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十一章
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とはいえ、両先輩に見とれてしまう気持ちも充分過ぎるほど理解できた。時代小説から飛び出て来たような藤堂伊織という名を持つ剣道部三年長のこの先輩は、性格も容姿も能力も、誇り高く眉目秀麗な若侍そのものだった。同じ剣道部に所属している大和さん達から藤堂先輩の話を沢山聞いていたお蔭で挨拶のタイミングを合わせられたが、それがなかったら僕も確実に見とれてしまっていただろう。鷹のようなという言葉がこれほど似合う人はそういない、整った鋭い眼差し。無駄を極限まで削ぎ落した、鞭の如き体。声は低く朗々と響き、そしてそれらを丸ごと包む、高潔な生命力。翔人に類する特別な視力を持たずとも、藤堂先輩が何より鍛錬しているのは心なのだという事を、体から放射される生命力が胸に直接訴えてくるのだ。そんな上級生男子を目の当たりにしたら時間を忘れてしまう後輩女子が現れて、いや女子だけでなく後輩男子も現れて、当然なのである。
しかもそのすぐ隣に、撫子部三年長の美ヶ原先輩までいるとくれば、ポ~っとしてしまっても無理はない。美ヶ原先輩こそは時代小説から飛び出て来た、後輩女子が憧れてやまず後輩男子が忠誠を捧げずにいられない、姫君だった。同じ部に所属している芹沢さんと、撫子部を幾度も見学している美鈴に話を聴いていなかったら、同系列の美少女の輝夜さんに鍛えられまくっている僕でも、口をポカンと開け見とれていたはず。畏れ多いこと甚だしいが、その御尊顔を初めて直接拝んだ瞬間、最上級生となった美ヶ原先輩へ献ぜられる二つ名を、脳の中心から放たれた光として僕は受け取っていた。胸中、それを口ずさむ。
霊峰の紫苑、と。
そんな、京馬のご両親が中央アジアの大平原で出会った白馬に比すべき両先輩が、ロバ中のロバである僕如きに時間を割いてくれるのだから、
――命がけで面接を受けるぞ!
などと一人息巻く僕をよそに、面接は始まった。空回り感は否めないがロバなりに息巻いたのが功を奏し、男子三十人の最後の僕に順番が廻ってくるまで四十分かかったにもかかわらず、僕は程よい緊張感を保ち続けられた。それを見越し僕が最後になるよう計ってくれた昴に後でお礼を言わなきゃな、なんて想いが胸に芽生え顔が自然とほころんだまさにその時、
『猫将軍眠留の面接を開始します』
2D表示が入り口のドアに浮かび上がった。間を置かず壁側の出口ドアが開き、一つ前の二十九番目の男子生徒が廊下に現れる。その際のお辞儀の仕方と声量から、試験に落ちたと彼が感じていることが窺えたが、合否メールが届くまでそれは判らない。一分後の僕が彼と同じ心境になっていたとしても、僕のために時間を割いてくれた藤堂先輩への感謝だけは全身で伝えよう。そう誓い、会議室の扉を開けた。
「失礼します」
神道の礼儀作法と新忍道サークルで学んだ湖校の礼儀作法には、幾つかの差異がある。ただそれは表面上のささいな違いにすぎず根を等しくしているので、神道の礼儀作法に則っても失礼にはならなかったはずだ。しかし僕は、サークルで学んだ作法を遵守した。藤堂さんを僕の基準に合わせるのではなく、僕を藤堂さんの基準に合わせたのである。まあそんなの、当然なんだけどさ。
「うむ、猫将軍、椅子に座って楽にしてくれ」
北斗と同種であっても僅かながら北斗の上を行く、相手を落ち着かせる太く豊かな声が、教室の二倍ほどの広さを持つ会議室に心地よく響いた。というか藤堂さんは、とても親しげに話しかけてくれた気がした。面と向かってお会いするのはこれが初めてでも昴とは親交があっただろうし、大和さん達が僕の話をしていたのかもしれない。そんなあれこれを頭の外へ追い出し、椅子に座るという作業に一心をささげ、僕は着席した。すると、
