僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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二十二章

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 ―― エイミィ達に混じれるかもしれない話題
 を見つけ、挙手してそれを発表した。それこそがあの超速回復であり、エイミィと咲耶さんが即座に食いつき意見を出し合った結果、合宿一日目に披露した超速回復のプレゼンの原型が出来上がったのである。よって僕はあのプレゼンを三人の合作にしたかったのだけど二人はそれを辞退し、しかし僕としても手柄を横取りするみたいで嫌だと本音を明かしたところ、
「そんなことより覚悟しなさい」
 咲耶さんが厳格な教育AIの顔でそう命じた。訳は分からずとも、女性に頭が上がらない宿命を持つ僕に、異を唱えるなどできはしない。覚悟を決めた僕に、咲耶さんはAランクAIとして未来予測を述べた。
「私の予想では、竹中君と菊池君はエイミィの譲歩を引き出し、二日連続のサタン戦に臨むでしょう。そしてその二戦目で、眠留は死力を尽くす事になる。眠留がいなければ二連続勝利など到底不可能だったと先輩方に悟られぬよう気を配りながら、勝つための全力運動をするのですから、死力を尽くして当然ですね。よって私は命じます。眠留は合宿三日目朝の体調を、エイミィに偽らず告げる覚悟を持ちなさい。いいですね」
 僕は、間違っていた。
 二日連続のサタン戦をエイミィが竹中さんと菊池さんに許可しない理由は、一つではなかった。理由は複数あり、そしてその内の一つは僕にあった。僕は二日目の戦闘で限界運動を余儀なくされるもそれを皆に隠し、そして隠したせいで、怪我や体調不良を招くおそれがあったのである。僕は自分のダメっぷりに失望し、項垂れそうになった。
 が、僕はそれを自分に許さなかった。理由は二つ。一つは咲耶さんの命じた覚悟には、ここで項垂れない覚悟も含まれていると感じたから。そしてもう一つは、
 ―― 竹中さんと菊池さんも僕の限界運動を承知している
 と思えてならなかったからだ。コミュ王と呼ばれる竹中さんと心根の温かな菊池さんは、僕が二戦目で死力を尽くすことを重々承知している。それでも尚、二人は連戦を望んだ。その根底にあるのは、エイミィと僕への信頼だった。僕が死力を尽くすことをエイミィが予期していないはずはなく、そのせいで僕が体調を崩さぬようエイミィが手を打たぬはずもなく、そして僕がそれに応えぬはずもない。ならば自分達がすべきは、サタン戦の勝率を少しでも上げるよう、あらゆる可能性を試すことのみ。お二人はそう覚悟し、そしてその覚悟を咲耶さんも知っていたから、 
 ―― そんなことより覚悟しなさい
 と、厳格な教育AIの顔で僕に命じたのである。それに気づいた僕が、ここで項垂れていい訳がない。僕は胸を張り背筋を伸ばして、堂々と応えた。
「了解しました。合宿三日目の朝の体調を、エイミィに偽らず告げることを誓います。咲耶さん、エイミィ、そして美夜さんとミーサも、僕を信じてね」
 その後、
「ほらエイミィ、ここは本心をさらしていい場所なんだから、眠留に抱きついちゃいなさいよ」「何を言ってるんですか咲耶さん、私が眠留さんにだっ、だっ、抱きつくなんて!」「あらエイミィ、嫌なの?」「美夜さん、嫌なわけないじゃないですか!」「エイミィが躊躇ってるなら、先に私がお兄ちゃんに抱きついちゃいますよ?」「それはダメ、最初は私!」「はい、言質を取りました~」「さあエイミィ、心のまま飛びついて」「エイミィ頑張れ~」「ありがとう皆さん、眠留さん行きますよ!」「ちょっ、ちょっと待った。皆さんどうか、どうかこの辺で勘弁して下さい~~」「「「「あはははは~~」」」」
 てな具合に散々イジられ、竹中さんと菊池さんの私的な話はウヤムヤにされてしまった。もちろんそれは今もウヤムヤなままだけど、推測は可能になっている。おそらく竹中さんが撫子部の同級生と付き合う寸前である事や、菊池さんが女房の尻に敷かれたい派である事について、女の子の率直な意見をお二人はエイミィに尋ねたのではないだろうか? 白光の球体より人の姿でいてくれるようエイミィに頼んだのも、それなら説明付くしね。
 というのは、さて置き。
 イジられまくったお茶会から半月経った、今日。
 合宿二日目の日程を完遂し、バナナも食べ終わり、さあそろそろシャワー室へ行こうと腰を上げた僕に、
「眠留、荷物を貸せ」「俺と北斗の目を誤魔化せるなどと、考えるんじゃねぇぞ眠留」
 何もかも見透かしてんだぞコノヤロウ的なノリで、北斗と京馬が語り掛けてきた。ヘロヘロではない演技を幾らしても、そんなの二人には通じなかったのである。通じなかったことが手放しで嬉しいような、それでいて反抗してみたくもあるような、そんなくすぐったい想いに胸を温めていると、
「北斗、京馬、先輩を差し置くとはいい度胸だな」「俺達が原因だから俺達に寄こせ」
 竹中さんと菊池さんが会話に入って来た。いや入るだけでなく、竹中さんが僕の前に立ち北斗と京馬の壁になっている隙に、菊池さんが僕のバッグをかすめ取ってしまったのだ。北斗と京馬の闘争本能に火が付いたのは言うまでもない。二人は結託し、竹中さんに論戦を挑んだ。けどそれも、コミュ王の作戦だったらしい。竹中さんは北斗と京馬の主張を巧みにさばき、すると再びその隙に菊池さんが「眠留ほら行くぞ」と僕の手を引いて、部室を出ようとしたのである。北斗がこうも後手に回るのは珍しく、偶然なのか必然なのかを見極めたかったが、解答は思いもよらぬ方角からもたらされた。まずは颯太が、
「菊池さんと眠留さんの荷物は僕が持ちますね」
 旅館の息子の技を駆使して菊池さんから二人分の荷物を自然に受け取り、続いて、
「竹中さんと北斗さんと京馬さんの荷物は俺らに任せてください」
 松竹梅が床に放置されていた三人の荷物を、強引にかっさらって行ったのである。本来なら、これほどあっさりしてやられたら苦い表情になっているはずなのに、竹中さんと北斗はどちらも満足げな顔を浮かべていた。つまり今回の件は颯太の胸に燃える、
 ―― 皆さんの役に立ちたい
 との想いを叶えるべく、即興で一芝居打ったというのが真相なのだろう。ならば僕も、それに乗っからぬ手はない。僕は颯太に荷物の礼を述べるとともに、今の立ち回りの出来栄えを褒めた。すると颯太は尻尾をブンブン振り、あの立ち回りは松井の指示だったことを明かした。かなめの役を仰せつかり緊張したが、荷物を受け取るのは長年してきた事だから自信を持てと言われ、そのとおりになったのが嬉しいんですと、颯太は顔をクシャクシャにして喜んでいた。その豆柴振りを見ていたら、体のヘロヘロがほんの少し弱まったような、そんな気がした。
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