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二十三章
生涯の親友が、1
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明けて、翌日曜。
部活にやって来た颯太は昨夜大泣きしたのが丸わかりの、腫れぼったい目をしていた。だがまとう気配に湿っぽさは微塵もなく、むしろ普段より元気いっぱいに見えたため、僕らは緑川さんと森口さんにさり気なく視線を向けた。黛さんを始めとする皆の視線にお二人は頷くも、声を出さず「あとで」と唇を動かしただけだった。それを受け松竹梅が年齢の近さを活かし、くったくなく颯太に話しかけたのは、二年生としての自覚が三人にしっかり根を下ろしている証拠なのだろう。松竹梅の三人は明日四月十日を境に、後輩を持つ身となる。先輩方から頂戴する一方だった恩を後輩へ返せる立場に、三人は明日やっとなれるのだ。まあ三人には合宿時から颯太という後輩がいたので同級生より若干有利だったのは否めないが、それでも後輩に恩を返せる日を待ち望み前々から準備をしていなければ、しっかり根を下ろしているという印象を僕らは抱かなかったはず。最上級生の黛さんはその想いが特に強いのか、松竹梅の示した湖校の伝統に、クールキャラを忘れて幾度もニコニコ頷いていた。という事情があったので、
「はい、友人が沢山できました。しかもその全員が、今まで出会ったことが一度もない、驚くほど気の合うやつらだったんです!」
豆柴がはち切れんばかりの喜びと共にそう応えるや、松竹梅は黛さんの想いを汲み豆柴を撫でてあげた。とはいえ入学式も済ませていない一年生に、最上級生の胸中を推し量るなどまだ無理だったのだろう。
「ど、どうして先輩方は、僕の髪の毛を揉みくちゃにするんですか!?」
なんて感じに、豆柴は甚だしい勘違いをしていたけどね。
その日の部活は普段と少し違った。いや、僕ら新忍道部員はいつもと同じだったのだけど、観覧席の状態がいつもとはまるで異なり、それが練習場全体の空気を少し違ったものにしていたのだ。その空気を作り出していたのは、新一年生の寮生達だった。颯太と同じく昨日のうちに入寮を済ませた寮生たちが、観覧席に大勢詰めかけていたのである。
その子たちの気持ちは、幾重にも理解できた。明日から始まる湖校生活に備えて部活を見学してみようと思うのは普通だし、見学する最初の部活にインハイ優勝を果たした新忍道部を選んだのも頷けるし、加えて新忍道部には設備がまあまあ整った観覧席があると来れば、大勢の新寮生が新しくできた友人と連れ立って見学に訪れても何ら不思議はなかったからだ。また、
「「「「キャ―、黛先輩――ッッ!!」」」」
と黄色い声が盛んに飛び交うのも複数の意味で妥当だし、初めて見るモンスターに大騒ぎするのもそのモンスターに勝って再び大騒ぎするのも充分理解できたから、練習場を覆う空気が普段と若干違ったとしても、新忍道部員はいつもと変わらぬ心構えで部活に臨んでいた。ただ心構えは等しくとも「???」とハテナマークを心の隅で大量生産する部員がいたのも事実であり、そしてその部員とはあろうことか、僕だった。なぜなら、
「猫将軍先輩~~」
と僕を応援してくれる声が、少しあったからである。
幸い、と言ったらその子たちに失礼だがやはり幸い、新一年生と思われるその女の子たちの人数は、二人のようだった。概して女の子は声を合わせるのが得意で、しかも「黛さん~~!!」の絶叫に埋もれていたから断言はできないけど、二人と考えて良いだろう。仮にその子たちが二年生だったら、美鈴のオマケで僕を応援してくれる子がいても納得できる。しかし僕と接点のない、入学式も済んでいない新一年生となると、心底わからないというのが本音だった。
が、僕は間違っていた。この時点で「心底わからない」などという、強調された表現を使ってはならなかったのだ。どういう事かというと、件の新一年生の声が聞こえた十秒後、
「「猫将軍先輩~~!!」」
