僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十一章

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 ―― 今は温かく見守って欲しい
 だったのである。という昨日の出来事を思い出した僕は、深呼吸したのち、久保田とのペアを諦めることにした。
 久保田と秋吉さんの件は、白鳥さんとのペアも諦めさせてくれた。久保田の「今は温かく見守って欲しい」は、白鳥さんへの対応としても正しかったからだ。AICAの中でやる気に溢れていると宣言した白鳥さんは、立ち尽くす僕を置き去りにし、確かな足取りで改札の向こうに消えて行った。あれは白鳥さんの決意表明に他ならず、ならば今僕にできるのは、遠くから見守ることだけ。技術にせよ心にせよ区切りをつけた白鳥さんが、自信を持って僕に連絡して来るまで、こちらからの連絡は控えよう。僕はそう、決意したのである。

 それから約二週間後の、一月二十四日。二年生プレゼン大会の本選が、大講堂で開かれた。ニ十組代表として出場した智樹と香取さんは見事三位になり、僕らははしゃぎまくった。一位に輝いたのは、当然と言ったらそれまでだけど猛と芹沢さんのペアで、こちらにもはしゃいでしまった僕は野郎共にくすぐられ、酸欠から回復するのに数分を要する事となった。まあ楽しかったから、全然いいんだけどさ。
 ちなみに僕のサッカープレゼンは級友達になぜか受けまくり、クラス内予選で二位という破格の評価を頂戴した。カメラに向かって一人で話すのがどうにも恥ずかしく、武道を絡めたボールの蹴り方を実演しまくったのがかえって良かったのかなと、何となく推測している。

 プレゼン大会から約一週間経った、二月一日。長野から嬉しい知らせがあった。颯太君のもとに、研究学校の入学案内が届いたのである。それだけでも部員全員で喜んだのに翌週の八日、
「湖校入学が叶いました!」
 との連絡が来た時の、皆のハッチャケようといったら無かった。一日も八日も水曜日で部活に出ていた僕もハッチャケまくり、颯太君の湖校入学を祝ったものだ。また颯太君は、二年生トリオが去年の夏に教えた自主練の進捗も見せてくれて、その成長振りに全員で瞠目したりもした。そして最後に姉の渚さんと御両親と祖父母の五人が画面に現れ、「颯太をどうぞよろしくお願いします」と、颯太君を中心にして腰を折った。厳密には颯太君が新忍道部に入部するかはまだ未定だけど、それを疑問に思う者は誰もいない。可愛い後輩になるのは確定なのだから、それで充分なのである。黛さんを始めとする部員十三名は任せて下さいと、颯太君の御家族に約束したのだった。

 その週末、土曜の十一日に、所沢市役所で救命救急四級の試験を受けた。実技を多数伴うこの試験は本当は県庁所在地で行われるのだけど、研究学校は受験生が多いとの理由により、最寄りの市役所で受けられるよう便宜が図られていたのだ。結果は、全員合格。救命救急の選択授業は四月からの十ヵ月間で三級合格相当の内容まで教えられるとは言え、全員合格はやはり嬉しいもの。厳しい授業を十ヵ月間受講し全員もれなく仲良くなっていた皆は、所沢駅最寄りのファーストフード店に集まり合格祝いをした。僕にとってこれは、超新鮮な体験だった。いや正直言うとそれどころではなく、ファーストフード店で友人達とワイワイやったのは、今日が人生初だったのである。僕は感動の余り幾度もポケ~っとしてしまい、一度目は心配されたが理由を話してからは、僕がポケ~っとする度に爆笑が起き、合格祝いを盛り上げたと皆に褒めてもらえた。「お前はコレを食え!」「私もお礼をあげる!」系のフライドポテトやチキンがトレイの上にてんこ盛りになったのは、嬉しいやら大変やらだったけどね。

 翌週のバレンタインでは、莫大な精神力を消費した。輝夜さんが意図的に半端な形で漏らした「猫将軍ファンクラブがどんどん」と、否が応でも向き合わねばならなかったのである。僕は表面上は普通に、しかし一皮むけば罪人になった気持ちで、二十一個のチョコを神社に持ち帰った。内訳は同級生が二十個の、一年生が一個。ただ一年生の分は、美鈴のクラスメイトの女子と騎士会の一年女子が合同で作ったものらしく、一個より一箱と呼ぶべき大きさだった。それを受け取ったのは、放課後の昇降口だった。その際の、騎士会の子の代表が言ってくれた「受け身を教えてもらったお礼です」はまだしも、美鈴のクラスメイト代表の「妹さんにいつも大笑いさせて頂いているお礼です」は、一体全体どういう意味なのだろうか? 騎士会で四月から三ヵ月間受講した騎士見習いの講義には受け身の実習があり、藤堂さんから一年生の面倒を見てあげるよう頼まれていた僕はそれに応え、希望する後輩達に受け身の指導をした。どうも今年の一年生には、新忍道部の入部テストの話が広まっているらしく、大勢の後輩が何だかんだと僕の所にやって来た。教育AIに指導者認定されている藤堂さんと岩手さんが騎士会のために割けるのは週に一日がせいぜいだった事もあり、僕は月火と木金の週四日を、受け身が苦手で困っている後輩の指導に充てた。それは二か月ほどの事だったが、一年生の騎士見習いたちに僕はなぜかとても慕ってもらえた。そのお礼のチョコなら、少々大袈裟な気もするけど納得できないこともない。しかし、「妹さんにいつも大笑いさせて頂いている」はどういう意味なのだろうか? というのは現実逃避にすぎず、冒頭に「お兄さんの話で」との言葉を付けるだけでそれは理解の容易な文になった。つまり、『お兄さんの話でいつも妹さんに大笑いさせて頂いているお礼です』という事。友人に囲まれた美鈴が楽しそうにしている光景を思い浮かべれば些事にできそうな気もするけど、進級ごとにその友人が入れ替わっていくとなると、俯かずにいられないのが僕なのである。でもまあ、美鈴が僕の不利益になるような事をするはずないとも感じられ、そしてそれが、この件に関する最終結論となったのだった。

 一か月後の三月十四日、ホワイトデーのお返しは一つの出来事を除きつつがなく終わった。その一つとは、真山と北斗と連れ立って一年生校舎を訪れてしまった事だった。去年のホワイトデーの真山と北斗の様子を僕は昨日のことのように覚えていて、それを参考にしたからこんな僕でも、二十人の二年生にチョコのお返しをスムーズにできたのは事実だった。それへの感謝があったので、
「「眠留、一年生校舎に行こう」」
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