「ほう」
藤堂さんはそう口ずさみ、親しげに頬を緩めた。
「加藤、緑川、森口から散々聞かされていた通りの男のようだな。猫将軍、まずは礼を言わせてくれ。今の緑川と森口に、クラスメイトだった一年時のころの暗さはない。新忍道サークルの一員になれて幸せだと、あいつらはことある毎に言っている。猫将軍、感謝する」
藤堂さんは背筋を伸ばし、上体を前方へ傾斜させようとした。だが、
「ぼっ、僕の方こそです!」
僕は謝意を受け取るより先に、前転する勢いで上体を前へ投げ出した。そしてその姿勢のまま、三人の先輩への溢れる想いを打ち明けて行った。
「サークルのボケ役を務める加藤さんは生来のイジラレ役の僕にとって特別な親近感を覚えずにはいられない先輩で、先輩もそう思ってくれているらしく、僕にとても良くしてくれます。緑川さんと森口さんは初めて戦闘を共にした時、『学年は先輩でもサークルでは後輩になる覚悟をしてきた俺達を、お前は疑うのか』と僕に言ってくださいました。お二人は僕にとって、世間のしがらみを超えた場所にいる、真の漢なのです!」
藤堂さんの謝意を受けるより先に僕が頭を下げたのは、礼にもとる行為だ。
しかもそれを椅子に座ったまましているのだから、失礼にもほどがあるだろう。
だがそれでも、僕はそうせざるを得なかった。友人達のために頭を下げようとする藤堂さんへ、もっともっと深く頭を下げずにはいられなかった。
なぜならそれこそが、礼儀作法や先輩後輩等々を超越した場所で燦然と輝く、漢の付き合いというものだからである。
「猫将軍の気持ち、受け取った。顔を上げてくれ」
顔を上げるとそこに、なんとも楽しげにしている藤堂さんがいた。僕は嬉しくなり、笑って頭をポリポリ掻く。そんな僕へ顔をほころばせたのち、藤堂さんは表情を改め、抜き身の日本刀の霊気を纏う。僕もそれに倣い己が心身に、愛刀猫丸の霊気を宿した。
「これ以降のやり取りは然るべき時期が来るまで他言無用だ。お前なら来年の三月に、天川と話し合えるだろう。いいか」
「はい、然るべき時期まで他言無用にすることを、約束します」
藤堂さんは大きく頷き、そうそう思い出したといった感じで先ずはこんな質問をした。
「そう言えば、猫将軍に面接の順番が回って来たとき、女子の希望者は何人残っていた」
「十五人残っていました。でも僕がこの会場の入り口ドアを閉めると同時に女子面接会場の出口ドアの開く音がしたので、実質十四人だと思います」
男子と女子の面接時間は、女子の方が若干短かった。それとなく注意を払っていたのが、役に立ったのである。
「うむ、さすがは俺と栞の足音を聞き分けただけのことはある。騎士長と円卓騎士の方々の、仰っていた通りだな」
ああやはり、という顔になった僕へ「猫将軍聞かせろ」と藤堂さんは身を乗り出した。机に両肘を突き指を組み、鷹の眼差しにいたずら小僧の光をちょっぴり加えた藤堂さんへ、面接の待ち時間がああも長かったことへの推測を僕は話した。
「僕らの書いた見習い騎士希望者用紙を、幹部騎士の方々はリアルタイムで読み、そして僕らの待ち時間の過ごし方を、試験の一環として観察していたのだと思います」
藤堂さんはすかさず二の太刀を振るう。
「待ち時間を試験と感じた理由は?」
「幼い頃の僕にとって騎士の方々は憧れのヒーローで、僕は両親に頼み、月に一度挨拶に伺っていました。その記憶のどれを取っても、騎士の方々は寡黙に前方を見つめていました。だから面接を待つ僕らに降りた沈黙は、沈黙に耐える能力の有無を調べる試験なのだと、僕は感じました」
