ余裕があった。仲間がいればそれも乗り越えられる、と考えていたのだ。それを皆へ伝えると、任せろという言葉が方々から帰って来た。そんな皆に安心するも、視界の端に違和感を覚え、そちらへ顔を向けた。そこにいたのは猛で、親指と人差し指を眉間に当て目を閉じ、猛は何かを思い出しているようだった。背中に冷たい汗が流れた。その直後、猛は指を目元に添えたまま話した。
「昨夜は、消灯寸前まで台本を読んでいた。妖怪退治は五段階でされるから班も五つなんだって、俺は理解していた。だがよくよく思い出してみると、眠留一人の大立ち回りを一段と数えて、丁度五段なんだよな。それはつまり・・・」
 背中のみならず全身から冷たい汗が流れた。猛がこの姿勢で考え込むのは、いつも必ず、とても重要な結論を導き出そうとしている時だった。高速ストライド走法の共同研究者としてそれに幾度も助けられている僕は、猛が重要な話をしている事と、それが僕を打ちのめすであろう事を予想したのである。その予想は、真山によって正しかったことが確定した。やっと得心したよと前置きし、真山は猛の話を引き継いだ。
「つまりそれは、一班は眠留だけで、二班から五班は五人構成になるってことかい、北斗」
「基本的にはそうだ。ただストーリー的に三班はどうしても四人になるから、法具を使う四班を六人にしている。それ以外の槍班と必殺武器班は、五人構成だな」
 このやり取りは、高さと低さの調和した心地よい声と、聞く者に安心感を与える太く滑舌の良い声によってなされたため、一種の催眠効果があったのかもしれない。たった一人の例外を除き、皆口々にその班分けへの賛同を表明していった。言及するまでもなく、そのたった一人の例外は僕。垂直ジャンプをするかのように立ち上がり、僕は皆の早急さへ警鐘を鳴らした。
「みんなちょっと待って。賛成するのは、二人の会話内容を吟味してからにしようよ。二人は僕に、たった一人でこれをやれって言ってるんだよ!」
 そうだよな、コイツ一人にこれをさせるのはこくだよな、と皆が言ってくれることを僕は期待していた。だが実際は、真逆だった。皆なぜか、僕こそがトンチンカンな発言をしているという顔をしていたのである。パニックになりかけた僕の耳に、真山の心地よい声が届いた。
「眠留は自分の戦闘場面を読んで、どう感じた?」
 トップイケメンの温かな笑みに釣られ、僕はその箇所を読んだ時の感想をそのまま口にした。
「うん、面白そうだなって感じたよ」
 そのとたん、芝生の上に座る男子全員が「やれやれ」といった仕草をした。皆がなぜそんな仕草をしたか理解できなかった僕は、大地が傾いた気がした。
 幸い猛と京馬が立ち上がり両側から支えてくれたので、僕が尻餅を付くことは無かった。頃合いを計り、北斗が皆へ問いかけた。
「仮にあの戦闘シーンが自分の役目になったとして、眠留と同じく面白そうだと思う奴はいるか?」
 判を押したように全員が顔を横へ振った。「考えただけで学校を休みたくなるぜ」という誰かの発言に、賛同の嵐が湧き起こっていた。心底訳が分からず涙目になった僕を座らせ、猛と京馬がその説明をしてくれた。
 バク宙や側宙を連発しながら刀を振るい妖魔を切り伏せていくなんて、できっこないと思うのが普通なんだぞ、と。
 その後、北斗に促され、僕は皆の前で刀と槍を扱う真似をした。刀の時は、
「重厚な太刀さばきには足腰の強靭さが不可欠だ」
 北斗はそう解説し、槍の時は、
「体軸を活かした円運動をクリスマス会までに体得するには、優れた運動神経が必須だ」
 と解説した。そして立ち上がり、魔法戦における法具の使い方の一例を披露した。
「こんなふうに魔法をぶっ放して戦うのが俺の夢だから、俺は法具班になるつもりだ」
 そう締めくくり、北斗の演武は終わった。一分間の猶予時間を経て開票したところ、槍班、刀班、法具班、必殺武器班の四つの班に、ほぼ定員が降り分けられていた。くじ引きをする間もなく譲り合いが行われたので、班はすぐさま決定した。そして十秒と経たず京馬、猛、北斗、真山の班長が選出され、その後は時間の許す限り身体操作の練習をした。槍班と刀班に乞われ九人に助言しているうち、僕はやっと気づいた。
 派手に動き回りつつ敵を葬る動作が体に染み付いているのは、普通の感覚からしたら、非常に珍しいのだと。
 3Dの妖魔と戦うだけなら、格闘技のたしなみがあれば充分だろう。バク宙や側宙だけなら、体操部等に所属していれば事足りるだろう。だがその二つを合わせ、かつ「人を凌駕する妖魔を倒す動き」を高速でこなすとなると、数がかなり限られてくる。四百二十人の一年生男子のうち僕だけがそれを成せるとは思わないが、それでもその役が僕に廻って来たのだから、それを精一杯しよう。あの日僕は校庭の芝生の上で、そう決意したのだった。
 
 そして、今。
 クリスマス会場は、九組の余興のクライマックスに大変な盛り上がりを見せていた。家の事情で男子に変装し全寮制男子校へ通うハメになった一条さんへ、そうとは知らず悩み抜いた某男子が多大な決意を胸に告白するという、年頃男女に爆ウケ必至のシーンを迎えていたのである。たった七分の間にその設定と某男子の苦悩を描き切った手腕は見事の一言で、一年生全員が固唾をのみ二人に注目していた。告白を受け入れた一条さんが自分は女であることを明かし、爆ウケ話はハッピーエンドで幕を閉じる。雷鳴のような拍手と歓声がホールを震わせた。
 その音を全身で聴きつつ、僕は自分に気合いを入れる。
 
  さあ、次は僕の番だ。
  共に戦おう、刀と笛!
 
 僕は左手で刀を、そして右手で横笛を、それぞれ硬く握ったのだった。
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