僕を応援する人数が四人に増えていたのである。幸い、少々しつこいがそれでも幸い、四人に増えたところでその他大勢に埋もれているのは変わらず、また新たに加わった二人の声には聞き覚えがあったので、僕は心に生じた動揺を労さず取り除くことが出来た。新たに加わった二人は、騎士会の後輩だった。受け身が苦手で悩んでいた二人の練習に僕は時間の許す限り付き合い、それがきっかけで二人は美鈴とも仲良くなっていたから、きっと温情をかけてくれたのだろう。そう思えば四人に増えても、影響はほぼ無かったのだ。
が、僕はここでも間違えた。未熟な僕は間違えることが多々あり、そのお陰で間違うことへの耐性も最近はそこそこ付いていたのだけど、今回はそれが役に立たなかった。四人に増えた十数秒後、同級生とおぼしき女子二人の声が更に加わった結果、
「「「「猫将軍~~」」」」
それはその他大勢に埋もれない、明瞭な声援として練習場に響いたのである。事ここに至り、真の「心底わからない」状態になった僕は、胸中の動揺が表に出る寸前になった。だがそれは新忍道に携わる者にとって、決してしてはならぬ事。会場に足を運んでくださった観客を楽しませることを新忍道は重視しているのに、観客の声援で心を乱し、そのせいでただでさえ危険な新忍道を一層危険にしてしまうなど、絶対あってはならなかったのである。僕は表に出る寸前の動揺を力技でねじ伏せてモンスターと戦い続け、そして湖校新忍道部では初となるベヒモス戦を、
YOU WIN!
白星で終えることに成功したのだった。
ベヒモスは去年の秋、サタンに次ぐ強敵として実装された3DGの最新モンスターだ。それについてはある噂がまことしやかに囁かれていて、それを要約するなら少し鼻が高い事に、日本の高校生対策になるだろう。
『新忍道は3DGより選手の成長が早く、日本の高校生はそれが特に顕著で、サタンに次ぐ強敵を早急に投入しないと、インハイは遠からず狒々戦と黒猿戦ばかりになってしまう。それは新忍道のみならず3DGにとっても損失なため、米国の3DG本部はベヒモスを予定より半年早く実装した』
部活にやって来た颯太は昨夜大泣きしたのが丸わかりの、腫れぼったい目をしていた。だがまとう気配に湿っぽさは微塵もなく、むしろ普段より元気いっぱいに見えたため、僕らは緑川さんと森口さんにさり気なく視線を向けた。黛さんを始めとする皆の視線にお二人は頷くも、声を出さず「あとで」と唇を動かしただけだった。それを受け松竹梅が年齢の近さを活かし、くったくなく颯太に話しかけたのは、二年生としての自覚が三人にしっかり根を下ろしている証拠なのだろう。松竹梅の三人は明日四月十日を境に、後輩を持つ身となる。先輩方から頂戴する一方だった恩を後輩へ返せる立場に、三人は明日やっとなれるのだ。まあ三人には合宿時から颯太という後輩がいたので同級生より若干有利だったのは否めないが、それでも後輩に恩を返せる日を待ち望み前々から準備をしていなければ、しっかり根を下ろしているという印象を僕らは抱かなかったはず。最上級生の黛さんはその想いが特に強いのか、松竹梅の示した湖校の伝統に、クールキャラを忘れて幾度もニコニコ頷いていた。という事情があったので、
「はい、友人が沢山できました。しかもその全員が、今まで出会ったことが一度もない、驚くほど気の合うやつらだったんです!」
豆柴がはち切れんばかりの喜びと共にそう応えるや、松竹梅は黛さんの想いを汲み豆柴を撫でてあげた。とはいえ入学式も済ませていない一年生に、最上級生の胸中を推し量るなどまだ無理だったのだろう。
「ど、どうして先輩方は、僕の髪の毛を揉みくちゃにするんですか!?」
なんて感じに、豆柴は甚だしい勘違いをしていたけどね。
その日の部活は普段と少し違った。いや、僕ら新忍道部員はいつもと同じだったのだけど、観覧席の状態がいつもとはまるで異なり、それが練習場全体の空気を少し違ったものにしていたのだ。その空気を作り出していたのは、新一年生の寮生達だった。颯太と同じく昨日のうちに入寮を済ませた寮生たちが、観覧席に大勢詰めかけていたのである。