指をほどき、藤堂さんは大きく頷いた。その瞳に、先程を数倍するいたずら小僧の光を感じた僕は、嬉しくて仕方なくなってしまった。「ったくアイツらの言っていたように、開けっ広げに笑いやがって」と笑いを堪えつつ呟いたのち、再度藤堂さんは問いかける。
「騎士の定員と、一年時と二年時の見習い合格者数と、三年以降の募集は知っているか」
昴の講義を必死で思い出し、頭の中で返答を作ってからそれに答えた。
「定員は六十、一年時の合格者は三十四、二年時は二十六、三年以降は欠員があった場合のみ募集を行う、だったと思います」
「一年時と二年時の男女比率は?」
「一年時は男子の合格者が多く、二年時は女子が多いはずです」
「なぜだと思う」
「湖校生と自分自身を守るため、騎士には一定以上の身体能力と、護身術の素養がなければなりません。それらを満たす新入生はどうしても男子に多く、そしてそれに満たなかった女子達が、一年間の鍛錬を経て翌年の試験に臨む。入学時と一年後の男女比の違いを、僕はこう考えます」
北斗の覚書には記載されていなかったが、初代騎士長が在学していたころの騎士会と今の騎士会には、幾つかの違いがある。そのツートップは間違いなく、定員制と募集時期だろう。初代騎士長卒業後も騎士の人気は衰えず、このままでは通学路に騎士が溢れるか、もしくは警備頻度が極端に減ることが予想された。その対策として考え出されたのが、定員の設定と通年募集の廃止だ。騎士の数に制限を設け、そして大々的に騎士を募集する時期を、一年時の四月と二年時の始業式のみに限定したのである。つまり今日を逃すと騎士になる道は格段に遠のくから、体育祭実行委員は見習い試験に合格しやすいという噂に、多数の生徒が飛び付いたのだ。藤堂さんは遠い目をし、二年前に経験したことを話してくれた。
「湖校に入学し騎士の一員になることを長年夢見てきた俺は、入学式当日に騎士会を訪れた。春休み中から湖校剣道部に顔を出し許しを得ていても、後ろめたさは拭えなかった。正式な湖校生となりまず足を向けたのは、剣道部ではなく騎士会。それを剣道部への裏切りとして、俺は感じたんだな」
こめかみから顎にかけての筋肉を引き締め、藤堂さんは暫し無言でいた。会議室に沈黙が降りる。だがそれは面接を待っていた時のそれとは異なる、己の真情を言葉に寄らず語り合うために必要な、静寂だった。遠い目を改め、藤堂さんの視線がその焦点を僕に定める。僕は眉間に、偉大な先輩から吹く爽やかな風を感じた。
「結果的に、それは有益な罪悪感だった。面接を待つ大半の同級生のように浮かれた気分をどうしても持てず、一人静かにしていた俺は、猫将軍と同じことに気づき、そして同じ内容の話を三年長から聴くことができた。よって俺は、そのとき俺がしてもらったことを、そっくりお前に返そうと思う。猫将軍」
藤堂さんは立ち上がり、右手を差し出した。僕も立ち上がり、歩み寄り右手を差し出す。その手を堅く握り、藤堂さんは言った。
「ようこそ、我らが騎士会へ」と。
しかもそのすぐ隣に、撫子部三年長の美ヶ原先輩までいるとくれば、ポ~っとしてしまっても無理はない。美ヶ原先輩こそは時代小説から飛び出て来た、後輩女子が憧れてやまず後輩男子が忠誠を捧げずにいられない、姫君だった。同じ部に所属している芹沢さんと、撫子部を幾度も見学している美鈴に話を聴いていなかったら、同系列の美少女の輝夜さんに鍛えられまくっている僕でも、口をポカンと開け見とれていたはず。畏れ多いこと甚だしいが、その御尊顔を初めて直接拝んだ瞬間、最上級生となった美ヶ原先輩へ献ぜられる二つ名を、脳の中心から放たれた光として僕は受け取っていた。胸中、それを口ずさむ。
霊峰の紫苑、と。
そんな、京馬のご両親が中央アジアの大平原で出会った白馬に比すべき両先輩が、ロバ中のロバである僕如きに時間を割いてくれるのだから、
――命がけで面接を受けるぞ!
