僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十五章

その後のあれこれ

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 翌八月七日は、新生湖校新忍道部の活動初日となった。黛さんを部長に、竹中さんと菊池さんを副部長に頂いた僕ら新忍道部員十三名は、部員数が二名少なくなった寂しさを吹き飛ばすべく、三時間の訓練に没頭した。
 部活終了後、芝生と疲労に関する中間報告をお弁当を食べながら行った。その結果、芝生での訓練は筋肉と靭帯の疲労を増加させ、骨の疲労を減少させることが判明した。体を柔らかく受け止めてくれる芝生は通常より素早い動作を可能にし、それが筋肉と靭帯の疲労を増大させるが、柔らかさは骨の振動を弱め、それが骨の疲労を軽減していたのである。僕はそれに危惧を覚え、北斗も同種の感覚を抱いたらしい。どうしたと問う黛さんへ、北斗が代表して答えた。
「骨の振動は、骨の成長を促します。骨の成長には長くなる、太くなる、密度が高くなるの三種類があり、二番目と三番目は老齢になっても促進可能ですが、一番目はそうではありません。胸腺の活発な成長期にのみ、骨は長くなるのです」
 骨が太くなっても、身長は変わらない。身長を伸ばすには、骨を長くすることが必須なのである。成長期の男子にとって、背が高くなる機会を逃す以上にもったいないことは、ある意味ないと言えよう。張り詰めた空気が部室を満たすも、調査日数がまだ半分残っていることと、暫くは芝生と縁がないことから、結論を出すのは四日後となったのだった。

 その翌日の八月八日、お盆休み前の豪華夕食会が去年同様開かれた。智樹と那須さんと香取さんが新たに加わった夕食会は、かけがえのない夏の思い出を今年も作ってくれた。中でも男子を狂喜させたのは女の子たちが花火タイムに披露した浴衣姿で、僕ら子猿軍団はどんなに頑張っても、ふにゃふにゃ顔を阻止する事ができなかった。
 そのぶん花火寸劇は力が入り、去年以上の拍手を頂戴した。智樹の加入で実現した六人フォーメーションの花火体操は特に爆ウケし、「笑いすぎて汗かいちゃった」「胸元が乱れちゃった」という、お叱りなのか御褒美なのか定かでないお言葉を賜ることができた。浴衣美少女達のあまりの艶っぽさに、僕ら子猿軍団は完敗したのだった。
 その女の子たちは去年同様、花火終了と共にそれぞれの場所に帰って行った。昴と芹沢さんのAICAは東へ向かい、輝夜さんのAICAは西へ向かい、そして湖校の寮は神社の西にあるので、那須さんと香取さんは輝夜さんのAICAに同乗していた。五人の女の子が一気にいなくなるのは、さすがに寂しい。今年は翔子姉さんが参加しなかったので京馬は特にこたえたらしく、足元にじゃれついた小吉を抱きかかえ夜空を見上げながら、翔子姉さんがどれほど美しかったかを語り聞かせていた。
 夕食会の後片づけを去年は途中退場したが、今年は最後までやり通すことができた。いや、やり通すなんて御大層な物言いをするまでもなく、後片づけはあっという間に終わってしまった。通常の夕食会なら毎週開いており、そして男子は力仕事と後始末を精力的にこなしていたため、片付けスキルが飛躍的に伸びていたのである。今年五月から加わった智樹がそれに危機感を覚え、こんなんじゃお嫁に行けないと項垂れ大ウケしていたが、「なら私と一緒に花嫁修業をしましょう」と美鈴に笑いかけられるや、羨望のまとに早変わりした。最も羨ましがっていたのは言うまでもなく真山で、というか羨ましいメーターが振り切りおかしくなったのか、「お盆に帰郷せず俺も花嫁修業をする!」などと宣い始めた。だがすかさず「テメエの修業は美鈴ちゃんに相応しい花婿になることだ!」と皆から突っ込まれ、真山は立っていられぬほど動揺していた。美鈴に関してだけは年齢相応になる真山の純粋さは、年に一度の豪華夕食会の最後を飾るに相応しい大爆笑を生んだのだった。

 翌九日からお盆休みが始まった。猛は去年と同じく八日間帰郷したが、同郷の芹沢さんは撫子部の関係で四日後の十三日に戻ってきた。撫子全国大会は毎年八月下旬に開かれ、芹沢さんは将来の部長と目される等々の理由により、十四日から部に復帰したのである。もちろんそれは強制ではなく、お盆休みを丸々休む六年生の正選手もいると言う。部員達の自由裁量に任されているとはいえ、一年長を務める美鈴の兄としては、心配事が無いと言い切るのは不可能だった。
 真山は故郷でどうしても外せない用事ができたらしく、自由日を加えた十一日間をお盆休みとしていた。これについても真山は僕だけに愚痴をこぼし、僕はそれがたまらなく嬉しかった。
 京馬は「俺は日帰りでいいや」などとほざいていたが僕と北斗で説得し、三泊四日の帰省をどうにかこうにかさせる事ができた。ただその代わり、中日の十三日は去年同様遊びに来いと約束されられてしまった。させられたというのはもちろん冗談で京馬の御家族との再会は楽しくて仕方なかったし、また今回は美鈴も同行したので「妻が天に昇るほど喜んでいるよ」と、おじさんに幾度も言って頂けた。
 智樹はお盆休みを同学年部員に追いつく好機と捉え、部活に打ち込んでいた。僕としては、二年生部員二十一名のうち智樹は一桁終盤にいると感じていたが、それは秘密にした。他者との比較で成長できるのはせいぜい二流までと、僕は信じていたのである。
 そしてそれを、おそらく僕以上に信じている北斗は、お盆期間に謎の行動をしていた。正確には、北斗は今年の夏休みを確固たる目標を掲げて過ごしているらしく、お盆は特にそれへ傾注しているようだった。訊けば教えてくれたはずだが何となく憚られ、僕はそれを胸にしまっていた。
 那須さんは八日間、香取さんは十一日間のお盆休みを取ると話していた。それについて二人は、「確定じゃないけど夏菜の葉山の別荘にお呼ばれするかも」「結の親御さんが寂しがるから絶対来てって言えなくて」という会話をつい先日までしていた。だがインハイを経て、「鳳さんに会いたいからどんな事があっても葉山に行く!」「ちょっと頭痛が・・・」に変わり、皆の笑いを誘っていた。鳳さんのような強烈な個性の持ち主は数多あまたの霊験をもたらすので、クリエイターとしては居ても立ってもいられなかったのだろう。香取さんの作家の目が鳳さんをどう捉えるかに、僕は多大な興味を覚えていた。
 昴は去年同様、一日も欠かさず翔薙刀術に励んでいた。天川邸に先日おじゃましたとき伺ったのだが、昴は父方と母方の祖父母に「命懸けの修業をしており帰省できません」と、二年連続で詫びたらしい。咄嗟に謝罪しようとした僕を制し、おじさんとおばさんは穏やかに言った。
「命懸けになれるのは幸せなことだ」
「眠留君、昴の修業を助けてあげてね」
 この命に代えましてもとの即答を、「輝夜ちゃんとピッタリ同じことを言うのね」「まったくだ」と、おじさんとおばさんはとても喜んでいた。

 輝夜さんも去年同様、一日も欠かさず翔薙刀術に励んでいた。
 ただ輝夜さんに関しては、予期せぬ事態が発生した。
 あろうことか僕はお盆休み中、輝夜さんの家を訪ねる事となったのである。
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