その子たちの気持ちは、幾重にも理解できた。明日から始まる湖校生活に備えて部活を見学してみようと思うのは普通だし、見学する最初の部活にインハイ優勝を果たした新忍道部を選んだのも頷けるし、加えて新忍道部には設備がまあまあ整った観覧席があると来れば、大勢の新寮生が新しくできた友人と連れ立って見学に訪れても何ら不思議はなかったからだ。また、
「「「「キャ―、黛先輩――ッッ!!」」」」
と黄色い声が盛んに飛び交うのも複数の意味で妥当だし、初めて見るモンスターに大騒ぎするのもそのモンスターに勝って再び大騒ぎするのも充分理解できたから、練習場を覆う空気が普段と若干違ったとしても、新忍道部員はいつもと変わらぬ心構えで部活に臨んでいた。ただ心構えは等しくとも「???」とハテナマークを心の隅で大量生産する部員がいたのも事実であり、そしてその部員とはあろうことか、僕だった。なぜなら、
「猫将軍先輩~~」
と僕を応援してくれる声が、少しあったからである。
幸い、と言ったらその子たちに失礼だがやはり幸い、新一年生と思われるその女の子たちの人数は、二人のようだった。概して女の子は声を合わせるのが得意で、しかも「黛さん~~!!」の絶叫に埋もれていたから断言はできないけど、二人と考えて良いだろう。仮にその子たちが二年生だったら、美鈴のオマケで僕を応援してくれる子がいても納得できる。しかし僕と接点のない、入学式も済んでいない新一年生となると、心底わからないというのが本音だった。
が、僕は間違っていた。この時点で「心底わからない」などという、強調された表現を使ってはならなかったのだ。どういう事かというと、件の新一年生の声が聞こえた十秒後、
「「猫将軍先輩~~!!」」
僕を応援する人数が四人に増えていたのである。幸い、少々しつこいがそれでも幸い、四人に増えたところでその他大勢に埋もれているのは変わらず、また新たに加わった二人の声には聞き覚えがあったので、僕は心に生じた動揺を労さず取り除くことが出来た。新たに加わった二人は、騎士会の後輩だった。受け身が苦手で悩んでいた二人の練習に僕は時間の許す限り付き合い、それがきっかけで二人は美鈴とも仲良くなっていたから、きっと温情をかけてくれたのだろう。そう思えば四人に増えても、影響はほぼ無かったのだ。
が、僕はここでも間違えた。未熟な僕は間違えることが多々あり、そのお陰で間違うことへの耐性も最近はそこそこ付いていたのだけど、今回はそれが役に立たなかった。四人に増えた十数秒後、同級生とおぼしき女子二人の声が更に加わった結果、
「「「「猫将軍~~」」」」
それはその他大勢に埋もれない、明瞭な声援として練習場に響いたのである。事ここに至り、真の「心底わからない」状態になった僕は、胸中の動揺が表に出る寸前になった。だがそれは新忍道に携わる者にとって、決してしてはならぬ事。会場に足を運んでくださった観客を楽しませることを新忍道は重視しているのに、観客の声援で心を乱し、そのせいでただでさえ危険な新忍道を一層危険にしてしまうなど、絶対あってはならなかったのである。僕は表に出る寸前の動揺を力技でねじ伏せてモンスターと戦い続け、そして湖校新忍道部では初となるベヒモス戦を、
YOU WIN!
白星で終えることに成功したのだった。
ベヒモスは去年の秋、サタンに次ぐ強敵として実装された3DGの最新モンスターだ。それについてはある噂がまことしやかに囁かれていて、それを要約するなら少し鼻が高い事に、日本の高校生対策になるだろう。
『新忍道は3DGより選手の成長が早く、日本の高校生はそれが特に顕著で、サタンに次ぐ強敵を早急に投入しないと、インハイは遠からず狒々戦と黒猿戦ばかりになってしまう。それは新忍道のみならず3DGにとっても損失なため、米国の3DG本部はベヒモスを予定より半年早く実装した』
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