などと一人息巻く僕をよそに、面接は始まった。空回り感は否めないがロバなりに息巻いたのが功を奏し、男子三十人の最後の僕に順番が廻ってくるまで四十分かかったにもかかわらず、僕は程よい緊張感を保ち続けられた。それを見越し僕が最後になるよう計ってくれた昴に後でお礼を言わなきゃな、なんて想いが胸に芽生え顔が自然とほころんだまさにその時、
『猫将軍眠留の面接を開始します』
2D表示が入り口のドアに浮かび上がった。間を置かず壁側の出口ドアが開き、一つ前の二十九番目の男子生徒が廊下に現れる。その際のお辞儀の仕方と声量から、試験に落ちたと彼が感じていることが窺えたが、合否メールが届くまでそれは判らない。一分後の僕が彼と同じ心境になっていたとしても、僕のために時間を割いてくれた藤堂先輩への感謝だけは全身で伝えよう。そう誓い、会議室の扉を開けた。
「失礼します」
神道の礼儀作法と新忍道サークルで学んだ湖校の礼儀作法には、幾つかの差異がある。ただそれは表面上のささいな違いにすぎず根を等しくしているので、神道の礼儀作法に則っても失礼にはならなかったはずだ。しかし僕は、サークルで学んだ作法を遵守した。藤堂さんを僕の基準に合わせるのではなく、僕を藤堂さんの基準に合わせたのである。まあそんなの、当然なんだけどさ。
「うむ、猫将軍、椅子に座って楽にしてくれ」
北斗と同種であっても僅かながら北斗の上を行く、相手を落ち着かせる太く豊かな声が、教室の二倍ほどの広さを持つ会議室に心地よく響いた。というか藤堂さんは、とても親しげに話しかけてくれた気がした。面と向かってお会いするのはこれが初めてでも昴とは親交があっただろうし、大和さん達が僕の話をしていたのかもしれない。そんなあれこれを頭の外へ追い出し、椅子に座るという作業に一心をささげ、僕は着席した。すると、
「ほう」
藤堂さんはそう口ずさみ、親しげに頬を緩めた。
「加藤、緑川、森口から散々聞かされていた通りの男のようだな。猫将軍、まずは礼を言わせてくれ。今の緑川と森口に、クラスメイトだった一年時のころの暗さはない。新忍道サークルの一員になれて幸せだと、あいつらはことある毎に言っている。猫将軍、感謝する」
藤堂さんは背筋を伸ばし、上体を前方へ傾斜させようとした。だが、
「ぼっ、僕の方こそです!」
僕は謝意を受け取るより先に、前転する勢いで上体を前へ投げ出した。そしてその姿勢のまま、三人の先輩への溢れる想いを打ち明けて行った。
「サークルのボケ役を務める加藤さんは生来のイジラレ役の僕にとって特別な親近感を覚えずにはいられない先輩で、先輩もそう思ってくれているらしく、僕にとても良くしてくれます。緑川さんと森口さんは初めて戦闘を共にした時、『学年は先輩でもサークルでは後輩になる覚悟をしてきた俺達を、お前は疑うのか』と僕に言ってくださいました。お二人は僕にとって、世間のしがらみを超えた場所にいる、真の漢なのです!」
藤堂さんの謝意を受けるより先に僕が頭を下げたのは、礼にもとる行為だ。
しかもそれを椅子に座ったまましているのだから、失礼にもほどがあるだろう。
だがそれでも、僕はそうせざるを得なかった。友人達のために頭を下げようとする藤堂さんへ、もっともっと深く頭を下げずにはいられなかった。
なぜならそれこそが、礼儀作法や先輩後輩等々を超越した場所で燦然と輝く、漢の付き合いというものだからである。
「猫将軍の気持ち、受け取った。顔を上げてくれ」
顔を上げるとそこに、なんとも楽しげにしている藤堂さんがいた。僕は嬉しくなり、笑って頭をポリポリ掻く。そんな僕へ顔をほころばせたのち、藤堂さんは表情を改め、抜き身の日本刀の霊気を纏う。僕もそれに倣い己が心身に、愛刀猫丸の霊気を宿した。
「これ以降のやり取りは然るべき時期が来るまで他言無用だ。お前なら来年の三月に、天川と話し合えるだろう。いいか」
「はい、然るべき時期まで他言無用にすることを、約束します」
藤堂さんは大きく頷き、そうそう思い出したといった感じで先ずはこんな質問をした。
「そう言えば、猫将軍に面接の順番が回って来たとき、女子の希望者は何人残っていた」
「十五人残っていました。でも僕がこの会場の入り口ドアを閉めると同時に女子面接会場の出口ドアの開く音がしたので、実質十四人だと思います」
男子と女子の面接時間は、女子の方が若干短かった。それとなく注意を払っていたのが、役に立ったのである。
「うむ、さすがは俺と栞の足音を聞き分けただけのことはある。騎士長と円卓騎士の方々の、仰っていた通りだな」
ああやはり、という顔になった僕へ「猫将軍聞かせろ」と藤堂さんは身を乗り出した。机に両肘を突き指を組み、鷹の眼差しにいたずら小僧の光をちょっぴり加えた藤堂さんへ、面接の待ち時間がああも長かったことへの推測を僕は話した。
「僕らの書いた見習い騎士希望者用紙を、幹部騎士の方々はリアルタイムで読み、そして僕らの待ち時間の過ごし方を、試験の一環として観察していたのだと思います」
藤堂さんはすかさず二の太刀を振るう。
「待ち時間を試験と感じた理由は?」
「幼い頃の僕にとって騎士の方々は憧れのヒーローで、僕は両親に頼み、月に一度挨拶に伺っていました。その記憶のどれを取っても、騎士の方々は寡黙に前方を見つめていました。だから面接を待つ僕らに降りた沈黙は、沈黙に耐える能力の有無を調べる試験なのだと、僕は感じました」
指をほどき、藤堂さんは大きく頷いた。その瞳に、先程を数倍するいたずら小僧の光を感じた僕は、嬉しくて仕方なくなってしまった。「ったくアイツらの言っていたように、開けっ広げに笑いやがって」と笑いを堪えつつ呟いたのち、再度藤堂さんは問いかける。
「騎士の定員と、一年時と二年時の見習い合格者数と、三年以降の募集は知っているか」
昴の講義を必死で思い出し、頭の中で返答を作ってからそれに答えた。
「定員は六十、一年時の合格者は三十四、二年時は二十六、三年以降は欠員があった場合のみ募集を行う、だったと思います」
「一年時と二年時の男女比率は?」
「一年時は男子の合格者が多く、二年時は女子が多いはずです」
「なぜだと思う」
「湖校生と自分自身を守るため、騎士には一定以上の身体能力と、護身術の素養がなければなりません。それらを満たす新入生はどうしても男子に多く、そしてそれに満たなかった女子達が、一年間の鍛錬を経て翌年の試験に臨む。入学時と一年後の男女比の違いを、僕はこう考えます」
北斗の覚書には記載されていなかったが、初代騎士長が在学していたころの騎士会と今の騎士会には、幾つかの違いがある。そのツートップは間違いなく、定員制と募集時期だろう。初代騎士長卒業後も騎士の人気は衰えず、このままでは通学路に騎士が溢れるか、もしくは警備頻度が極端に減ることが予想された。その対策として考え出されたのが、定員の設定と通年募集の廃止だ。騎士の数に制限を設け、そして大々的に騎士を募集する時期を、一年時の四月と二年時の始業式のみに限定したのである。つまり今日を逃すと騎士になる道は格段に遠のくから、体育祭実行委員は見習い試験に合格しやすいという噂に、多数の生徒が飛び付いたのだ。藤堂さんは遠い目をし、二年前に経験したことを話してくれた。
「湖校に入学し騎士の一員になることを長年夢見てきた俺は、入学式当日に騎士会を訪れた。春休み中から湖校剣道部に顔を出し許しを得ていても、後ろめたさは拭えなかった。正式な湖校生となりまず足を向けたのは、剣道部ではなく騎士会。それを剣道部への裏切りとして、俺は感じたんだな」
こめかみから顎にかけての筋肉を引き締め、藤堂さんは暫し無言でいた。会議室に沈黙が降りる。だがそれは面接を待っていた時のそれとは異なる、己の真情を言葉に寄らず語り合うために必要な、静寂だった。遠い目を改め、藤堂さんの視線がその焦点を僕に定める。僕は眉間に、偉大な先輩から吹く爽やかな風を感じた。
「結果的に、それは有益な罪悪感だった。面接を待つ大半の同級生のように浮かれた気分をどうしても持てず、一人静かにしていた俺は、猫将軍と同じことに気づき、そして同じ内容の話を三年長から聴くことができた。よって俺は、そのとき俺がしてもらったことを、そっくりお前に返そうと思う。猫将軍」
藤堂さんは立ち上がり、右手を差し出した。僕も立ち上がり、歩み寄り右手を差し出す。その手を堅く握り、藤堂さんは言った。
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